撲殺その15 首塚
「……なんだか、あまりいい雰囲気ではありませんね……」
バレンタインも過ぎ去り、早いところでは入試の結果が出るぐらいの時期のこと。
隣の県の教会へ行く仕事の帰りに乗った電車の異様な雰囲気を前に、渋い顔でつぶやくレベッカ。
時間的に程よく混み始めた車内で、一人のなんともガラの悪い男性がシートに寝転がって占拠して無煙たばこをふかしていた。
また、性質が悪いことに、ふかしているたばこが煙が出ないだけで臭いは普通に広がっていくタイプのもので、無煙である意味はと突っ込まれまくった製品である。
電車のような閉鎖空間になりがちな環境で焚くと半々の確率で喘息患者が発作を起こすことが確認されている製品でもあり、パッケージに吸うなら人気の少ない開けた場所か換気の十分な場所でと大きな字で書かれていたりする。
そんなものを堂々と車内で吸い、さらにこれからもっと混み始める時間にガラの悪い態度でシートを一列占拠する。
間違いなくろくでもない人種であろう。
世のマナーを守って肩身の狭い思いをしている喫煙者にとって、一番の敵なのはこういう連中なのは想像に難くない。
世界的に喫煙に対して寛容だった時期に、この手の人種が好き放題やったことが喫煙者に対するあたりの強さをどんどんエスカレートさせていったのだが、喫煙者が少数派になった今でもこういう輩が絶滅しないのが真っ当な愛煙家にとっての不幸であろう。
「さて、どうしたものでしょうか……」
どう見ても話し合いが通じ無さそうなタイプの男性を前に、思わず考えこむレベッカ。
別にたばこの臭いごときでどうにかなるようなやわな体はしていないが、それはそれとして見ていて不快なものは不快である。
ついでに言えば、こいつを放置して新たに乗ってきた乗客が目の前で発作を起こしでもすれば、非常に寝覚めが悪いことになる。
が、レベッカが直接手を出す場合、相手が絡んできて反射的に防御したときに、加減を間違えて二度と元に戻らないレベルで顔面や手足を変形させてしまう可能性が否定できない。
そうなってしまうと、過剰防衛どころか普通に暴行罪と傷害罪である。
そのリスクと自身の寝覚めの悪さや不快感とを天秤にかけて悩んでいると、新たに乗ってきた乗客の一人が軽く咳き込み始める。
「あの、すみません……」
「ああん!? なんだよクソガキ」
咳き込んだ乗客の連れだと思われる高校生ぐらいの少年が、意を決してといった感じで、喫煙中の男に声をかける。
礼儀正しく声をかけた少年に対し、要件を言う前から切れたような態度で威嚇する男。
これは穏やかではないと思って止めに入ろうと近寄ると、男がいきなり威嚇するようになっていないシャドウを始める。
そのまま少年に詰め寄って胸ぐらをつかみ、顔面にたばこを押し付けようとする男。
意味不明なレベルで興奮している、もしくはそういうふりをしているため、すごい大声なのに男が何を言っているか聞き取れない。
「よし、これで正当防衛だな!」
少年が押し付けられそうになったたばこを押し返そうとしたところでいきなり手を放してそう叫び、先ほどのへなちょこなシャドウとは打って変わって腰が入ったストレートで殴りかかる男。
「そこまでにしておいてはいかがですか?」
これはまずいと、少年の前に手を出して男の拳を手のひらで受け止めながら、穏やかな口調でそう声をかけるレベッカ。
シャドウボクシングの動きは全くなっていなかったが、このパンチは人を殴り慣れている人間のそれだ。
このまま放置しておけば、下手をすると少年の命にかかわりかねない。
「ああん? 何だよババア。お前には関係ねえだろうが!」
「部外者ではありますが、目の前で暴力行為が行われようとしているのを止めることに、関係者か否かは関係ありません」
そう宣言しつつ、曇りなき眼で男を見透かすようにじっと見つめるレベッカ。
その目に大層居心地の悪さを感じてか、
「なんだその眼は!?」
そう叫んで本気のパンチをレベッカの顔面に叩き込む男。
それを、あえて顔面で受け止めるレベッカ。
もっとも、馬鹿正直に無防備なまま殴られるようなことはしない。
