頼れるお方なんです。
契約精霊だったが。
城外に出て近くの草原で初めて紹介されたレイ憑きの精霊を紹介されたが、ルルはあんまりにも人間離れしていないミューの姿にがっかりした。なにか炎のマークみたいなものが浮いているのを期待したというのに。
水の精霊なら可愛い美少女でも許せたのだが。
「お前なんかに夢も希望も詰まってないッス」
「期待のホープであるミューちゃんに何たる暴言!!」
「喋るから、がっかりされるんだ。黙れ」
「む、確かに」
本当に黙ったミューを残念に思いつつ、弓矢をチェックするレイと何かの円陣を描くアレンに視線を向けるルル。頼まれた物をリュックに詰め背負いながらシロは、魔法草を摘みながらも視線をレイに向けている。
「行くぞ」
描かれた陣から青光りが放たれる。
「土人形」
アレンの声に応えるように現れた土で出来た人型の物体にルルは興味深そうに頷く。
「アレンさんが一瞬、優秀に見えたッス」
「お前は」
ルルの軽口にあきれ返りながらも、レイに視線を向けるアレン。
「何体出せばいいんだ」
「動くのか?」
「的指定だから動きはしない。そうした方が良かったのか?」
「いいや。とりあえず、威力を調べたい」
すうっと、息を吸い、吐く行為を何度か繰り返し、レイは人形の喉元を定め、
射る。
射られた矢は、なんの迷いもないとばかりに土人形の首を貫き首が跳ねた。しかし…、その後、何かしら起きるのかと期待したが何一つ起きないことにしびれを切らしたルルが一言。
「ん、これだけッスか?」
誰に対してもぶれないルルは、地味ッスね!!と高らかに余計なことを言う。シロとミューは青ざめ、アレンは事の成り行きを見守り、レイは頷く。
「失敗したようだ」
吹っ飛ばす予定はなかったとぶつぶつ呟くレイにルルは首を傾げる。
「威力を弱めたいんすか?」
「ああ、いるかもしれない相手を想定しての話だが、ある程度、ダメージを与えると大技を使ってきたり、爆発する魔物。一定のダメージを延々と与え続けないといけないトラップ。要るかもしれないだろ。世界が違うから、こういう発想はないとは言えないのだからな」
「………そうっすね」
微妙な顔で同意するルルに苦笑するレイ。
「首を狙ったのはなんでですか?」
「ああ、つい、集中している最中に師匠の『一撃必殺を狙っちゃおうぜ』という声が聞こえた気がして、イラっとした」
「ああ、急所狙いは当然だろのアレっすか」
ため息を同時に吐き、あいつ今どこで迷子になってんだと愚痴になるのは仕方ない。自分たちも異世界に迷い込んでいるが。
「話は戻るが、付属系も練習はしている」
そういって、レイがもう一矢放つと今度はみぞおちの辺りに矢が突き刺さる。そして、瞬間、ボアッと、土人形が燃え上がる。
「随分コントロールが上手くなったな」
目を見開き、優秀だと褒めるアレンにミューは当然と胸を張ったが、レイはため息を吐く。
「火系は、ミューの加護があるから、呪文なしで使えるが、他だとどうしても矢に魔力が乗らない。……リジェがいるからな。オレは派手に動かず影のサポートみたいなスタイルが良いのだが」
「器用貧乏みたいなッスか?」
「そうだな。自分に使いどころが多いと余計なことを考えずに済むからな」
ぽんぽんと、レイの言いたいことを引き継ぎ、同意を得ているルルに不穏な目を向けるミュー。
「ご主人様の横はミューちゃんのものなのに」
「や、やめた方が…ルル様に害を成すとその、嫌われちゃいますよ?」
女同士の牽制なのか何かを聞きながら、アレンは、レイが一番、悩んでいたことにようやく気付いた。
