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愛された記憶  作者: 高橋麻理子
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1997年10月 シカゴ

 1997年9月、私はイスラエル本社のIT会社を退職し、日系財閥系企業グループのネットワーク会社に転職をした。新しい会社で仕事を始めるまで2か月ほど期間を開けてアメリカのサンノゼに滞在した。シリコンバレーで働く友人たちに会い、サンノゼやサンフランシスコで開催されるIT業界のカンファレンスに参加するためだった。


 シリコバレーでの滞在を終えた後、サンノゼ空港からアメリカン航空でシカゴに飛んだ。ニューヨークから飛んできた彼とシカゴのオヘア空港で待ち合わせ、2泊3日のシカゴ滞在を楽しんだ。オヘア空港は巨大なハブ空港だった。彼に会えるのか心配だったが、彼の指示はいつものように的確だった。

「ターミナル2の国内線到着フロアーのE7出口を出たところにインフォメーションカウンタがあります。その前で、マリコのフライトの到着時間に待っています。もし会えなかったら私のセルフォン(携帯電話)に電話をしてください」

 国内線の出口を出て、インフォメーションカウンタに向かって歩いていると彼が私を先に見つけて、「ヘイ、マリコ!!」とよく通る声で呼んだ。

 シカゴでもリンカーンコンチネンタルをレンタルしてくれていた。シカゴは風の強い街だった。天候も悪く、観光にはあいにくの日が続いた。シカゴで一番高いジョンハンコックセンターに行ったが、強風のため展望台へのエレベータは止まっていた。ミュージアムに行き、街や湖畔をドライブし、ダウンタウンやチャイナタウンで食事をして2人の時間を楽しんだ。


 1997年12月、日本に帰国し、新しい会社での仕事が始まった。以前にも増して忙しい日々が続いた。彼はフォードモータに移籍し、その後、イギリス人の同僚と、エンジン開発の技術コンサルティングを提供する会社を設立し独立をした。イギリス、ドイツ、カナダ、そうしてアジアと、いつも仕事で世界を飛び回っていた。忙しい日々にも関わらず、世界中のどこに居ても、毎日、日本との時差を考えて国際電話をかけてきてくれた。飛行機に乗る前と到着時にも必ず空港から電話をかけてくれた。私はそのころから世界中の飛行機事故のニュースに敏感になった。「今空港に着いたよ」という電話があるたびにほっとした。


 そのころ、彼がコンサルタント契約をしている自動車メーカのエンジン開発部門がタイにあったので、毎月タイに出張に来るようになった。ひと月のうち1―2週間、タイのラヨーンの工業団地にあるR&D(研究開発部門)で仕事をするようになった。タイと日本の時差は2時間。毎朝日本の7時前に電話がかかってくる。タイは朝5時だ。

「グッドモーニング、マリコ。7時だよ。起きている?」

「グッドモーニング、ダーリン。起きているわよ。タイは5時でしょ」

「昨夜から一睡もしていないんだ。開発にいろいろ問題があってね。これから少し仮眠をするからその前に電話をしてマリコの声を聞こうと思って電話をしたんだよ」

「あら、大変ね。ホテルに帰って寝るの?」

「オフィスにポータブルベッドがあるから、ここで1-2時間寝て、また仕事だよ。心配しなくても繁華街に行って遊んだりしないから」


 日本人ビジネスマンがタイに出張に行くというと、夜は必ずパッポンストリートのゴーゴーバーや女性のサービスがあるカラオケやマッサージに行って楽しむという話を聞く。そんな話を彼にすると、

「日本人男性はお酒が好きだし、女性と遊ぶのも好きだね。でも男性がみんなそういうことが好きなわけではないよ。私の性格を知っているでしょ。私はここに来るまで、子供時代も延世大学やMITの時もドイツに留学していた時も普通の人の何倍も努力をした。あの辛い努力を一時の快楽のために無駄にすることなんてできない。絶対にできない。出張や駐在でこちらに来ている人がタイの売春婦と寝てエイズになったり、タイ女性のボーイフレンドやバックについているマフィアに脅されてお金を巻き上げられたり、タイ女性を車に乗せてドライブをしていて事故に遭い会社を首になったり、そんな馬鹿なことをする人たちをたくさん見てきた。信じられない」

「あなたの性格は知っているわ。仕事をしすぎないでね」

「OK。今度のバケーションはタイに来られる?3泊4日で、ユナイティッドエアーのチケットの予約をしなさい」

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