鬼女の胎動・其の二
そろそろ半六を登場させたいところです。
如斎谷の登場は明らかに場の空気を変えた。
「ここは私にお任せ願おう」
「おまえ、今頃何しに来たんだ」
無言で通り過ぎようとするのに因縁をつけてみた。
「君の尻ぬぐいさ」
ふっと微笑を浮かべ、長野も冷笑する。
「安心して見物していたまえ」
「誰の仕業かわかってんだよ!」
「証明できるといいなあ」
如斎谷は空中でじっとしたままの妖魂の群れと対峙した。
「おるわおるわ。まとめて浄霊してくれよう」
獲物の鉄扇を鞄から抜いて広げた。
「リーダー危ない!」
八百長くさい長野の叫びが合図だったかのごとく妖魂どもが襲いかかる。
如斎谷も動揺する素振りすら見せず、孔雀羽の鉄扇であおいだ。
魚影が風圧で上空へ飛ばされる。片手で何たるパワー、腕力もさることながら奴が帯びた神音力の豊潤さをうかがわせる。
「或漂流巨海 竜魚諸鬼難 念彼観音力 波浪不能没!」
妖魂が結合、意地で押し返すのを今度は扇を縦横に打ち振った。魚影に十字の隙間ができて、そこにいた霊が雲散する。
「羯諦羯諦、行くべき場所へ行けい!」
大喝し、とどめの鉄扇を振るった。
つむじ風が巻きおこり、妖魂どもが次々吸引されてゆく。
小竜巻はすべての妖魂を孕んで井戸へいざなう。なんだか便所みたいだ。
「南無……」
最後の一匹も井戸の中へ消えてしまうと如斎谷は合掌した。
直後に割れんばかりの拍手が鳴った。
「如斎谷さんすごい!」
「如斎谷カッコいい!」
「本物の陰陽師みたい!」
「我が校を救った勇者だ!」
昨日の非常識さがもたらした失点を挽回して余りあるパフォーマンスだった。奴の狂気を堪能させられた同じクラスの連中まで喝采を送りまくる。
「諸君、静粛に」
勇者の言葉は絶大で、みんな素直におとなしくなった。
「改めて自己紹介させてもらおう。私は奈良の羅刹女伝道学院から転校してきた如斎谷昆、裏の稼業は外道法力を以て邪なるものを誅する退魔師。立誠高校へやって来た本当の目的は、さっきまで君たちを襲っていた妖魂を駆除し、間境区の霊的安全を堅固なものとするためだ」
「ほお~!」
感嘆の溜息が聴衆から漏れる。
「寺院法主の娘に生まれ、読経を子守歌に育った私ならば、妖魂を鎮めるなど雑作もなきこと。しかし、あれほどの大群を御するだけの観音力を蓄えることができたのは、孔雀明王と並んで私が崇敬する守護神にして、私が教祖を務める悪遮羅教の主祭神・悪遮羅大明神の霊威をお借りしたからに他ならない!」
一転して新興宗教への勧誘を感じ取り、誰もが鼻白んだ表情になりかける。如斎谷はそれが蔓延しきる前にいっそう声をはりあげた。
「ゆめゆめ笑うなかれ皆の衆! 私が大量の魔物を黄泉へ帰してみせたのは疑いようもあるまい? 未熟な退魔師兄妹が持て余していたのを?」
如斎谷が勝ち誇って俺を見る。
「根室が退魔師~?」
「あいつが神社で拳法の練習してるの見たことあるよ」
「酒屋のバカ息子とケンカしたらしいぜ」
「なんかカンデンチがどうたら言ってたよな~」
「胡散くさ~い」
校庭に集う面々がヒソヒソ囁き合う。
まずい。この状況はまずい。
「今現れた妖魂は封じたが危険が去ったわけではない。諸君の安全をより確かなものとする方法はただ一つ、青銅の孔雀教へ入信することだ」
「入ります!」
グランドの生徒たちがワッと殺到した。
異能バトルものでもあるのに(一応)、相手が人間にせよ化物にせよ神電池を使った戦いを面白く表現できていない、ほとんど主人公の行動を追うだけのストーリー……困りました。