昔取った杵柄で、自身に一切ダメージが入らないよう打点をずらして衝撃を完全に流し、威力を完全に殺しきってから殴られても微動だにしないように見せかけるため拳を顔で押し返したのだ。
「痛え!?」
この時、レベッカが意図していない事が起きた。
受け流したときに威力がそのまま男の拳に逆流し、顔面で押し返す前に指と手首の骨をへし折ったのだ。
「どうしました!?」
そのタイミングで、駆け付けた車掌が声をかける。
「詳しくは映像を見てもらうとして、こちらの男性が車内で喫煙していたのをこちらの少年が出来たら控えてほしいと訴えたところ、喫煙していた男性が怒って暴力に訴えたので割り込んで代わりに殴られたのです。その時、どうやら拳を痛めたらしく、殴った男性が痛みにうめいている、という状況です」
車掌に問われて、ざっくりとした一部始終を説明するレベッカ。
いろいろ端折っているが間違ってはいない説明で、端折った部分もどちらかと言えば男に不利になる内容である。
不利な部分を一部端折った説明ですら男のみっともなさが方々に感じられるあたり、無様にもほどがある。
「……なるほど。こちらの監視カメラの映像でも確認が取れました。申し訳ありませんが、事情聴取のために同行の方、お願いできますか?」
「分かりました」
「俺が殴っただと!? このアマが俺の拳を顔面で殴ったんだろうが!!」
「いや、そんな漫才のネタじゃあるまいし、流石にそんな真似はやろうと思ってもできませんけど……」
言うに事欠いて、大阪のベテラン夫婦ドツキ漫才コンビが定番ネタとしてやっているようなことを言い出す男に、あきれたという表情を隠すことなくそう言い返すレベッカ。
レベッカが変な受け方をしたせいで打撃の威力がもろに反射したのは事実だが、そもそもそんな威力で他人を殴ろうとしていなければ起こらなかった怪我である。
「とにかく俺は正当防衛だ!」
右手首をかばいながら脂汗を垂らしつつ、そう訴える男。
だが、残念ながら日本では正当防衛が認定される条件は非常に厳しく、実際に殴られているレベッカの立場ですら反撃で殴ったら高確率で過剰防衛か暴行罪傷害罪になってしまう。
先日のストーカー男のように殺傷力の高い武器を持っている相手か集団に囲まれて襲われたなどのように、最低限第三者から見て明確に命の危機を感じる状況でないとまず成立しない。
今回の場合、押し返されたのを口実に自分から殴りかかっているので、たとえ自滅して負傷していても暴行罪は成立するだろう。
というより、この条件で正当防衛が認められる法治国家は存在しない。
「言いたいことは詰所の方で聞きますので、ご同行願います」
男の言う事を完全にスルーして、どうにかして詰所へ連れて行こうとする車掌。
自滅とはいえ怪我をしているのであれば治療も必要なので、そういう意味でも詰所に連れて行く必要がある。
そこに、応援として呼ばれたらしい二人の鉄道警察も加勢する。
「……あら?」
そんなやり取りを傍観していたレベッカが、不意によろしくない種類の視線を感じて明後日の方向を見る。
「……これは、もう一波乱ぐらいありそうですね……」
よろしくない視線の主が男に憑りつくのを見て、思わずそうぼやくレベッカ。
レベッカの予想通り、不意に男が人間の力とは思えないほどの怪力で車掌と鉄道警察を振りほどき、脱兎のごとき勢いで逃走する。
「……大丈夫ですか?」
「ええ、まあ……。」
「しかし、見事に逃げられたなあ……」
「だが、あんな振りほどき方をして、あいつの体大丈夫か?」
「右の手首、明らかに折れてたし、絶対大丈夫じゃないと思うけどなあ……」
逃げて行った男を見て、そんな見解を確認しあう警官たち。
それを横目に、どうせ後でどつきあう羽目になるんだろうなあとある種の諦観を見せるレベッカであった。
「畜生、俺がなにしたってんだよ!」
ICカードの読み取りが完全に終わる前に強引に改札を突破し、悪態をつきながら逃げる男。
拳と手首の痛みがいら立ちを増幅する。
そんな彼の頭を支配するのは、拳とプライドを砕いたシスターへの怒りと恨みのみ。
