根室重光が岡田信星老師に会うこと・其の三
とうとう更新も40回を数えました。
閲覧いただいている皆様に感謝です。
「幽香……!」
「何をやってるんですか重光ちゃん」
当惑した面持ちで従妹が聞く。
「おまえこそどうして……」
「騒ぎ声がするから……重光ちゃんの声もするんで、わたしが様子見てきますって教室から出てきたの」
納得だ。あんな大声でモメてたら四階にも届くよな。
さっそくイカレ女が放言をぶちかます。
「おーい妹君、君の兄上は私の学校フィアンセとなった」
「ウソだ! こいつの言うことを真に受けるな幽香!」
「学校フィアンセってなんですか?」
首をのばして幽香が聞いた。
「学内における私の伴侶、品を欠く言い方をすればセフレかな」
「ウソだウソだウソだウソだウソだ!」
「セ……セフレ?」
幽香が目をしばたたかせる。
「下品な言葉に興味を持つな!」
「妹さんに男女の睦言ぐらい教えてあげたまえお兄さん。子づくりの前哨戦をするほど親密濃密な間柄ということかな」
「濃密なんですか……」
静かに青ざめてゆく幽香の表情はちょっとしたホラーだった。
おかしい。どうして俺があいつの不興を買うことを恐れにゃならん?
「岡田先生を抱いてさしあげろという私の提案を拒否するほど兄上は私のことを好いていてくれたみたいだ。光栄だねえ」
「黙れてめえ!」
後ろから飛びついて口をふさごうと試みるも静止は困難を極めた。
「ほら、こうやって私に抱き着いてくれるんだよ」
「信じるな幽香! 全部こいつの与太話だ!」
「よかったですね重光ちゃん」
「信じたら殺すぞ貴様!」
菩提銃を向けるも一足早く四階の窓が閉まった。窓を割ってはまずい。
「先生のとこから帰ってこい! 話したいことがあるんだよ!」
「かわいそうに根室くん。妹君から三行半とは」
「てめえのせいだろうが!」
両手が自由になったおかげで菩提銃を撃つことができた。お構いなしのミドル射撃を腹に受けて如斎谷が仰向けにぶっ倒れる。
いい気味いい気味。今度は完全に目を回してしまった。
「マスター! しっかりするかな!」
「昆さまによくも!」
竹刀で突いてくる長野の頭に我が玉兎が飛び降りる。
ちょっと遅れたがナイスな着地だ。
「卯卯卯卯卯!」
「づづづづづっ⁉」
長野の足が地面に沈んでいく。
背が縮みそうなストンピングの後、華麗なる月面宙返りが片岡にも炸裂、側近女子二名を地に這わせた。
死屍累々の校庭を後に俺はそそくさと下校した。
教室には戻りにくいし、どうせ授業はあと三十分ばかりで終了だったのだ。今日ぐらい早めに帰宅してもいいだろう。
一人とぼとぼ歩きながら、たまらなく理不尽を感じた。
自分にも反省すべき点が多々あるのは認めるが、あのアホごときの顔色を気にするなどあってはならないことだ。
「うん?」
うつむき加減の顔を上げると、道端で学生服の男二人がモメているのを発見した。
いかにもワルといった風貌の男子が、いかにもカモにされやすそうな気弱な風貌の男子を塀際に追い詰めて、胸倉を掴んでいる。
イジメかカツアゲか――まあ、どうでもいい。
今は他人の災難に介入してやれる心境でもなければ余裕もないのだ。だから、すれ違いざまに因縁をつけている奴にフックを見舞うだけにしておいた。
汚く染めた髪をリーゼントにした野郎がひっくり返り、絡まれていた奴が礼を言うのが後ろから何度も聞こえてきたが、どうでもいい。
(俺はそれどころじゃない。それどころじゃないんだ)
念仏のように繰り返す。もう困っている人に遭遇しませんように。
しかし何の効き目もなかった。
また老人が道端で倒れていたのである。
次回の更新も少し遅れるだろうと予告しておきます。
5月は色々と雑事が多くて。




