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撲殺その12     聖痕の進化 その2

「今日はありがとうね」


「いえ、こちらこそ。お誘いいただきありがとうございます」


 二月初頭、節分の日の早朝。


 迎えに来たリムジンの中で出された恵方巻を手に、レベッカは美優の言葉にそう返事を返す。


 なお、恵方巻はすでに五本ほどレベッカの胃袋に収まっている。


「それにしても、天下の綾羽乃宮商事の社長が、気乗りしないイベントを断れないとは思いませんでした」


「普段ならそれで問題ないけど、今回はいろいろあった埋め合わせなんだよね。不可抗力とはいえ、結果的に無理をさせた挙句にいくつかの案件で不義理を働く羽目になっちゃったし、担当者も一人、勝手なことをやらかして迷惑をかけてるし」


「そういう事もあるんですね」


「うん。さすがに天災でプロジェクトが白紙になるのまでは、予測できないからねえ。クライアントも前のめりになりすぎて強引に進めた挙句の結果で大損害出してるから、交渉以前に今の身分すらとっくに剥奪されてるし」


「そんなにひどい災害だったのですか?」


「うちぐらいしか関わってない地域のことだから、日本ではあんまり報道されてないけどね。地震と津波で大打撃受けたところに巨大竜巻で追い打ちで、そもそも土地を使えるようにするのにどれだけの費用と時間がかかるか分からない状況でさ。せめて地震か津波か竜巻のどれかがなかったらどうにかなったんだけどねえ」


「そこまで災害が重なるというのも、なかなかありませんよね……」


「だよねえ。幸いにして今は出稼ぎシーズンで現地に残ってる人が少なくて、犠牲になった人はほとんどいなかったんだけどね。まだ余震とそれに伴う崖崩れとか地割れとかが続いてるから、うかつに手出しも出来ないんだよね」


「それは大変ですね」


「逆にこうなっちゃうと、うちとしても契約を白紙に戻して撤退以外の選択肢はないけど、迷惑かけた取引先に関しては

、さすがに今日のパーティぐらいで穴埋めって訳にもいかないから、強引にねじ込んで押さえたスケジュールをどう埋め合わせするか、ちょっと頭痛いよ」


 心底困った様子を見せながら、そうぼやく美優。


 守秘義務その他の問題もあるのでレベッカには言えないが、そもそもこのプロジェクトは裏で複数の国が関わっており、可能な規模の会社が綾羽乃宮を含めて三社しかなかったため、やる以外の選択肢がなかったのだ。


 それでも綾羽乃宮はあえて規模もうまみも少ないところを担当していたのでダメージは小さいが、メイン部分を手掛けていた他の二社は運営関係の投資も大規模に行っているため、その分の損失もかなりのものだ。


 ついでに言うと、暴騰していた関連株が暴落しそれに引っ張られる形で株価全体がストップ安を連打しているため、ウォール街では結構な数の人が空から降っているようだ。


「なんというか、話を聞いていると、まるで呪われているかのような状況ですね」


「かもねえ。シスターから見て、そのあたりはどう?」


「少なくとも、私が見て分かる範囲で影響が残るほどの呪いはありませんね。……ああ、なるほど、この呪いの大本が、何かやったみたいですね」


「やっぱり呪いがあった?」


「はい。小川社長の関係者のうち、誰かこれに気が付いた方は?」


「ちょっとそれどころじゃなくて話をしてる余裕なかったんだよね。……あ、よく見たらメッセージがあるわ」


「やっぱり。因みに、どなたですか?」


「シスターの近所で寮の管理人やってる人。縁のないところからあっちこっち中継して婉曲的に飛ばされたもんだから、防御と返しが間に合わなかったって連絡があったわ。まあ、あの人もいろいろ忙しいしねえ」


 その話を聞いて、即座に深く追及することをやめるレベッカ。


 潮見に居座っているその手の存在の中でもトップクラスにアンタッチャブルな奴が防ぎきれない時点で、どう考えてもまだ一応人類の範疇にとどまっているレベッカの手に負えない内容なのは間違いない。


 忙しくて防ぎきれなかったということは、少なくとも片手間では対処できなかったということであり、神だのなんだのの中でもトップクラスにヤバいのが本腰入れなければ対処できなかった呪いなんぞ関わりたくもないのだ。


「それで、小川社長は今回の件の何が気乗りしなかったのですか?」


「誘ってきた相手はいいんだけど、内容が最近改装が終わった古い洋館で落成式兼用の節分イベントってやつでねえ。その洋館の用途が別荘だってのと併せて、何となく嫌な予感しかしなくてさ」


