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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その15 申請地獄

作者: 天城冴

新型肺炎ウィルスの対策に失敗した旧政府高官のザイキは生存主張申請を幾度となく申し込む。何度やっても拒否されるその申請をやり続けなければ恐ろしい結果に…

“記入漏れです、再申請をお願いします”

「あー、どうして、また駄目なんだ!」

ノートパソコンの小さな画面に向かって旧政府高官だったザイキは叫んだ。

剥き出しのコンクリートの壁に声が虚しく響く。

「うう、喚こうが何しようが、またやり直さないと進まないのか」

天井のLEDの明かりを頼りに、もう一度申請マニュアルを読み返そうとした。

簡易ベッドと机とパソコンと、そのほか必要最低限のものしかない部屋は、とても静かだ。

コンクリートの壁も厚く、隣の音も聞こえない。おそらく隣にいる誰かも申請を必死にやっているのだろう。物音一つしない部屋に独りでいるのに、全く集中できず、なかなか読み進められない。

「ああ、くそ、なんて読みづらいんだ!エリート進学校をでて、わが国最高学府をでた僕が、総理の側近として様々な助言までした読めないなんて、相当難しいのか、わかりにくくしてあるのか」

マニュアルに向かって文句を言うザイキ。

「他の秘書官、書記官たちはどうしているのだろう。イマイダさんは無事申請を終えたのだろうか」

同僚や自らを抜擢してくれた先輩を思うザイキ。

『ポンポンパンポン、お知らせです。元ニホン政府高官の一人、最大級戦犯イマイダ氏の処刑確定…』

「な、なんだって、い、イマイダさんが!」

顔面蒼白のザイキ。

「申請しても駄目だったのか、やはり審査で引っかかったのか。まあ、イマイダさんほど政府中枢にいた人なら、仕方ないかもしれない。アベノ総理に長年使えていたわけだし。僕はまだ一斉休校だの布マスクだのを進言したぐらいで、その…」

自分はまだ旧政権にそんなに組していない、と自分に言い聞かせるザイキ。だが、

『イマイダ氏は生存主張申請及び裁判申請を断念、その結果自動的に処刑が確定…』

「お、おい、審査もしないなんて!裁判すらしてもれないのか!」

動揺を隠せないザイキ。

誰もいない部屋で天井に向かって喚き散らすザイキ。

「ひ、酷い、俺たちに死ねって言うのか!お、俺たちが何をしたんだ!」


「ニホン国民を間接的に殺しただろうが、忖度官僚どもめ」

隠しモニタの向こうで男がつぶやく。

「あいつらの見せかけ政策のおかげで、どれほどの国民が命を落としたか、わかってんのかね」

隣の男がうなずきながら応答する。

「パンデミックで経済も医療も壊滅的。職もない国民救済の給付金とか倒産しかけた会社を救うための協力金とか、宣伝はするものの、申請が難しい、パソコン機器がないとできない、書類が多すぎでほとんど申し込めなかった。なんとか申請しても審査で落とされ、受理されたのは数パーセント、それじゃほとんどの国民は無理」

「中小企業の大半はつぶれ、自殺者も出た。経営者もだが、雇用者もだ。治安も悪くなったよな」

「失業して金がなくて盗みに入るなんて、日常茶飯事。これのどこが先進国、社会保障充実だよ、消費税だのなんだのあげたくせに、大企業やらお仲間ばっかり優遇しやがって」

「だが、このパンデミックで、あいつらも終わりになった。見掛け倒しの先進国なんて、国際的にもヤバいって各国が政府をつぶしてくれたからな。俺たちも酷い目にあったが、それだけはよかったよ。あの威張るだけのアホどもに仕返し出来て」

「ああ、まったくだ。だから、この申請システムがあるだろう。一応人権に配慮して奴等がいかに国民に仕えたかを証明し、裁判をすることを申し込めれば生き延びることもできるっていうシステムが」

「だけど、あの10万円給付金だの、持続可能給付金だのと、同じぐらい、もっと複雑にしたからな。ちゃんと申請できる奴がどれだけいるか」

「いや、俺らや俺らの両親だって、あの申請を書かされたんだ。あいつらは俺らより頭がいいっていう政府の人間なんだろう。もっと難しくしたってどうってことはないだろう」

「違いない」

二人の男は顔を見合わせて笑い出した。

モニタの向こうではザイキが必死になって申請マニュアルをめくっていた。


どこぞの国でもすったもんだの挙句ようやく給付金がでるらしいですが、無条件で全員のものも期限付き、事業者がもらえるのは電子申請のみとなかなかハードルが高いです。先進国と言われる国ではとっとと金を配り、国民安心して休む体制をつくって封じ込めに成功しつつあり経済再開となりつつありますが、補償が遅れた国ではおそらく本編のような、いやそれ以上の悲惨な結末が待っているのかもしれません。

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