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永遠に遊べ月世界で・其の二

この話を書き始めて二度目の冬を迎えようとしているのか……?

 「か……勝ったのか?」

 視力も向上しているので磔刑のような姿勢で月面に貼り付けにされている如斎谷が見えた。白目を剥いてピクリとも動かない。

 「そんな……如斎谷さまが……」

 「教祖さまが負けた……?」

 揃って月を見上げた信徒たちが落胆の声をもらす。

 倒したな。確かに引導を渡してやった。


 「やったあ!」

 幽香が鬼のままで抱き着いてきた。

 「こらこら、体中痛いんだよ!」

 金網の破れ目を広げて、半六と信南子先生も舞殿へ上がる。

 「君を誘った僕の見立ては正しかった」

 「予想以上の大健闘だろ?」

 半六と手を打ち合わせる。

 『私も親として鼻が高い』

 「わたしも立派な生徒を持って自慢できます」

 「見物係にしてはいい仕事でしたよ」

 親父と先生には皮肉を言っておく。


 『さて、後は信徒たちにどうお引き取り願うかだが』

 俺がじろっと睥睨すると視線上の信徒らは後ずさった。

 カリスマを失った今、全員から継戦の意志は失われたと言っていい。これなら一喝すれば散り散りに帰っていくはずだ。

 しかし、それとは別に言っておくべきことがある。

 「みんな──申しわけない!」

 自分なりに誠意を込めて深々と頭を下げた。

 「見てのとおり如斎谷は倒した。あいつが立誠高校へ来たのは俺がいたからだ。正直俺もみんなには色々と腹立たしいことはあるが、俺がいなけりゃ今夜みたいな馬鹿騒ぎも起きなかったんだ。それだけは謝っておく──すまん!」


 一呼吸おいてから続けた。

 「今日限りで俺は妹ともども立誠を去るつもりでいる。元凶の如斎谷もあれだけやっつけておけば当面は何もできないだろう。だから、諸君も目を覚まして、信者を道具扱いするだけの宗教からは足を洗ってくれ。それが信仰に生きる者としての願いだ」

 異論を唱える者はいなかった。

 神楽殿を囲む誰もが俺の言葉に耳を傾けてくれた。

 「わかってくれたら今夜これでお開きに……」

 『あっははははは!』

 地獄から響いてくるかのごとき声量が割り込んできた。如斎谷の声をより獰悪に加工した呵呵大笑は、むしろ奴の本性に近いかもしれない。


 『ここだここだ』

 半六たちが周囲を見回し、俺も月面の奴を凝視する。何の反応も見られない。如斎谷昆は完全に気を失っている。

 「重光ちゃん、あそこです!」

 幽香が舞殿の前の大穴を指さした。不気味な哄笑の出所はアシャラ復活のために掘られたグランドの穴だった。

 緊張した面持ちで半六が二丁拳銃を抜く。

 再び地面が大きく揺らぐ。足元を振動が駆け抜け、大穴から濁った水柱があがる。泥水を押し上げて現れたものの実体を見て誰もが驚愕した。

 「悪遮羅──⁉」


 幾何学的な黒いラインが走る青白い腕だった。穴から突き出ている肘から先だけでも二階に届く高さで、六本の指先では鋭い鉤爪が残酷な光を放つ。

 そう六本、親指と向かい合うもうひとつの親指を入れて六本の指が、ぞわぞわと何かを求めるようにいやらしく動いた。

 「ああっ……」

 「姉さん気絶したら生贄にするぞ!」

 さっそく目を回す信南子先生を半六が立たせる。だが、さすがにこの巨腕のおぞましさを間近で見たとあっては責めるのも酷な気がした。


 「さては最後に吐きかけた物体は悪あがきではなく……!」

 「あの光る嘔吐物がどうしたんだ?」

 『重光、おまえがかわした魂魄があの穴へ落ちたのだ』

 「魂魄? まさか奴の精神?」

 『いかにも! 外道法術・生霊飛ばしだ!』

 中指に宿った人面痣に見える顔は如斎谷に他ならず──。


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