【過去物語】中学校時代
輝男は小学校を卒業すると、地元の中学校に進学した。
輝男の学力を考えれば、一流の私立中学校に合格することも十分に可能だった。
国立大学の附属中学や、特待生試験を受けて、無料で授業を受けさせてくれる学校に入ることもできただろう。
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輝男の天才はすでに開花しており、その学力は半端なものではなかった。にもかかわらず、輝男は一切試験を受けなかった。
担任の教師は一度ならず輝男の母と祖母に会いに行き、そういった中学校を受験させるように説得した。
だがこの母と祖母は輝男に関してはあいかわらず無関心だった。
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「あの子には、そんな大それた教育なんて必要ないです」
祖母はやんわりとその担任に告げ、後は何を言ってもまるで無駄だった。
母親の方は、あの子のしたいようにさせています。の一点張りだったが、そのじつ輝男にまるで関心がないのが明らかだった。
そして当の本人は、学校に行くことそのものが苦痛だったから、それがどんな学校であろうとかまいはしなかった。
そういう理由で結局、輝男は家から近い公立中学校に通うことになったのである。
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この選択が正しいものだったのか、それとも別の中学校に入っていたなら違う未来が開けていたのか、それは分からない。
だが輝男はこの中学校でふたたび悲惨な運命に巻き込まれてしまう。
それは『いじめ』だった。
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ちなみに子供達の間でのいじめという問題は時代や場所を問わず常に存在した。
だが日本におけるこの時代のいじめほど、陰湿で悪質なものはなかった。
それは強迫的なまでの疎外であり、生け贄を選ぶ行為であり、加害者にとっては罪の意識のないストレス発散の場であった。
そしてそれをくい止めるはずの心のブレーキがこの時代には存在しなかった。
子供達の中で良心や正義感といったものが曖昧になり、麻痺していたからである。
もちろんあらゆる子供がそうだったというわけではない。
だが子供達の心の奥底に流れている潮流がそうだったのである。
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きっかけはごくごく些細なことだった。
クラスの中で『ワル』を気取っている生徒の一人が、輝男の本を取り上げた。
そしてタイトルを大きな声で読み上げた。
【アトランティス大陸の秘密に迫る 第二巻】
それが輝男がそのとき読んでいた本のタイトルだった。
最初は誰も笑わなかった。
どう反応したものか、誰も分からなかったのである。
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だが一人の生徒が急にゲラゲラと笑い出した。
いつもおどけた感じの、クラスの中で『ピエロ』を担当する男であった。
そしてクラス中に爆笑が広がった。
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だが輝男は平気だった。
その『ワル』から本を取り上げて、何事もなかったようにまた続きを読み始めた。
すると今度は『ピエロ』が本を取り上げた。
それを輝男が奪い返すと、また別の男がそれを取り上げた。
それは彼らの中で遊びのリズムとなり、輝男が本を取り返そうとするのを見てまた爆笑が広がった。
最初は本を取り上げ、からかうだけだったが、それが暴力にエスカレートしていくのはあっという間のことだった。
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そのいじめの最盛期はこんな具合だった。
朝学校に行くと、まず校門のところでワルが仲間と三人で待っていた。まず彼らは輝男の金をまきあげた。
輝男は最初お金を持ち歩いていなかったのだが、やがて毎日三百円を持って歩くようになった。
それで少しは暴力が軽くなるからである。
輝男は月に三千円の小遣いをもらっていたから、その全額をつぎ込むことになった。
足りない分はどうにもならなかったので、黙って暴力に耐えることにした。そして彼らに背中や脚を蹴られながら、教室に入った。
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教室の中に入ると、クラス中がシンとして、冷たい目がいくつも突き刺さった。
机には脅し文句がびっしりと彫られ、机も椅子もパイプが曲げられてグラグラしていた。
