撲殺その28 ライバル?
「天国は、ここにあったのですね……」
あちらこちらの鉄板から漂う肉や海鮮の香りに、レベッカが感極まったようにつぶやく。
三が日も終わり、一般的な企業は明日から仕事始めとなる一月四日の日曜日。
レベッカは、とあるホテルで開催されていたステーキバイキングという催しに参加していた。
「時間は有限、感激している暇はありません。まずは牛と豚を片っ端から行きましょう」
感激しつつどこから行くか迷うこと数秒。サクッと方針を決めて目的の鉄板の前に並ぶレベッカ。
ステーキバイキングの名は伊達ではなく、この会場には牛だけではなく豚鶏羊といった代表的な肉の各部位とハンバーグ、アワビやホタテ、マグロなどの魚介、果ては豆腐に山芋といったカテゴリーが難しい、おおよそステーキと名がつく料理が存在する食材は全てそろっている。
これだけあれば、レベッカでなくとも迷おうというものである。
ちなみに、ご飯やパン、スープ、サラダなどはないのかと言えばそんなことはなく、種類こそ少なめだが普通にそれらも食べ放題である。
その代わり、バイキングだのサラダ&スープバーだのに高確率で存在するカレーは今回ラインナップになく、デザートはアイスクリームしか選択肢がないのだが、こんな催しに来る人間はそこに期待していないので問題ないのだろう。
「くっ! トレイの限界で、豚肉までは無理でしたか……!」
サーロインにフィレ、ランプなど牛ステーキだけでも数種類あった影響で、最初に思っていたほど料理を回収できずにうめくレベッカ。
こうなってくると、いかに味わいながら早く平らげるかの勝負になってくる。
内容が内容だけにそれなり以上にお高い参加費用を求められるのだから、可能な限り沢山の種類を味わいたい。
さらに言うなら、せっかくの料理を、単に種類や量を短時間でたくさん食べたいからなどというくだらない理由で雑にがっつくのはポリシーに反する。
ここで、元を取るために高い食材を集中的に、ではなく、食える限り沢山の種類を味わいたいという方向に行くあたりがレベッカだと言えよう。
「……なるほど。魚介エリアがやや回転が速く、その次が鶏と羊。となると、次は魚介をいただいて、余裕がありそうなら鶏か羊に行けばよさそうですね」
ご飯とサラダとスープを確保しながら、全体の流れを観察してそう結論を出すレベッカ。
ちなみに、メインのトレイを右手に、ご飯やサラダを載せたミニトレイを左手にというなかなかにがっついた姿勢である。
「それでは、頂くことにしましょう。主よ、生きる糧を与えてくださったことに感謝します。いただきます」
例によって雑な食前の祈りを済ませ、目の前の肉に手を付けるレベッカ。
さすがにそこそこ格式高いホテルで行われる参加費用が万越えのイベントだけあって、そこらの焼肉食べ放題よりいい肉を使っている。
その肉の味に恍惚としながら、普段より早く料理を平らげていくレベッカ。
別に時間内にたくさん食べるためではなく、美味しくて箸が止まらなかった結果、早く食べ終わっただけである。
「むう、食べ終わってしまいました」
空になった肉の皿を未練がましく見つめながら、魚介のステーキをもらうために席を立つレベッカ。
この後も上質な食材を使った各種ステーキを次々平らげ、時間一杯食事を楽しむレベッカであった。
「……まったくもってけしからん」
同時刻、ネット上のチャットルーム。レベッカの様子が流れている映像を見て、二十代半ばとみられる一人のシスターが苦々しい顔でうめく。
それを横で聞いていた預言の聖女シルヴィアが、思わず小さく苦笑する。
「あの娘の在り方は聖痕が決めたもの。それをたかが一介のシスターが文句を言うのは、分をわきまえていないのではないかしら?」
一応念のために、文句たらたらのシスターにそう釘を刺しておくシルヴィア。
シルヴィアの言葉に不服そうな表情を浮かべつつも、とりあえず黙るシスター。
「それで、これを私に見せてどうしたいの?」
「あの女は、堕落しています! 特別任務を受けるのにはふさわしくありません!」
「それは、主のお言葉を否定することになるのだけど、いつからあなたはそんなに偉くなったの?」
「神がお言葉を間違えることはなくとも、あなたが間違える、もしくは意図的に捻じ曲げることはあるでしょう?」
「知らないというのは、幸せな事ね……」
図に乗りまくっているとしか言いようがないシスターの言葉に、思わず頭を抱えるシルヴィア。