規格外の魔力を持ち、自由自在に扱えているように見えるリジェと役に立たなくても仕方ない理由があるルルに挟まれては、特化するのも難しいが、リジェにすべて任せて怠惰をするには、ルルという守ってやらないといけない存在が目の前にいる。
シロと契約してきた経緯も考えれば、若干思うところはあるが優しい性格なのかもと、認識を改めようかとした瞬間、
「地味に同じダメージだけを一定のリズムで与える拷問もあるだろ。後学のために覚えておきたいと思ってな」
「ルルは、あに様をさすがとしか言えないッス」
アレンも残念な気持ちになった。
コイツ等、人がせっかく、良いところを見つけてやろうとしているのにどうして、後から余計なことを。
「アレン、悪いが、もう五体くらい作ってくれ」
「はいはい」
もう投げやりな気分で円陣に手を置く。
「同じもんでいいんすか?」
アレンのやっていることに興味を持ったらしく、アレンに近寄るルル。アレンとしてはそう動き回るのはやめてほしい。なぜ、あんな怪我をしていて、痛みがないように振る舞えるのか。
「ああ、俺のオリジナルだからな。消されない限りー… っルル、」
陣から突然、急激な魔力を奪い取られる感覚を感じ、アレンは近くにいたルルを突き飛ばす。
「アレン」
レイが何事かを唱え、アレンも急いで障壁を張る。二度目だからわかる。レイの威嚇用の魔法のつもりのアレだ。
障壁を張ったいうのにレイの魔力の方が高く、本人も焦ったのか手加減が若干出来ていない魔法に吹き飛ばされるアレン。そのおかげで陣が爆風で消え、自分の魔力を吸い込んでいた力も消える。
「アレンさん!!」
「ルル。陣に近づくな!!シロ、ルルを連れて逃げろ!!」
アレンに吹き飛ばされたときに擦りむいたのかルルは、手のひらを少し、剝いている。
その手を伸ばしてアレンの方向に来ようとした姿にアレンは、チッと気まずさを感じながら舌打ちした。ーー身体が弱いということを失念して、力いっぱい突き飛ばしたことの後悔だ。それを八つ当たり気味に怒声で誤魔化し、動かないシロにルルの避難させるように促す。
シロが、一つ頷き慌てて、ルルの側に駆け寄り、抱き上げる。
「ルル様、行きましょう」
レイも警戒しながら、陣に向かって、弓矢を構えている。
レイの放った威嚇用の魔法の爆風で上がった土煙も収まり始めるとドロドロとした異臭を放つかろうじて、口と目らしきものを認識できる人型になろうとするたびに崩れ落ちる物体がルルの方向に手を伸ばしながら、ずるずると動く。ひぃっと、シロは嫌悪感で悲鳴を上げ、ルルはそれをじっと観察する。
「ミュー、あれは何だ」
「ええっと、多分、泥人形?」
「炎に弱そうだな。手加減するな。焼け!」
「おまかっせ~~……はれ?」
呑気に炎を放つ構えをしたミューの行動が止まる。一生懸命、手を上げては、パタパタ動かすが、一切炎をあげない。
「ご主人様、能力が使えません!!」
「よし、役立たず、 ルルと一緒にギルドのほうへ」
「きゃあ!!」
シロの悲鳴があがり、そちらを向くと、シロが尻餅をついた姿勢で、何故か何もない空間を触って確認しているルルがいる。
「あに様、閉じ込められましたッス」
「レイ、ルルを守りながら、援護しろ」
腰の剣を抜き放ち、泥人形に向かって斬りかかる。頭からあっさりと真っ二つに出来たことに一瞬呆けたが、
「アレンさん。そいつ、物理攻撃が効かないッス!」
声を張り上げ、魔法をーっと叫ぶルルの手に赤い本がある。その言葉に従い、慌てて泥人形から距離を取る、それを援護するように炎の力を纏った矢を射るレイ。
しかし、魔力が発動せず、ただの矢が二つに割れた片方の泥人形を貫通して多少穴が開いたくらいに留まった。すぐにとは言えないが、徐々に形をもとに戻していく泥人形に確かに物理攻撃はないと冷静になるアレン。続けて、なにかを叫ぶルルに泥人形から距離を取りながら耳を傾ける。