ロッカーの扉は殴られてよれよれに曲がり、中に入れてある体操着には靴のあとがぴっちりと付けられていた。
それは輝男の心をひどく痛めたが、泣くことだけはしなかった。
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休み時間になると、ワルに校舎の裏に連れて行かれた。
そして顔以外のところを気の済むまで蹴られた。
体育がある日にはマットにも詰め込まれた。
窒息して気絶したことも何度かあった。
そして体育が終わったときには、たいてい制服がびちょびちょに濡らされていた。
だから輝男は黙ってひとり体操着を着たまま残りの授業を受けた。
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そして放課後はまた『ワル』と『ピエロ』につれ回された。
彼らは行く先々で輝男を待ち伏せし、気分のままに暴力をふるった。
助けてくれる人間は誰もいなかったが、輝男自身、そのことには何の期待もしていなかった。
そういう仕打ちがあることを忘れていただけだった。
龍次や鋭子と過ごした日々が楽しすぎて、自分にいつもつきまとっていた不幸を忘れていただけだった。
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このいじめは、中学校一年生の間まるまる続き、二年生のクラス替えのあともずっと続いた。
担任の教師は見て見ぬふりを決めこんだ。
そうでなくともクラス中がバラバラで、教師は生徒に対してまるで影響力がなかった。
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この頃から、輝男の髪はうすくなり始めた。
髪だけではない。一年中腹痛が続くようになった。
朝から晩まで胃が痛み、まともに食事ができず、食べても吐いてしまう日がずっと続いた。
さらに手はふるえ、言葉は再びどもりだすようになった。
もう輝男の心は限界まで追いつめられ、その傷は膿のように体のあちこちに滲み出してきていた。
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輝男の母も祖母も、その変化に気づかなかったはずはない。
それほど輝男の症状は明らかだった。
だが依然として二人は輝男に対して全くの無関心だった。
それはわたしが見ていても恐ろしいほどだった。
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汚された衣服も機械的に洗濯機の中に放り込むだけだった。
残された食事はそのままゴミ箱の中に流し込んだ。
体重がげっそりと落ち、目の下にはくっきりとクマが浮かぶようになっても、二人はまるで輝男が存在しないかのようにふるまい続けた。
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それでも輝男は中学校に通い続けた。
長いあいだ輝男を見てきたわたしにとっても、その理由は定かではない。
そもそも彼は最初から学校と言うところが大嫌いだった。
卒業の資格のためなのか、意地がそうさせたのか、それとも鋭子や龍次のためなのか。その理由は輝男だけが知ることである。
とにかく輝男はただただ毎日ロボットのように、学校へと登校し続けた。
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しかしこんな生活の中にあっても、輝男の天才が枯れることはなかった。
輝男の天才はすでに開花していたが、彼はこの時期にさらに成長を続けていたのである。
学校のテストはあらゆる教科で満点を取った。
作文を書かせれば、必ず何らかの賞を取った。
技術科で作ったエンジン模型は、ロータリーエンジンをさらに進化させたもので、発表の五年後には実用化されるようになった。
もっともこのエンジンのアイデアは技術科の教師が自分で特許を取得してしまい、輝男の発明品だということは誰にも知られなかった。
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しかし皮肉なことに彼の天才ぶりは彼をますます孤立化させた。
彼を教えるはずの教師達は輝男の天才を感じ取り、自分がみじめにならないために彼を避けるようになった。
彼の才能を認める教師はこの中学校には一人も現れなかった。
家族はあいかわらず無関心で何もしてくれなかった。
友達となるべき級友は彼を痛めつけるだけだった。
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それは本当につらい二年間だった。
たった一人だけで全ての不幸と災厄に立ち向かった二年間だった。
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だがそんな日々は唐突に終わりをむかえる。