「ああ。別荘の古い洋館でパーティとかイベントというと、B級映画の定番ですね」


「そうなんだよね。最近都市伝説とかその手のネタが多いから、どうにもフラグが立ちまくってるようにしか見えなくてさあ……」


「それで、ジャンル的に近くて物理的な戦闘能力が高く、比較的暇なエクソシストである私に声がかかったと」


「巻き込んで悪いなとは思うんだけど、十六夜さんはこの時期忙しいし法晴和尚とかは肉弾戦向きじゃないし、親戚の子は今大学受験でしかも別件でも忙しいから頼めないし、それ以外となるとオーバーキル過ぎて動いてくれないから、他に当てがなくて」


「十六夜殿や法晴和尚はともかく、それ以外に動かれると大惨事になる予感しかないので、素直に私を頼っていただいて助かります」


 美優の上げた名前に、思わず真顔になってそう言ってしまうレベッカ。


 流石に半年以上潮見で生活していれば、自身がなぜここに派遣されてきたかぐらいは嫌でもわかる。


 暇人を出している余裕などないはずのエクソシスト業界において、トップクラスの実力者であるレベッカがこんなにスケジュールに余裕があるのも、恐らくそのあたりの忖度が働いているのは間違いない。


 もっと言うなら、そもそもここに送られるきっかけとなった神託の聖女の預言自体、レベッカをいつでも動かせるようにするために神々が出したものなのだろう。


「まあ、そういうわけだから、念のために今のうちにたくさん食べて、準備しておいて」


「分かりました。では、遠慮なく」


 そう言って、さらに目の前に積み上げられた恵方巻をどんどんと平らげていくレベッカ。


 飽きてくることを危惧してか、一般的な巻き寿司だけでなくサラダ巻きや牛肉巻き、とんかつにエビフライなど様々な一本巻きが用意されていて、レベッカの舌を楽しませてくれる。


 それらを美味しくいただくこと、累計三十本目。


 いつぞやのように唐突にレベッカの脳内にアナウンスが響き渡る。


《総摂取カロリー及び総消費カロリーが規定値を超えました。聖痕の機能を拡張します》


「……聖痕の機能が拡張されたそうです」


「確か、十六夜さん達と鬼退治した日にも、聖痕の機能が拡張されたんだっけ?」


「はい。その日以降、聖痕を全開で起動したらBGMが鳴るようになりました」


「処刑用BGMっぽい感じなんだよね?」


「はい。もっとも、クリスマスごろからBGMの内容が大分迷走している感じはありますが」


「その感じから察するに、戦闘能力を伸ばす方向で強化される感じはしないよね」


「まだ分かりませんよ?」


「そもそもシスターの場合、強化が必要なのは長距離攻撃と広範囲攻撃ぐらいだけど、前回のことがなくてもそういう方向にその聖痕が強化されるイメージがないんだよねえ」


 美優の言葉に反論できず、思わず黙り込むレベッカ。


 聖痕が発現した当初は、間違いなく身体能力がそれまでより上がっていた。


 が、それ以外と言えば基本的な浄化能力と素手で霊体を殴り倒せる能力、毒素や瘴気の影響を受けない能力ぐらいしかもらっていない。


 身体能力向上以外の能力は度合いの差はあれど、現在の聖痕持ち全員が聖痕から得ている能力だ。


 他の聖痕が預言の授与や聖なる武器の召喚、聖獣の使役などはっきりとそれまでできなかった特殊な能力を得ているので、そこに相当するレベッカの聖痕の能力が身体能力の強化だと思っていたのだ。


