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#44

 

 初めてこの街に来る人間は、立場関係なく、眼前に聳える巨大な城壁に圧倒されるという。見上げる程高いその壁は分厚く黒い。この壁にはアダマンタイトが万遍に使われており、その硬度はドラゴンのブレスですら傷一つ付けられないという。


 学園都市シャグリアに着いた俺たちは、北門の直ぐ脇にある詰め所の一室でカレンを待っていた。事前に貰っていたカレンのサインが入った通行書を見せたところ、確認するとのことで、現在待機中である。


「噂通りの凄い大きな街ですねぇ。あんな大きな城壁私初めて見ましたよ」

「一度ガルガンツの王都に行ったことがありますが、それと同じか、それ以上ですね」

「色んなお店がありそうで楽しみですねっ」

「そうだなー」


 さて、これからカレンと会うから、クエストの件は……ギルドに行けば良いのかね? そもそもこの学園都市に冒険者ギルドはあるのだろうか。聞いた話では学園ギルドなるものがあるらしいけど。と、考えていると、扉が開き待っていた人物が現れた。


「すまない、待たせた」

「おう」

「カレンさんっ! お久しぶりですね!」

「この間会ったばかりじゃないか。相変わらず元気だなエレーナ」

「こんにちはカレンさん。今回はありがとうございます」

「サラノ、だったな? いや、良いさ。今の状況・・・・では、こちらとしても助かるからな……ん?」


 何やら含みのある言い方だったが、そこでサラノの後ろに隠れていたナーシャにカレンが気づいた。カレンの視線を受けたナーシャはピクンッと反応した。もしかして人見知りなのか?


「は、初めまして! ナーシャと言います! 歳は15です!」

「ははは、面白いメンバーが増えたみたいだな。今は学園で教師をしている、冒険者のカレンだ。よろしく頼む」

「ほ、本物の『鮮血姫』だぁ……!」


 ナーシャの言葉に、差し出したカレンの右手がピタリと止まった。


「ナーシャと言ったな?」

「は、はい!」

「今後、私の前でその名を口にするな――いいな?」

「ひゃい!!」


 表情は変わらないものの、ドスの効いた声に、ナーシャは直立不動になり、すっかり怯えている。何が気に入らないのだろう。俺はイメージピッタリで良い二つ名だと思うんだがな。


「それより、俺たちはもう出て良いのか?」

「ああ。そうだ、昼はもう食べたか? もしまだならご馳走しよう。良い店がある」

「おっ、ならお言葉に甘えて」


 カレンに連れられ、詰め所を出て無事シャグリアへ入ることができた。街へ入ってすぐ、流石学園都市というだけの事はあり、道を歩く人の年齢層は低く、多様な種族がいる。それに同じような服を着ている比率が高い。白黒青赤の四色で作られた、学園の制服だそうだ。二種類あるらしく、普通の制服と、ローブで、前者は男女で下がズボンとスカートと分けられ、ローブの方はみな同じだ。あとは付いている腕章の色が違うくらいか。


「学生が多いですね。いつもこんなに賑わっているんですか?」

「いや、今日は学園が休みだからだ。いつもなら授業後でないとここまでない」

「そうなんですねー……」


 エレーナは興味津々といった様子できょろきょろと視線をあちらこちらに彷徨わせている。ナーシャも同様に、忙しなく周囲に視線を送っているが、恐らくエレーナとはその理由ワケが違う。妹を探しているのだろう。今にも駆け出しそうな勢いだ。



 雰囲気のある木造のカフェのテラス。数人の客以外は店員が一人カウンターにいるだけで落ち着いている。カレンに連れられた店だ。本人曰く、ここの料理がこの街で一番美味いとのことだ。

