理性を捨てられない王子の話
悪役令嬢モノにする筈だったのが、書き直してる内に何故かこうなりました。
最近、面白い女にあった。
名前はアルマ・ノルーク、学院にある特待生制度で入ってきた平民だ。
優秀な人材を広く集める為に用意された特待生枠は貴族向けよりも数段難しくなっている入学試験を一定点数取れた中から上位10人まで選ばれ、学院にいる間は準男爵家扱いとなる。
その10人に入ってる時点でアルマが優秀である証明であり、実際に話してるとその知性が良く分かる。
王太子として教育を受けてきたオレの話にも数度聞けば独自の考えを基にある程度の理解を示し、解説してやればすぐに自分の間違いを正す。
美術や音楽に関してもまだ拙いものの、面白くも的外れではない解釈をしてみせオレを楽しませる。
それだけでなく、誰にでも優しく明るく振る舞うその性格も貴族社会では見かけない珍しいもの。
そんなアルマだからこそ、オレが知らず知らずの内に抱えていた重責を理解してくれたのだろう。
知り合ったのは本当に些細な切っ掛けからだったが、今ではその存在を側に置くのに何の躊躇いも不快さも感じない。
オレが平民かただの貴族であれば、アルマの手を取る為にどんな努力や手段も取る事だろう。
それこそ、オレ以外でアルマの側に近づく上位貴族の子息共の様に。
だがそれは、国内であれば大概の事は許される立場にいるオレの数少ない例外でもある。
「殿下、どうされました?」
「何、少し考え事をな。お前の気の病む事はない」
同じ馬車に乗り、オレの隣に座る事が許されている王族以外の唯一の女、ティエリカ・ソノ・ラーデリア。
彼女はオレの後ろ盾となってくれているラーデリア公爵家の娘であり、オレの婚約者。
その美貌も長年の努力によって培われた知識や礼儀作法も、何かあれば恐れずオレに諫言するその度胸も、全てが将来の王妃に相応しいティエリカには、むしろオレの方が見劣りする程だ。
その完璧さや令嬢の鑑とすら言われるその振る舞いから倦厭してしまう事もあるが、この国でティエリカ以上に王妃に相応しい者は居ないし、王太子の役割を理解してくれる者もいない。
王太子であるオレの役目の第一の役目は、王妃に相応しいティエリカをその座に就かせる事だろう。
「……殿下は、アルマさんの事をお考えになっていたのでは?」
「アルマの事を?」
図星だ。
だが、そんな事を顔に出す様では王太子など務まらない。
怪訝そうな顔でティエリカに問い返す。
ティエリカの顔色はいつもと変わりはないが、雰囲気がいつもとは違う。
これは、何か心配事でもしているのか?
「何故アイツの名前が出てくる?」
「近頃は、バレムス様達と一緒に随分と仲良くされているご様子でしたので」
成程、婚約者が他の女に現を抜かすのは面白くはないし、ティエリカの面目にも傷をつけかねないか。
「ああ、物珍しさに構い過ぎていたな。だが、お前が思っている様なものではない。せっかく時間が取れた二人きりの時に考え事をしていたのは済まないが、お前にだけは勘違いされたくはない」
王太子がアルマを選んで手に取る事は、無い。
王太子に認められている様々な権利は、全て国へ還元される為の物。
それが出来るのは、アルマではなくティエリカなのだから。
アルマはオレを支えられても、王太子を支える事は出来ない。
それは身分という問題もあるし、物珍しく映ったアルマの美点も王妃としては欠点になりかねない。
王太子と同じ時間、いやそれ以上の時間と努力を持って完成された婚約者の代わりにはなれないのだ。
「心配であるのなら、アルマとは必要以上には関わらない事を誓い、お前に会う時間も可能な限り増やそう。それでも足りなければ、誰かラーデリアの者をオレの側に置いてもいい。それでお前の不安を取り除けるのなら」
ティエリカはジッとオレを見る。
こうも無作法にティエリカに見られるのは初めての経験だが、こっちもその美しい顔を見れるのだからまぁ悪くない。
「そこまでして頂けなくとも大丈夫です。余計な勘繰りをしてしまい、申し訳ございません」
「構わん。お前がそう思ってしまう程にオレの振る舞いが問題だったというだけだ。だが、お前に会う時間を増やすという許しは貰いたいのだが?」
オレがそう言うと、ティエリカは少し押し黙る。
これは、緊張してる感じか?
「殿下のご負担になられないのであれば、大丈夫です」
「そうか。では今度時間がある時にでも茶会でも開こうではないか。二人きりであれば尚良いが」
「殿下を独占しては私が他の皆様から不満を言われてしまいますね」
「ではお前の友人達を招待するといい。華やかな茶会になる」
「バレムス様達はご招待されないので?」
「アレ等はアルマに夢中であるからな。わざわざお前と楽しむ一時に火種を持ち込む必要はあるまい」
臣下の風紀を締めるのもオレの役割ではあるが、まぁ自分の立場を理解出来ないのであれば一度痛い目に合うのも勉強だろう。
平民であるアルマが理解出来ないのはともかく、上位貴族として今迄教育を受けてきた連中が理解せずフォローもしてないとあれば資質自体に問題があるとオレが断じても仕方ない事。
別にのぼせ上った連中の相手が面倒とかいうのでは、無い。
「詳しい日付は学院に戻ってから決めるとしよう。今日の舞台は中々に泣かせる話らしいが、ハンカチーフの用意は大丈夫か?」
「ええ、メイドが優秀なのもので私が忘れていてもきちんと持たせてくれます」
「結構。彼女らには是非ともティエリカを迎える際には共に上がってきて貰いたいものだ」
「…………気が早いお話ですね」
「なに、その時になればすぐだったと思うだろう」
やはり王子は頭がネジが緩くないと成立しませんね。