仕方がないとはいえ、聖痕が持つリスクを何一つ理解していない。
「どういう意味ですか?」
シルヴィアが頭を抱えながら呆れたように言い放った言葉に対し、目を吊り上げてかみつくシスター。
その様子に、今までにないほど冷たい目を向けるシルヴィア。
「あなたは、たかが人の身で主のお言葉をこれだけの頻度で受け取って、私がちゃんと生きていることについて何も不思議に思っていないのかしら?」
「それが聖痕を得るということでしょう?」
「間違ってはいないけど、それだけ強力なものが、何のリスクもないわけがないでしょう?」
「全知全能である主が、そんな欠陥品を押し付けると?」
「全知全能であるからこそ、あえて人の身で神の言葉を受け止めるために制約をかけているのです。ちなみに、私が頂いたお言葉を主の意に反する形で伝えた場合、即座に全身を焼かれてから一週間はありとあらゆる苦痛に全身がさいなまれます。無論、水も食べ物も口にすることはできません」
シルヴィアから告げられた想像を絶する罰に一瞬息をのみ、すぐに疑わしそうな目を向けるシスター。
「それが事実であれば、なぜ生きているのです?」
「神罰なのですから、死なないようにするのは当然でしょう? 数度実験をさせられていますので、記録が残っています。預言をいいように利用しようとする連中への牽制として一部始終が公開されていますので、神罰が下る前にそれを見なさい」
シルヴィアの言葉に、自分が神罰の対象になる可能性についてようやく思い当たるシスター。
その視野の狭さに、つくづく面倒だと再びため息を漏らすシルヴィア。
「ちなみに、ちゃんとレベッカの聖痕にも制約はあります。ただ、彼女のものは実質的に神気を扱えるようにしているだけなので、さほど重い制約ではありませんが」
「それはどのような?」
「人の弱点を、勝手に教えるわけがないでしょう。ただ、レベッカが暴食の大罪を疑われるほどよく食べるのも、聖痕の制約に関わっていることだけは教えておきます」
面倒くさいなあと思いつつも、一応必要な情報をこのシスターに与えておくシルヴィア。
ほとんど答えを言っているようなものだが、この手の頭が固くて融通が利かず杓子定規に善悪を判断するタイプは、この手の情報から正解を推測することはまずない。
それに、バレたところでこのシスターが手を出せる種類のものでもない。
「後、預言のことがなかったとしても、現地の特異性を考えればレベッカ以上の適任者はいないでしょう。そもそも、日本でそんなに厳格な信仰を守った生活をしても、周囲から浮くだけですよ」
「これだから邪教がはびこる異郷の地は……」
「口を慎みなさい。今時、そんなことを言っている聖職者は法皇や枢機卿には一人もいませんよ」
物騒で不穏なことを言い放つシスターに、何度目か分からない釘をさすシルヴィア。
「なぜあなたが日本に行ってから私にこの話を持ちかけたのかは知りませんが、とにかく勝手なことは慎むこと。場合によっては、破門もあり得ますよ」
「そうですか、それは残念です」
シルヴィアの再三の釘刺しに対し、そんなことを言ってログアウトするシスター。
その様子にいろいろ察し、思わず遠い目をするシルヴィア。
「今度はどの一派か知らないけど、毎度のことながら懲りないわねえ……」
何年かごとに出てくる、シルヴィアを排除しようとする動き。
それに対して、あきれるしかないシルヴィア。
聖痕のせいですでに二百歳を超えているシルヴィアからすれば、排除してくれるならそれで構いはしない。
が、連中は毎回、なぜか明らかに成功しないと分かるごり押し的な手法を選ぶ。
やるならやるで、もっとうまく立ち回ってもらいたいところである。
「そういえば、さっきのシスター、結局誰だったのかしら?」
つらつらといろんなことを考えていたシルヴィアが、ふとそんなことに気が付く。
よく考えると、先ほどの会談で互いに自己紹介をした覚えがない。
「まあ、いいわ。直接会う機会はないだろうし、あったとしてもどうせ覚えてないでしょうし」
そう言って、サクッと忘れることにするシルヴィア。
無論、わざわざレベッカにも連絡したりはしない。
そもそも、今日はそれなりにやらねばならないことがあるので、本来ならこんな些末事に関わっている暇はない。
枢機卿だの大司教だのが連名で命令してきたのでなければ、普通に門前払いするような話である。