それは中学三年生になる春休みのことだった。
輝男は龍次からの電話をうけた。明日久しぶりに会いたいという。
輝男は喜んでオーケーし、翌日に小学校の校庭で待ち合わせる約束をした。
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龍次は輝男の姿を一目見て、驚いた。
痩せ細った体、薄くなっている髪、目の下に色濃く残るクマ。
それはあまりに変わり果てた輝男の姿だった。
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「どうしたんだよ?なにがあったんだ?」
輝男もまた龍次を見て驚いた。
ずいぶんとまた背が伸びていたからだ。
小学校の時もずいぶんと大きかったのに、今ではすっかり見上げなければならない。それに体つきもずいぶんとがっしりしていた。
まるで大人を見ているような気分だった。そして友達が立派になっている事が、なんだかとてもうれしかった。
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「べつに何ともないよ」
輝男はにっこりと笑ってそういった。
その言い方は明るくて、本当に何でもないかのようだった。
だから龍次は少しだけ安心した。
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「龍次は元気にしてた?」
「まぁまぁだな。でも少しバテ気味かも。相変わらず勉強とスポーツと武道と習い事で、日曜日もないんだぜ」
「小学生の頃と変わらないね」
「まぁな、むしろそれよりひどくなった感じだよ。おまえの方は?」
「ま、あまりよくはないけど、学校の方はどうでもいいんだ」
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「なぁ、やっぱり……いじめられてんじゃないのか?」
「まぁ、はたから見ればそうみたいだね。でも平気だよ。たいしたことじゃない」
「テルオ、おまえ、俺と同じ学校に来ればよかったのに」
「お金がないよ。ばあちゃん達も反対するだろうし」
「いやいや、おまえなら奨学金が取れてたよ。絶対」
「うーん……でも学校なんかホントどこでもいいんだ」
「そうか……なぁ、それより、山川すごいな」
「うん、たまにテレビで見るよ」
「もう全国で有名なんだぜ。あいつがオレたちの友達だったなんて、なんか信じられないよ」
□
「そうだね。よく僕らとあそんでくれたよな」
「まったくだ。なぁ、輝男」
「なんだよ、あらたまって」
「おまえだって、本当はすごいやつなんだぞ」
「そうでもないよ。龍次のほうがずっとすごいよ」
□
「まぁたしかに俺もすごいけどさ、おまえはもっとすごいやつだ」
「なんの話だよ、それ?」
「がんばれ、ってことさ」
「よくわかんないけど、ありがと。なぁ、それより、龍次さ」
「なんだよ、今度はおまえがあらたまって」
「今でも信じてる?アトランティス大陸の事」
「ああ、もちろんさ。今も研究は続けてるんだ。おまえは?」
「もちろん僕もだよ」
□
それから二人は日が暮れるまで、アトランティス大陸の話をした。
ただし今回はひとつだけ違うことがあった。
それは約束が交わされたことだった。
大学に入学し、その長い夏休みを利用してアトランティス大陸を探しに行く。
二人はこのときにそれを誓い合ったのである。
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それは二人にとって初めての具体的な計画だった。
二人は夢中で将来の計画を考えた。
まずアトランティス大陸の位置をもう一度検証すること。
調べるポイントを細かく設定すること。
海中を調べるのに必要な道具と技術。
探索に必要とされる金額の算出。
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そういったことをあれこれと話した。
そうして二人で話していると、もうアトランティス大陸は目の前に迫っているようだった。
そして二人ともが、自分たちの意志で探検に出るということが、すでに夢見るだけの子供ではなくなっていることだと実感した。
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もちろん、この誓いは後に果たされることになる。
そして二人は本当にアトランティス大陸にたどり着くのである。
もっともこの時は二人とも、自分たちがアトランティス大陸にいたことには気づかなかったのだが。
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ちなみに彼らをアトランティス大陸へと導いたのはわたしである。
