鹿とセックスしないと出れない部屋
頭を強く打った感覚の後、
気がついたら私は狭い部屋の中にいた。
一体ここはどこだろう。
出口がない。
そして、真っ白な扉のない部屋の壁に、
大きな機械的な文字でこう書かれている。
「鹿とセックスしないと出れない部屋」
そう、この部屋には私の他に、
結構デカめな鹿が一頭いるのだ。
雌とか雄とかどこで見分けるのか。
性別を気にしてる辺り、
自分の中に選択肢として今までなかったものが生まれたのが分かった。
鹿を性的な対象としてみたことなんて人生であるわけ無いし、頭がおかしくなりそうだ。
じっと横に佇む鹿を見る。
青々とした木々の匂いだ。
鹿からはうっすら獣のにおいに混ざり木の香りがした。
鹿はペロペロと自分の体を舐め始めた。
こんな状況じゃなきゃ、毛づくろいでもしてるのかなとしか思わなかったのに。
この空間の中だと、
準備をしてるかのよう。
「睫毛ながい…」
鹿のふっさりとした睫毛が伏せ目がちな瞳を隠す。
待て、…。
もしかしたら、鹿に性的な対象としてみられているかもしれない可能性があるのだ。
鹿もここから出たいだろうし、この文字の意味を仮にも、理解していたら、私は、鹿に性的な目で見られているのかもしれない。
不思議な感覚だ。
一生ここで過ごす。
ふと、天秤が頭に浮かぶ。
ゆっくりと鹿に手を伸ばす。
思っていたよりも、硬くしっとりとした毛なみ。
分厚いビロウドの様な感触。
優しく撫でる。
力強く、美しい。
鹿はゆっくりとこちらを見つめる。
べろりと私の伸ばした手を舐める。
…、私はいつまでしない選択を続けることが出来るのだろうか。
ガラスの様な大きな瞳を見つめ返しながら、
ふと、思った。
思い描いた天秤がかすかに揺れている気がした。
fin