心配させていた。
視線を一気に集めたレイは、眉間に皺を寄せて不機嫌を一切隠すつもりはないらしい。
……抱えてる布袋の中身が気になる。食べ物だと良いなとルルは、のんきな気分だ。
そんなルルの視線に気づいたらしく、ズカズカと人の群れを邪魔だとばかりに蹴散らす勢いで、こちらに向かってくるレイ。
途中、お兄さんに呼び止められ掛けられたが、ひと睨みで黙らせた。
「体調は」
いきなり、体調を聞かれた。別に少し、ダルいくらいなのだが。しかし、適当に濁すとあとからカミナリが落ちると判断したルルは、少し考え。
「ちょいだるくて、眠いッス。あとお腹空いた」
ルルの言葉に頷いて返すレイ。布袋をあさり、そこから布に包まれた何かを取り出し、開いて見せた。……サンドイッチだ。普通に。
「食べてろ」
そして、部屋に戻れとの指示。なるほど、あとの対応は任せろと仰るらしい。そうですか。
宿屋のおっちゃんにスープか飲み物を頼み、追い払うとレイは、お兄さん方に向き直る。ーー怒気がスゲエなあとルルは呑気にもそもそとサンドイッチを食べる。
「人の留守中に上がり込むとはいい度胸だな」
「泥棒とかってそんなもんッス」
「お前は黙れ」
ルルが茶々を入れると、睨む。
そういえば、この件は寝ている自分を置いてきぼりにして出掛けた幼なじみたちが悪いのではないだろうか?指摘したら怒るかな?と考える。
「それは……、まさか貴方も異世界から?彼女を保護した。という訳ではないのですか」
なんだろ。あのお兄さん、不思議そうというより信じられないものを見ている感じで自分とレイを交互に見比べていると首を傾げるルル。
「コレの保護者だ。ーー恥だと思わないのか、という質問に答えろ」
悪意たっぷりですね。レイ。あと、保護者って二つしか違わないよ?保護されなきゃ生きてけない自信はあるけどさともくもくとサンドイッチを口に詰めながらなりゆきを見守るルル。
「確かにアポも取らずに複数で押し掛ける真似は礼儀に反します。が、こちらにも理由が有るのです」
「ほう。礼儀に反した恥知らずが一人前に反論でもあるのか。それで、それを聞いてやる義務がこちらにあると思うか」
ただいま、ルルはとても消化によくない環境の中でサンドイッチもどきを咀嚼しております。もどき、というのはなんか。サンドイッチに見えたけど、味はパンケーキだったからだ。うん、コーヒーか紅茶カモン。
そしたら、スープかお茶をと指示されてたおっちゃんが、気を利かせたのか野菜スープを持って、レイが造った殺伐とした空気間を切りぬけてルルの元に来てくれた。……正直、スープは辛い組み合わせだ。礼を言ったが、正直、やり直せと言いたい。
しかし、もう一度この空間を歩いてこいと鬼の所業としか言えない事は言えない。ルルは妥協した。
そそくさっと逃げていくおっちゃんの危機管理能力の高さにこの宿は安泰だと他人事だが思う。
レイの不機嫌度の高さにルルは、そろそろお兄さん方の撤退を申し付けたい。せめて話を聞いてくれるリジェがいるときにもう一回くればいいのに。
物騒にもお兄さん以外が、なんか腰の得物に手を掛け始めてる。ーー気づいてない訳ないよね。あに様。とのんびり、ランチを楽しむルル。
「貴様…、ダースト様に無礼が過ぎるぞ」
低い、怒りを抑える気のない雰囲気に、なるほど。ルルはレイに目を向ける。レイは視線に頷き返す。
この人たちにとって、少なくとも礼儀という形だけでも取るつもりなのは、先程から自分たちの対応をしているお兄さんーーダーストという人物のみらしい。
「お前たち、彼らは客人だ!」
ダーストの叱責にも周りの男たちは、剣から手を離すつもりはないらしい。
