プロローグ
「光の精霊よその力を貸したまえ……我は賢者の石に祈る……」
暗く狭い部屋の中に部屋の幅いっぱいの魔法陣が描かれている。
その部屋で詠唱を唱える全身を覆うローブを被った男の足元で、魔法陣がゆっくりと光を帯びだしやがて部屋を包むほどの輝きとなる。
「我が名はシュバルバン・ルカ・ピエール! この世で錬金術を極めた七人の大錬金術師の一人である! 我が求めるのは新たなる命! 代償は我を構成するその全て! 第八錬金術書禁忌錬金第三番……魂魄継承!!1」
瞼を閉じてもなお眩しさを覚えるほどの光が部屋を包み込み、魔法陣が弾ける勢いで爆風を生み出す。
部屋の中にあった書類や錬金術書がただの大量の紙切れとなり、誰もいない部屋にゆっくりと舞う。
七人の大錬金術師の一人シュバルバン・ルカ・ピエールは、その夜を境に跡形もなく姿を消した。
◇◆◇◆◇◆
目を覚ますとそこは見慣れぬ天井だった。
見慣れぬ天井は斜めになっており、少し埃っぽい空気を鼻から吸ってしまい咳き込む。
薄い毛布一枚だけが体にかかっているが、寒さを感じない。
部屋を見渡してみるが、タンスや机、イスなどとても殺風景な部屋だ。
窓から見える景色からして今俺は三階、正確に言えば屋根裏部屋にいるのだろう。
窓の外は少し大きめの通りがあり、煉瓦造りの家が並んでいる。
姿見鏡があったので、とりあえず自分を見る。
「歳は十六ぐらいか……顔立ちは悪くないな」
部屋から出て一階へと降りる。
一階に降りてすぐの扉を開けると、そこは飲食店になっており、昼間っから酒を片手に老若男女問わず騒ぎ倒している。
「おうルカ今起きたのか! 昼まで眠りこけてるとは余裕そうだな!」
「そんな時間があるなら魔法が使えるように訓練でもしな! ギャハハハ!!!」
酒の入ったおっさんのウザ絡みを華麗にスルーして、今自分の置かれている状況をいち早く理解しようと務める。
偶然だろうか今の俺はルカと呼ばれているらしいこと。
さらにこの世界では魔法が使えるが、俺は今のところ使えてないらしいこと。
「まずはこの国のことを知らなければならないな」
店から出てしばらくメインストリートを進んでゆく。
出店が道の両脇に並び、人の通行量はかなり多い。
メインストリートの先、山の頂上に聳え立つ城はこの国の王が住んでいるのだろうか。
「いらっしゃい兄ちゃん! 今なら魔力ポーションがたったの五十フェリスだよ!」
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 朝揚がったばかりの新鮮な魚だよ!」
「これを食べればマジックポイントが上がるミーフィアの実! 一個百フェリス二個で百八十フェリスだよ!」
ジャケットの内ポケットに入っていた巾着袋を取り出し、中に手を突っ込みジャラジャラと遊ばせ、金貨を一枚取り出す。
片面には美しい女性が描かれている。
金貨を裏返し、目の前の城と見比べる。
同じだ。
金貨のもう片面には子の国の象徴ともなる城の絵が描かれていた。
今度は巾着袋の中に入っている硬貨を全て掌に出す。
金貨が四枚、銀貨が二枚、銅貨が十二枚。
まずはそれぞれの硬貨の価値を知らないと、いずれカモにされてしまう。
「おじさんこの赤い玉は金貨何枚かな?」
「お、兄ちゃんいい目してるね……そいつはかの大魔導師テレサ様が愛用していたと言われている炎の魔法石だよ。本来なら金貨三枚三百フェリスだが、迷わずこいつを選んだからな……よし! 金貨一枚百フェリスで売ろう!」
テレサ? この世界で有名な魔導師なのだろうか。
それよりこんなただの石ころに金貨一枚か……もう少しいいものを選べば良かったかな。
「銀貨で払ってもいいかな?」
「おう! 銀貨なら十枚だ!」
なるほど……銀貨十枚で金貨一枚か。
ということは銅貨十枚で銀貨一枚だろう。
金貨は百フェリス、銀貨は十フェリス、銅貨が一フェリス。
これで今後お金に関するトラブルは避けられるだろう。
「すまない、金貨があったようだ」
「そうか! ありがとうな兄ちゃん! 良い一日を!」
赤色の半透明な石ころを右手で掴んでは上に放り、掴んでは放る。
左手をズボンのポケットに突っ込み、またしてもメインストリートを進んでゆく。
次の目標は魔法についての知識を得ることだな。
本屋はどこだろうか。
「そこをどいて下さいッ!」
「な……ッ!」
路地から飛び出して来た銀髪の長い髪の女の子が胸元に思い切りぶつかる。
お互いが逆方向に飛ばされ、尻もちをついてしまう。
「ごめんなさいッ! 今は急いでいるので、怪我などありましたらエリシア書店に来て下さい!」
ぺこりとお辞儀をしてメインストリートを俺が歩いて来た方へと走り、すぐに人混みに紛れてしまった。
ぶつかった衝撃で落ちてしまった赤色の石ころを拾い、少女が走っていった逆方向へと進む。
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