「さて、どれから手を付けるか……。……このままできることを、ついでに全部済ませますか」
スケジュール帳やら何やらを表示して少し考えこみ、そう結論を出して各所に連絡。そのままフルダイブを維持して公私両方の仕事や用事を済ませていくシルヴィア。
結局、本日の会談相手については、最初の用事を始めたあたりできれいさっぱり忘れ去ってしまうシルヴィアであった。
「……あら?」
その日の夕方。
浄化依頼を受けていた悪霊の気配がいくつか、いつの間にか消失している。
夜しか出ない正統派故に、レベッカの手札では昼のうちには手出しできなかった連中で、今日これから潰す予定だったのだ。
「自然消滅ではないとすると、誰かが祓ったのでしょうね。まあ、一応確認に行きますか」
気配だけでまだしぶとく存在しているかもしれないし、単に別の場所に移動しただけなのかもしれない。
そのあたりは離れた場所から感知しているだけでは判断できない。
また、ちゃんと誰かがしっかり仕留めてくれたのであれば、それを確認して依頼者に報告し、報酬はいらない旨を伝える必要がある。
因みに、こういう事は時々起こる。
レベッカとしては別に金銭的に困っているわけではないので、悪霊が居なくなることで依頼者が助かるのであれば、別にただ働きになっても気にはしない。
「ふむ、ちゃんと処理されていますね。これなら復活するということもなさそうです」
現場を確認し、そう結論を出すレベッカ。
時折、昼のうちに処理をした結果完全に仕留めきれず、却って性質が悪い悪霊となって復活する事例があるが、今回手出しした誰かはそのあたりをきっちりやってのけたようだ。
「確認は必要ですが、他もこういう感じであれば、心配はなさそうですね」
そう言いつつ、念のために聖水を撒いておくレベッカ。
これをやっておけば、同じ場所に別の悪霊が湧くのを防ぐことができるので、事後処理が大変楽になるのだ。
その後、現場の記録とメモを終えて、次の場所に向かおうとしたところで、同業者の気配を拾う。
「なるほど。この人が私の代わりをしてくれたのですね。あまり友好的ではない気配なのが気になりますが、まあ結果が同じならば誰がやっても関係ありませんし」
そう言いつつ次の場所に移動すると、気配もつかず離れずの距離でついてくる。
二カ所目も同じように聖水を撒いて記録とメモをし、三カ所目に向かう途中で事件が起こる。
「……最近、こういうのが多いですねえ……」
変に祓ったのが悪いのか、それとも単に時節的な問題なのか、幽世との境界が揺らぎ多数の悪霊がはい出そうとしてきたのだ。
「まあ、とりあえず……」
目の前で起こった以上、放置することはできないので対処することにするレベッカ。
もっとも、偶然開いた不安定な門なので、今の時点では後回しにして出てきた連中の処理が最優先となる。
この手の門は開いたばかりのタイミングで下手に手を出すと、却って大きくなったり固定化されたりするのだ。
「む?」
まずは聖水を撒くところからと、ペットボトルを手に取ったところで、後ろからレベッカに直撃するコースで何か飛んでくる。
怪訝な声を出しながらそれを回避すると、飛んできた何かは悪霊を貫通して幽世の門に飛び込み、一帯を一気に浄化する。
「あっ……」
一連の流れに、思わず間抜けな声を漏らすレベッカ。
殺到してきた悪霊を全部浄化するには足りない出力、幽世の門をふさぐには足りない持続時間の、現状をどうにかするにはあまりにも中途半端な一撃。
それは、見事に状況を悪化させる。
「これは、ちんたらやっている余裕はありませんね」
門の向こうから歩いてくる強烈な存在感を前に、表情を引き締めながら胸の前で手を組み、祈りのポーズをとるレベッカ。
そこへ、後ろから余計なちょっかいをかけてきた何者かが割り込んでくる。
「そこまでです! 異端者レベッカ・グレイス!」
「状況が押していますので、そういうのは後でお願いします」
「なっ!」
唐突に割り込んできた二十代半ばとみられるシスターに対し、すげなくそう言い切るレベッカ。
冗談抜きで、くだらない問答で時間を取っている余裕はない。
「主よ、再びこの両手を血に染めることをお許しください」
謎のシスターが絶句している間に、いつもの祈りの言葉を唱えるレベッカ。
その祈りの言葉と同時に、辺りに某元カリフォルニア都知事が演じた未来から来たサイボーグのテーマがBGMとして鳴り響く。
