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アトランティスのつまようじ  作者: 関川 二尋
第三幕
12/66

【手帳物語】ボクが街の外へ出た時の話

 実はこのことを書くのはあまり気がすすみません。

 でも正直に書くことを裁判の人に約束したので仕方がありません。

 ちゃんとありのままを書こうと思います。


   △


 正直に告白すると、ボクは【アトランティス】の外へ出たことがあります。

 それはボクが十七才の時でした。

 季節は夏で、ちょうど『聖脱獄記念日』の7月31日でした。

 ちなみにこの日付はボクが自分で選びました。

 ボクの先祖たちが絶対不可能と言われた脱獄を成功させた日、その日にボクもあやかりたいと思ったからです。


   △


 みんなも知っているように【アトランティス】全体は高い壁で囲まれています。それは見上げても頂上が見えないくらいの高い壁で、しかも壁のてっぺんからは透明な樹脂ドームが町全体を覆っています。

 もちろん汚染された空気が中に入ってこないようにするためです。

 学校ではそう習いました。

 でもボクにはそれが信じられませんでした。ドームに映る空はいつも青かったし、星だってとてもよく見えたからです。

 それになによりボクは単純にドームの外の世界がどうなっているのか見たかったのです。

 一度そう思いこむと、ボクはどうしてもそれを実行したくなりました。そのことが頭から離れなくなって、いてもたってもいられない気持ちになりました。


   △


 ボクはまずチャールズに外の世界がどうなっているか聞きました。

 しかしチャールズは分からないといいました。

 ボクにはチャールズにも分からないことがあるというのが、一番不思議な感じがしました。

 それから父と母にも聞いてみました。

 父と母はなんでそんなことに興味があるのか理解できないといいました。


   △


 ボクはなにかがおかしいと思いました。

 きっとこの世界にはなにか秘密があるんだと思いました。

 そう思うとますますそれを確かめたくなりました。


   △


 そこでボクはまず物質管理局に行きました。

 ここにくれば、欲しいものが何でも手に入ります。

 食べ物や洋服から、書物や音楽のデータ、それに家具、それから家に車に、欲しいなら小型飛行機に、ヨットまで何でも手に入ります。

 学校の友達はしょっちゅうここに来て、いろんなものを申請していたけれど、ボクがここで何かを申請するのは始めてのことでした。


   △


 ボクはカタログの中から、オフロードバイクを一台申請しました。

 この町からの脱走に使う道具だったので、理由を聞かれたらなんと答えようかと、何だかドキドキしていましたが、そういうことは何も聞かれず、申請はすんなりと通りました。

 注文番号とボクのIDナンバーを書くだけで、バイクは翌日に家に届きました。


   △


 それから一週間くらいかけて、ボクはバイクにのる練習をしました。同時にアトランティスの壁を突破するための作戦を色々考えて、それに必要な道具をあちこちから集めてきました。

 このことは父や母にも、もちろんチャールズにも秘密にしていました。ボクはそれがあまりよくないことだと知っていたし、みんなに迷惑をかけたくないと思っていたからです。


   △


 これだけは書いておきます。父も母も、もちろんチャールズもモノもこの件に関してはなにも悪くありません。

 みんなボクの計画は知らなかったし、実行したのはボク一人だからです。

 罪があるとすれば、それはボク一人にあると思います。


   △


 そしてとうとう出発の日がやってきました。

 その日はいつものように雲ひとつなく、よく晴れた日でした。

 起きた時には父も母もそれぞれテニスコートとプールに出かけた後でした。

 居間ではいつものようにチャールズが学校のお弁当を作ってくれていました。モノはさっそく全体重をかけて、ボクの足に背中をこすりつけてきました。

「おはよう、チャールズ!」

「おはようございます。坊ちゃん」

 それはいつもと同じような朝でした。

「今日はね二日分の弁当を作って欲しいんだ、夜の分も」

「分かりました。バイクで遠出するのですか?」


「うん、壁の外へ行ってみるつもりなんだ」


   △


 ボクがそういうと、チャールズのお皿を洗う手が止まりました。

「坊ちゃん、それはやめたほうがいいのではないですか?」

「ごめん、チャールズ。ボクはどうしても見たいんだよ」

 チャールズはうつむいたままなにか考え込んでいるようでした。でもしばらくして、あきらめたようにこういいました。

「そうですか、坊ちゃんがそうなってしまったら、わたしにはもう止められません。でもくれぐれも気をつけてくださいね」

「うん。いつもごめんね、チャールズ」

「いいのですよ。わたしには坊ちゃんのような感情がないから、理解できないだけなのです。それよりくれぐれも気をつけてくださいね」


   △


 それからボクはチャールズのお弁当をリュックサックに詰め、手首にハンドPCを巻いて出発しました。チャールズがモノを抱いて見送ってくれました。

 初めて乗るバイクはとてもいい気持ちでした。

 ボクの周りだけ風が流れて、見慣れた街の風景がどんどん後ろに流れていきます。

 五分も走るとボクの知っている街は消え、代わりに次の街が現れました。【アムロ】という街です。こんなに近いのだけれど、ボクは一度もきたことがなかったのです。ボクは【ブライト】から出たことがなかったからです。


   △


 アムロの街はブライトと同じ感じの街でした。街路樹のある広い道路がまっすぐに伸び、道の両側には古い家や最新の家がバラバラに並んでいます。

 どの家の前にも大きな芝生の庭が広がっていて、ブランコがあったり、プールがあったり、大きな木が植えられたりしています。

 街の中心部には大きな公園があり、子供たちがロボットに見守られて遊び、ベンチではおじいさんやおばあさんが太陽の光で背中を温めています。

 居住エリアの街並みを抜けると、物質管理局をはじめ美術館や図書館、それにレストランやカフェ、それからブティックやスポーツセンターを集めた娯楽エリアがあります。そこでは大勢の人たちが集まって、思い思いに自分の時間を使っていました。

