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サンドリヨン ~銀の勇者と灰の竜~  作者: 犬子猫
第一片 ある竜のおとぎ話
3/25

少年少女の非日常

初回限定連続更新、三本目。

 テッドたちが暮らす町は森の中に築かれている。

 といっても、外壁を超えてすぐに森が広がっている訳ではない。

 凶悪な魔物たちが跋扈するこの世界では、『見通しが悪くて魔物の接近に気付きませんでした』なんて笑い話にもならないし、木が成長して外壁に穴が開きましたなど論外。

 よって、周囲五百メートルは完全に切り拓かれ、ついでとばかりに広がる農地――


「ストップ」

「ぐえっ!」


 ――を超えてすぐの場所から森に入ろうとしたアインの襟首をケーナがつかむ。


「何をしてるのかしら、ケーナ?」


 指先に燐光を灯し、殺意と魔力をにじませるテイルにケーナは顎先で答えを示す。草に隠れてわかりづらいが、ぴんと張られたロープに木の板がいくつもぶら下がっている。

 魔物避けの鳴子だ。

 人の手が入っていると知らしめる事で、魔物や動物が近づかないようにする熊避けの鈴的な役割で、比較的安全な場所に取り付けらた物なのだが……


「鳴子か、よく気付いたな」

「薬草が生えてないか見てただけ、たまたまよ」

「気づいたことはお手柄だけれど、エリをつかむ必要はどこにあったのかしら?」


 その事を知らない四人の心は密かに一つになる。

 大人達にばれたら面倒臭そう、と。


「落ち着いてテイル、今のはぼくが悪かったんだから」

「むう。それじゃあ、もう少し進んだところから森に入りましょ」


 アインになだめられ、不満そうながらも矛を収めたテイルは彼の手を取ってさっさと歩き出す。

 それを追い越して先頭に出るのはテッド。最後尾はいつでも前に出れるように身構えるケーナ。


「魔法使いが前に出すぎんなよ」

「テッドも戦士じゃないでしょ」


 そのまましばらく街道を進んだ場所で一行は森に入り、物珍しそうに辺りを見回す。

 最初に鼻をひくつかせるケーナが、次にテイルも気付く。


「薬草って、アレで合ってる?」

「ええ、ニガヨモギね。あんまり高く売れないから、後回しでもいいけど」

「それなら甘いのがいいな」

「全くその通りね!」

「同感だけど薬草はみんな甘くないだろ」

「甘いのもあるわよ。えっと、ちょっと待って」


 鞄から本を取りだし、付箋代わりの栞が挟まれたページを読み上げるテイル。


甘草(かんぞう)、強い甘味を持つが薬臭さかあるので料理に使う場合は注意が必要。ローズヒップ、薄い甘味と強い酸味がある」

「結局不味いのかよ!」

「普通に甘いのはザクロやイチジクとかの果実系ね。時期や私たちの身長を考えるとクロスグリとかブルーベリーが現実的かしら?」

「「「……………………」」」


 みんなの心は一つになった。


「よし! どんな見た目だ」

「種類にもよるけど、どっちも私たちの身長より少し大きいか越えないぐらいの小さな木で……クロスグリは葉や幹に強い臭気がある」

「それならアタシの出番ね」

「ブルーベリーは!」

「匂いは特に書いてないから小さな木を探しましょ」

「「「「おー」」」」


 先ほどとは打って変わって鼻が利くケーナを先頭に森をずんずん進む一行が最初に見つけたのは、一つの花托に赤い小さな実が沢山ついた低木。


「木苺。薬にはならないけど美味しく食べられるわ」


 周辺の物も含めて四人がかりで狩り尽くし、更に奥までガンガン進んだ先で見つけたのはテッドの背よりも高く、並みの大人よりは小さい木に生った房状の白い小さな実。


「シロスグリね。探してるクロスグリの仲間よ」

「こっちのは赤いぞ」

「アカスグリ。酸味が強くてそのままだと美味しくないから、ジャムとか果実水にするらしいわよ」


 どちらも図鑑を持つテイルの指示で房ごと採取。勿論、余すことはない。子供は甘味に貪欲なのだ。

 だから、ベリーラッシュに浮かれて警戒を(おこた)るのも、必然と言えよう。


「カゴ、うまっちゃったね」

「私のは少し余裕があるし、分けたらいくつか空くかしら」

「とりあえず試せばいんじゃね?」

「アタシもテッドと同じ意見、甘いのは沢山欲しいし……」


 ()()に気付いたのは聴覚に優れるケーナただ一人。

 突然押し黙ったケーナの顔をテッドが覗き込み、心配そうに声をかける。


「おい、どうした?」

「足音が五人分ある」

「は?」


 ケーナが鉈を引き抜き、背後の茂みを睨むのとそこから緑肌の小人(ゴブリン)が飛び出たのはほぼ同時。

 唯一武器を持つケーナが咄嗟の判断で前衛に立ち、鉈で横薙ぎの棍棒を受け止めるが彼女の軽い身体はあっさりと弾き飛ばされる。


「ケーナッ!」


 次に棍棒を向けられたのは、一ヶ所に固まるテイルたち三人。

 指先に燐光を灯し、宙に描く(しるし)は斜め十字、込める意味は防護。発声の必要はない、発動の意思があればいい。

 光の壁に棍棒が弾き返され、再度振り下ろされる。

 宙に引かれた斜線は一本。壁はもう、消えている。


「ッ!」


 意味のない印に込める意思は拒絶。弾き返す、もう一度。

 宙に引かれた斜線は〇本。壁はもう……――ない。


(間に、合わないッ!!)


 迫る棍棒、押し寄せる絶望。


「そいやー」


 最初に聞こえたのは気の抜けるような少女の声。次に聞こえたのは近づいて来る風切り音。最後に聞こえたのは旋回する両刃戦斧が棍棒もろとも絶望を砕く快音。


「ギャッ!」

「え?」

「は?」

「なにが?」

「危ないから、ちょっと頭下げて」


 思いの外近くから聞こえた声に三人が慌てて頭を下げた直後、盾に出来そうなほど幅広な大剣が頭上を通りすぎ、手首が返され腹をゴブリンに向ける。

 莫大な空気抵抗を受け、それでも剛速で振り抜かれた大剣は肉を潰し、骨を砕き、地面に叩きつけられる。

 一応、血が飛び散らないように配慮したが果たして結果は……胸から上は半ば潰され、顔だった場所からは血が溢れて大剣にもベッタリと――


「君たち、大丈夫?」


 灰髪の少女、アーシェはさっと大剣でスプラッターを隠して少年少女に声をかける。


「私はアーシェ、通りすがりの旅行者だよ」

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