NOT撲殺その11 聖女様のお悩み相談室 その2
「難儀なことになっておるようじゃのう……」
ある日の放課後。生活指導の教員から上がってきた報告に、プリムが頭を抱える。
四月も半ばを過ぎ、そろそろ新生活になじんだ頃合い。
中等部一年でいじめが発覚したのだ。
「状況的に、完全に初動が遅れていますね……」
「うむ。きっかけが何かは聞き取り調査が必要じゃが、恐らく喧嘩両成敗で済ませられる状況は過ぎておるな」
現時点で分かっている状況を分析し、そう結論を出す教頭とプリム。
すでに積極的にいじめに加担する生徒と我関せずを貫く生徒に分かれており、いじめられている生徒は完全に孤立した状態になっている。
初等部からの持ち上りが多いクラスであることに加え、まだ新学年が始まって一カ月は経っていない時期だということを考えるに、火種自体は前々からあったのだろう。
ただ、いじめる側といじめられる側、傍観者の三つにくっきり分かれるところまで進行してしまった時点で、原因が何かなんて意味がなくなっている。
「それで、資料はこれだけかの?」
「現在用意できるのはこれだけです」
「そうか。それにしても、仮にも上流階級の子女だというのに、安直にこういう方向にもっていくとは、何とも嘆かわしい話じゃなあ……」
「そうですねえ」
「話し合いで解決せいとまでは言わんが、明確にいじめだと分かる形で一人に対して集団で報復するのも、それを傍観するのも将来上に立つ人間、もしくはその伴侶になる人間としてどうかとは考えんのじゃなあ……」
「さすがに、中学生にそこまで求めるのも酷でしょう」
プリムの嘆きに対し、さすがにそれは無茶だとたしなめる教頭。
どう頑張ったところで、中学一年生なんてまだまだ子供、何事にも衝動が大きく勝ってしまう年頃である。
いやむしろ、反抗期に加えて半端に理性や損得勘定が働くようになる分、そういう要素についてトータルでは、小学校低学年の頃より悪化している可能性すらあるだろう。
「原因次第といったところではあるが、最低限両者になにがしかの指導は必要じゃとして、いじめに回った側にはちゃんときつめの罰を与えんとダメじゃな」
「そうですね。少なくとも、被害者側を転校させたり通信教育に切り替えたりといった安直な対処は、加害者側に間違った成功体験を与えかねません」
「うむ。となると、まずやるべきは、現場を現行犯で押さえた上で加害者側の生徒を停学及び謹慎、その上で何があって何故こじれたのかを確認することかの」
「それで問題ありませんか?」
「うむ。保護者から何か言われたなら、儂にすべてなすってくれて構わん。最悪、こっちも虎の威を借る」
「分かりました」
プリムの言葉に、一つ頭を下げる教頭。
トップが腹をくくってくれていると、事後対応がとてもやりやすい。
「さて、今の今まで生活指導に話が来ておらんかったらしいことを考えると、まだ状況の固定化が終わるところまでは行っておらんようじゃが、悲劇に至る事を防げるんじゃろうか……」
出ていく教頭を見送りながら、そんなことをぼやくプリム。
何年かに一回は起こる、いじめに発展させてしまったトラブル。
その対処に向けて、胃と頭が痛い状況に突入するのであった。
「あら、どうしました?」
プリムが頭を抱えているのと同時刻。礼拝堂の掃除をしていたレベッカのもとへ、まだ若い女性教諭が訪れてきた。
「シスター、悩みを聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
「聞くだけでよければいくらでも。ただ、ここではなんですので、場所を変えましょう」
教諭の言葉に、特に構えることなくそう返すレベッカ。
そもそもいくら若いといっても教諭の方が年上なので、レベッカがまともに答えられるわけがない。
とりあえず、本来の使い方とは違うが懺悔室の方で話を聞くことにする。
「それで、何がありました?」
「私が担当しているクラスで、いじめが起こりました……」
「……」
なかなか強烈な悩みを聞かされ、下手なことを言えずに黙り込むレベッカ。
学校に通ったことがないどころか、基本的に弱肉強食の生存競争下で生き延びてきたレベッカにとって、いじめ問題というのはいろんな意味で理解も共感もできないものである。
「加害者側の生徒が言うには、私が被害者の生徒を何かにつけてひいきしていることに腹が立ったそうで……」
「ふむ」