 が、前回の聖痕の機能拡張で得られたのは、戦闘にも日常生活にも全く役に立たない処刑用BGMの演奏機能。


 さらに、今回も現時点で何の変化も感じられないとなると、根本的に思い違いをしている可能性が非常に高い。


 では、どんな機能なのかと言われても、ろくでもないものしか思いつかないのが困るのだが。


「……まあ、どうせ洋館で殺人鬼と殴り合いするだろうし、その時になったらわかるでしょ」


「……そうですね」


 美優の言葉にうなずくレベッカ。


 その後、もしろくでもない機能だったら八つ当たりもかねて念入りに撲殺しようと誓いながら、現地に到着するまでせっせとカロリー補給を続けるレベッカであった。








「……山の中腹にある洋館、一本しかない道、いきなり積もり始めた雪……」


「携帯もパソコンの通信もいきなり圏外になりましたし、見事にお約束を踏襲していますね」


 洋館到着直後。部屋に通されたところで現状を確認し、そんなことを言い合う美優とレベッカ。


 外はホワイトアウト状態で、とてもではないが歩いて脱出するのは不可能だ。


 レベッカなら可能かもしれないが、少なくとも四十代の美優は現状の装備でホワイトアウトしている山道を降りるのは無理である。


 ちなみに、ボディーガードも兼ねているという言い訳で、美優はレベッカを同室にしてもらっていたりする。


「お約束とか言ってはいますが、実は私、あんまり詳しくないんですよね。この後、大体どういう展開になることが多いのでしょうか?」


「そうだねえ……。まず、基本は下の広場で顔合わせ。その最中もしくは解散後に誰かが変死してるのを発見して再集合、そこで犯人探しみたいなことやっていろいろ擦り合ってるうちに単独行動取った人が殺されて、みたいな流れかなあ」


「よくある別荘での密室殺人事件ドラマのパターンと、そんなに変わらないのですね」


「まあ、二人目の犠牲者が出るぐらいまでは、犯人が普通の人間か理不尽な殺人鬼か、ぐらいの違いだからねえ。そこから先が推理物のミステリーになるかパニックホラーになるかの分岐点だけど」


 そんなことを言いながら、軽く着替えて化粧直しを済ませる美優。


 レベッカのほうは基本すっぴんで修道服、アクセサリーもロザリオぐらいしか身に着けていないので、荷物を置いておくぐらいしか準備らしい準備はない。


「それでさ、シスター。霊的な意味でおかしなことって、なんかない?」


「そうですね……。とりあえず、恐らく厨房があるのでは? というあたりにおかしな気配があります」


「じゃあさ、ボクが責任取るから、ちょっと見に行ってもらえないかな?」


「分かりました」


 美優の要請を受け、とりあえずミネラルウォーターのペットボトルを一本だけ確保して部屋を出ていくレベッカ。


 レベッカがその人物を目視したのは、ちょうど犯行が行われようとしたタイミングであった。


「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「えい」


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」


 ベタな血みどろのホッケーマスクに革のパンツ、返り血があっちこっちに染み付いたランニングシャツという姿で鉈を振り上げていた不審者に向かって、気の抜けた掛け声と同時に聖水に作り替えたペットボトルの中身を豪快に浴びせるレベッカ。


