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19話・悲しい別れ

「ひめさまぁ。ひめさま~」

「どこだぁ。ソール。アデルぅ」

「ソール~ ひめさまああ」

 しぃ。黒髪の少年はアデルに向かって黙って。と、言うように口に人差し指を当てた。

 少年はアデルより五つ年上。六歳のアデルにとって十一歳の少年は身近な異性の中で一番信頼が置けて頼れる憧れのお兄さんだった。

 短い夏が過ぎて秋の気配が深まりゆく頃。日差しは柔らかいが肌に吹き付けて来る風は、山おろしの影響も受けてけっこう冷たさが感じられる。そのなかで少年と繋いだ手は温かい。アデルは大好きな少年とふたり林檎畑に居た。

 古城には広大な林檎畑が広がっていて、熟れた林檎が幾つも身をつけている。その木の裏にふたりでくっついて身を隠して、自分達の行方を探しているリリーや、ハル、トムたちが気がつかずに行ってしまうと、少年はこっち。と、手を引っぱった。リリーたちには悪いと思ったが、アデルはこのまま少年としばらくふたりでいたかった。

「おいで。アデルにだいじなはなしがあるんだ」

「どうしたの? ソール」

 少年も他の仲間をまいてまで、アデルと二人きりになりたかった理由はなんだろうと、アデルは頬を赤らめた。半年前に知りあったソールはアデルよりも五つ年上。この国では珍しい黒髪、黒い瞳のソールは人目を引いたが、とても礼儀正しい少年で、お姫さまに仕える騎士のように、アデルを一人前のレディーとして扱ってくれていた。

「じつは…」

「あっ。ソール。ぬけがけかい? ずるいぞ」

 そこへ白金の髪の少年ハルがやってくる。気さくなハルはアデルより二つ上で、ソールよりは三つ年下でソールの従兄弟。

 慎重派のソールとは違って、解放的な性格で秘密を作るのはちょっと苦手な様だ。だからアデルが住む古城に迷い込んだのが縁で遊び仲間となると、ちょくちょく忍んできては、そのうち従兄弟のソールやトムを連れて来るようになっていた。

「ソ… にいさま」

 後から大人しいトムもついてくる。彼はソールの弟で、兄のソールと同じく黒髪、黒い瞳をしていたが、アデルにはふたりの外見上、他に共通した部分がなさそうに見えたが、兄のソールを慕って、いつも兄の後を追いかけてきた。

「なんだ。ばれていたか」

「あまいんだよ。ソール。ぼくらのめをごまかそうとしたってむだだよ。ねぇ。トム」

「はい。だいたい、ひめさまといっしょになると、兄さまのこうどうはわかりやすいから」

 罰が悪い顔をしたソールに、彼よりは年下のはずのハルが対等に言い返す。ふたりは従兄弟の間柄ということもあってなのか、遠慮のない物言いをし、トムを含めて三人兄弟のように仲が良かった。アデルは一人っ子ということもあり、三人の仲のよさにひかれていた。

「ひめさま。とつぜんおふたりで、すがたがみえなくなったので、しんぱいしました」

 姉のような存在のリリーに諭されてアデルは謝った。

「ごめんなさい」

「ぶじにみつかったのでよかったですけど」

 リリーはちらりとソールの方に何か言いたげな視線を送る。ソールがアデルを連れ出したと思ってるのは明らかだ。ソールはアデルを黙って連れだしたことを素直に謝罪した。

「すまなかった。アデルにどうしてもじぶんのくちでつたえたいことがあったから」

「だからといってかってにひめさまをつれだされてはこまります。ソールさまには、せんれいがあるのでめがはなせません」

 リリーが目を吊り上げると、今度はハルが謝った。

「ごめん。リリー。ソールのこんかいのことはゆるしてほしいんだ。まえみたいにアデルにみせてやりたくて、しょうにゅうどうにつれだしたり、バイカンこやスワンおんせんにつれだすようなことは、もうしないとちかえるから」

「それはどういうことですか? なにかりゆうあってのことですか?」

 アデルの幼少から面倒を見てきたリリーは、アデルにとって姉の様な存在だ。自分より二つしか違わないのに、しっかりした見解をすでにもっていた。

「おれたち… このくにをでてゆくんだ」

 ハルが言いにくそうに言い、ソールは悲しそうな顔をし、トムは泣きそうな顔をしていた。リリーは口を閉ざし、アデルは自分の隣に立つ、ソールに言い寄った。

「でてゆくって… どうして? ねぇ。ソール。それはほんとうなの?」

「ああ。ぼくたちは… じつはハルのははをたよって、ここにはせいようにきていたんだ。それがきゅうにきこくのはなしがでてきて。だからくにもとにかえらなくてはならないんだ」

「ぼくたちって。まさか… さんにんとも? かえってしまうの?」

「そうだよ」

 アデルは茫然とした。仲良くなった友達がいなくなってしまう。それも突然に。

(そんな… みんな行ってしまうの)

「…そのことをアデルに、ぼくのくちからつたえたかった」

 悔しそうにソールは言う。

「そんな… うそよ。ソール。うそよね?」

「ぼくたちもアデルたちとおわかれなんていやだ。もうすこしここにいたいっていってみたけど、ゆるしてもらえなかった」

「いかないで。ソール。ハル。トム。みんないってしまったら、わたくしたちさみしくなるわ」

 ソールに抱きつくと、優しく彼はアデルの頭を撫でた。

「ごめん。でもいつかきっとここにかえってくるから。それまでまっててほしいんだ。アデル」

「いやよ。ソール。いかないで。おねがいっ」

 必死にしがみつくと、悲しそうな声しか返って来なかった。 

「ぼくもおなじだよ。アデルとわかれたくない」

「ソール… じゃあ、わたくしソールといっしょにいく」

「アデル。それは」

 ソールと離れがたくて、ソールに付いて行きたいといえば、リリーがそれを反対した。

「ひめさま。それはいけません。わたしたちは…」

「わかってるわ。でもぉ」

(このままおわかれなんていや)

 リリーの言いたいことは分かってる。わたくしは幽閉されている身。もしそのわたくしが勝手に国を捨てて出て行ったのなら、王はもちろんのこと国民達はどう思うだろう。

「ソール」

 見上げれば黒い瞳が揺らいでいた。

(どうして。わたくしたちはであってしまったのかしら? もしであわなかったなら、こんなにかなしいわかれをしなくてもすんだのに) 


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