「私としては、特別に彼女をひいきしているつもりはなかったのですが、もしかしたらはた目にはそう見えていたのかもしれないと……」
「あの、正直なところ、ひいきすることのどこが問題なのか分からないのですが……」
「えっ……?」
教諭の悩みを聞いて、率直にそう感想を口にするレベッカ。
あまりに意外な言葉に、教諭が唖然とした表情を浮かべる。
「不正を行う方向でひいきをしたり、他の生徒の扱いをあからさまに悪くしたりするのは問題でしょうけど、他の生徒よりかわいがって目をかけること自体は別に問題にならないのでは? それとも、悪い形でひいきしたことがあるとか?」
「いえ。少なくとも私自身は、ルールを捻じ曲げるような扱いをしたことはないと思っています」
「でしたら、堂々としていたらいいかと思います。そもそも、先生の性格も人それぞれならば、生徒だっていろんな個性や長所短所を持っています。全員平等の対応なんて、最初から無理なんじゃないでしょうか」
悩むようなことなのだろうかと、心底不思議そうに断言するレベッカ。
そもそもの話、担任がひいきしたからという理由でひいきされている生徒を攻撃する時点で、色々と筋違いの行動だと言わざるを得ない。
担任の扱いが不愉快なのであれば、それは担任に直接言うか生活指導なり教頭や校長なりに話を持っていくべきである。
「あの、ですが、私に自覚がなかっただけという可能性も……」
「私が知る限り、度を越して誰かをひいきしたり、逆に誰かを冷遇したりしていれば、少なくとも主任の先生はすぐに注意をすると思います。それがなかったのであれば、気にするほどではないはずです」
完全に自信を喪失している教諭に対し、そうきっぱり言い切るレベッカ。
もう二年もこの教会で働いているのだから、管理職についているのがどんな人物かぐらい知っている。
「後、ものすごく根本的な疑問なのですが、まだ新学年が始まって二週間ほどですよね?」
「ええ、そうですね」
「その程度の期間で、知り合いでもない生徒相手にそこまで極端なひいきとかって、できるのでしょうか?」
「……難しいですね。よく考えれば、私自身現在は担当になったクラスにどんな生徒がいるのか理解、把握をしようとしている最中ですし……」
「だとすれば、やはり先生は堂々としていればいいかと」
疑問についての答えを聞き、そう断言するレベッカ。
状況的にどう考えても、元から折り合いが悪い、もしくは生理的に受け付けない相手を攻撃するため、理由をこじつけているとしか思えない。
逆に言えば、いじめにエスカレートする時間まで踏まえると、今回については教諭がどう対処したところで防げなかった可能性が高いともいえる。
「ただ、それだけだと責任転嫁みたいになりそうですので、強いて先生の反省点を上げるとすれば、事態の発見、対処、報告全てが遅すぎたことでしょう」
「……そうですね。そこは間違いなく、私が未熟で至らなかったところです」
「それについては、今回はもうどうしようもないので、今後の課題という事で。とりあえず、ことがことですので、本日の相談内容については理事長に報告させていただきます。よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします」
レベッカに悩みを聞いてもらい、いくばくかすっきりした顔をする教諭。
そのまま気持ちばかりのお布施をして、教会を出ていく。
「……なんだかこの案件、エクソシストではなく第三者で聖職者としての私にいろいろ降りかかってきそうですね……」
教会を出ていく教諭を見送った後、面倒であることを隠そうともせずにそうぼやくレベッカ。
正直、向いているかどうかというと、かなり向いていない仕事であろう。
「とりあえず、理事長に報告しますか」
先のことは横に置いておき、やるべき仕事を済ませることにするレベッカ。
レベッカの予想通り、この報告を上げたことで、きっちり巻き込まれることになるのであった。
「とりあえず、加害者側は一週間の停学処分が決まったがの。停学期間に入る前に、お主に一度話を聞いてもらいたいのじゃ」
「そう来ると思っていました」
その日の夕食。個室メインの高級焼肉屋。
臨時職員会議で決まった内容を説明し、レベッカに頼みを告げるプリム。
なお、プリムがここにレベッカを連れてきたのは、得意分野ではないことを押し付ける事に対する詫び兼報酬の前払いである。
