表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

八話 寄道と居場所

地面に手を付き、項垂れていた。時刻不明で夜中なのは間違いない。


空腹と自分本意な考えによる自己嫌悪。


眠気による投げやりな精神が支配する。


「まあ、なんだ」


ギヨームさんが唐突に話を振ってきた。彼の目は美食家が本当に美味い料理を食べた時の感動的な眼差しだ。


「お前が悪い奴ではない事が何となく分かった」


バッと顔を上げる。


通じた!通じたよ異世界!


やはり異世界とは言え、味覚と感性は変わらないのだ。俺の料理が世界に争いを無くさせるのだ。


これは言い過ぎか。


「し、信じて貰えましたか」


「ああ。しかし何で料理だ?どっか行って戻って来たときに、木の実とか野草を持っていたから頭おかしいかと思ったぞ」


「く、空腹は人を野生に返すんです。話を聞いて貰うために、まずは食事をですね…」


苦しい言い訳だ。食べてもらう事が証明だと言った癖に。


「それに初めに野草と水を出した時から話をしてくれましたので…」


犠牲は水筒二本と俺の夕食だが、得られたものは野盗の頭からの無実である。割に合うのかどうなのかは不明だが命を取られないだけマシか。


「まあな。久しぶりに『料理』を食べた気がする」


ギヨームさんは、それから野盗団の話をしていく。


野盗団はランバート村近郊を根城にした小規模な野盗団で、活動も小規模だそうだ。


内容は商人を脅し、商品を奪うのみで殺しはしない平和な野盗とか言ったが、日本人感覚では悪党と言えるが文化も価値観も違うのだ。郷に入っては郷に従え、だ。


清く正しく生きていくには辛いこの世界なのは仕方ない。仕方ないが、やるせない気持ちにもなる。


命までは取らないため、放置されていたが最近になり謎の子供が来襲し皆殺しにされたのだとか。


ギヨームさんは町に用事で行ったので現場には居ない。


息も絶え絶えな部下の一人から、最後の言葉で『風を操る金持そうなガキ』と伝えられ、道行く子供をとっ捕まえていたのだとか。


「僕を捕まえたらどうするつもりでしたか?」


「俺に捕まるようなら犯人じゃねえよ」


との談。


捕まえては逃しを繰り返していたらしく、キャッチ&リリースの精神だろうか。いやいや、子供はスポーツフィッシングじゃない。


まあ、そして俺に会って負けてしまい隙を伺ったそうだ。


「構えるのが馬鹿らしくなった。お前が犯人なら、その演技に騙された俺が悪いからな。殺るなら殺れ」


「殺りませんよ!初めて村を一人で出たんですから」


「…初めてで、一人か?ガキ、いくつだ?」


「十二ですが」


「家出か?」


「えっと…話せば長くなるので一言で言えば、大事なものを取り戻す旅です」


あの時を思い出し、拳を握り締める。落ち着け俺。怒りを原動力にしちゃダメだと師匠も言っていた。


「そうか、親は手伝ってくれねぇか…俺と一緒だな」


ギヨームさん、何を勘違いしているのだろうか。潤ませた瞳は相手がおっさんのためトキメキません。


「あ。鍛えてはくれましたし何も手伝ってない訳じゃないですよ」


「分かる。分かるぜウィル。鍛えると言って信じさせるんだ。それで全てを奪って逃げる。それが親だよなあ」


親と言う価値観とか概念が違いすぎる。これも一期一会であるし話は合わせるか。


「え、えっとすいません。そろそろ寝させて貰っても…」


「寝るって、ここでか?少ないとは言え魔物だって居るんだぜ?」


そうだった。変わらず抜けている。


一人旅で一番の恐怖は睡眠だ。それが永眠になる事もある。


しかし、今は二人だ。


見張り交代で寝る事が出来るのだ。


「ギヨームさん、僕が先に寝ていいですか?」


「おう。先に寝ろ。俺に限界が来たら交代だ」


…やはり悪い人には思えない。野盗で悪い人には違いないが、良い人に見えてしまう。俺の料理の力か。凄いな料理。




先に寝て、いつまでも声がかからないので目が覚めた。


朝日が眩しく、寝ていた目には辛い。


朝?