そのため、自分が現在どこを走っているのか、どころかそもそも普段ならとっくに息が上がるほどの距離を走っていることも気が付かない。
「……なんだ、ここ?」
頭の中でエンドレスで恨み言を繰り返すこと三十分。その間ずっと走り続けていた男は、ようやく自分が妙な場所に入り込んでいたことに気が付く。
男が迷い込んだのは、恐らく神社だと思われる建物の敷地内にある、古く寂れた墓地であった。
「ちっ!」
ただ単に気分よくタバコをふかしていただけで、拳をケガさせられた挙句に犯罪者扱いされて逃げる羽目になった。
そんな苛立ちを抑えきれず、墓地の片隅にひっそり隠れるように積み上げられた小さな墓石を蹴り飛ばす男。
いつからあったものか、表面に刻まれていた文字もすぐ隣に建てられていた石碑もすっかり風化して読めなくなっていた墓石は、男の蹴りであっさり崩れ落ちる。
その瞬間、男の意識は完全に途絶え……
「なるほど。では、手始めにあの異人の尼僧を血祭りにあげることで、復活の狼煙としようか」
彼の姿をした何かが、相手を探しに墓地を後にするのであった。
「仕方がないこととはいえ、いろいろ面倒なことになりそうですねえ……」
「申し訳ない。警察もなかなか手が回っていませんで……」
「まあ、潜在的な危険性はともかく、表に出ている内容としては暴行罪と威力業務妨害ですからねえ。軽視していいかどうかとか程度の差は別にして、同じような事件は山ほどありそうですし」
事情聴取が終わった後、状況を把握して面倒くさそうにため息をつくレベッカ。
男が自滅して拳と手首を折った以外に怪我人が出なかったことがマイナスに働いて、捜査の優先度としてはそれほど高くできそうにないことを告げられてしまったのだ。
もっとも、このあたりはレベッカ自身が予想していたことであり、むしろそんなことを正直に告げてきたこと自体、予想外にもほどがあったりする。
「ただ、それを私に教えてしまって大丈夫なのですか?」
「それがですね、シスターから事情聴取をしていると聞いた別の部署から指示がありまして、シスターには正直に伝えておけと言われたんですよ」
「別の部署ですか……。もしかして、霊的なあれこれを扱っている部署でしょうか?」
「はい。ご存じだったんですか?」
「少し前に、ストーカー犯罪がらみで少々縁がありまして」
「なるほど。まあ、正直な話私も最近知りまして、それまであの部署は何をやっているのかよく知らなかったし、教えられた後も眉唾物だと思っていたんですが……」
「実際に体験する羽目にでもなりましたか?」
「ええ。で、一度縁ができるとそういうのに遭遇しやすくなるからと言われたんですが、まさか外部の方に知っておられる方が居て、その方と関わることになるとは思いませんでした」
「そうですか。ということは、退魔師とかエクソシストとか呼ばれる存在が居て、ちゃんと国家資格も存在することもご存知ですか」
「例の部署の存在と一緒に教えられました。……もしかして?」
「はい。実はアメリカで、A級エクソシストの資格で仕事をしていました。大体は教会の奉仕活動として、実質的にただ働きでしたけどね」
そう言って、アメリカ人らしいオーバーアクションで肩をすくめて見せるレベッカ。
恐ろしい勢いで日本に染まっているレベッカだが、こういったところはやはりアメリカ人である。
「さて、それではそろそろ帰らせていただきます」
「はい、お疲れさまでした」
必要な情報交換も終わったと警察署を出ようとしたところで、何やら入り口が騒がしいことに気が付く。
「応援を呼べ!」
「何だこの力は!?」
「警部! 暴徒鎮圧用の装備が通用しません!」
何事かと大急ぎでロビーへ移動したレベッカの目に、先ほど逃げたはずの喫煙男が圧倒的な暴力で警察官を次々に殴り飛ばす姿が飛び込んでくる。
その右手が完全に人間のものではなくなっていることが、状況の異様さを物語っている。
「何だあれは……」
「……あれは、何かに憑かれていますね」
騒ぎを聞きつけて出てきた先ほどの警官のつぶやきに、静かな声でそう答えるレベッカ。
レベッカの声が聞こえたか、右手の鉤爪で手近な警官の顔面をえぐりながら喫煙男が振り向く。