アトランティス大陸に入るには、実は海洋上のある一点を、ある時刻に通過する必要があるのである。
それは海底に沈められた装置のせいなのであるが、それはタイマー式で光を出すようにセットされており、その光を浴びる必要があったのである。
わたしは、輝男と龍次の無意識に呼びかけ、彼らをその一点に導いたのだ。
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輝男の中学時代に話を戻そう。
龍次との再会後の新学期、輝男は突然いじめ問題から解放された。
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それは龍次の姉『虎子』のおかげであった。
虎子はいわゆるエリートコースを歩く龍次と違い、そのまま地元の中学校にすすみ、さらに地元の高校に通っていた。
相変わらず親から何の期待もされていないことを感じてはいたが、彼女はそのことで腐ったりするタイプではなかった。
むしろ父親を見返してやるつもりだった。
もともと血気盛んな娘であった彼女は、中学校では女番長として、高校では伝統ある暴走族で初の女総長となった。
彼女はこの町の恐怖の存在として父親以上にその名をとどろかせていた。
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その『虎子』は弟の龍次から輝男を見てやって欲しいと相談された。
虎子は相変わらず龍次とは微妙な愛憎関係にあったのだが、龍次の話を聞き、友達を助けるのが目的だと知ると「めんどくせぇなぁ」と言いながら龍次の頭をポンポンと二度かるく叩いた。
「姉ちゃんに任しときな。でも貸しにしとくからね」
しかしその笑顔を見ると、龍次には嫌な予感しかしなかった。
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彼女のやり方は実に簡単だった。
彼女は仲間を百人ほど招集すると、バイクを連ねて輝男の中学校に白昼堂々乗り込んだ。
いずれも屈強な男とガラの悪い男ばかりである。
中学校の狭い校庭はバイクで埋め尽くされ、学校の門にはずらりと改造車のバリケードが並んだ。
ばたばたと教師達が飛び出してきたが、卒業生である虎子の顔を見てさっさと職員室に引き返してしまった。
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虎子は後ろに三十人ほどの子分を引き連れ、輝男の教室の扉を開けた。この時、すでに教室の中はパニックになっていた。
だがこの集団が自分たちの教室にやってくる事までは想像していなかっただろう。
虎子とその後ろに控える連中を見て、ざわめきが消し飛んだ。
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虎子はざっと教室を見回した。輝男はすぐに見つかった。
ボロボロの机、薄くなった髪、靴跡で汚された制服。
いじめの対象になっているのは明らかだった。
そんなやつがクラスにいるのに、この連中は平気な顔をして授業を受けている。
虎子の怒りの導火線にパッと火がついた。
虎子は教師をにらみつけた。
その教師は虎子の担任をしたことのある男だった。
□
「かわんないねぇ、ここは」
「オマエ、何しに来たんだ、神城。ここは学校だぞ」
「人助けだよ。アンタがやんないからな」
「なにを言ってるんだ?とにかく出ていけ!」
「どーせアンタには何もできない。大人しくさがってな」
□
虎子が後ろの一人に合図すると、金属バットを握った男が教室に入り、教師を正面からにらみつけた。
そしてガムをくちゃくちゃとかんで、教師の机にバットを振り下ろした。
狭い教室に大音響がとどろき、机はまっぷたつに割れた。
すると教師はまっさきに逃げ出した。
虎子は教室の正面に立った。
□
「織田輝男。あんた、こいつらが憎い?」
虎子はいきなりそういった。
輝男はいきなり自分の名前を呼ばれたのでびっくりした。
「あんた、いじめられてるんだろ?こいつら殺してやりたい?」
輝男はゆっくり首を振った。
そしてかすれる声で少しどもりながら答えた。
「に、憎く、ないし、こ、殺したくもない」
「へぇ。おまえ、いい奴だな。龍次が信用するのも分かるよ」
「り、龍次を知ってるの?」
「ああ、龍次は弟さ。頼まれたワケじゃないんだけど、龍次の友達ってのを見に来たんだ。授業参観だな。で、どいつがおまえをいじめてるんだい?」
□
しかし輝男は答えなかった。
虎子は唇をまげてニッと笑った。
「じゃー、クラスの連中に答えてもらおうかな。おまえ、知ってるな?」
そういうなり、虎子はいきなり一番前の生徒の机を思い切り蹴飛ばした。
するとその生徒はすぐに『ワル』を指さした。
「他には?」
その生徒は『ピエロ』と他に三人ほどを指さした。
