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サンドリヨン ~銀の勇者と灰の竜~  作者: 犬子猫
第一片 ある竜のおとぎ話
1/25

童話(フェアリーテイル)

初回限定連続更新、一本目。

「むかーしむかし、ある山奥に一頭のドラゴンが住んでいました。

 そのドラゴンは人間に興味がなく、積極的に助けるつもりも、危害を加えるつもりもなく、毎日をだらだらと過ごしていました」


 首が上がり、さらりと灰色の毛が揺れる。


「だけどある日、悪ーい魔法使いが訪ねてきたのです。

『おお、麗しの竜よ。どうか私に力を貸してほしい』と。

 その言葉にドラゴンは、

『ヤダ。お前は弱いしお宝も持ってない』

 と言って適当に追い払おうとしたまさにその時!」


 誰かが息をのむ音が響き、緑の瞳が空間をなめるように動く。


「悪い魔法使いが呪いをかけてきたのです。

 まだ年若く、油断していたドラゴンは悪い魔法使いに逆らえなくなり、来る日も来る日もせっせと働かされて、この時初めて人間の怖さを知ったのです。

 またある日、竜退治を頼まれた一人の青年が現れて、悪い魔法使いを一刀両断!

 更にドラゴンにおいしものを食べさせ、色々なお話を聞かせてくれました。

 自分が勇者と呼ばれていたこと、魔王と戦い勝ったこと、けれど自慢の聖剣に呪いをかけられてしまったこと。そして、ドラコンに掛けられた呪いがまだ解けていないことを」


 満たされた静寂に耐えかね、少女が声を上げる。


「それじゃあ、どうなっちゃうの」

「このままではドラゴンが石から作った怪物が、人間の町を襲ってしまいます。

 すると勇者は言いました。

『だけど僕の聖剣なら呪いを解くが出来る』

『けれどその力を使うと僕は死んでしまう』

『そして僕が死んだら聖剣の呪いも解ける』

『だから最後の命も聖剣も君にあげるよ。その代わり、どうか覚えていて欲しい。僕という人間が居たことを』

 そうして呪いから解放されたドラゴンは人間とよく話すようになりました。気のいい冒険者とお酒を飲み、町を怪物の群れから守って、おいしいご飯を一緒に食べ、子供を乗せて空を飛び、大好きな勇者(にんげん)の事を話すのです」


 ブーツの音軽やかに立ち上がり、スカートをつまんでカーテシー。


「おしまい。ご清聴ありがとうございました」


 直後、割れんばかりの歓声を上げて子供たちが彼女のもとへと殺到する。


「おもしろかった! おもしろかった!」

「ね! ね! それほんとのお話?」

「ねえちゃん、次! 冒険者の話して!」

「わたし勇者さまのがいい」

「わっと、と」


 女性が慌てて腰の剣を押さえるのと、こめかみを押さえてため息を吐くもう一人の女性が声を荒げたのはほぼ同時。


「こら! アーシェさんが困ってるでしょっ、話すなら一人ずつにしなさい」

「「「「はーい」」」」


 言葉だけは素直に、子供たちは蜘蛛の子を散らすように離れて部屋の隅で再集結。

 今度は誰から話すかで取っ組み合いになりかけ、女性の一睨みで平和的交渉(じゃんけん)へ突入。

 その様子を灰髪碧眼の女性、アーシェは感心したように眺める。

 子供たちを束ねる女性、ノア・カレントは見目こそ年若いが、自然の声を聞くといわれる長い耳が示すのは、人間種族の中で長寿の代表格エルフ。

 単純に孤児院を営んでいるから、という以上の慣れがあるのだろう。


「すみません、お見苦しいところをお見せしてしまって」

「大丈夫だよー。久しぶりだったからちょっとビックリしたけど、こういうの結構やってるから見慣れてるし」

「あら、そうなんですか?」


 意外そうな表情でノアはアーシェの姿を眺める。若草染めのブラウスにタンニン染めの革ベスト、その上に灰色のケスケミトルを合わせ円形(サーキュラー)のロングスカートは濃い灰色。ケスケミトルに収められたウルフカットの長髪は薄い灰色。

 村娘の本気おしゃれ、と――いうには灰色が多すぎるが――値段的にはそう変わらないだろう服に、装飾の凝った高そうな剣がぽつんと浮いている。

 整った容姿に髪の色こそ珍しいが長命種族の特徴は無く、ジーニアー――いわゆる普通の人間――の十六歳前後。うん、()()()()

 勝敗、もとい平和的交渉が終わったのか、タレ目な犬獣人(ワイルド)の少女がアーシェの袖を引く。


「ね! さっきのお話、ほんとにあったことなの?」

「本当だよ。ここからだと結構遠い場所だけど、ドラゴンが守った町も残ってるし、一緒に戦った冒険者もそこに住んでるよ」

「じゃあさいきんのお話なの?!」

「うん。まだ数十年ぐらい」

「じゅーぶん、むかし! 生まれてない!」

「なんといいますか、意外です。冒険者の方は物知りなのですね」


 物語としては確かに新しい部類なのだろうが、それは本になっている場合の話。口振りからしてこれは大人たちの口伝、それこそ親から聞かされなければ聞く機会はほとんどない類いの。

 そういう意味を込めた発言だったのだが、アーシェから返ってきたのは的はずれというか見当違いの回答だった。


「あー、私は厳密には冒険者じゃないんだ」

「え?」


 確かに格好だけ見れば冒険者っぽくはないが、腰の剣も良家のお嬢様でない限りは飾りではないだろうし、今は床に置かれた盾に出来そうなほど幅広の大剣と、その下に隠すように置かれた両刃手斧も実用品だと、彼女は()()()()()()()


「あー!! せんせー横入り!」

「せんせいズリー!」

「あ! みんな、ごめんなさい。アーシェさん、後で私もお話聞かせてくださいね」

「うん、また後で」


 それを聞くとノアは雰囲気を出すためにアーシェが閉め切ったカーテンを軽くめくり、慌てたようにパタパタと駆け出していく。つられて覗いた空は、少し赤くなっていた。

ケスケミトルは丈の短いポンチョみたいな民族衣装の名前です。

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