根室重光が根室容保と再会すること・其の六
「よくこの道がわかったもんよのう」
まずいことには凶悪さんたち以外にも鬼火をまとった人面魚の群れ。
如斎谷が井戸へ帰した妖魂どもは浄化も滅魂もされることなく、この地下道の中で番犬の役目を仰せつけられていたのだ。
「今夜こそ正々堂々勝負してもらうかんなあ!」
「もっと人数差埋めてから言えよ」
数で袋叩きにする気満々の凶悪さんは以前のハイテンションを取り戻している。如斎谷が手なずけた暴力団組員とおぼしき般若面部隊も同様だ。
妖魂もおぞましく歯を剥き出した。
「ひい……」
「姉さん、自分の言葉に責任持ってね」
さっそく尻込みするミス信南子へ従弟の冷たい言葉。
「失神したら連中の餌だよ」
「任せろ。まとめて火葬にしてやるぜ」
菩提銃を抜くと制止された。
「待つんだ。新兵器を君にも渡しておこう」
半六はリュックの中から騎兵が使うような小銃を取り出した。
「新型の菩提銃だ。銃剣をセットしてるから槍としても使えるよ」
「しかし、俺は槍術はあまり……」
「お師匠さまのステッキを使って戦ってみせたじゃないか」
「あの要領か。それなら自信があるかな」
「君ならそっちが正しい使い方だね。見た目はマスケット銃だけど連射できるし、ミドルモード四発以上に相当する観音力弾を発射可能だ」
「ゴチャゴチャ言ってねえでかかってこんかああああ!」
「わかったわかった。戦いの火ぶたは僕が切らせてもらう」
凶悪さんの挑発に応じて半六は銃を持った両腕を交差させる。
「うおっ⁉」
目にもあざやかな緋と紺の光弾が妖魂の真ん中で炸裂した。
凶悪さんたちはあわてて左右に散った。つけいる絶好のチャンス。俺はならず者の隊列へ体全体をぶつけるように突入する。
「ひるむんじゃねえ!」
「昆さまに祖霊の血を分けていただくんだ!」
すぐ応戦に移れるのは、さすがヤクザといったところか。
匕首を抜いていっせいに襲いかかってくるのを得物を振り回してなぎ倒す。
銃身で受け、銃口で突き、銃床で打つ。
頼もしい援護射撃が妖魂を次々撃破、死角から攻められる心配もなく、煉瓦のトンネルを縦横に駆け巡りながら存分に戦えた。
尾鰭を切り裂かれた妖魂がフラフラ逃げるのを半六が撃ち落とすと、残るは凶悪さん一人になった。
「こここの卑怯もんが! またセコい武器に頼りやがって!」
「あんた全然変わってねえな」
もはやこの男には憐みすら覚える。
「おおお俺も切り札使うぞ! いざとなったら元気の素を飲めって昆さまに言われてんだよ!」
凶悪紳士はカプセル薬らしき物を口に含む。
『待つんだ君、今飲んだものは⁉』
親父が止めるも間に合わず、男の体が猛スピードで変化した。
「虎顔──!」
燃える真っ赤な瞳、湾曲した大きな角、左右に鋭くはねたヒゲは星願寺の等身大の妖魂に瓜二つである。
『悪遮羅の血から精製したドーピング剤だな』
幽香に倒された虎男も同じ薬を含んだ人間の成れの果てか。
「どいてろ重光!」
半六が沙羅双銃を本物の修羅道に落ちた男へ向ける。
「いい! 俺が楽にしてやる」
熊のごとき爪の生えた凶悪氏の一撃をかわして横へ飛ぶ。
月天子の神電池の霊験──玉兎の跳躍力は狭いトンネルの中にもかかわらず不利にはならず、左右の壁面を蹴って飛び回って翻弄できた。
「往生!」
真上から渾身の拳殴を叩き込む。恐兎怖跳拳・月面陥没打。
野獣は苦悶の唸り声をあげて前のめりに倒れた。
「ちく……しょう……」
恨み言をつぶいて凶悪さんは変身が解けた。
白髪が増えて、頬はこけて、憔悴しきっている。
『鬼女の血は男には反動が大きい。二度と立ち直れまい』
「ああ、それでも今までの生き方を続けるよりマシだ」
あばよミスター凶悪、ちょっとだけ手強かったぜ。
たぶん今月中に過去作のスピンアウトかつ二次創作的な短編を書きます。