 聖水を浴びてすぐに、強酸の類でもかけられたかのように全身から煙を立ち昇らせ、叫び声をあげてその場から消える不審人物。


「大丈夫でしたか?」


「え、ええ……」


「しかし、またベタな殺人鬼が出てきたものですね……」


 救助した料理人の女性を助け起こしながら、そんなことを言うレベッカ。


 その奥では、料理長と思われる男性が、近くにいたらしいもう一人の女性料理人をかばいつつ震えながら包丁を構えている。


「そちらは大丈夫そうですね」


「ああ……」


 レベッカに問われ、おっかなびっくりという感じで包丁を調理台の上に戻す料理人。


「それで、あれはいったい……?」


「B級ホラーでよく見る類の殺人鬼ですね。原因は分かりませんが、どうやらこの館が舞台に選ばれてしまったようです」


「はあ……!?」


「とりあえず、単独行動は危ないので、一度どこかに集合したほうがよさそうです」


 そう料理人に告げ、軽く痕跡を調べた後、水道でペットボトルに水を補給してから厨房を出ていくレベッカ。


 そのレベッカに従い、ざっと厨房を片づけてから集合予定となっているリビングフロアへ移動する料理人たち。


 レベッカ達が到着するころには、リビングフロアには館の主人と執事らしきロマンスグレイの紳士、十名ほどの使用人らしき人物と美優を含め十二人の招待客が揃っていた。


「これで全員でしょうか?」


「みたいだよ。それで、すごい悲鳴だったけど、何か出てた?」


「はい。予想通りの殺人鬼が」


「ああ、やっぱり」


 事件現場にいなかった人間を代表しての美優の問いに、軽い調子でそう答えるレベッカ。


 レベッカの答えに苦笑しながら、当たってほしくない予想が当たってしまったという感じで美優がそう漏らす。


「とりあえず、いわゆる発端となる殺人事件は妨害したので、次をあえて誘発して迎撃、しとめてしまおうかと思います」


「出来そう?」


「単に聖水をかけただけで逃げて行ったので、倒すのは簡単そうです。ただ、問題は第一の事件を防いでしまったので、確実に誘き出せるかどうかが分かりません」


「あ~……」


 レベッカが口にした問題点に、思わず納得の声を上げる美優。


 筋書きが変わってしまった時点で、お約束通りに進行するかは分からない。


「というか、そんなの本当に出たのかよ?」


 殺人鬼、という存在に懐疑的な招待客の青年が、胡散臭そうに疑問を口にする。


 それに賛同するように、他の招待客からも疑問の声が上がる。


 なお、館の主はその手のことが普通に起こることを知っている人物なので、あえて何も言わず沈黙を貫いている。


 それを聞いた料理長が、顔をしかめながら反論する。


「俺だって信じられんが、実際にホラー映画の殺人鬼としか言いようがない格好の大男が、鉈を振り上げて俺たちを襲いに来た。こちらのシスターが助けてくれなければ、少なくとも峰岸君は無事では済まなかっただろう」


「本当かよ? そういう催し物とかじゃないのか?」


「催し物で、俺たちを襲う理由はないだろう? ついでに言うなら、仕込みネタで大火傷するような酸を頭からぶっかけるような真似なんてできるわけがない」


「はあ? そんな真似したのかよ!?」


「結果的にそうなっただけで、かけたのは普通の人にはただの水ですよ」


 人聞きの悪いことを言い出した料理長に補足するように、実態を正確に説明するレベッカ。


 聖水は悪魔や悪霊の類には酸や猛毒と同じ働きをするが、普通の人間が飲んだりかぶったりしても健康にいい水以上の性質はない。


 つまり、聖水でダメージを受けた時点で、殺人鬼が悪魔だとか悪霊のカテゴリーに入る存在であることが確定しているのだ。


 そんな押し問答をしていると、突如停電が起こる。


「ありゃ。これでローカルネットワークも死んじゃったか」


「あとは、バッテリーが残っているパソコン同士が直接無線でやり取りできるぐらいですな」


 あわてず騒がず明かりを取り出しながらそんなことを言う美優に、同じように停電時の非常用光源と非常用暖房を準備していた館の執事が、他にできるネットワーク通信を口にする。


「つまり、完全に孤立してるって事か……」


 美優と執事のやり取りを聞いていた主人が、ぽつりとそうつぶやく。


 その呟きに合わせるように、入口の両開きのドアが大きな音を立ててきしみ始める。


「な、なんだよこれ!! こんなことに付き合ってられるか!! 俺は……」


「おれはへやにかえるぞ~」


 あまりに不気味でタイミングの良すぎる流れにパニックを起こし、B級ホラーでお約束の台詞を言いそうになった招待客の言葉を遮るように、レベッカが台詞の続きを棒読みで叫ぶ。


「ねえ、シスター。演技するんだったら、もう少しそれっぽく言う努力しようよ」


「残念ながら、演技は完全に専門外です」


 腹式呼吸で行われたやたらと発声のいいその棒読みの台詞に、思わずあきれた表情を浮かべて突っ込む美優。


 美優の突っ込みにアメリカンなオーバーリアクションで肩をすくめてそう反論すると、いつ破られるかという感じできしんでいる正面の扉を開くレベッカ。


 見事なタイミングで扉をあけ放たれた結果、大振りの一撃を思いっきり空振りして体勢を崩し、リビングフロアに転がり込んでくる殺人鬼。


 体勢を崩して転がり込んできた殺人鬼に、招待客の悲鳴が響き渡る。


 血みどろのホッケーマスクやランニングシャツもなかなかのインパクトだが、先ほどレベッカにかけられた聖水であちらこちらが焼けただれているのがまた、気持ち悪くて恐怖をあおる。


 が、残念ながらレベッカの場合、そんなものはゾンビや悪霊で見慣れているので、特に動揺を見せることもなく、いつものように祈りのポーズをとる。


 祈りのポーズをとった瞬間、まだ昼だというのにリビングルームが夜の野外に代わり、晴れ渡った空に見事な満月が浮かび上がる。


 言うまでもないが、外はまだ普通に吹雪いている。


「主よ、再びこの両手を血に染めることをお許しください」


 その祈りの言葉と同時に辺りにかつて演奏されたこともある月からマイクロウェーブが飛んできそうな感じのBGMが鳴り響く。


 BGMに合わせて修道服でも隠しきれていないグラマーで肉感的なボディラインを強調するかの如くレベッカの全身が光り、その豊かな胸の谷間から聖痕が浮かび上がる。


 浮かび上がった聖痕がレベッカの左右の拳に宿り、足元から吹き上がった風が修道服の裾をはためかせベールを吹き飛ばす。


 ベールが吹き飛んだ拍子に三つ編みがほどけたらしく、素晴らしい金髪が風にたなびく。


 その場を濃密な神気が包み込み、レベッカの聖痕がフルパワーで解放された。


「では、互いの罪を清算しましょう」


 レベッカの宣言に、何の感情も感じさせぬ動きで構えを取る殺人鬼。


 幸か不幸か転がり込んできたときに距離が離れているため、どこぞの理事長のように聖痕を発動した際に放出される浄化光で大ダメージを受ける、などという無様な真似はしなくてすんでいる。


