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サンドリヨン ~銀の勇者と灰の竜~  作者: 犬子猫
第二片 ともだち、友だち、友達
13/25

冒険者ギルドの優秀な男女

 山を下り、森を抜け、麓の村にたどり着く頃には日が落ちかかっていた。

 下り始めたときにはほぼ中天だったことを考えれば、すでに結構な時間がたっているが、ゼノの心は未だに晴れていなかった。

 記憶を頼りに夕闇の中を進み、一軒家の戸を叩く。


「はいはい、ちょっとお待ちを――おお、冒険者殿。もうお帰りになられましたか」

「ああ。前任の奴が場所を大分絞ってたからな、行って帰るだけならこんなもんだ」


 畑仕事を終えたばかりなのか、汗を拭いながら現れた村長に笑顔を取り繕って答える。

 力ある者が不安を見せるのは下策。ゼノもそれは心得ているし、今回に限って危険はないと身を以て知っている。

 無意識に首を擦りそうになり、代わりに後頭部を掻く。


「それで、今日も宿を頼めないか?」

「ええ、わかりました。中へどうぞ」

「ありがとうございます。あと、宿代はこれで」


 ゼノがそう言って取り出したのは燻製肉のブロックが入った袋。

 こういった村では金銭よりも現物の方が喜ばれるのだ、現に袋を検めた村長は嬉しそうに妻の元へと持っていく。

 ちなみに、昨夜泊まったときは塩を対価にした。

 しばらくして出されたのは砕いた黒パンを野菜と煮込んだパン粥(スーブ)の一品だけ。別に珍しくもないし旨くもない、一つだけ訂正すると薄切りの肉が入っていた。

 出された分をすぐに平らげたゼノは自前の黒パンと干し肉で足りない腹を満たし、スキットルに容れた蒸留酒を飲みながら村長夫妻が食べ終わるのを待つ。


「それで調査の方はどうなりましたかな」

「ああ……」


 思いの外酔ってしまったのか、反応が遅れる。


「ドラゴンは生きてたが、危険はなさそうだったな」

「それは本当ですか?」

「そこは保証する。一応、種族名も分かったからそこら辺の細かい資料や報告は後日、ギルドの方から送られてくるはずだ」


 水を一杯だけ貰い、席を立つ。


「悪い、飲みすぎたみたいだ。先に休ませてもらう」

「ああ、はい。部屋は昨日と同じところを使ってください」


 軽く手を上げて答え、部屋で装備類をはずすとそのままベッドに寝転ぶ。酔いも手伝い瞼はすぐに下りて、気づいたら眠りについていた。




「色々言いたいことはありますがゼノさん、馬鹿ですか?」


 翌々日。拠点にしている町に帰還し、冒険者ギルドで事の顛末を報告したゼノが受付嬢に貰った第一声がこれである。

 因みにアーシェが人間に変身できることは言っていない、どうせ信じてもらえないだろうから。


「あ~、調子に乗ってたのは認めるが、直球(ストレート)過ぎねえか」

「いえ、これでもまだ手心を加えているぐらいですね」


 受付嬢はギロリと眦を鋭くさせるとビシリと指を突きつける。


「まず第一に! 調査だけでいいと言ったのに喧嘩を売ったことッ! 第二に!! 相手が人に中立の立場で接してくれる宝物守る竜だったこと!! せっかく話ができる貴重な魔物なのに、敵対関係になったらどうするつもりですか!? 第三にッ!! ゼノさんが優秀だから色々サポートしてるのに、死んじゃったら私の手取りが減るじゃないですかッ!!」

「さらっと自分の都合混ぜんなよっ!?」


 誰にでも優しい美人受付嬢の裏側を盛大に暴露されてゼノは悲鳴にも近い声を上げる。

 なお、時刻の問題なのかゼノ以外の冒険者はこの場にはいない。秘密を共有する仲と言えば聞こえはいいが、男の夢を全力で叩き壊す秘密なんて知りたくなかった。

 一通り叫んで落ち着いた様子の受付嬢はゼノがこの手の秘密を言いふらさない――男のロマンを守るためらしい――事をそこそこ長い付き合いで知っているのでそれは完全に流し、微妙に肩を落とす彼に片眼を瞑る。