□
「それで全部か?」
その生徒はうなずいた。
「おまえはひどい裏切り者だな」
虎子はその生徒を思い切りひっぱたいた。
生徒はイスから投げ出され、床の上に倒れた。
それを大またにまたいで、虎子は『ワル』の目の前に立った。
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「さて、おまえはいじめていた輝男にかばってもらったのに、仲間のはずの生徒に裏切られた。おまえはその程度の奴だよ。情けない男だ」
「なんなんだよ、てめぇ」
ワルは口先ではそういったが、顔面はすでに蒼白だった。
虎子は教室の入り口で待機している仲間を指先で呼んだ。
「こいつらを裸にして痛めつけてやれ。顔はやるなよ」
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虎子の仲間達はその命令に一瞬動揺したものの、すぐに教室に入り、虎子に言われたとおりにした。
その間『ワル』も『ピエロ』も泣き続けた。
だが彼らは容赦なく『ワル』や『ピエロ』の制服を無理矢理脱がして裸にし、それからやたらめったら蹴りつけた。
虎子は腕組みをしたまま、その様子を黙って見つめていた。
と、輝男が立ち上がり、虎子のところにやってきた。
□
「す、すぐにやめさせろよ。こ、ここまですることなんかない」
「いいや。おまえの意思はどうであれ、アタシはこいつらを殺してやりたいんだ」
「や、やめろよ、やめさせろよ!こ、こ、こんなのはひどいよ」
「自業自得ってもんだ。こいつらだって同じことしてるんだし」
「で、でも……でも、だめだ!」
□
虎子は眉を少しだけしかめた。
と、それを虎子の仲間の一人が見逃さなかった。彼は、輝男と虎子の間に割って入ると、輝男の襟首をつかんで怒鳴った。
「てめぇ!虎子さんに指図すんな!」
「き、君には関係ないだろ」
「ざけんなよ!虎子さんはおまえのためにやってんだぞ!」
輝男は少したじろいだが、襟首をつかんだ男に向かって冷静に言った。
「そ、それこそあなたには関係のない話だ。僕は虎子さんと話しているんです。だから離して下さい」
□
男は虎子の方に顔を向けた。
虎子はあごをクィッと斜めにずらし合図した。
男は輝男をつかんだ手を離し、虎子のほうに輝男の背中をドンと押した。
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「あの、僕のためにありがとうございます。それは感謝します。でもこんなやり方は僕が望むものではありません。すみませんが帰ってくれませんか」
輝男はまっすぐに虎子の目を見上げて言った。
輝男の言葉からはいつの間にかどもりが消えていた。
その堂々たる話し振りは混乱状態だった教室を一気に静かにさせた。
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「アタシのやり方に指図するとはねぇ……ありがた迷惑だ、といいたいわけだよね?そのうえ帰れ、って。このアタシに向かってそんな口のきき方をするとは見上げた度胸だけどさ。あんたはアタシやアタシの仲間が怖くないの?」
「それは怖いですよ。とっても怖いです。でも、僕のために誰かが怪我をしたり、争ったりするのは嫌なんです。それにこんな事をして龍次のお姉さんが、警察に捕まったりしたら……それこそ龍次になんて言ったらいいか……」
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輝男の言葉に虎子は絶句した。さすがに予想外のセリフだったのだ。
そして……
「あーっはっはっは……」
虎子は大声で笑いだした。豪快な笑いかただった。
そして虎子はいつも龍次にしているように輝男の頭をポンポンと軽く二度たたいた。
「もうわかったよ。おい、もういいぞ、おまえら」
床では生白い肌をさらした五人がうずくまるようにしてすすり泣いていた。
虎子は恐ろしい目でそいつらをにらみ、それからクラス中を見回した。
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「いいか、よくきけよ。最低なのはおまえらだ。結局誰も助けてやらなかったし、そんな気もなかった。
それはおまえたちに危機感がないからだ。
だから約束を残していく。
今後輝男に危害が加えられたときは、この教室の連中一人残らず、床で泣いているそいつらと同じ目に遭わせてやる。
男も女も容赦しないからな。
それからアタシはやるといったら必ずやる。
いいか、よくおぼえとけっ!」
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そういって虎子は教室を去っていった。
□
そしてこの後、輝男には誰一人手出しをしなくなった。
いじめはようやく終わったのである。




