レイ編 2
意識を失ったルルを抱き上げレイ達が宿に戻ってきた瞬間、窓から何かが投げつけられた。
ベルだった。
ーーボロ雑巾再びだな。とレイは、幼なじみの化け物めいた強さに驚愕しつつも、無表情を貫いた。悪気がないのだろうが、自分が手も足も出なかった相手にそれはないだろう。と冷静になってから伝えよう。とも思う。
「他愛ないです」
窓からヒョイッと入ってきた無傷なリジェに苦笑しつつ、自分のベッドにルルを寝かしつけるレイ。
そこに心配そうにルルとレイに近づいてきたシロから若干距離を取ると、リジェがそれに気付き、シロを呼び止める。
「シロさん、ミュー。ギルドに行って、今日のレイちゃんの報酬を美里さんから貰ってきてください。僕達はこれから、このジジイに話があります」
「……俺の方が良くないか?」
アレンが立候補したが、リジェは頭を振る。
「アレンさんには、ルルの話を聞きたいので、残ってください。ーーレイちゃんは、ちょっと、説教します。理由はわかりますよね?」
色違いに睨まれたが、レイは首を傾ける。
「いや、」
「女性陣の前ではしません。武士の情けです」
シロと文句を言いながらミューが出ていくのを確認し椅子に座り、ぼろぼろになったベルを椅子にくくりつけるリジェ。何故かベルがはあはあ興奮しているのが気になる。
「び、美青年に虐げられている…っ、これはこれで」
アレンは、ドン引いた。
「レイちゃん、魔法がうまく発動しないようですが、僕が教えていた時に何の問題もなかったんですから。考えられる理由として詠唱を適当に行ってるでしょ」
「…この状況の中、説教なのか…」
幸せそうに椅子に括りつけられたベルにを嫌そうに見ながら、しかし、リジェはため息を吐きつつ、
「屈辱でしょう。僕も嫌ですけど」
ゲシッと、ベルを蹴りつけるリジェ。……恍惚した表情のベルにレイは鳥肌が立った。
「心底気色が悪い」
「僕もです」
幼なじみ同士でベルを気持ち悪がるが、なら、やめろよ。と口から出かかった言葉を止め、アレンは窓際で壁になった。……喋ったら敗けだと、よくわからない感情に支配されながら。
「……まあ、詠唱を適当に唱えてるのは認める」
どこかバツの悪そうなレイは、オレはオタクじゃないと呟く。
「最初は、魔法が発動する喜びは確かにあったが、……段々、『何やってるんだろうか』と、冷静になればなるほど辛くてな」
「レイちゃん、そこは上手く乗り越えないと」
「……アホと一緒にいればいるほど辛くて……あれと同類になった感じがどうも……」
「……」
どこか遠い目をするレイにリジェは、なんとも言えずに同じく遠い目をした。
アレンも彼と組んだ事があるので、なんとなくいつも一緒にいるレイは精神的に負担だろうなと察した。アレを見るたびに『厨二』と呟くレイに決して良い意味合いではないだろうと認識もしている。
「……同情も同調もしますが、ルルの身の安全のためにためらいなく魔法が使えた方が良いですよ」
「反省はしてる」
神妙に頷くレイにリジェがふーぅっと息を吐き、それから、と続ける。
「シロさんと何かありましたか?」
「ない」
「本当に?」
しつこく食い下がるリジェにレイは、少し考えてから。
「……人を雇うのにオレは経験が不足しているようだ。」
「はあ…」
「背中を叩いて『どんまい』くらいは有ってしかるべきだったろうか」
「………?」
レイの説明にいまいち要領を得ないので、アレンに助けを求めて視線を向けるリジェだが、アレンまで首を傾げている。
「しかし、オレが頼んだ事以上の成果を果たしてくれたのに『どんまい』もなかろう。シロに抱きつかれた瞬間に何を言ってやるべきだったのか」
「はい。ストップです。レイちゃん」
「どうした、頭を押さえて痛いのか?」
「いえ…、レイちゃんがだいぶ混乱してるのがわかったので、……レイちゃん、彼女居たことありますよね?」
「あるが…、イベント事に妹を優先すると結局別れる」
「……そうでしたね。皆行動力の塊のような女性でしたね」
ブツブツと一人にしない方がいいのか…と、呟くリジェ。
「レイちゃん」
「なんだ。その真剣な目は」
「誰かに押し倒されないでくださいね」
「……久しぶりに殴りあうか?」
「拒否します」
拳を握り、リジェに見せるレイだったが、首を横に緩やかに振る幼なじみに呆れる。
「それで説教は終わりか?」
「はい。……では、ベルさん。さっそく、ルルに魔力提供をして貰いますね?」
「ほ?」
にっこりと、鬼畜な笑みを浮かべるリジェにああ、……と納得してしまった。だから、この変態じいさんをここに連れてきたのかと。
「ちょうど、名のある精霊のようですから、ある程度、動けなくなっても自力でどうにか出来ますよね?」
「ほ、ほほ…あ、ある程度、動けないとは最早、致命的では……っ、」
「僕、やさしいんですよ。この程度の罰で、今回の事を水に流してあげるって言うんですから。ーー実を言うとこの魔法が不得意でして、魔力がある一定量がないと相手がミイラみたいになっちゃうんですよ……幼なじみの前でホラーをする訳にはいかないですよねー。……ベルさんが干からびるくらい、すぐにどこかに投げ捨ててくるので、安心してくださいね。レイちゃん。アレンさん」
ーー安心材料が全然ないだろ!と内心の悲鳴を噛み殺し、さりとて、ベルを助ける理由もないのが困りものだとアレンは、レイに視線を向けると、レイは大仰に頷き、
「便利な魔法が有ったものだな」
その言葉に力が抜けて行くのを感じながら、アレンは、ものすごく良い笑顔をリジェに向けられたベルにちょっと、……本当にちょっと同情した。