「やっぱりここにいたか、異人の尼僧」
「完全に乗っ取られましたか。逃げた時からカウントしても時間的にはそれほど経っていませんし、今ならまだ戻れそうですね。それが幸せな事かどうかは別にして」
「ほう? 儂を祓えるつもりか?」
「祓えるかどうかは別にして、しとめることはできますね」
「言うたな!」
レベッカの言葉にいきり立ち、鉤爪で切り裂こうと右腕を大きく振る喫煙男。
その一撃をすれすれよりやや余裕をもって回避しながら、荷物からペットボトルを取り出して喫煙男にかけるレベッカ。
かけたのは言うまでもなく、いつもの水道聖水である。
そろそろ別の手も使えと言いたくなるほどワンパターンなやり口だが、そもそもこの後の流れからしてフルパワーで聖痕を起動して雑に撲殺して終わる以外のパターンを持っていないのだから、聖水ぐらいで突っ込む意味はない。
「この尼! いったい何をかけた!?」
多大なダメージを受けて全身からシュウシュウ蒸気を立ち昇らせながら、怒りの声を上げる喫煙男。
喫煙男の詰問を完全に無視し、レベッカがいつものように祈りのポーズをとる。
そのポーズと同時に、まだ昼にもなっていないにもかかわらず周囲が一気に夜になり、空に何の前触れもなく満月が上る。
「主よ、再びこの両手を血に染めることをお許しください」
その祈りの言葉と同時に、辺りにYou are shock!! な感じのBGMが鳴り響く。
BGMに合わせて修道服でも隠しきれていないグラマーで肉感的なボディラインを強調するかの如くレベッカの全身が光り、その豊かな胸の谷間から聖痕が浮かび上がる。
浮かび上がった聖痕がレベッカの左右の拳に宿り、足元から吹き上がった風が修道服の裾をはためかせベールを吹き飛ばす。
ベールが吹き飛んだ拍子に三つ編みがほどけたらしく、素晴らしい金髪が風にたなびく。
その場を濃密な神気が包み込み、レベッカの聖痕がフルパワーで解放された。
「では、互いの罪を清算しましょう」
いつものようにアルカイックスマイルで処刑を宣言するレベッカ。
「あの世で罪を償うのは、貴様だ!」
レベッカの言い分に対し、飛び掛かりながら分かりやすく悪役っぽい言葉を返す喫煙男。
気がつけば、いつの間にか体が一回り以上大きくなり、額に角が生えてきている。
顔立ちこそ辛うじて喫煙男のままだが、全体的な姿は鬼と表現したほうがしっくりくる。
そんなあまりにも急な展開に、警察官たちも戸惑いのあまり黙り込んでしまう。
が、お世辞にも広いとは言い難い警察署のロビーで、もともとそれなりにガタイの良かった喫煙男の体が一回り以上大きくなったのだ。
当然動きが窮屈になる。
そのことをすぐに悟ってか、ひっかくのではなく突き刺すようにパンチを繰り出してくる喫煙男。
本人が持っていた技量か、それとも鬼の持つ技か、単に振り回すよりはるかに鋭い一撃が飛んでくる。
が、パンチでの殴り合いはレベッカの本領であり、さらにあまり広くない警察署のロビーというフィールドでは相対的に小柄な体格がプラスに働く。
もっと言うなら、レベッカは自分よりデカい相手を撲殺した経験を豊富に持つ。
鉤爪での鋭い突きをかわし、あっという間に懐に潜り込んでいつものラッシュに入る。
回避された鉤爪が壁に刺さってしまったこともあり、レベッカの動きに対処でいきない喫煙男。
事ここに至ってしまうと、抵抗の余地などなく一方的に殴られ続けるしかない。
いつものように一分ほどラッシュを叩き込み、十分に喫煙男に憑りついた鬼を叩きのめしたと判断したところで、とどめのコークスクリューをぶち込む。
コークスクリューと同時に放たれた光が喫煙男を吹っ飛ばしながら周囲に広がり、いつの間にか集まってきていたよからぬものを、行きがけの駄賃とばかりにまとめて消滅させる。
「主よ、この哀れな子羊に救いの手を」
一連の流れを確認したレベッカが、いつものように十字を切りながら白々しい祈りの言葉を口にする。
その言葉に合わせていつものようにぶっとい浄化光の柱が立ち、喫煙男の姿を元に戻して消滅する。
「……そういえば、ふと思ったのですが」
