本能寺の変 1
天正10年6月2日早朝本能寺は業火に包まれた。
「敵は本能寺にあり!」
「「「「「おおおおおおおおおおおお!」」」」」
そんな怒号が本来静かなはずの本能寺に響き渡る。いまこの本能寺には時の武将『織田信長』が来ているのだが、草木も人々もまだ眠りについているであろうタイミングを狙った完璧な奇襲であった。眠りについていたのはその標的となった信長も同じであり、目を覚ますと完全に包囲され既に詰みとなっていることを悟る。
「くそっ! 一体誰がこんな……」
それは誰のつぶやきだっただろうか、本能寺の中に居た数人の内の誰かの声に答えるかのように信長は言った。
「光秀め、このような期に仕掛けてこようとは……見事!」
信長は自身が逃げる事すらできない状況に追い込んだ者への歓心の声を上げると自ら火を放った。次第に大きくなる火の手は、容易に本能寺を包み込み信長の身を飲み込んでいった。最期を迎える信長の表情は忠臣に裏切られた事への憤怒では無く、自身の望みが叶えられたかのような晴れやかなものであった。―
―それは本能寺襲撃の半年ほど前
「光秀! 光秀はおるか!」
「ここに」
信長の呼び声に対し直ぐに返事が返る。
「おお光秀、少しばかり頼みをきいてくれんか?」
「なんと! 信長様の命とあらばこの光秀全霊をもってお応えいたします。」
信長から直々の頼みとあって光秀は好色を隠しきれないとばかりに勢いよく答える。しかし信長から下された命は光秀の表情を凍り付かせる事となる。
「そうか、それは良かった。ならば光秀わしを討て。」
「信長様、一体何をおっしゃられるのですか。いくら冗談だとしても質の悪い。」
突如として告げられた君主の自らを討てという命に、光秀はひどく混乱し冗談だろうと判断し聞き返す。
「冗談などではない、もう一度だけ言う。わしを討て。」
その言葉が冗談で無いことは、信長の表情や声色から十分過ぎるほどに伝わってきていた。光秀は信長が本気で命を下しているのだと悟ると数瞬悩んで返事をする。
「いかに信長様の命といえど承服しかねます。しかしどうしてもとおっしゃられるのでしたら、せめて何故そのような命を下すのかお聞かせください。」
光秀がひどく震えた声でそう返事をする。その声は返事というにはあまりにもか細く、ぎりぎり信長の耳に届くか届かないかの声量だった。
「何故……か。なあ光秀お前はこの日の本どう思っている?」
信長からの脈絡の無い質問に光秀は頭の中にいくつもの?を浮かべる。その問いが君主の命を奪う事と一体どう関係するのか、分からないとでも言いたそうに首を少しかしげる。そんな光秀を尻目に信長は続ける。
「わしはな、少しつまらぬと感じておるよ。初めてこの日の本を手中に収めようと思った時、わしは収めた後ではなく収めるまでを楽しみにしておった。幾人もの猛き者との戦、互いの全てをぶつけその上で相手に膝をつかせ服従させる。それがこの戦国の世での一番の享楽であった。」
信長は楽しそうに自分が旗を揚げることを決めたときの事を話し始めた。それはまるで新しい玩具を手に入れて間もなく、遊び始めたばかりの頃の子どものように嬉々とした語り口であった。
「しかしな、戦果を挙げ戦場を越えてゆく毎に我が軍の戦力は盤石のものとなり次第に戦がつまらなくなってしまった。天下を取ってしまえばもう楽しみなど何も残らぬ。」
突如として曇ったその表情は、長く噛んでいたガムの味かしなくなってしまったかのように、テレビゲームのやりこみ要素さえ全て終わってしまったように、なんの価値も無いのだと雄弁に物語っていた。
「だからな光秀よ、わしは・・・・・・・・・」
そう告げた信長のあまりにも楽しげな声音に光秀は無意識のうちに承諾をしてしまっていた。いや、そうせざるを得なかったと言うべきか。しかしまた返事をした光秀もどこか少し楽しそうであった。
初めまして高野と申します
先ずはこの作品を読んでいただけた事にお礼を
小説を書き始めて日が浅いこともあり稚拙ではありますが手元に書いて残しておくのもなんだということで投稿をはじめてみました。読みづらい部分や誤字等は適宜修正をかけていこうと思います。見かけた際にはここ誤字があるよと教えていただけると幸いです。
さて本編の内容についてですが、今回は歴史的大事件の本能寺の変を題材にしています。どう考えてもおかしいだろっという点があると思いますが、妄想ということでご容赦を。
次の更新は一週間以内にできたら良いなと考えております。
では次の話を読んでもらえることを祈りながら挨拶とさせていただきます。