レイが薄く笑みを浮かべる。暖かみの欠片などない相手を嘲笑う仕草だ。
「客人?貴様らの招待を承るつもりなどないが。それとも、無理やり連行するつもりか。はっ、どこのゲスのやり口だ」
火に油ってこういうのをいうのですね。最高ですあに様。何がそんなにお怒りの理由なのですか。わたくしの足りない脳に養分となるようなご説明求める。ルルは、そう思いながらスープに口をつけた。
組み合わせが良ければおいしかったのに。
そんな阿呆な事を思った瞬間に一人の男が我慢の限界とばかりに抜刀し、レイに斬りかかる。ダーストが慌てて、男を止めに入ろうとしたが、遅い。躊躇いがない人間に止めるつもりならー…、
「斬られる趣味はない」
斬りかかってきた男を冷めた目で見下し短く、何かを呪文のようなものを口にしたレイから強烈な熱気が放たれる。それを感じた瞬間か、男は飛びかかるのを躊躇う。
「はあ?」
間抜けな声と同時に炎の塊がレイに斬りかかった男に襲いかかる。え?致死量じゃね?とルルが思った瞬間、ドカーンっと、それは男の目の前で爆発した。爆発の反動で体を投げ飛ばされたが、周りの仲間がそれを抱き止める。その為か大した怪我をしてる様子はない。しかし、どうも死を覚悟したのか男は呆けている。
「………は?」
やられた側の間抜け面。そして、やった側の不愉快そうな顔に呆れた声が掛かる。
「レイちゃん。手加減って知ってます?」
いつの間にか現れたリジェ。
「強者のエゴだ」
レイは、きっぱりとリジェの苦言を言い捨てる。あ、宿のおっちゃんが、リジェの後ろでアワアワしてる。探してきてくれたのか。超ありがたいんすけど?あざーっす!とルルは心で感謝した。
「……何をした」
とりあえず、自分の放った魔法?かなを押さえ込まれたのが面白くなかったのか咎めるような言い方をするレイにリジェは苦笑した。
「威嚇用の魔法だとはわかったんですけど。威力が強すぎてあのままだと全身火傷になったので、彼にちょっと軽めに吹き飛んで貰っただけです。君の魔法は軽く結界に包んで爆発させときました」
………もうちょい易しく説明お願いします。ルルの口に出さないお願いに気づいたらしいレイがため息を吐いた。
「俺の魔法が未熟だという話だ」
「レイちゃん。無理に悪ぶらなくていいです。威嚇用の魔法が、慣れていないせいで暴走していたので。僕が強制的にあの彼の前の位置で爆発させて、ついでにそれに巻き込まれないように馬鹿を吹き飛ばしたという話です」
にこやかにわかりましたか?と尋ねてくるリジェにそれって色んな魔法を同時に使ったという話で、もの凄い事なのでは?とルルは疑問いっぱいなのですが。ほら、見なよ。周りはリジェを化け物でも見る目で見てるよ。驚愕ってやつ?とルルは、呆れた。
「それにしても三日も目を開けなかったから心配したんですよ。無理しないで寝てなさい」
リジェに優しく促された内容に驚愕するルル。
「三日も寝てた?」
「はい。宿について仮眠を取りたいと言って寝てからずっと」
レイのお怒りの理由がよくわかったルルは視線をダーストたちに向けると驚いた表情の後、物凄く気まずげにしている。
なるほど、寝込んでいる人間の部屋に大人数で押し掛ける真似をされたら身内は怒るわな。しかし、それなら宿のおっちゃん言えばいいじゃん。
おっちゃんを責めるような視線を向けても仕方ないだろ。と思考が漏れたのか、レイが少し、気まずげにしている。珍しい。
「起きたら…、果物でも食べさせたいと思ってだな」
ボソボソと、ちょっと席を外した。と謝まり言葉どおりに袋いっぱいの果物前に結局心配掛けた自分が一番悪いのか。と心からルルは反省した。体弱くてすんまそん。