平行線なので。
ダーストと一人が残って、後は帰ってもらった。
そう、残った一人は何故かレイに斬りかかった奴だ。なぜそんな神経の図太い采配をするのか。お二人は!とルルは、怯えた。
「ネチネチ嫌みを言うためですよ」
にこやかに冗談だと思いたい事をいい放ったリジェ。逆の立場ならいっそうトドメを一気に刺してほしい。
ルルは、ベットに寝せられた。寝たくない。と主張しているが、ベットに入ってろとのご命令。くそ、眠たくなったらどうするべきか。どうでもいいことで悩んでいた。
ベットの脇に椅子を持ってきて、それに座ったレイが買ってきた果物の皮を剥いている。
どうも話は全部リジェに任せる気らしい。
リジェは、ただ黙って笑顔だ。なんにも喋ろうとしない。当たり前だろう。部屋は貸したが、接待すべきは彼らだ。自分たちの方には彼らを接待する理由はない。
「……名乗るのも、まだでしたね」
ようやく友好ムードの欠片も招かざる客だと了解してくれたのかダーストが口を開いた。
ここから、我々を友好的な人間に変える手だてがあるならいいが、基本的に他人との精神的繋がりを高いレベルで遮断する壁を造り上げてる人間ばかりだ。すまない。絶望的だと思ってくれ。と合掌するルル。
「林檎食べてろ」
皿に盛ったウサギさん林檎は可愛いが、レイは完璧に彼らをないものとする気だ。リジェにしたって有益な情報がないと判断したら部屋から蹴り出すだろう。
ルルとしても、この人たちと話すより、レイの魔法の件とダーストが自分に憑いてると言った精霊の件やお金とかどうしてたんだろ。とかその他諸々をリジェたちに説明願いたい。のだが、
「名前なんかに興味はありません。出来ましたら用件のみお話しいただいて、さっさと帰ってくれますか?」
誰か、優しいあにさんから愛想がなくなった時の耐えられない怖さをどうにかする方法をわたくしに伝授してください。やばい。まじで怒ってる。有益な情報とかいらないから話だけ聞いてやる。後は帰れ。という意味合いの笑顔だ。ルルは、内心冷や汗が止まらない。
ダーストともう一人はひきつった表情をした。まあ、そっちが悪いんだし。
「わ、我々が申し訳ない事をしたとは思っている」
「特に君が、ですよね」
ダーストにばかり謝らせるのもと思ったのか果敢に喋ってみたら、リジェに返り討ちにされた護衛。凄い。自爆ってこういうことだろうかとルルは感動した。
「具合の悪い人間がいるとは思わなかった。否、むしろ、そういう人間を保護するのが我々の仕事だ…です」
「志は立派です。お見事。では、ここにいる体の弱い子は僕達の保護対象ですので。あなた方はさっさと他の弱っている方にその保護の手を伸ばしましょうか」
どうしよう。冗談だと思いたかったのだが、ネチネチ嫌みをいう為に彼を残したとの発言は本気だったらしい。
リジェは綺麗な笑顔だ。あの誰もが魅了される綺麗なお顔の笑顔だ。でも、目はいっさい笑っていない。
ルルは、どんどんレイが剥いてくれる果物をむぐむぐ食べながらどうするのかなー?一回帰ってみたら?とか心の中で助言する。
実を言えば感情論を優先しなければ、この人たちの話って聞かなきゃいけないかも。とかは思う。でも、リジェ達は別な情報源でも私が寝てる間に見つけたのかやたら強気だ。……そういえば、お二人が他人に対して弱気なとこって見たことないな。と思う。
二人の考えを覆すほどの意見も不安も根拠もない。ので、現状維持でいいのか?しかし、ひとり、役に立たないのも申し訳ない。何か一つくらい役にたつ能力でも目覚めないかな?と、シャリシャリ林檎を貪りながら思案するルル。まあ、耳を傾けるくらいしかできないけど。
「ーー我が国では異世界の人間は差別の対象になります」
これには、ルルが驚いてレイに視線を向けると頷いた。本当らしい。あれ、でも、宿のおっちゃんは、私達を差別していないようだったが?と首を傾げる。
「ええ、聞いてます。通常、異世界人はひとり。僕達は3人で行動していたのと、言葉が通じる僕が居たこと。何より、喋れない2人は、複数の言語を使い分けていたので、どこか辺境からの旅人だと思われたようですね。……見分けるポイントであった『言葉が通じない』という弱点は克服させていただきました。この村に居づらくなる程度であなた方に保護してもらう予定はありません」
辛辣だ。
「見る人が見ればわかります」
「だから?」
食い下がるダーストにリジェは、本当に冷たい。
「彼女は『魔力酔い』を起こしている。然るべき医療をーー」
「差別してる国のお偉いさんに身を預けろとは、どこの笑えないジョークだ」
埒があかないと感じたらしいレイも参戦し始めた。しかし、『魔力酔い』ってなんだろ?