ギヨームさんを見る。


「お?起きたか。魔物は来てねえよ」


「いえ、ギヨームさん…」


「悪かったな。疑ったり嫌な事を思い出させて」


「あの…寝ないでいいんですか?」


「あと暫く歩けば町に着くしな」


どうやら夜まで限界で歩いた所為か、七割近くの道まで来ていたらしい。割と近いんだな、とか思いだしている自分は異世界に染まりつつある。


「ガキが気にするような事じゃねえよ」


そう言って歩き出す。道中で聞きたい事もありはしたが、まず優先させるのは


「この辺りに川などの水源確保出来る場所はありますか?」


「ああ、ちょっと道から外れるがあるな」


「では、そちらに行きましょう」


ギヨームさんは怪訝な顔をしていたが、確保しなくてはならないのは水と食料だ。


あと三割の道程とは言え昼には腹も空くだろうし道中の飲み水がないのは痛い。


食を欠いては仕損じる。三食しか一日に無い機会を抜くのは良くない。


ギヨームさんに連れられ、水辺に辿り着く。すぐに空いた水筒を満たし、喉を潤す。


「ウィル、魔物だ」


ギヨームさんは水面を見て唐突に言う。


魔物?


綺麗な水辺にしか住まないと言われる水の魔物。エラやヒレの付いた人形で体表には鱗がある半魚人、マーマン。


海の魔物だと思っていたが、こちらでは水辺ならば生息できるのだとか。


「ぶぃぃぃぃぃ!!」


現れたのは一体である。俺は水辺から離れ、マーマンを観察する。


「一体か。はぐれか?」


ギヨームさんは俺の背後だ。剣を抜く金属の擦れた音がする。


まずい、振り返ると意識が飛ぶ。


「ぎ、ギヨームさん。僕に任せて下さい!」


気絶しないため、ギヨームさんには控えて貰わなくてはならない。


そのためにも、この魔物との戦闘は一人で終わらせる。


コンディションは万全。マーマンは水辺からは出てこない。


負ける気はしない。


しないのだが…


「…傷だらけ…?」


そう。対面するマーマンは傷だらけである。血などは出てないが、その傷だらけだった跡が見受けられる。


それに威嚇はするが襲ってはこない。


威嚇する生き物は気が弱いと前世で聞いたことがある。


魔物とはいえ獣の類いだろうか。


「ギヨームさん、マーマンは群れるんですよね?」


「ああ。一体いたら五体は出るな」


傷だらけ…群れない…襲わない。


違和感しかない。


このマーマンはもしかしたら、仲間にやられたか?


引けば戦わなくて済む気はする。


「ギヨームさん、剣を納めて引きましょう。無駄に戦わなくて済みそうです」


「はぐれだな。ここの川をナワバリにしていたのか。確かに、水も汲んだし用はねえな」


「ええ。では、行きましょう」


剣を納めた音を聞いて振り返る。


その間もマーマンはこちらを見ているのみで襲ってはこない。


「何故、やらない?」


ギヨームさんに聞かれ、答えにくい。争いたくない訳では決してないが、争いたい訳でもない。


回避に越したことはないのだ。


でも、俺にはギヨームさんの問いの『何故、やらない?』かに答えれない。


害悪もたらす魔物に情けをかけたことか?


傷付くことが嫌で逃げたのか?


それとも…


…曖昧に答え、ギヨームさんとの会話は終わる。


「本当は」


俺は聞こえないくらいの小声で前を歩くギヨームさんの背に、先程の問いを答えた。


『居場所を守る姿に自分を重ねました…』


ギヨームさんには当然聞こえてない。彼の足音の方が俺の声よりも大きいくらいだ。


そのまま、残り三割の道程を交わす言葉は少なく進んだ。


町まではあと少し。まだ遠いが歩むべき道は進んでいる。


自分にそう言い聞かせるのは昔からの悪い癖だと知りながらも、俺は居場所を守るためにそうやって生きてきたのだから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