「正直なところ、くだらないという意味でいまだにいじめというものが理解できません」
「お主はそうじゃろうなあ。お主の場合、気に食わん相手はばっさり意識の外に追い出して終わりじゃろうし」
「そうですね」
「儂も、迫害するされるのレベルであれば逆に理解できるんじゃが、小競り合い未満の理由から一足飛びにここまで発展することについては、ぶっちゃけいまいち理解できん」
注文した特上特盛セットの肉を焼きながら、そんな風にぼやくレベッカとプリム。
方向性は違えど、二人ともいわゆる世界の最底辺というやつを経験しているので、大した理由でもないのにリスクを冒してまでいじめに走る意味が分からない。
逆に底辺を経験しているがゆえに、いじめられる側が極端な行動に出る理由については割と納得ができる。
完全に孤立した状態で心身両面から集中攻撃を食らうというのは、一つ一つがどれだけ些細なものでもなかなかダメージが大きいものだ。
小さな集団の内部だけで行われていることで、一度その場を離れればあっさり解決するとはよく言うが、いつの時代どんな事例でもそれが言うほど簡単なことではないのは間違いない。
「それで、加害者本人の言い分を聞いたわけではないので何とも言い難いのですが、今回のことはどう思います?」
「いくつかの意図はあるじゃろうが、基本的に理由そのものはこじつけじゃろうな。ただ、被害者と加害者はどちらも初等部からの持ち上りゆえ、初等部で何かあったのが再燃した可能性はある」
「そうですか」
「もっとも、そのあたりの調査は進んでおらん。なにせ、同じクラスであったのが初等部の三年四年まで遡るからの。さすがに今日調べて今日結論が出るとはいかん」
「でしょうね」
プリムの説明に、さもありなんと頷くレベッカ。
こういう調査にはどうしても時間がかかるものだし、そもそも発覚したのが今日の放課後だ。
むしろ、調査結果が出ている方がおかしいだろう。
「保護者の方はどうでした?」
「頭を抱えておったわ。監視カメラの映像があったとはいえ、うちの子に限ってとか言わんかったところを見ると、心当たりがあるようじゃな」
「監視カメラがあったのに、今日まで発覚しなかったのですか?」
「監視カメラに映るところでAI判定に引っかかるほど明確な行為を行ったのが、今日初めてじゃったんじゃよ」
「なるほど」
「また、やるだけやってさっさと下校しおったから、保護者に通達した以外何のアクションもとれておらん」
焼けたハラミを網から上げながら、そうため息をつくプリム。
喧嘩で収まらずいじめにまで発展してしまうと、加速度的にやらなければいけないことが増える。
そのうち現時点でできることの大部分が、問題解決のためのものではなく、外部に対する言い訳のような後ろ向きの作業なのが疲れる。
「再発防止のためとはいえ、被害生徒にもカウンセリングが終わった後に原因について指導が必要なのも、気が滅入るんじゃよなあ……」
「被害生徒については、どの程度分かっているのでしょうか?」
「少なくとも、去年一年はこれと言っておかしなことはなかったようじゃな。埋没しすぎるでもなく目立ちすぎるでもなく、ほどほどに真面目でほどほどにいい加減という、家がいわゆる上流階級でそれなりに容姿が整っていること以外は絵にかいたような中庸じゃな」
「それはまた、再発防止が難しそうですね……」
「うむ。ぶっちゃけ、相性とか度合いの問題でしかないからの。こやつだけを指導したところで、恐らく組み合わせや対象が変わるだけじゃろう」
プリムの言葉に、非常に面倒くさそうな表情を浮かべるレベッカ。
人間なので被害者側にも何らかの問題があるのは当然のことだが、それがいじめられても仕方がないというほどのものかと言えば、そのレベルに至っている中学生など百人に一人も居ないだろう。
今回もまた単なる相性とちょっとした力関係によるもので、原因こそはっきりしていないものの、それ自体は大した理由ではないだろうと推測できる情報が集まっている。
「いつも思うのですが、なぜこんな中途半端なやり方をするのでしょうね?」
「中途半端、とな?」
「ええ。本気で排除を狙うならもっと確実に一撃で仕留めるやり方をすべきですし、逆に徹底的に苦しめたいというのであればこんな早い段階で露見するような直接的な攻撃ではだめです」
「そういう方向か。まあ、所詮は平和な国で育った、親の権力にぬくぬくと守られた小娘ということじゃろうな。おかげで、致命傷に至る前に把握できたわけじゃが」