「でも本当によく生きてますね、相手はあの灰の竜なのに」

「灰色だとなんかやばいのか?」

「ええ。ゼノさんは竜の能力が色で違うという話は聞いたことありますか?」

「緑がエリクサーの原料で白が初代勇者の盟友、ってぐらいならな」


 頬杖を突きながら素直に知識の底を明かすゼノに好意的な色を浮かべ、それでも微苦笑を漏らしながら頷く受付嬢は机の下から一冊の本を取り出す。

 表紙には『魔物事典 ドラゴン編』と書かれているが事典というには少々薄く、本というには十分な厚みがある。『それしか』と言うか『そんなに』と言うかは人によるだろう。


「厳密に言うと色ではなく種族名が重要なんですけどね」

「つーと?」

「竜の種族名は習性や気質に由来する大分類と、能力に由来する小分類を合わせたものなんです。宝物守る竜は名前通り宝物を収集し、更に火の竜なら火を吹いて緑の竜なら治癒能力を持っています」


 それをしっかりと読み込んでいるのか受付嬢はスラスラと淀みなく説明すると、そこで一度区切り笑みから感情を消す。

 寒気を感じてゼノが姿勢を正してより一層真剣に耳を傾けると、彼女の口が開かれる。


「灰の竜は石化能力です」

「…………マジか」

「大マジです」


 石化能力、それは生物はおろか金属や宝石すらも灰色の石に変えてしまう恐るべき力。魔法の品か耐性装備なら石化に抵抗出来るが、ドラゴンであるアーシェの魔力なら並の装備では普通に貫通しかねない。

 まあ、ゼノの場合はそれ以前に実力と作戦と思慮と頭数が圧倒的に不足していて、在ったのは運ぐらいだが。


「手加減されてたのは解ってたが、まさかそこまでとはな」

「アーシェさん、でしたっけ? すでに人間と交流が在ったから気を使ってくれたんでしょうね」


 事典のページを捲って差し出してくる受付嬢に渋い表情を見せると鋭い視線が返ってきたため、仕方なしと受け取ったゼノは出来る限り素早く目を通していく。

 竜は狭いコミュニティしか持たず、複数のコミュニティに所属する事はあってもそれが大きな一つのコミュニティになる事はないため、高い知能を持ちながらも固有名詞を必要としていない。そのため、固有の名前を持つ竜は必然的に人と深い関係を持っているのである。


「深い関係、か」


 全裸系美少女ドラゴンの様子を思い起こす限りでは、記述の方が間違っている気がしてくるゼノは本をそっと閉じて返却する。

 受付嬢はそれを受け取り思い出したように声をかける。


「そういえば、前任者については何かわかりましたか?」

「ああ、村長の家にアーシェの住処を絞り込んだメモがあったぐらいだな」

「つまり前任者の方もアーシェさんの所にたどり着けていた可能性が高い、ということになりますよね?」

「……ああ、そうなるな」

「……ちゃんと、聞いてきましたか?」

「すまん」


 受付嬢の狙いに気付くが時すでに遅し。

 素直に頭を下げるゼノに彼女はしばらく無言の圧力をかけ、やがて大きく息を吐き出す。

 ゼノが恐る恐る顔を上げると、冒険者の資料を金具で閉じたリストを取り出す受付嬢が軽く投げた視線とぶつかる。


「ゼノさんのお話を聞くかぎりでは問題ないようですし、交渉に向いた()()()()()()冒険者の方を派遣することにします」


 一部をやけに強調する受付嬢に優秀な冒険者はへこたれない。

 左手で待ったをかけるゼノは胡乱気な瞳を真摯に覗き込み、右手で自分を指し示す。


「また会いに行くって約束しちまったからな、ここは俺に任せてくれ」

「そこまで言うなら止めませんけど、ゼノさんが自分で思っているほどカッコよくないですよ、そのポーズとセリフ」

「なら、格好よく言えるようになるまで、サポート頼むぜ」


 歯を見せて笑うゼノに売り切れ寸前の愛想をかき集め、受付嬢は飛びっきりの営業スマイルを浮かべてやる。


「承りました、それではよい冒険を」

「おう!」


 そうして風を切って歩く彼に深く頭を下げ、


「ところで、竜の好物ってなんだ?」


 そのまま転びそうになったのはご愛敬だろう。

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