#48
「奇遇だな。エレーナ」
「はい。あっ、こっちのお二人は、クラスメイトのメーネさんと二パさんです」
「どうもー。メーネです。よろしくです」
「……ども」
何やら制服を着崩したやんちゃそうな少女と、どこからどう見てもナーシャと同年齢にしか見えない少女。二人共人族だ。エレーナはもう友人を作っていたのか。それにしても、対極だな。片やお山。片や絶壁。
「俺はラザスだ。よろしく」
「もし良ければご一緒しても? それと、そちらの方は……」
「あっ。に、ニノです。よ、よろしく!」
「エレーナです。よろしくお願いしますね! それで……」
「おう。良いぞ」
三人は対面の席に腰を下ろした。二人は結構な量を食べるようだ。俺よりも多いかもしれない。エレーナもいつもより心なしか量が多い。俺の視線に気づいたのか、メーネが違うんですよーと声を上げる。
「今日は実技があったからですよ。それもカレン先生の! いつもこんな量食べてるわけじゃないですからねー?」
「そ、そうか。俺は別に気にしてないが」
「そういう問題じゃないんですよ! ラザス先輩は乙女心を分かってないですねー」
チッチッチっとメーネがそんな仕草を交えながら言った。
「ニノさんは、ラザス様のお友達で?」
「え!? ぼ、僕!? そ、それは……」
ずっとオドオドしていたニノは、突然話を振られ余計オドオド度合が増した。なぜか俺に視線を向けてきたので、代わりに俺が答えた。
「ああ。ここに誘って案内してくれたのもニノだ」
「!?」
「そうなんですね! これからもラザス様をよろしくお願いします!」
流石に、今日会ったばかりの俺を、自分から友達とは言い出しにくかったのだと思う。それとエレーナ? お前は俺の保護者か? やめなさい恥ずかしいから。
「さっきから気になってた……なんで様付けなの」
「え!?」
他が会話する中、黙々と料理へ箸を伸ばしていた二パが、エレーナを見た。その目は眠たげで、二パ本人の雰囲気もボーっとしたものだが、その瞳には興味の二文字がありありと浮かんでいるように見える。
「あっ。それ私も気になってたんですけどー、もしかしてそういうプレイなのかと思って聞けなかったんですよ。なんでなのエレーナちゃん?」
「メーネさんまで!?」
「ラザス君、そ、そうなの?」
「いや? 何でなんだエレーナ?」
「ラザス様!?
面白そうだから乗っかる事にした。エレーナは露骨に狼狽えている。
「もしかしてエレーナちゃん片思い中? ひゃー一途だね。先輩どうするんです?」
「どうしようかなぁ……」
「……ふっ」
「あ、あぁ、もうやめてくださいぃい……!! この話は終わりです! 終わり!」
エレーナが根を上げ、顔を赤くし強引に話題を終わらせた。年相応な姿のエレーナを見たのは、これが初めてな気がした。丁度いい。確かに様付けで呼ぶのはこれから学園に通う上で、少々浮くかもしれない。
「エレーナ。違う呼び方で呼んでみてくれ」
「ち、違う呼び方と言われても……!」
「ラザスでも良いぞ」
「そ、それは流石に無理です……せ、せめてラザス『君』なら……」
「良いじゃないか。それにしよう」
エレーナがうぅと、赤い顔で小さく呻いた。
「僕、様の方が恥ずかしいと思うですけど……」
「ですよねぇ。変わってますよねエレーナちゃん」
「……うん」
「では私たちは次の授業があるのでこれで失礼します」
「またですよー」
「……ばい」
三人娘は次の授業のため先に教室へ戻って行った。
ニノによると、次の授業は入ってないらしく、まだ時間は大丈夫だという。生徒で溢れていた食堂も、今は人数も減り、疎らになった。
「そういえばラザス君は、学園ギルドはどこに所属するか決めてるの?」
「学園ギルド?」
「うん。冒険者ギルドってあるでしょ? それと似たものだよ」
「へぇ……詳しく教えてもらって良いか?」
「うん。まず、ギルドには幾つか種類があるんだ」
ここから話を纏めると、主に魔物との戦闘を目的とした『戦闘ギルド』と、鉱石などを使い武器屋や防具などの作成を目的とした『鍛冶ギルド』、街で多様な店を運営する『商人ギルド』があるという。さらにそこから派生し、パーティーやクランがあり、各々違う目的や概念で活動しているらしい。
「ニノはどこに入ってるんだ?」
「僕は、一応、戦闘ギルドに……」
「へぇ、意外だな」
「そうだよね……僕みたいなのが戦闘ギルドに入ってるだなんて、おかしいよね……」
「いや、そういう理由じゃくて、戦闘とか苦手そうだったから」
強いて言えば、商人ギルドなどの落ち着いたイメージのギルドに入っているのかと思った。案外、面白い性格なのかもしれない。
「うん……苦手だけど、少しでも結果を残したいんだ。卒業したら、騎士団に入りたくて……」
「騎士団か。立派な目標だな」
「でも、三年経ってもまだスケルトンしか倒せないんだ……最後の年なのに……」
「それはまた……」
スケルトンとはゴブリンに並ぶ低位の魔物のことで、クエストのランクでいえばEランク相当の魔物だ。
「皆魔法を使ったりできるのに、僕だけ上手く使えなくて……」
「魔法が?」
「うん……なんか、『何かに』止められるんだ。中等部の頃はそんなこと無かったのに……」
ニノは凄く落ち込んでいるようだ。騎士団に入るために結果を残さなければいけないのに、その為の手段が閉ざされている状況なのだ。その心境は俺には計り知れない。
「力になりたいとこなんだが、俺にはそう言った話はさっぱりで……」
「い、いや! そんなこと、全然! その気持ちだけでも嬉しいよ」
ありがとう――。
俯かせていた顔を上げた時、一瞬だけ髪で隠れている表情が見えた気がした。その声は一見気丈なものに聞こえるが、俺にはどこか空元気なもののように思えた。
そういえば、と。学園ギルドの話を聞いているときふと湧き上がったことを、ニノに訊ねた。
「そういえば、戦闘ギルドは魔物を倒すって言ってたけど、確かこの周辺は草原続きでワーウルフくらいしかいない筈じゃなかったか?」
「あれ? 知らなかったんですか? この街の下にはダンジョンがあるんですよ。そこに潜って、魔物を倒すんです。鉱石なんかも取れるんですよ」
「何だと……?」
ダンジョン――。その言葉に、この学園での俺の本来の目的を思い出した。そうだ。王女の護衛だ。いくらまだパーティーまで時間があるとは言えども、それまでの間の期間に何かしてこないとは限らないのだ。
俺は席を立ち、ニノに告げた。
「すまんニノ。用事を思い出した! 先に戻るっとその前に。ガウリール王女がこの時間どこにいるか知ってたりしないか?」
「え? それなら、生徒会室にいると思うけど……」
「生徒会室……?」
「う、うん。すぐ隣の校舎だよ。食堂を出て直ぐの渡り廊下を渡ったら行けるよ」
「分かった。ありがとな!」
俺はガウリール王女がいる生徒会室に向けて足を進めた。