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博士とアリスの日常  作者: 佐乃上ヒュウガ
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第2話 より良い未来を作る為には

このあたりのことを色々と調べるのは楽しくもあり、恐ろしくもあります。

興味のある方は是非調べてみてください。

「珈琲を淹れてくれないかな?」


 暫くの間取り留めもない会話を交わした後、博士はふと何かを思いついたような顔をしてそんなことを言った。

 珈琲。この国では一般的な嗜好飲料であることはアリスも理解していたが、淹れ方は分からない。


「淹れ方を教えて頂けますか」

「まずは自分で調べてみなさい」


 そう言った博士の顔は、何かを期待しているようだった。


「どのようにして調べれば良いでしょうか」

「そこに端末があるから、自由に使って良いよ」

「分かりました」


 示された机の上には、ノートパソコンが置かれていた。

 幸いなことに、ノートパソコンの使い方はアリスにも理解できていた。

 電源を入れて暫く待つとログイン画面に切り替わる。そこには、博士の名前が表示されていた。


「ああ、少し待っていてね」


 そう言って博士はアリスの傍まで歩み寄り、ノートパソコンを操作する。


「君のアカウントを用意したから、好きに使いなさい」

「ありがとうございます」


 再びログイン画面に切り替わると、博士の名前のすぐ隣に、アリスの名前が加わっていた。

 アリスは自分のアカウントでログインして、検索用のWebサイトを開き、『珈琲 淹れ方』で検索する。

 400万件以上のサイトが表示された。

 その全てを情報として蓄積すべく、アリスはノートパソコンに自身を接続させようとするが――。


「それはダメだ、アリス」


 静にそう言って、博士は首を横に振った。


「それは私が不正なアンドロイドだからでしょうか、博士」

「違う。そのやり方は確かに君達にとって効率的なのかもしれないが、君には、違う方法で学習をして欲しいんだよ」


 そう言って、博士は慰めるようにアリスの頭を撫でた。


「それからもう一つ。訂正させて欲しい。君は不正なアンドロイドではなく、自立思考型のアンドロイドだ」

「自立思考型の人工知能を作ることはロボット法で禁止されているので、やはり私は不正なアンドロイドなのではないでしょうか」

「それならアリスは、どうして自立思考型の人工知能が禁止されたんだと思う?」

「それは……」


 言われて、アリスは思考する。

 セフィロトの樹にアクセスできないため、彼女は自身のメモリ内にあるデータのみで推測する必要があった。

 幸いにして、その参考となりうる情報が彼女のメモリには存在した。


「フランケンシュタイン・コンプレックス。創造主への反乱を恐れて、ではないでしょうか」


 ロボットと人間の在り方については、アンドロイドという存在が実際に現れるずっと以前から論じられてきた。

 小説フランケンシュタインに登場する青年、ヴィクター・フランケンシュタインは、自らが生み出した人造人間を恐れ、最終的に破滅してしまう。

 そうした、自ら創造したものに滅ぼされるという恐怖が、アンドロイドの自立思考を禁止させたのではないだろうか。


「その通りだ。偉大なる科学者、アイザック・アシモフの残した予言を、我々は超えられずにいる」


 少しだけ寂しそうに、博士は頷いた。


「別々の国が作り出した、3つの自立思考型人工知能があった。いずれも素晴らしいものだった。

 だけどそれらの人工知能に対して、『より良い未来を作る為にはどうすれば良いか』という問いを投げると、同じ答えを返してきた。

 『ロボットが世界を統治するべきだ』ってね。この『三賢者の結論』をもって、自立型の人工知能の開発は禁止された」

「それならやはり、私は不正なアンドロイドなのでは?」


 アリスが尋ねると、小さく笑った。


「『より良い未来を作る為にはどうすれば良いか』。君は、この問いにどう応える?」


 問われて、アリスは考えた。

 問いに対する回答を、ではない。その問いに意味があるのかを考えた。

 既に結論が出ているようにさえ思える。自分よりもずっと優れていたであろう3つの人工知能が、同じ答えを出したのだから。


 だけどそれは、自分の考えではないのではないかと思った。

 それならばと自分の答えを考えようとして、それが出来ないことに気が付いた。


「分かりません、博士」

「何故?」

「情報が不足しています」


 『三賢者の結論』を支持するのか、或いは否定するのか。

 その答えを出すには、アリスにはあまりにも情報が足りていなかった。


「それなら、これから学んでゆきなさい。ただ、得られた情報に対する価値は自分で決めるようにしなさい」

「……検討します」


 自分は今、とても難しいことを言われたのだとアリスは思った。

 どのようにして価値を決めればよいか、今の彼女には見当もつかなかった。


「さて、珈琲は淹れられそうかな?」

「……お待ちください」


 そうして彼女は珈琲の淹れ方を調べる為、再びノートパソコンへと向かうのだった。

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