表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

#49

 

「姫様。こちらが護衛を務める者達のリストです」

「はぁ……。父上もヴルジー殿も、過剰になりすぎだ。全く」


 普段は少なくとも十名がいる生徒会室は現在、ガウリールとメイドの二人しかいない。ガウリールは護衛のリストを机の上へ放り投げた。


「冒険者カレンぐらいだろう、まともなのは。私も既に十八。実力は上級騎士にも劣らぬというのに……。そもそも、なぜ私があの『チビ』のパーティーなどに参加せねばならんのだ」

「参加しないという訳にはいきません。我慢してくだい。ほんの数時間程です」

「数時間もだ」


 ガウリールはぐちぐちと不機嫌そうに文句ばかり吐き捨てる。しかし、ガウリールに、教室で纏っていたような雰囲気は感じられない。


「まあ、いいさ。久々にアレをからかうとでもしよう」

「おやめください。また私が叱られてしまいます」


 柔らかな雰囲気から、ガウリールが笑顔を交えメイドの少女と会話に興じている。

 ガウリール王女はやはり元々の表情の冷たさと相まって、不平漏らすその顔はやはり不機嫌そのものだが、その物腰は穏やかで、小さくだが笑みも浮かべていた。

 いつもここで食事を済ませているのか、空になった容器の傍で、今は何やら書類群と睨めっこしている。表情は真剣そのものだ。


「ジンドール家の倅は流石と言うべきか……二年でここまでクランを拡大させるとは」

「ランベル様は戦闘ギルドの所属のクランの中でもずば抜けていると聞きます。今年の決闘際は危ないかもしれませんね」

「ははっ。馬鹿なことを言うな。今回も、私が勝つさ」

「どうでしょうか?」

「なんだ。私が負けると言いたいのか?」

「今年は、面白い方も入ったみたいなので」


 そう言った時、ガウリールの表情が露骨に歪んだ。


「アイツか……。あのヘラついた顔。思い出しただけでムカムカする」

「あの方も、きっと出るんでしょう?」

「? 私が知るかそんなこと。それより、お前はもちろん出るのだろう? 副会長(・・・)

「はい。姫様には及ばずとも、善戦させていただきます」

「前回の優勝者が言えたものじゃないな。今年こそは、この私が勝つ」

「楽しみにしております」


 二人のそんな会話を、気配を殺したまま部屋に転移し、ラザスは隅の方に腕を組み壁に背中を預け観察していた。



 *



 一瞬。従者の少女と目が合った気がした。明確に此方を向いたわけではないのだが、恐らく彼女は俺がここにいるのに気付いている。

 そう簡単に気づけるようなものではないんだが……。


 それに、決闘際とはなんなのだろうか。単語を拾うに、文字通り決闘大会なのだろうと予測する。今朝彼女が言っていた決闘とはこの事だったんだろうか。だとしたら、俺はその決闘際とやらでガウリール王女と戦う事になるのかもしれない。あの少女はまるで俺が出る事を予想……確信しているようだった。残念ながら今のところ、俺にそんな気はないのだが。

 そんなことを考えていると、ドアがノックされ、一拍置いて開き、一人の男が入ってきた。


「ランベルか。貴様は二年生だろう。授業はどうした?」

「サーボ先生に許可を頂きこちらに参りました。生徒会長。件の……」

「またその話か。なぜそこまで固執する」

「アレは一族の恥。ジンドール家に生まれながらに魔力が使えず、狩れるのは最下級の魔物のみ。次の決闘際でアレに決闘を申込み、私が勝てば、退学の許可を」

「くどい。ランベル・ジンドール。私にそんな権限は持たされていない。決闘際で優勝でもするか、学園長に直接申し立てよ」

「……分かりました。しかし、失礼します」


 なにやら一瞬で話が終わってしまった。ランベルという男は、さっきの会話に出ていた二年生だった。退学させたい相手がよほど憎いのか、誰の目に見てもその瞳には黒いものが渦巻いていた。ランベルは戦闘ギルドでも実力者の一人だと聞いた。もしかすると、ニノなら何か知っているかもしれない。後で聞いてみよう。


「困った奴だ。なまじ優秀なせいで、全く言う事を聞かん。あの男がジンドール家の次期当主じゃないのは果たして幸可か不幸か……」

「あの様子では、まだ諦めてはいないでしょう。また来ますよ」

「だろうな。本当に困った男だ。あの男と兄弟だというのが信じられん」


 色々ありそうだが、そろそろ次の授業が始まる。何も起きそうにないし、先に戻るか。


「退学退学とは言いますが、大貴族の次期当主をそう簡単に退学にできるとでも思っているのでしょうか」

「思っているんだろう。兄とは違い、素行に問題があり過ぎる。兄の『ニノ・ジンドール』とはまるで正反対だな」


 それを耳にしたと同時に、俺は声を漏らしてしまった。


「ニノ……?」


「!? 誰だ!?」


 声まで消してないのを忘れていた……!! 

 俺は即座に校舎外に転移し、その場を離れた。俺の頭の中は、ガウリール王女の最後の言葉でいっぱいだった。ランベルの兄弟と言っていた。ランベルが退学にしたい生徒は次期当主。つまりその兄であるニノのことだったのか……? もしそうだとすれば、ニノはその事は知っているのだろうか?

 果たして聞いてもいいものか。俺は今の話を聞き、どうすればいいのか。考えた末に、俺はある場所へ転移した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