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サンドリヨン ~銀の勇者と灰の竜~  作者: 犬子猫
第一片 ある竜のおとぎ話
4/25

少年少女の非日常 二

初回限定連続更新、四本目。

 弾き飛ばされた時にぶつけたのか、頭を押さえながら起き上がったケーナが最初に見たのはスプラッターを背に――ケーナの位置からは丸見えだが――隠す少女と唖然とするテッドたち三人。

 最後の記憶と現状が繋がらないのか尻尾を軽く揺らしていると、ケーナが起きたことに真っ先に気付いたアーシェと目があった。


「君も大丈夫?」


 三人の注意が逸れた瞬間、さりげなく死体を転がしてスプラッターを下にするアーシェ。ケーナの位置からはやはり丸見えだったが。


「大丈夫か!?」

「なんともない?」

「頭打った。ちょっと気絶してたかも」

「少しじっとしてなさい」


 指先に燐光を灯し、テイルはケーナの頭に直接(しるし)を描く。形状は十字、込める意味は治癒。うっすらと魔力の光が頭全体に広がり、痛みが少し軽くなる。


「ありがと、だいぶ楽になったわ」

「どういたしまして。でも、これ以上は私じゃ無理ね。帰ったら先生に診てもらいましょ」

「私が治そっか?」


 斧を回収したアーシェはそう言って四人に合流するが、左手は何故か腰の剣に添えている。

 テッドとテイルが腕をつかんでケーナを引き離すが、アインは物怖じせず彼女に声をかける。


「お姉ちゃんも魔法使えるの?」

「ちょっ、アイン!?」

「回復魔法は使えないけど、魔法の道具を使えばいくつか方法はあるよ」

「魔法の道具持ってるの!?」

「うん。他にも魔法薬(ポーション)とかもあるけど、こっちは高いよ」

「お金ない……」

「ごめんね。前に高いものだから人にホイホイ渡すな! って友達に怒られちゃったから」


 目線を合わせ、穏やかに話すアーシェの様子にテッドとテイルは顔を見合わせる。


「どうする、ケーナ」

「アタシに聞くの?」

「アナタのことだからアナタが決めるべきよ。――あえて言うなら、私ハ信用シテナイ」

「「うわぁ」」


 アインが嫌がりもせず頭を撫でられる度、ギリギリと歯ぎしりを響かせるテイルからテッドともども物理的に()引きたくなったが、腕を捕まれているためにそれも叶わない。

 嫉妬の権化は取り敢えず頭の隅に押しやり、考えてみたケーナは……


「それじゃ、お願いするわ」


 あっさりと決める。


「あっさり決めるな」

「わざわざ助けてくれたみたいだし、疑うだけ無駄だと思っただけよ」


 怨嗟の声を漏らし始めたテイルの事は無視すると決めたのか、はたまた現実逃避なのか、呆れたように口を出すテッドにそう答えてケーナはアーシェに視線を向ける。


「えっと、聞こえてたと思うけど、アタシはケーナ」

「ああ、気絶してたんだよね? 私はアーシェ」

「よろしくお願いするわ」

「うん」


 鞘が地面につかないように左手を腰の剣に添えてしゃがみ、アーシェが右手でケーナの額に触れるとそこから魔力の光が全身を包み、頭だけでなく背中の打撲など細々した怪我も消えていく。

 数秒程で光は収まり、手が離される。


「終わったよ」

「ありがと」

「どういたしまして」

「治してもらってから言うのもなんだけど、アタシたち孤児だから本当にお金ないわよ」

「美味しいごはんが食べられる所を紹介してくれたら、それでいいよ」


 答えながら大剣を拾い上げ、水袋を取り出して血糊を洗い流すアーシェの前に立ち、テッドは彼女を見上げる。

 水を拭い、簡単な手入れを始めるアーシェが視線で促すと。


「院の先生が料理上手だ。あと、店は知り合いの所を紹介する」


 何を思ったのかそう答えるテッドに、ケーナたち三人は首をかしげる。確かにノアは料理上手だし、料理店で働いている年長組や卒業生もいるから伝もあるが、なぜ前者まで出したのかが読めなかった。

 だがその疑問もすぐに氷解する。


「だけどやっぱ、生活が苦しいから採集を手伝ってくれないか? アーシェの姉ちゃん」

「ん~、いいよ。私も何か獲ろうと思ってたし――でも」

「わかってる、先生にはオレから頼むからよ」

「うん。契約成立」


 こうして、強力な護衛を実質タダで手に入れた一行は更に森を進み、それを最初に見つけたのはアイン。葉や樹高はアカ&シロスグリによく似ているが、実は房ではなくブドウほどの大きさで一つずつ生っている。


「これも食べられるかな?」

「オオスグリだね。食べられるけど緑色のは酸っぱいから、取るのは紫に色づいてるのだけにした方がいいよ」


 次に見つけたのは目的の物の一つ。アカ&シロスグリ以上、オオスグリ以下の黒紫の実が房状になった低木。


「クロスグリってこれ?」

「ええ、そうよ」


 因みに、途中で甘草も見つけたので採取している。取るかどうか最初は意見が割れたのだが、決め手になったのは、


「私は食べたことないけど、たしかお菓子の材料になったはずだよ」


 というアーシェの一言だった。因みにサルミアッキの事である。

 さらには子供たちにとっては予定外の鹿(おにく)までも手に入れた。

 そして勿論、ノアのお説教も手に入れた。

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