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NOT撲殺その7   聖痕の進化 その4

「むう……」


 年末も近づいてきた十一月末のある日。


 全国チェーンの牛丼屋で期間限定のギガ盛り牛丼を頼んだレベッカは、期待外れの分量に思わずうなる。


「値段が千円しないところから、予想してしかるべきでしたか……」


 そう言いながらも、箸を手に取るレベッカ。


 雑な食前の祈りを手早く済ませ、上品な動作で牛丼を攻略していく。


「……やはり、足りません……」


 三分後、レベッカは空になった丼を切なそうに見つめながらぼやく。


 レベッカにとって、一杯三千キロカロリーオーバーというのは並盛と大差ない。


 が、いくらギガ盛りと言っても、レベッカの基準で作ると客の九割が食べ残すボリュームになるし、そもそも千円以内に収めるのは無理だ。


 なので、全国チェーンの、それも安さが売りの牛丼屋でそこまでの商品を求めること自体が間違いであろう。


「……仕方がない。全メニュー制覇しましょう」


 重々しい口調で、そんなことを言いだすレベッカ。


 言っていることはくだらないが、レベッカにとっては死活問題である。


「まずは焼肉丼と豚丼と親子丼から注文して、それから各種定食を順番に、ですかね」


 メニューをざっと見て、注文する順番を決めるレベッカ。


 この際、サイズ違いは全部一番量が多いもの、トッピングやつゆだくなどのバリエーションは無視して標準の物のみ、サイドメニューのうち漬物は定食についてくるのでスルー、味噌汁は豚汁だけ丼と一緒に追加注文、という感じでルールを決めておく。


 サイズはまだしもつゆだくネギだくなどとトッピングの組み合わせまでやりだすと際限がなくなるし、カレーやラーメンと違ってトッピング全盛りが美味しいとは限らないからだ。


「……焼肉丼と豚丼はおおよそ外しようがない味ですが、親子丼は意外と好き嫌いが分かれそうですね……」


 出てきた丼を片っ端から平らげ、そんな感想を口にするレベッカ。


 実際、親子丼はだしが甘口か辛口かとか玉ねぎの火の通り具合とか卵の硬さとかいった細かい項目で、何気に好みが分かれる料理だ。


 しかも、親子丼も鶏肉の品質がもろに味に出る鶏肉料理の定めから逃れられない。


 なので、もともとの品質以外にも、精肉から調理までのどこかで雑な扱いをしたタイミングがあると、他をどれだけ工夫しようと一気に味が落ちる。


 さほど値段が取れない割に、結構シビアな料理なのが親子丼だったりする。


「……やはり、牛丼のお店では牛丼かすき焼き系を食べるのがよさそうですね」


 冬季限定の牛鍋膳を平らげながら、丼関係についてそう結論を出すレベッカ。


 親子丼はまずいわけでも好みに合わないわけでもなかったが、どうしても扱いに不慣れなところが随所に出ていたのだ。


 その後も次々と定食を平らげ、最後の牛皿とからあげの定食を半分ぐらい食べ終えたところで……


《総摂取カロリー及び総消費カロリーが規定値を超えました。聖痕の機能を拡張します》


 というアナウンスが脳内に流れる。


「ふむ、またですか……」


 そうつぶやきながら残りを食べ終え、会計を済ませに伝票を手に取ってレジへ。


 安さが売りのこの店で一人の人間が食ったとは思えない額の支払いを済ませ、教会へと帰っていく。


「それにしても、毎回一度起動して戦闘しないと、どう変化したのか分からないのはどうにかならないのでしょうか……」


 今までの変化を再確認し、次の変化を予想していたレベッカが、思わずそんなことをつぶやく。


 そのタイミングで、レベッカの脳内にステータス画面のようなものが現れる。


「……え?」


 唐突に起こったそれを、思わず二度見してしまうレベッカ。


 と言っても、表示されているのは脳内なので、視線その他は一切動いていないが。


「聖痕のステータス、ですか……」


 ようやくそれが何なのかを理解したレベッカが、表示されている内容を確認していく。


「一番上の消費可能カロリー、総摂取カロリー、総消費カロリーはそのままでしょうね。それにしても、もう億の大台を突破するほど摂取していましたか……」


 最初に表示されている数値を見て、我が事ながらよくもまあこんなに、と遠い目をしそうになるレベッカ。


 もっとも、さっきの昼食でも普通に万の大台に乗るぐらいには食べているし、食べ放題系やデカ盛りチャレンジメニュー系の時は控えめに見ても一食で十万キロカロリー以上食べているのだから、億やそこら余裕であろう。


 ちなみに、レベッカの一日の最高摂取カロリーは約二百万キロカロリー。


 その日は挑戦を受けてデカ盛りスイーツ系を三軒はしごした後、新規開店予定の食べ放題の店にオペレーションのテストとして招待されて容赦なく食べまくったのだ。


「……他の項目は、スキルツリーとステータス、特殊能力、強化履歴。そのうちステータスと特殊能力はグレーアウトしていて選択できないようなので、現時点で私が確認できるのはスキルツリーと強化履歴ですか……」


