#43
「まあ、一旦持ち帰るよ。流石に一人で決められるような内容じゃあないんでな」
「うむ。それは構わんが。だがここにまた来る必要はないぞ」
「え? じゃあこれどうすんだ?」
グランはこっちを向き、静かに告げた。
「返答は学園都市で聞くとの事だ。君の目で直接決めると良い」
こ、こいつ……こっちに全部丸投げしやがった……ッ!!!
*
一足先に宿へと戻った俺は、一人部屋で寛ぎつつ、クエストの事について考えていた。
王女の護衛。なぜそんな依頼が、いくら自身がSSランクの冒険者とはいえ、一つならまだしも二つ同時になど、流石に普通の事態ではないだろう。マジで、なんでこんな依頼が……。
「要相談だな……」
俺は三人が帰って来るのを待った。だが中々帰って来ない。朝同時に家を出てから、すでに日は傾き始めている。ショッピングだから、仕方ないのだが。
道中の着替えや、向こうで使う衣服などを揃えているんだろう。
「ただいま戻りましたっ! すいません、思ってた以上に時間が掛かってしまいました」
日没の手前。あれから暫くすると三人は帰って来た。
ショッピングだと聞いていたのだが、意外なことに荷物は少ない。丁寧に包装された大きめの包が3つと、それとは別の包装が施された包が一つだけだった。
どうやらその一個は、渡していた分とは別の、三人がそれぞれお金を出し合い買ったらしい。正直今の俺なら例え自分の渡した分でもそれはそれは喜んだことだろう。
中身を取り出すと、赤と黒を基調としたマントが入っていた。魔力を感じる。
「この先の季節は冷えてくるので、ご主人様に着けていただこうかと思いまして」
「簡単には傷まないように保護魔法がかけてあるので、戦闘にも使えるんですよっ!」
とのことらしい。素直に嬉しい。無性に抱きしめたい。いやしかしこの空気は違う……まだナーシャもいるしな。そう考えると落ち着いてきた。ありがとうナーシャ。
「ありがとう、三人とも。嬉しいよ」
内心小躍りしたい気分だが、流石に引かれたくはないので我慢しよう。
……何か忘れてる気がする。……あ!!
「そうだった。見てもらいたいモノがあるんだ。ギルドからの指名依頼なんだけど
意見が聞きたい」
「「「?」」」
三人とも頭の上に?を浮かべている。「なぜ私たちに?」とでも考えているのだろうか。見たら多分驚くだろうなぁ。
「これなんだけどな。同じのが二枚きたんだよ。どうしよう」
エレーナが机の上に置いた二枚の紙を手に取ると、両脇の二人が同時に顔を寄せ覗き込んだ。あっ、可愛い。
そして目線が一通り手紙を行き来した後、三人は動きを止め、食い入るように依頼書を見る。それはもう凄い食い入るように。エレーナとサラノの耳がペタンと前に倒れている。あっ、可愛い。
「この場合どっち選べば良いのか迷ってな」
「こ、ここ、これ……!! 王族からの依頼じゃないですかっ!? そ、それも神聖国まで……!?」
「流石ですご主人様」
「ラザスさんって、SSランク冒険者だったんだ……知らなかった……今までの態度不敬罪にならないかな……」
エレーナは文字通り驚愕し、サラノはいつも通りの雰囲気で、ナーシャは呆然とし手紙を見ていた。それとナーシャは一体上級冒険者にどんなイメージを持ってるんだ。不敬罪なんて言い出せば初対面でもうアウトだぞ。
「凄いですよラザス様っ! 王族からの指名依頼なんて滅多にあることでは無いです!」
「でもこれ、二枚とも依頼内容が一緒なんだよなぁ……」
素直に喜ぶエレーナとは対称に、サラノは冷静に言った。
「何か、怪しいですね。王族からの指名依頼が同時にくるなんて……」
何か考えてるようだ。そして「あっ」と声を出し、再度言った。
「思い出しました。確かこの依頼書に書いてある神聖国第二王女と、ガルガンツ第三王女は、とても仲が悪いんでした」
「あくまで私の妄言ですが、恐らくどちらかが先に、ラザス様に指名依頼をしようとしたんです。それを偶然知ったもう一方が、対抗して同じ依頼を送った……」
ふむ。
「恐らく今一番注目を浴びているであろうラザス様を気にするのは、国の人間であれば当然かと」
一理ある。国同士であれば、色々間にあるのだろう。しかし何だろう、嫌な予感がする。サラノが恥をかくような、そんな予感がする。わざわざ同じ依頼を送らず人を直接送ってくれば良いんじゃ……?
まぁその時は恥ずかしがるその様子をじっくり観察すればいい。外れてくれサラノの予想よ。
「ま、シャグリアに着いて両方の人間と話をしないと、この依頼書には全く詳しい事が書いてない。王族が持ち込むような依頼なら、ただの文字通り、内容通りの依頼ではないだろうし」
結局シャグリアで詳細を聞いてからでと言うなことになり、今日は明日に備えて、食事を済ませ、寝ることになった。
俺が分身創って二人になったら、驚くかなぁ……。
翌朝、俺たちは身内への挨拶もそこそこに、サランを出て南へ馬車を進ませた。そして三日目の今日、昨日までは街道に馬車や旅人達がちらほら見えていたが、シャグリアに行くに連れて、その数は減っていった。
一方で、護衛を付けた馬車の数が増えたような気がする。たぶん、商品を乗せた馬車だろう。なんでもシャグリアは、学園が経営する店とは別に、許可さえ貰えれば、商人達も独自に店を開く事が出来るという。簡単にOKは下りないらしいが、この中の一部にはシャグリア行きの馬車も混ざっていることだろう。
「明日の昼頃には着くだろうし、今日は俺たちもこの辺で休むか」
空が暗くなり始めた頃、開けた場所があったので、今日はそこで野営をすることにした。他のグループも、ここで休む事にしたそうだ。強行軍なのか、そのまま通り過ぎて行った馬車が何台かいた。
「食事の準備をしましょうか。あっ、ラザス様、何か食べたい料理などはありますか?」
「うーん……『肉』」
「それなら丁度この間買ったウォーターホースの肉があるので、それが良いでしょう」
エレーナとサラノが味付けで揉める傍で、ナーシャ渋い顔でこちらを見ていた。
しょうがないだろ! この世界の料理とか俺は知らないんだよ!
「さあ、ナーシャ? 貴女も手伝うのですよ。こら、どこに行くんですか? あっ! 待ちなさいナーシャ!」
それから、こそこそと逃げようとするナーシャをサラノが捕まえ、調理に加わった。どうやら料理は苦手らしく、料理用ナイフで叩くように肉を切っていたのを見たエレーナが慌てて切り方を教えていた。
今回サラノは味付けに回ったようだ。そして俺はそれを食べる役。スープの味は濃い目で、一緒に出てきたパンとの相性は抜群だった。ウォーターホースの肉は瑞々しくとても美味しかった。ただ、一枚だけズタボロのものが出てきたのは驚いたが、ナーシャが最初に切っていたものだと気付き、普通に食えた。もちろん美味かった。