BGMに合わせて修道服でも隠しきれていないグラマーで肉感的なボディラインを強調するかの如くレベッカの全身が光り、その豊かな胸の谷間から聖痕が浮かび上がる。
浮かび上がった聖痕がレベッカの左右の拳に宿り、足元から吹き上がった風が修道服の裾をはためかせベールを吹き飛ばす。
ベールが吹き飛んだ拍子に三つ編みがほどけたらしく、素晴らしい金髪が風にたなびく。
その場を濃密な神気が包み込み、レベッカの聖痕がフルパワーで解放される。
「では、互いの罪を清算しましょう」
そう宣言して、ピーカブースタイルに構えるレベッカ。
その宣言に応えるように、威圧感の正体がぬっと出てくる。
出てきたのは、レベッカと大差ない体格の、一見普通の人間に見えなくもない老爺であった。
「久しぶりに手ごわそうなのが居るのう」
「……私達が本気でぶつかり合うと近所迷惑もいいところなので、ここは引いていただけないでしょうか?」
「残念ながら、骨のある対戦相手に飢えておってな。心配せずとも、一戦交えたら引き上げようぞ」
「そうですか……」
老爺の答えに、そうだろうなあと諦めるレベッカ。
そのやり取りを聞いていた謎のシスターが、またしても金切り声を上げる。
「邪悪な存在と交渉しようなどとは、やはりあなたは異端です! 今すぐに出頭し、異端審問に……」
「そういうのは後にせい」
せっかく上がったテンションに水を差され、鬱陶しそうに手を振って謎のシスターを吹っ飛ばす老爺。
そのついでに、周囲に沸いていた有象無象も消滅させる。
「これで、しばらく邪魔は入らん。時間一杯楽しもうぞ!」
そう言いながら、左の掌打を叩き込んでくる老爺。
それを潜り込むような動きで回避し、老爺のボディにアッパーをぶち込むレベッカ。
分厚い鋼板でも殴ったかのような感触がレベッカの拳に伝わり、人体を殴ったとは思えない音があたりに響き渡る。
「やるのう」
「もうすでに、面倒くさくなってきているのですが……」
「いい若いもんが、そんな覇気のないことでどうする」
そう言いながら、正拳肘打ち膝蹴りからの散弾のような蹴りを流れるように叩き込んでくる老爺。
それを必死になってラッシュで迎撃するレベッカ。
今まで戦った相手でも屈指の攻撃の重さに、内心冷や汗が止まらない。
「それそれそれそれ……ぐほ!」
「かはっ」
楽しそうに連続攻撃をぶち込んでくる老爺。
その攻撃を時にガードし時に回避しながら反撃し、という形でしのぐレベッカ。
当然レベッカもやられる一方ではなく、相手の呼吸を読んで攻勢に出る。
レベッカが攻勢に出ている時は回避とガードに徹し、時折カウンターを合わせることで攻守を入れ替える老爺。
ぶつかりあった余波で、周辺がどんどんえらいことになっていく。
まるで舞踏のような殴り合いの末、レベッカが放った顔面右ストレートがついに老爺に直撃する。
胴体ではなく顔面だから、先ほどと違い結構大きなダメージを受ける老爺。
だが、レベッカも無傷ではすまず、わき腹にもろに蹴りを食らってしまう。
「……痛み分け、といったところでしょうか……」
「……じゃのう。久しぶりに効いたわ……」
距離を取り、互いに脂汗をにじませながら言うレベッカと老爺。
お互い、単に一撃直撃しただけとは思えぬほどのダメージを受けている。
「そろそろ制限時間のようじゃから、次で互いに最後にするぞ」
「そうですね」
何やらえげつない存在が近寄ってきているのを察し、次で終わりにすることで同意する老爺とレベッカ。
互いに、ノーガードで今出せる最大の一撃を解き放つ。
レベッカの放ったコークスクリューが老爺の放った巨大な掌打をぶち抜き、心臓のあたりに直撃する。
が、あくまで掌打を貫通しただけなので、レベッカの方も相打ちで全身にダメージを受ける。
「……人界では互角といったところか。いやはや、世界は広いのう」
そう言って、飄々とした態度で幽世の門をくぐって帰っていく老爺。
彼の姿が消えたところで、空から天使と堕天使が下りてくる。
堕天使は、以前にも顔を合わせたルシファーであった。
「また、面倒なことをしてくれたな……」
「私に言わないでください……」
堕天使ルシファーの苦情に、六対十二枚の羽をもつ女性の天使が渋い顔で反論する。
「とりあえず、まずはここを閉じるぞ」
「ええ」
「シスター・レベッカ。我に無駄にダメージが入っておるから、とっとと聖痕の完全開放を終了せよ」