「……どうした?」
レベッカのつぶやきに、警部と呼ばれていたハードボイルドな感じの男性が我に返って聞き返す。
その声で他の警官たちも我に返り、負傷者の手当てや破壊された備品の撤去、119番通報などに動き出す。
「今回のこれ、私もしかして暴行傷害罪でしょうか?」
「いや、それについては大丈夫だ。こいつに外傷が残っていないから少なくとも傷害罪は成立しないし、あれだけやらんと無力化できんのは見ていてわかったから、緊急避難扱いにできる。それに、どうやら霊障課の担当内容だったようだし、それを考えれば善意の協力者ということでおとがめなしだろう」
「それならよかったです。さすがに、バチカンから派遣された聖職者が暴力沙汰で逮捕とか、いろんな意味でシャレになりませんし……」
「一応言っておくが、こういうケースではともかく、普通の一般人を殴ったら国際問題とか関係なく普通に逮捕するからな。今回のは拡大解釈による超法規的措置を取るべきと、現場の人間が満場一致で判断するであろう事例だからおとがめなしなだけだからな」
「もちろんです。むしろバチカンのためにも、そういう時は容赦なく逮捕してください」
今回はおとがめなしとほっとしつつ、自戒を込めて霊障関係以外は特別扱い不要と告げるレベッカ。
そのあともう一度喫煙男を見て、一つため息をつく。
「あの右手、もう元には戻らないでしょうね……」
「おかしな形に変形しているが、何があった?」
「あの右手、電車の中で私を殴って骨折していたのです。その関係で逮捕されそうになって逃げた末路がこれだったのですが、素直に捕まっていたほうがよかったのではないかと思わずにはいられません」
「だな。霊障による行動とはいえ、今回は被害が大きすぎて情状酌量の余地ありとは言い難い。電車の中で君を殴った経緯は分からんが、その時捕まっていれば警察署を襲撃するという余罪は生まれなかったからな」
「ですよね……」
ハードボイルドな刑事の言葉に、しみじみうなずくレベッカ。
そのタイミングで救急車が到着し、負傷した警察官たちを次々に運び出していく。
「さて、これから帰るところを申し訳ないが、調書を取るのに付き合ってくれ」
「分かりました。ただ……」
「ただ?」
「とてもおなかが空いて倒れそうですので、さきに食事だけさせていただきたいです」
「そ、そうか……。ちゃんと戻ってきてくれるか、もしくは後日顔を出してくれるのであればかまわない」
「でしたら、このリュックを置いて財布だけ持っていきます。それで、このあたりで食べ放題とかデカ盛りとか、そういった感じのお店ありませんか?」
「……そうか、どこかで見たことがあると思ったら、最近この近辺で有名な爆食シスターか。それなら、向こうのビルに二時間制のオーダーバイキングの中華がある」
「分かりました。ではちょっと行ってきます」
「その前に、診察だけでも受けていってくれ。被弾していないのは知っているが、念のためだ」
「分かりました。ただ、むしろ、あなたの方がちゃんとした治療が必要なのではないですか? 肋骨、やられてますよね?」
そう告げて、新たに来た救急隊員に声をかけに行くレベッカ。
その後、外傷なしと診察されたレベッカは教えられた中華料理店に行き、ラストオーダーギリギリまで注文を続けてメニュー二周半の偉業を達成するのであった。
最近起こった某事件を連想されるかと思いますが、一応無関係ということにしておいてください。
なお、レベッカほど極端ではないにしても、顔面殴ったら殴ったほうの手がやられる、という種類の技の持ち主って実は意外といたりします。
で、そういう技の持ち主ほど、人畜無害ですって顔をしているものでして……。
真っ当な神経をしていれば普通は電車の中で行きずりの相手に注意された程度で喧嘩吹っ掛けたりはしないでしょうが、喧嘩吹っ掛けた相手が見た目じゃわからない種類のやばさを持ってるなんて珍しい話じゃないので、皆様も注意しましょう(何をだ
なお、レベッカさんが二周半したメニューの中に、単純な飲み物およびお酒は含まれておりません。
あくまで、フードメニューオンリーです。