ハツとレバーを取りながら、非常に物騒なことを言い合うレベッカとプリム。
二人とも、本気で相手を排除するなら可能な限り初手から最大火力で確実に仕留めようとするタイプだ。
レベッカはちょくちょくジャブやフックで単発攻撃をしてるじゃないかと突っ込まれそうだが、あれは必殺技であるラッシュを確実に最後まで叩き込むための布石である。
いたぶるためだとか舐めプだとかそういう理由でやっているわけではない。
「念のために言うておくが、それを直接加害者に言うでないぞ」
「分かっています」
不安になったプリムの釘刺しに、当然だという態度でそう答えるレベッカ。
一応聖職者として活動しているのだから、表立って暴力を推奨するようなことを言うつもりはない。
「それで、私が話を聞くのはいつになりますか?」
「そうじゃのう。どちらかは確実に明日じゃな。どちらが先になるかは加害者側の動向次第じゃが、少なくとも同じ日に加害者と被害者を向かわせるようなことはせんよ」
「分かりました。もっとも、私は基本的に話を聞くだけになりそうですが」
「むしろ、そうしてくれ」
レベッカに対しそう告げて、サーロインとヒレをレベッカの皿に移すプリム。
網の上では、いろんな肉が次々に焼かれている。
「さて、今日のところはこのぐらいしか話せんし、後は明日のためにガンガン焼いてガンガン食うぞ」
「はい」
プリムの言葉に、もちろんとばかりにうなずくレベッカ。
こうして、特攻前の銀シャリとばかりに、高級焼き肉をガッツリ食って英気を養うレベッカとプリムであった。
なお、この日の代金は五ケタ台を折り返す程度で済んだらしい。
「どうぞ」
翌日の放課後、懺悔室。
予定通りの時間に、一人の女子生徒がレベッカのもとを訪れる。
「あ、あの、その、お話を聞いていただいてよろしいでしょうか……」
「ええ、もちろんです」
どこかおどおどしている女子生徒の言葉に、にこやかにそう告げるレベッカ。
恐らく状況を知っていると予測できる人物に話すのは、彼女の性格や状況的にハードルが高いのだろうと推測しつつ、そんなことはおくびにも出さない。
「あの、えっと、私、いまクラスでいじめられて孤立していまして……」
とても言いづらそうにそう切り出した女子生徒の話を、黙って最後まで聞くレベッカ。
彼女の話は、ほぼほぼ事前に聞いていたものと同じであった。
「私のやったことって、そんなに許せないことだったのでしょうか……」
「そうですね。率直に言うと、行動自体は何の問題もありません。家庭の用事と学校のスケジュールとの調整を担任に相談するのは、普通責められるようなことでもないでしょう」
「でも、姫川さんはそれがひいきだって……」
「その言葉は気にしなくていいです。恐らくですが、あなたが大人、それも特に担任をはじめとした教師に相談しづらくするための言葉でしょうから」
「あっ……」
レベッカに指摘され、言われてみればという顔をする女子生徒。
追い詰められていたからか、それとも良家の子女として大切に育てられたからか、こういった方面には思考が至らなかったようだ。
「ただ、それとは別に何か、あなたを標的にする理由があるとは思います。それも恐らく、大部分の人に共感してもらえない類のものが」
そこまで言って、これでは伝わらないだろうと頭をひねるレベッカ。
うすぼんやりとしたイメージを必死に形にし、どうにか言葉をひねり出す。
「そうですね。例えば、何か雑談をしている時に『あり得ない』とか『気持ち悪い』とか言ってしまった場合、その感想が正当なものでも、場合によっては喧嘩を売っているように聞こえることはありますよね?」
「……えっと、私もそういう感じで無神経な発言をしていたかもしれない、と……?」
「絶対ではありませんが、個人の揉め事って大体はそんなことから始まるんですよ。ついでに言えば、気に障った当人以外は、なんでそんなことぐらいでという認識になります」
女子生徒に対し、淡々とそう告げるレベッカ。
「本当に、そんなことで?」
「はい。それどころか、言ってもいないことで他人を殺せるのが人間です。ですから、あなたは何も悪くないですが、それでも可能な限り言葉遣いや相手の反応に注意して、相手を怒らせてしまったかもしれないと思ったらすぐに謝罪するようにしましょう」
「はい」