「あ、はい。主よ、この哀れな子羊に救いの手を」
ルシファーに苦情をぶつけられ、お約束のまったく心のこもっていない雑な祈りの言葉とともに、胸の前で十字を切るレベッカ。
その祈りに合わせて神気でできた天使が幽世の門に飛び込み、そこそこの距離を進んだところで浄化光の柱を立てる。
その光の柱が消えたところで、どこかへと飛んでいったベールがレベッカの頭にふわりと降りる。
「次に会うときは詫びを持ってのつもりだったが、それどころではなさそうだったからまだ用意できておらぬ。すまんが、次回に回させてくれ」
「あ、はい」
レベッカが聖痕をオフにしたのを見て、改めてそんなことを言いだすルシファー。
それに対し、そもそも詫びが云々という話自体を忘れていたレベッカが、そういえばそんな話があったと曖昧にうなずく。
「さてガブリエル、そちらの調整は任せた」
「分かっていますよ」
「あと、この愚か者を送り込んできた連中は、きちっと〆ておけ」
「もちろんですとも」
ルシファーに言われ、苛立たしげに謎のシスターを睨みつけるガブリエルと呼ばれた天使。
そのやり取りを理不尽だと感じたらしく、謎のシスターが睨み返す。
「堕天使と慣れあっている天使なんぞに、なぜ私が制裁を受けねばならないのですか?」
「主の意向に反した上に事態を悪化させて、それを収拾するつもりもない者に制裁を加えるのに、堕天使と慣れあっているかどうかが関係あるのですか?」
「そもそも、我は主の意向により、必要があったから堕天しただけだ。天使と堕天使の対立構造自体、そう見せる必要があったから行っているだけの慣れ合いよ」
「確か、地上の言葉でプロレスというのでしたよね?」
傲然と言い放った謎のシスターの言葉に対し、とても公表してはいけない類の裏事情を説明するガブリエルとルシファー。
その内容に絶句する謎のシスターをよそに、聞かなかったことにして十秒チャージでカロリーを補給するレベッカ。
「そもそも、我と慣れ合っている天使が堕天していない時点で、そのあたりの裏事情は察せようと思うのだが?」
「その察しの悪さを横においても、異教の地だからと幽世の門を開いた挙句に放置しようとした性根は見過ごせませんね」
「うむ。おかげで、こやつに余計な縁ができてしまったではないか」
そうぶつぶつ文句を言いながら、幽世の門を閉じるルシファーとガブリエル。
「では、我は周辺に話を通してくる。そ奴のことは任せた」
「ええ。それはそうと、シスター・レベッカ」
「何でしょうか?」
「仕方がないとはいえ、服がボロボロで到底人前に出られる状態ではありません。着替えがないのであれば、こちらで修復しますが?」
「……お願いしてよろしいでしょうか?」
ガブリエルの申し出に、素直に甘えることにするレベッカ。
正直、そっち方面での羞恥心の類はほとんどないので下着だろうが裸だろうが見られても平気なのだが、日本には猥褻物陳列罪というものがある。
もしかしたらそれに引っかかるかもしれないという危惧がある以上、直してもらえるのであれば直してもらったほうがいいだろう。
ちなみに、以前クリーチャーによって服をぼろぼろにされたときは、私有地だったのと学校が休みだったのとで、法的にも評判的にも特に問題になっていない。
「では、その愚か者を連れて行きますので、報告書については良しなに」
「分かりました」
レベッカの服を修復し、謎のシスターを正体不明の光のロープで拘束して肩に担いだガブリエルが、そんなことを言って姿を消す。
ルシファーはすでにどこかに消えている。
「……どこの誰だかは知りませんが、どちらも分体とかの類であれだけの力を持っていると気がつかなかったのでしょうか……」
出てきた相手に最後まで傲慢な態度を取り続けた謎のシスターについて、思わずそんな感想を漏らすレベッカ。
もっとも、あの様子では、二度とレベッカが関わることは無さそうだが。
「さて、今日の報告書は何をどう書いたものか……」
荷物を回収し、周辺の状況を確認しながら、出された宿題について頭を抱えるレベッカであった。
レベッカが食ってたバイキングの食材、何気に一番高いのはアワビだという設定があったりとか。
とりあえず、名前も出ないまま退場した謎のシスターも大概あれですが、レベッカはレベッカでどうかと思う今日この頃。
シルヴィアの細かい設定が一部出てきましたが、ビジュアルについてはそのうち。