 そのため、レベッカの戦闘準備が整ってすぐに、理不尽なワープ能力を使ってレベッカの背後を取るというなかなかに戦略的な行動をとることができたのだが、それが通用するようならレベッカはとうに死んでいる。


 当然のようにあっさり回避してついでにボディを一発入れ、ジャブ三連から始まるいつものラッシュに持ち込む。


 そのまま相手に一切主導権を渡さず、黙々とラッシュを叩き込み続けるレベッカ。


 あまりにむごい撲殺ぶりを、思わず息をのみながら見守る招待客たち。


 それとは対照的に、執事をはじめとした使用人と館の主人がやけに落ち着いているのが印象的だ。


 BGMにのせて鈍い打撃音が鳴り続けること数分、ついに殺人鬼が力尽きる。


 もはや肉体を維持できないというところまで弱ったのを確認し、最後のコークスクリューを叩き込むレベッカ。


 レベッカのコークスクリューに体をぶち抜かれ、殺人鬼の姿が消えていく。


「主よ、この哀れな子羊に救いの手を」


 止めの一撃で殺人鬼が消滅したのを確認し、背を向けて十字を切りながらいつもの白々しい祈りの言葉を告げるレベッカ。


 レベッカの祈りに合わせて浄化光の柱が立ち、例によって光の一部がどこかへ飛んでいく。


 それと同時に満月の空が消えて元のリビングルームに戻り、停電が回復して謎の通信障害も完全に収まる。


「さて、派手にやっちゃったけど、隠さなくてよかったの?」


「別に、知られたからと言って何があるわけじゃありませんし」


 美優の疑問に対し、アルカイックスマイルのままあっさりそう言ってのけるレベッカ。


 そんな自信満々な態度に、本当に大丈夫なのかと不安にならざるを得ない美優。


「そうかなあ……?」


「それに、メディアに引っ張り出そうとしても、上のほうの皆様が勝手に握りつぶすでしょうしね」


「ああ、それは確かにそうかもね。逆に、一般人が言いふらしたところで、せいぜい都市伝説が増える程度かあ」


「それはそれで、仕事が増えて面倒はありますけど、ね」


 レベッカとのやり取りで、特に問題はないかと納得する美優。


「まあ、なんにしても、聖痕の機能拡張については分かったね」


「多分、先ほどの満月でしょうね」


「それで、今回の件についての原因追及なんだけど……」


「それは、私の専門外です。特に今回は、呪いだ何だの痕跡が一切ありませんので、私の持つ技能では何もわかりません」


「だよねえ……」


 きっぱり言い切るレベッカに、しょうがないかと苦笑する美優。


 結局なぜこの館が殺人鬼の都市伝説に巻き込まれたのかも、嫌な予感という形とはいえなぜ美優とレベッカが殺人鬼の発生を事前に察知できたのかも謎のまま、今回の事件は終わりを告げたのであった。


 なお、余談ながら、二年半後にシスターが古い洋館に出現した殺人鬼を死人が出る前に片っ端から殴って仕留めるB級ホラーコメディの映画が発表され大ヒットするのだが、この事件との関係は不明である。

B級ホラー映画のフリー素材撲殺第一弾は殺人鬼になりました。

サメは夏にやるとして、ゾンビをいつ挟むか、それが問題だ。


なお、月が出てもレベッカの戦闘能力にも敵の戦闘能力にも一切影響がありません。


月が初めて出た回ということで、マイクロウェーブを受けて超大出力ビームキャノンをぶっぱする作品の処刑用BGMに再登場いただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新、お疲れさまです。 節分の恵方巻、土用の丑の日のうなぎ、大量廃棄が問題になってますよね。 一家に一人、レベッカが居ればそんな心配もなくなるのでしょうね。 まあ食費がかかりすぎて家計が破…
[一言] いっそ、最初にマイクロウェーブに見えるただのスポットライトを浴びても良かったかもしれないw ゾンビかあ、古典かバイオか気になるところではある。 サメ映画は見てないからよく分からないけど、MA…
[気になる点] ゾンビは古典か、ハザードか。 きになりません? [一言] サメもスピルかタイフーンか。
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