 現状を確認し、それならばとスキルツリーの項目を選択すると、聖痕基本機能解放というスキルを起点に三つに分岐しているスキルツリーが表示される。


「……また、偏ってますねえ……」


 レベッカの聖痕のスキルツリーは、聖痕基本機能拡張と演出強化のみ解放されていた。


「…………もしかして、いや、もしかしなくとも、今までの強化項目はいずれも私の戦闘能力に一切影響していない?」


 解放された機能を確認し、呆然とした声でそんな結論を口にするレベッカ。


 レベッカの聖痕のスキルで解放されているのは、聖痕基本機能解放、聖痕全力解放時の特殊演出解放、処刑用BGM演奏、解放時特殊演出強化その1、とどめ演出強化、聖痕ステータス表示の六種。


 強いて言えば聖痕基本機能の呪詛・瘴気耐性と非実体への干渉能力ぐらいで、それ以外は見事に見た目だけのものであった。


 なお、聖痕基本機能とは、


・呪詛・瘴気耐性

・非実体への干渉能力

・聖気の生成、制御

・浄化

・聖水の作成


の五項目で、これは神託の聖女シルヴィアの聖痕をはじめとした全ての聖痕が共通で持つ機能である。


これまで機能拡張のアナウンスは四回、聖痕が発現した時を含めても五回しか強化されていないのに六項目解放されているのは、聖痕が発現した際に基本機能と聖痕全力解放時の特殊演出解放の二つが解放されているからだ。


「というか、普通はステータス表示を先に解放するような気がするのですが……」


 そう言いながら、解放済みのスキルをじっくり確認するレベッカ。


 確認したところ、他のものと違いステータス表示は解放のために必要な総摂取カロリーが、こんな最初の方の基本的な項目とは思えないほど高かった。


 恐らく、レベッカに聖痕を与えた何者かが、面白半分でこういう仕様にしているのだろうが、おもちゃにされている側としてはなかなかに釈然としない。


「もう一つの特殊機能ツリーが一切解放されていないのも気になりますね。条件的にはクリアしているはずなんですが……」


 総摂取も総消費もクリアし、解放に必要な使用可能カロリーも足りているのに、何故か解放されていない特殊機能ツリーの一つ目。


 内容はステータス項目の解放。


 今まで聖痕ステータス表示機能が未解放だったことを考えれば、解放されていないこと自体は分からなくもない。


 が、確認できるようになっても解放されないのは意味が分からない。


 因みに、解放されていないスキルは名前と解放条件だけしか分からないため、解放されてみないと効果の方は不明である。


「……まあ、いいです。見れるようになっただけで私が任意にスキルを強化できる訳でもなさそうですし、ざっと内容を確認して終わりにしますか……」


 もうそろそろ教会にたどり着くこともあり、ステータス関連はそれで終わりにすることにするレベッカ。


 特殊機能ツリーは最初の一個が解放されないとそれ以降は名前すら分からないようなので、残りの二つを見ていくことに。


「……基本機能の二つ目がデトックスですか……。若干総消費カロリーの方が足りてないようですが、これはすぐに解放条件を満たしそうですね。ただ、名前から効果がいまいち想像しづらいのが……」


 デトックスというのは一般的には体内の毒素や有害な老廃物の排出を促進することを言うようだが、仮にも聖痕という超常的なものに備わった機能だ。


 そんな字面通りの機能かどうかは怪しいと言わざるを得ない。


 さらにその先にあるスキルがまた強烈だった。


「アンチエイジング、デラックスアンチエイジング、スーパーアンチエイジング、ウルトラアンチエイジング、スーパーウルトラデラックスアルティメットアンチエイジング……。アンチエイジングとつくものだけで何故にこんなにたくさんあるのでしょうか……」


 あまりに強烈なアンチエイジングの数々に、思わず頭を抱えるレベッカ。


 その先はまだ項目確認不可能だが、さすがにこれ以上アンチエイジング系が続いているとは思いたくない。


「……演出系も、よくもまあここまで用意できるものですね……」


 効果音関係に残像、打撃一回ごとの特殊エフェクト、カットイン表示など、演出強化もまだまだいろいろありそうな感じである。


 こちらは三つほど先で分岐が発生し、そこから先は内容を確認できなくなっている。


「とりあえず、今後聖痕の機能が拡張されても、よほどのことがない限りは戦闘能力が強化されることは無さそうですね……」


 強化履歴に特殊能力ツリーの解放は気が向かない限りやらないと明言されているのを発見し、思わず肩を落とすレベッカ。


 結局、今後も聖痕を与えた何者かにおもちゃにされることを悟ってしまい、遠い目をせざるを得なくなるレベッカであった。

内容が確認できないようになっているため本編では触れませんでしたが、グレーアウトしているステータスや特殊能力の項目にもまともなものはありません(断言)


ちなみに、他の聖痕もちとして唯一名前が出ている神託の聖女シルヴィアですが、彼女の聖痕スキルツリーはもっとまともで実用的です。

解放条件や消費リソースもカロリーではなくもっと別のものです。

つまりうちの聖女様は……。


なお、二百万カロリーに関しては、いろんなもののカロリー見て計算して、聖女様だったらいけなくもないかと判断してこの数値にしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 レベッカの食事を見ていると、最近ニコニコ動画で見かけた「紲星あかりの休日ご飯!」を思い出します。 この動画は「人生RTA」とか言われてるのですが、レベッカのほうが凄まじ…
[良い点] 更新いつも楽しみにしてます [一言] レベッカの今までのお祓い方法を、聖痕を授けている神様も見てたら、こうなるよね(゜∀゜ )  なんて言うか、ネタ扱い?
[気になる点] ああ、本文ではキロカロリーになってるから後書きでキロが抜けてますね でも千人前も食うのか
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