#9 竜違いでした。
「なんだコイツ? 真っ黒じゃねえか」
「グルルルルル……」
うーん? 聞いた話しじゃあ氷竜って鮮やかな青なはずなんだが、今目の前にいる竜は紅い眼に15〜6m程の真っ黒な体、薄黒い翼。どういうこっちゃ。まぁ、倒せば良いか。だってこいつすげえ嫌な感じするもん。完全に悪竜でしょコレ。
「てことで、俺の資金になりやがれ」
一気に神力を解放する。もちろん抑えに抑えての力だが、100とする10くらいかな。
「グルアアアアアアアアア!!!!!」
圧倒的な強者を前に自らを鼓舞するように大地を震え上がらせる程の咆哮を上げて、巨大な鉤爪をラザス目掛けて振り上げる。
「ふーぅ……」
巨大な鉤爪が迫るもラザスはまだ行動を起さない。静かに息を吐き両腕をダラリと下げ、攻撃どころか避けるそぶりすら見せない。
黒い竜はその様子を見て鋭い牙が並んだクチ元を釣り上げ、自身の勝利を確信した。
「グルガアアアア!!!」
ラザスの居た場所が巨大な爪によって抉り取られ、三つの巨大な爪跡が横に薙ぎ払われたかのようになっている。
ラザスの姿はそこにはない。黒竜はそれを見て勝利の咆哮をあげる。
「グオオオアアアアアアアア!!!」
だがそれは間違いだ、確かに黒竜の攻撃は届いた。ただそれは、ただ地面に届いただけだ。
「気がはえーよ、バーカ」
目で捉えられない程の速度で地を音も無く蹴り、宙に避けたラザス、拳を引き黒竜の頭に叩きつけたその刹那―― 巨大な落雷が落ちたかのような轟音が響き渡る。大地は砕け、砕かれた大地の破片が砂煙と共に宙に巻き上がる。
「なんだ、ただ喧しいだけのトカゲじゃねえか」
砂煙が霽れるとそこには直径60mはあろうバカデカイクレーターができていた。黒竜は最期の声を上げる事もできず跡形もなく消えていた。
この世の大抵の生物はラザスの敵ではない。否、敵とすらない。今ラザスがやったのはただ拳を叩きつけただけだ。
実際黒竜は竜の中でもトップクラスの実力を持っていて、1匹で国をも滅ぼすと言われ、邪竜とも言われている。
だがラザスはその事を知らない、知ったとしても特になんの反応もしないだろう。
何せもう邪竜はラザスからは唯のデカイだけのトカゲと認識されたのだから。
「氷竜どこなん……」
***
時は少しばかり遡る。
「――えっ?」
辺りが突如薄暗くなり不思議に思い空を見上げるエレーナ。エレーナはソレを見て戦慄した。なぜならソレは本来ならここには居ないはずなのだから。いや、居てはいけないはずなのだから。
「あ、あ……う、そ……ラザス様が……ラザス様が…負け、た……?」
ラザスが黒竜に勝ち、氷竜を探しているとも知らないエレーナはソレを見て最悪の状況を悟ったのだろう。ラザスが負けた、と。ラザスの実力を疑わず勝利を確信していたエレーナなら仕方ないだろう。なぜならソレがこの場にに居るという事はそういう事になるのだから。
「氷竜……」
鮮やかなライトブルーの鱗はキラキラと海の如く輝き、深海の如き深い青の眼、額に生えた黒く輝く逞しい2本の角。
氷竜は翼を羽ためかせながら静かに着地する。
『ここに何の用だ、獣人の娘よ』
「は?」
ありがとうございました!