「ただ、どれだけ気にしたところで、虫の居所が悪い時は深読みして勝手に怒るのが人間です。気にしすぎると何も言えなくなるので、頭の片隅に置いておく程度にしてほどほどに気楽にやればいいですよ」
そう言って、にっこり微笑むレベッカ。
懺悔室なので一応顔は見えないのだが、雰囲気でレベッカの表情を察して涙を流す女子生徒。
「もう一度言います。あなたは何も悪くない。あとは全て大人に任せて、あなたは心を休めてください」
「ありがとうございます。……あれ? なんでだろう、涙が止まらない……」
「今は、存分にお泣きなさい。それが、あなたの心を癒してくれますから」
そう告げて、静かに女子生徒を見守るレベッカ。
なんだかんだで、珍しく聖職者っぽい言動をしたレベッカにより、被害者生徒のケアは無事に終了するのであった。
その翌日。
「加害者生徒じゃが、今日からしばらく休学することになった」
「えっと、つまり、私の出番は無くなったと?」
「うむ。こちらも予想外じゃったんじゃが、加害者の親が想像以上に娘に対して怒っておっての」
プリムに呼び出されたレベッカが、意外な話を聞かされる。
「それで、休学するのはいいのですが、その間何をするのでしょうか? さすがに単に休学しただけとか、自宅謹慎だけとかではないですよね?」
「うむ。それがの、ああいう問題児の性根を徹底的に叩き直す系の禅寺に叩きこむそうでの。甘ったれたことをさせんよう、こちらにもリアルタイムで状況を流してくれるそうじゃ」
「それはまた、思い切りましたね……」
「うむ。あそこはもう、軍隊か何かとどっちがましかという次元じゃからのう。逆恨みする気力も根性も根こそぎ叩きおられるじゃろう」
「ふむ……」
プリムの説明に、そういうことならと一応納得しておくレベッカ。
最後に、これだけは確認しておかねばということを聞いておく。
「それで、結局なぜ加害者生徒はこんな真似をしたのでしょうか?」
「それがの、被害者ばかりパーティやなんやに呼ばれて休むのが、我慢できんほど妬ましかったらしい。それに対して学校側も特に何も言わんのもまた、腹立たしかったようでのう……」
「それって、親が決めることで本人には基本決定権はないのでは?」
「じゃなあ。確認したが、ちゃんとどうしても外せないものだけに絞っておったし、相手を見る限りは儂どころか美優あたりでもこれを欠席は無理だと言いそうな布陣じゃったし」
「でしょうねえ。話した感じ、彼女はそういうのに喜んで出席するタイプとも思えませんし」
「うむ。本人からすれば、知らんがなといいたかろう」
いじめの原因となった内容を聞き、思わずあきれるレベッカに対し、遠い目で同意するしかないプリム。
「せめて、悪魔か何かが絡んでおれば、もう少し救いもあったんじゃがなあ……」
「今回、その手の要素は一切ありませんでしたからねえ……」
むしろ撲殺して終わりの案件であってほしかった。そんな気持ちをにじませながらぼやくプリムとレベッカ。
変にドロドロしていたくせに最後の最後までエクソシスト要素が一切なかった今回の案件は、こうして穏便なんだかどうなのか分からない形でなんとなく消化不良のまま終わったのであった。
学校らしい話ということでやったらまあ、書きにくいこと書きにくいこと。
これ、プリムもレベッカも本音が「実力行使するほど気に食わんのなら、いじめなんてぬるいことしてないできっちりしっかり息の根止めんかい」って感じなのが一番大きくてですね……。
また、いじめって初期段階は今回の話みたいにクソしょうもない理由を半端な理論武装で正当化してたり、もっとシンプルに弱いのが悪いって理屈でやり倒すのが多いのがまた救えないというか……。
あと、いじめられる側にも原因があるんだから云々かんぬんはあれです。
引き金引いたのがいじめられる側であるケースも多いのは事実だが、それがリンチされても当然だっていうほどのことはまずないか、あったとしても大概がリンチの結果そうなってるんだぜ、という話です。
基本的に、揚げ足取っての炎上と同じで、そこまでされるほどのことじゃありません。
本編中でもふれたように、大概のケースは初期段階だったら喧嘩両成敗かせいぜい加害者側に厳重注意か警告で被害者側にも軽い注意で済む問題です。
何度でもいいますが、原因がどっちにあるにせよ、言葉なり物理なりでリンチするのを正当化することはできません。
物理暴力をふるっていなくても、リンチは大体なにがしかの犯罪に引っ掛かります。