 料理を待っている間、俺はカレンに向けて、口を開いた。


「なあカレン」


 丁度目の前にはこの学園の教師がいるんだ。生徒探しにはうってつけの人材である。


「ん? 何だ?」

「この学園に、ミウって女の子がいるか知ってるか? あー、歳は……」

「13です! お団子頭で、ボーっとしてる娘です!」

「だそうだ」

「ふむ……」


 カレンが考え込む。生徒の数も相当な筈だ。カレンが知っていればいいが。


「……いや、聞いたことが無いな。すまない、私の担当は二年生で校舎も違うのだ」

「い、いえ! いいんです! この学園にはいるはずなので、ゆっくり探します!」

「そうか。私の方も学園に戻ったら調べてみよう。力になれるかは分からんが」

「ありがとうございます!! カレンさん!!」


 ナーシャが凄く喜んでいる。もし尻尾があればそれはもうブンブン揺れていることだろう。サラノが微妙に悔しそうにしている。サラノはカレンに変な対抗意識を宿したようだ。


「お待たせしました。ワイバーンのパイ包みでございます」


 料理が来たようだ。食欲を誘う匂いが充満しだす。


「すんごい良い匂いだなこれ」

「ラザスさんこれ絶対高いですワイバーンですよすごいです」


 ナーシャ? そういう話はやめなさい?


 俺たちの前に置かれたのは、こんがり焼き色の付いたドーム型のパイ。それをカレンがナイフとフォークで二つに割った。


「この中の肉が最高に美味い。さあ、食べてくれ」


 ステーキのように切り分けられ皿に分け、中のスープも一緒にかかったワイバーンの肉。それを一切れ口に入れた。


「うっま。美味いなこれ」

「そうだろうそうだろう。ちなみに私が狩ってきた」

「カレンが? なんで自分で作らないんだ?」

「…………やはり美味いな。マスターもう一つ頼む!」


 露骨に話を逸らしたカレンがさらにもう一つ頼んだ。おいおい……これ結構な量だぞ? 無理してないですか?


「ああ、そういえばラザス」

「ん?」

「この後、空いてるか?」

「「!?」」


 料理を美味しそうに食べていたエレーナとサラノが突然反応した。


「ああ。何かあるのか?」

「うむ。学園長がお前をお呼びだ。私が直接来たのもそれを伝えに来たのだ」

「ほー。分かった。宿を決めたら直ぐに向かうよ。街の中央だよな?」

「確かに中央に学園はあるが、幾つかの区画に分かれていて分かりにくいだろう。宿の伝手があるから、そのまま案内しよう」

「それは助かるぜ」


 一通り話を終えて、食事に集中する。俺たち三人は綺麗に完食し、カレンもおかわり含め全て食べきった。あの細い体によくあれだけ入るな……。会計の時金貨が見えたがナーシャの言う通りほんとに良いお値段のお店らしい。人が少ないのも納得だ。学生の財布には少々厳しい値段だ。


 カレンに案内された宿は内壁区と呼ばれるエリアにある『放浪宿』という三階建ての変わった名前の宿だった。名前は置いといて、学園にも近く、部屋数も多く綺麗な放浪の宿はそこそこ繁盛していたが、予めカレン先生が二部屋・・・予約してくれていた。ありがたいことである。


 宿に三人を残し、俺は一息つく間もなくカレンにより学園に連れてこられた。驚くことに、三つ目の城壁の中には信じられない程広大な敷地が広がっていた。見渡しは大変良く、門から伸びるメインロードの両脇には等間隔に木々が植えられ、左右正面の奥には無数の巨大な建物が見える。休みだというのに、それなりの数の生徒たちが行き交い、カレンはそんな生徒たちからの挨拶を返している。俺の視線に気づき、止めていた足を動かした。


「まさか自分が先生などと呼ばれるようになるとは思ってもいなかったよ」


 と、照れくさそうに言った。


「結構様になってたぜ」

「ぬかせ。これでもそれなりに経つ。慣れだ」

「もし俺が入ったらよろしくな。カレン先生」

「冗談はやめろ」


 もちろん冗談なのだが本気で嫌そうな顔をされてしまった。その後会話は止まり、そのまま学園長なる人物が待つ校舎へと向かう。


更新時間についてですが、大体20時から21時頃です。

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