だんだん、林檎にも飽きてきたとルルは思った。もう5つも食べてるし。
「『亜種』にまで関わらせるなんて、彼女が可哀想だと思わないのですか!」
なんだか、相手もヒートアップしてる。
しかし、また知らない単語が出てきたな。と呑気に考える。『亜種』か。あとであにさんに訊いてみるか。
それにしても、自分の状況がいまいちわからないのは気分が悪いな。
「ダースト様、もうこんな奴等に関わるのは止しましょう。折角の救済のチャンスを自ら捨てる馬鹿どもなど」
「アレン。私は、もう陛下の愚かな行いの犠牲者を増やしたくない」
……あ、あのひと。アレンって名前なんだ。ようやく知ったよ。
しかし、埒あかないね。とルルは、辟易してきた。ので、今日は帰って貰おうと口を開く。
「貴方たちの話を信じられる根拠がないっすよ」
林檎をシャリシャリしながら、呟くとアレンとダーストがルルの方を向いた。すげぇ、勢いで。
「根拠とは!?」
「ルル」
咎める色はないが、幼なじみが心配そうだし、ダーストはなんか必死だ。
「お二方のいう困ったことが、いまいちピンと来ないッス。お二方を信頼する根拠もないし。そんなのに着いていくとか、それって逆の立場なら出来ますか?」
沈黙。
まさか、一番か弱そうなのに痛いとこ、突かれろとは思わなかったらしい。
「……信じてもらうしかないのだが、」
「何を持って、ッスか」
絞り出された声にルルは、首を振る。
「あにさんとあに様はまだ話を訊いてくれてる方ッスよ。今度来る異世界の人たちの為にもう少し、たぶらかしの方法を学ぶべきッス」
にこにこと話はもうお仕舞いですね。と拒絶してみたら、驚くくらいに悲しそうな表情をなされ、ルルは焦る。言いすぎたかと。私的には、もう少し落ち着いて話し合おうよ的な意味だったが、きつかったのだろうか。
「……話は、終わりだと言いたいのですか」
声音が暗い。なんとなく、リジェの嫌いな部分に近いそれに情が動きそうになる。しかし、だからといって、発言したものを撤回するのが難しい。
うん。仕方ないよね!的な行動に移るんだよ。ルルは。
「いいえ、再チャレンジしたかったら明日にしてほしいというお話ッス。もうお腹空いたので夕飯にしたいっす。あに様、あにさん」
にこーっと、ルルの貼り付けた笑顔にやれやれと幼なじみたちは緊張を解き、そして、ダーストは目をぱちくりさせ、アレンは、呆れた顔で。
「先程から、林檎をかなり食べていたようだが……?」
「前菜ッス」
まだまだ、ルルの胃には余裕があります。と宣言したら、アレンとダーストは絶句した。
失礼だと思った。