「逃げようとするのは、アレンさんの死亡フラグッス。あに様、相手に自爆能力があるッス。全滅はないッスが、死なないのはルルとそこの精霊だけッス。精霊は誰かに能力を封じられてるッス。あに様、普通に魔法を使ってくださいッス。そいつ、強いッス」
ファイトーっと叫ぶルルの声援にアレンとレイは、脱力した。
「ーー便利な能力だ」
「完璧に退路を絶ったがな」
「俺を置いて逃げればいいだろ。ルルの能力が完璧とは限らない」
ルルの言葉が本当ならアレンを囮に逃げれば、死ぬのは自分だけだということだ。別に死にたいわけではないが、尊敬する上司にもう一度くらいこの変な異世界人と話してみて欲しいと思うことはある。
そんなアレンの言葉にレイは心底、アレンを馬鹿にし、侮蔑も込めて睨みつける。
「この場にリジェがいない」
「は?」
「アイツも倒さず、本当にお前が死んで、その結果、痛ましそうなものを見る目でリジェに『守れなくてごめん』とか、言われて見ろ。オレは、お前のヒロインかって泣きたくなる」
物凄くくだらないことをまったく、なんでわからないんだとばかりの顔で言い放つレイに苦笑するしかないアレン。
「大丈夫ッス。一部で流れていたので今更ッス」
「その一部を後から教えろ。潰す」
ルルの言葉に本気で嫌なのか青筋を浮き立てるレイ。
「わかった。そこまでいうなら俺がしばらく時間を稼ぐ。その間にどうにかする策を考えろ」
アレンが囮を買って出たことと幸い、泥人形の足が遅いおかげで 多少走れば距離を取れるようだ。
レイはルルを抱き上げ、逃げれる場所の限界まで走る事をシロとミューに指示し、泥人形との距離を保つ。
「あれは、増えないのか?」
「アレンさんの魔力を全部吸い取られていたら、もう3体は増えていたッス。誰かが、アレンさんの陣を遠くから書き換えしたようッス。表示拒否されたッスけど…ルルの魔力が必要な誰かとしかわかんなかったすが。なので、ルルが捕まって、送還されたら自爆するそうなので気お付けてくださいッス」
胸を張りながらとんでもないことをいうルルを殴りたい気持ちになったが、ルルが設定したことではないので、文句はいえない。むしろ、相手の企みをここまで赤裸々に聞けていることに感謝しなければと、思い直すレイ。
「シロ、法衣は出来てるんだな」
「は、はい」
「それを着ていろ。防御能力は高い方がいい。それと、リジェに何を買って来いって言われたか。見せてくれ」
頷いて、背負っていたリュックからたくさんの小瓶と薬草を見せる。
「……生産はわかりません」
シロの申し訳なさそうな言葉にオレもだと返す。
「ミューは、どうだ」
「種類だけは見分けがつきますけど~~」
ミューは組み合わせなんか知りませんよーと投げた。先ほど、ルルが持っていた赤い本を思い出しながらもレイは仕方ないと頷き、
「ルル、簡単な調合なら攻略本に載るんじゃないか」
「うっす、やってみるッス。」
攻略本と叫ぶと、やはり赤い本だった。レイは眉間に皺を寄せる。
「……どれだけ、無理をしている」
「違うッス。純粋に力の使い過ぎッス。多分、ハイになってるから意識を保っていますが、この能力を最後に倒れるッス」
「そうかーーじゃあ、カッコいいところは見せれないな」
ふんわりと優しく微笑むレイにルルも笑って返す。
「はい。次に目覚めたらあにさんの心配そうなお顔ッス」
にっこりと、さ、本を開いてくださいと頼むルルの頭をくしゃりと撫で、本を開く。ルルは、レイが読み終わるまで意識を保ち続けたが、レイが本を閉じた瞬間に
「おやすみッス」
シロの胸に取れ込み意識を失う前にレイの声が聞こえた。
「ああ、任せろ。」