 ボクはそんな様子を眺めながらアムロの街を通り過ぎていきました。


   △


 ボクはそういう街をいくつもいくつも通り過ぎました。昼になると公園でバイクを止め、チャールズのお弁当を食べました。

 そこで少し休んだあと、またバイクを走らせ、同じような町をまたいくつも通り過ぎました。

 どこもはじめてみる世界ではあったけれど、やはり同じような世界でした。

 やがて夜になると、ボクはある街の図書館にバイクを止め、中に入ってまたチャールズのお弁当を食べて、それからベンチで少しだけ眠りました。


   △


 翌朝、ボクは日の出とともに図書館を出発しました。

 これから本当の冒険が始まる、そう思ってわくわくしていました。

 朝のうちは昨日と同じく、初めてだけれど見慣れた街並みを走っていきました。

 早朝だったけれど起きている人が結構いて、たまに彼らが手を振ってくれました。

 その途中でボクのようにバイクで走っている人に会いました。

 少し年上の女の人でとてもきれいな人でした。ボクたちは天気の話をしながら少し一緒に走り、やがて別れました。

 街並みが途切れたのは昼を過ぎてからでした。


   △


 現れたのは工場エリアでした。

 広い通りをはさんで、真四角の高層ビルが整然と立ち並んでいます。ここまで来ると人の姿は完全になくなりました。たまに見かけるのは、チャールズによく似ている労働用のロボットの姿です。

 ここには街路樹も、公園も無く、娯楽エリアもありません。ここでは物質管理局のもと、ありとあらゆるものが生産されています。

 ボクのバイクが作られたのもここです。この工場地帯のことは学校の授業で習っていましたが、こうして実際に見るのは初めてのことでした。


   △


 ボクは工場エリアを走りながら、その光景に感動していました。

 この工場エリアと、そこで働くロボットたちがボクたちの世界と国を支えているのです。彼らが働いてくれるから、ボクたちは働かなくていいし、好きなものを好きなだけ手に入れる事が出来るのです。


   △


 工場エリアを抜けると今度は農業エリアが現れました。

 ボクはあまり植物のことは詳しくありませんが、金色の小麦畑があり、ボクの背よりも高いトウモロコシ畑があり、真四角に並んだ水田もありました。

 ほかにもジャガイモ畑や、花を集めた畑や、いろんな果物の木が並ぶ畑を走り抜けていきました。

 ここでもロボットたちが働いていて、ボクはなんだか感動しました。

 でも同時にボクたちは働くことを全部ロボットに押し付け、遊んでばかりいて、なんだか怠け者のような気がしました。


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 農業エリアを抜けると、今度は酪農エリアが現れ、牛や豚、それから羊に馬や鶏が現れました。

 もちろんここでもロボットたちが働いています。

 ここからは舗装された道がなくなり、砂を敷いただけの道に変わりました。すでに時刻は五時を回り、太陽はいつの間にか夕暮れのオレンジ色に輝きだしていました。

 空には夜の紺色が混じりはじめ、上空の色の深いところでは銀色の砂粒のように星が瞬きだしていました。


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 ボクはバイクのライトをつけ、さらに走り続けました。

 もうずいぶん休みなしに走ってきて、手や足が痺れてきたけれど、ボクは構わず運転を続けました。

 ボクはとにかく先へ進みたかった、そしてこの世界の果てに何があるのかを見たかった。

 そう思い込むと、ボクは全てを放り投げてでも、それを実行したくてたまらなくなるのです。前にも書きましたが、それはボクのビョウキのようなものです。

 ボクはどんどんとバイクのスピードを上げていきました。


   △


 酪農エリアを抜けると、こんどはまったく何もないエリアが現れました。

 乾いた荒野のようなエリアです。

 そこには道もなく、草も生えていませんでした。

 そのエリアをまっすぐに突き抜けていくと、やがて【アトランティス】全てを囲む巨大な壁が見えてきました。


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 その壁は巨大な灰色の津波のように、視界いっぱいに左右に広がっていました。

 あまりに圧倒的な巨大な壁です。高さは300シーエムはあったと思います。見上げると、てっぺんがかすんで見えるほどの高さがありました。そして剥き出しのコンクリートは世界の果てまで延々とつながって見えました。

 考えてみれば、その壁の延びた先は、ボクのはるか背後でまた一つにつながっているのです。そう考えると、ここはなんだか巨大な鳥カゴのようでした。


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 ボクは外に出る扉を探して、壁沿いを走り出しました。

 壁沿いは暗い影がたまっていて、なんだか不気味な感じでした。

 バイクをしばらく走らせていくと、ぽつんと明かりがついている場所を見つけました。


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 ボクはバイクから降りて、その明かりに近付きました。

 そこにはドアがありました。

 大きなスチール製のドアで、見るからにぶ厚くて頑丈そうでした。

 そのドアにはカードを差し込む穴と、暗証番号をうちこむテンキーがありました。

 これは予想していたことでした。

 簡単に壁の外に出られるわけではないと思っていました。

 でもボクはちょっとした作戦を考えていました。

 

   △


 今、また裁判官の人が来ました。

 途中だけれど提出するのか聞いたら、途中でもいいから提出してくれというので、続きはまた明日にします。

 それからボクの事が夜のニュースで流れたと言われました。

 二百年ぶりの裁判と言う事で、すごい騒ぎになっているそうです。


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