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30話・本当の年齢を明かせないのが辛い

「お待たせしました」

 戻って来た彼の手には袋詰めされたものと、ビール二つがあった。

「職務怠慢ですよ。ハロルド。勤務中だというのに」

「今日はお祭りですよ。楽しまないと損ですよ」

 リリーが眉をしかめると、けろりとした表情で王都ビールを片方リリーに手渡し、リリーとは反対側の、アデルの隣に足を組んで腰かけた。

 リリーは手渡されたビールにしょうがないですね。と、満更でもない様子だ。ベンチにはリリー、アデル、ハロルドの三人で並んで座っている。

「いいなあ。二人とも」

「トゥーラさまはまだ十四歳ですからね。成人されたら幾らでも飲酒されて下さい」

 愚痴るアデルに、澄ました顔でリリーが言う。ハロルドは傍らで笑っていた。

(もお。本当はあと半年で成人なんですけど… 十四歳の設定だからあと六年は我慢ね)

「まあ。まあ。お子様のトゥーラさまはこちらでもどうぞ」

 手渡されたのは海鮮ピザと、野菜のおやき。焼きとりに牡蠣の燻製。お子様相手には量のある食事に思われるんですけど。それにわたくしが頼んだのは別の物。

「ハロルド。わたくしはチューリップの飴菓子を…」

「あれは帰りにお土産として買いましょう。まずは王都の屋台料理を召し上がれ」

 ハロルドにウインクされて、アデルは自分のお腹がなった音を、ハロルドにも聞かれていたのだと悟る。

「なかなかいけると思いますよ。料理人の食事も美味しいけど、たまにはこのような食事も楽しいでしょう?」

 ここのところ食欲がなかったのを見透かされていたらしい。ひょっとしたらこの外出はナネットが根回ししてくれたのかもしれない。気分転換を進めてくれたのはナネットだ。

「ありがとう。頂くわ」

 自分の空腹状態を誤魔化しても意味はないので、素直にアデルはハロルドから差し出された紙の包みを開いて、野菜のおやきから平らげることにした。

「うわあ。美味しい~」

「でしょ? 他にも沢山ありますから召しあがって下さい」

 ハロルドはぐいい。と、ビールをあおった。彼の横顔にふだんの彼とは違う、大人の余裕のようなものが見えて、アデルはなおさら自分が幼い存在のように思えて来る。

「どうかしましたか? 食べきれないのならお手伝いしますよ」

「じゃあ、お願いしようかしら?」

 確かにひとりではこんなに食べきれないかも。と、アデルが他の手のつけてない包みに目をやると、ハロルドはアデルの野菜のおやきを持った手を持ちあげて、パクリとかぶり付いて来た。

「ハロルド?」

「違いましたか?」

「いえ。違わないけど…」

(わたくしが食べていた物に口をつけた…? これは庶民で言うところの、間接キッスというものではなかったかしら?)

 驚きに目を見張るアデルに、ハロルドはにやりと笑った。ハロルドはアデルが食べきれないのなら手伝うと確かに言っていた。でもまさか自分が食べていた物を直接、口にするなんて思ってもみなかった。

(こういう場合、どうしたらいいの?)

 救いを求める様にリリーを見れば、彼女は何かを一心不乱にむしゃむしゃ食べていた。恍惚のような表情を浮かべ、にひゃらと笑みを浮かべて心はどこかに飛んでる様だ。

 外野のことなど目に入ってないようなので、恐らくいまハロルドがアデルにした行為にも気がついてないだろう。

「リリー。それはなあに?」

 リリーが周囲に関心を持てなくなるほど、夢中になって食してるものを訊ねると、うっとりした様子で、リリーが教えてくれる。

「これはイカの口です。トゥーラさまもおひとつ如何ですか?」

「遠慮しておくわ」

 軟体の烏賊の姿を想像したアデルは、その口と聞いて恐ろしく思われた。

「こんなに美味しいのに。ねぇ、ハロルド」

「リリー。まだこれはお子様のトゥーラさまには早いから。気に入ったのならもう一つどうぞ」

「そうお。ありがと」

 ハロルドが紙包みをもう一つリリーに渡す。なんだか二人の間がとても打ち解けている様で、いつの間にこんなに親しくなったのだろう? と、訝るアデルの視線に気がついたのか、リリーが苦笑した。

「私たちは飲み仲間なのです。毎週、決まった時間に、他の飲み仲間と食堂に集まって飲んでいるのですよ。ハロルドはこれに私が目がないことを知ってるのですわ」

「そう。知らなかったわ。女官たちや近衛兵の方々で? もしかしてそれはちまたで言う合コンってものかしら? わたくしも一回参加してみたいわ」

「トゥーラさまは耳年増でいらっしゃるのですね。いけませんよ。どこで余計なことを吹き込まれたかは知りませんが、その時間はお子さまはお休みの時間ですから」

(もお。お子さま。お子さまって。リリーが言うから周りも信じ込んじゃって。わたくしは本当はもうじき成人になるのに~)

 アデルは見た目が幼いことからどうしても、ハロルドや事情を知らないもの達からお子さま扱いをされがちである。ハロルドはにやにやアデルを見ている。

(なんだか悔しいわ)


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