特に悪役の気分ではないよ。
ルルはローズと名乗った女性の後ろをアレンを伴って歩く。
突然、ローズと一緒にその男に会いに行くと主張を始めたルルを抑えきれず、受付に居るクレイマンに仕事上どうしても必要だからと席を外すことあやまり、ルルの占いの結果を報告に来た奴がいれば報告してくれと頼んできた。
ルルの気持ちを大事にしてやれ。と朗らかな笑顔で対応するクレイマンに頭があがらないなと思うアレン。
ギルドを出るとき、何故か誰付きかわからない犬型の魔物に出入り口まで見送られたことにルルは、解せん…と呟いていた。どうも、動物に好かれたことがないらしい。
ギルドを出て歩く途中でルルの足の遅さに焦れたアレンに抱き上げられたが、それは仕方ない。と思うことにする。人垣を分けて歩けというのは自分にはハードルが高すぎるからだ。
道を歩くといかにもという冒険者と、そうではなく武器を大量に背負ってはいるが、強いの?と首を傾げたくなるぽっちゃりとした人間もいる。そして、その武器を大量に背負った男はギルドとは別な方向に歩いていく。
「あの方は?」
てっきり、ギルドの依頼の品でも納品しに行くのかと思えば、ルル達が出てきた方向とは反対方向に向かって歩いていく。どこに行くのか気になったルルが思わずアレンに来てしまう。
「多分、鍛冶ギルドに納めに行くんだろう」
アレンのなんでもない事のような説明にルルは、目をまんまるくした。
「鍛冶ギルド……?」
「ああ、ここは、ギルド区だからな。他には商人ギルドか。その他は……何故、そんな驚いた顔をしている」
「………ルル、生産系の事をすっかり失念してたッス」
心底がっかりしたとばかりに肩を落とすルルにアレンは慌てた。
「お、お前には関係ないだろ」
「いいえ、亜種さんにルルにコピー能力をつけて貰って、大量に物をコピーして、流通などぶっ壊してやるッス。物が溢れれば、ええっと……デフレギャップが起きる筈ッス?」
「何故、疑問形なんだ」
「ええっと、供給に対して、需要が追い付かないだったッスかね?」
「食料をコピーすれば、飢饉がなくなるな」
「確かに食べ放題ッス!!」
なんとか物騒な発想から逸らせたことに安堵するアレン。この少女がやりたいといいだしたら、やらせてみても良いんじゃないか?と軽く同意しそうなレイとリジェだ。どうにかこの発想は忘れさせたい。
そういえば、レイは美里達と出たが、リジェはどうしているのだろうか。聞くのを忘れていた。
「あの、今から行くのは商人ギルドの方なんですが」
「冒険者がなんの用があって出会ったんすか」
「護衛だろ」
なるほど、と頷くルル。
「どちらから、お手をお出し…むぐ」
「どちらからのアプローチだったんだ!?」
とんでもない訊ね方をしようとするルルの顔を自分の肩口に押し付け、黙らせる。は?と振り返ったローズに言葉を変えて訊ねてみると、ぽっと頬を赤く染める。
「あ、あちらからです」
「そうか」
その後は何も続かずに案内を頼むとアレンは言った。正直、ピンクの雰囲気は慣れてない。そして、ふうっと、肩から顔を離し、見上げてくるルルと目が合う。にこっと、微笑んでくるが、どうも悪い予感しかしない。
「リア充滅べッス」
「お前は……」
意味は分からないが確実に良い意味合いではないことをローズの背中を指していう小娘に頭痛がしてくる。
だいたい、そんな悪感情でどうして、相手が見たいと言えるのか。
「ん?あちらから手を出してきたなら何故、彼女が片思いせねばならんのだ」
にやーっとアレンの疑問に答えず、くひゃひゃっと笑う不気味なルルを正直、この場で落としてしまいたい気持ちになるが、それをやると後が怖いので、ため息だけを落とすことにする。
ーーガーラントとういう男は輝いていた(いろんな意味で)。飛び散る汗、さわやかな笑顔で仲間と語らう様、上司に覚えがいいのか頼られ、少し、デコが広い感じだが、戦闘体型としては少し筋肉の付き方がいまいちだが、仕事で鍛え上げられたのだろう見事な筋肉。巨漢。
「がちむきマッチョッス!」
「ああ……」
目を輝かせ、筋肉!!と叫ぶルル。
どうもこの少女は筋肉が好きなのではという疑問がわく。商人ギルドのマークは袋に詰まった金貨が描かれていたが入り口に入ろうとした瞬間、ガーラントは倉庫にいると、ローズに案内される。案内された先に大きな建物があり、そこへ屈強そうな体付きをした男達が荷物を運んだり、運び出していた。
「なるほど、素晴らしい兄貴ッス」
「そうなんですよ!!今日もお美しい筋肉!!」
「マッチョ万歳!!」
意気投合する妙齢の美しいと評していい女性(※ただし大剣を背負っている)と見た目は確実に掛け値なしの美少女がきんにくーっと叫ぶ姿を一歩引いて眺めなければならないこの身を呪うアレン。
「いやー良い物を見たッス。」
「お前、これが目的だったのか」
生えている木の陰から覗きこんでいる女性陣に正直、どんなに思われようともこんな風には見ていられたくないと感想を抱く。
頬を赤らめ、ガーラントがどれだけ素晴らしく熱い抱擁とあの日重ねた唇の感触が……正直、聞きたくないが、ルルの耳を防ぐので手いっぱいで、アレンは黙って、ローズが飽きるまでその話を聞き続ける。
そして、夜をともにしようとしたあの日。と悲痛たっぷりに続く。途中までは幸せだったのだと泣き崩れるローズにアレンはどうでもいい気持ちになってくる。苦行だ。
他人の夜の生活などどうでもいい。
「で、わたくしとガーラント様に未来はあるのでしょうか!!」
一通り、語りつくし、泣き崩れた涙を拭いてルルにぐぐいっと顔を接近させるローズ。ルルは目をぱちくりさせ、
「ヤンデレならいけるッス」
「やん、でれ?」
聞きなれない単語にローズが反芻して確認を取る。ルルは大きく頷いた。
「一度、あのマッチョを拉致監禁して、三週間くらい調教と洗脳を繰り返すッス。そうでもしなければ、貴方様には振り向かないっすよ。ロインズさん」
「ーーっ!?」
息を呑み、ルルからバッと距離を取るローズ改めロインズが背中の大剣に手を伸ばした瞬間、ルルの前に出、剣を構えるアレン。
「何故、わたくしの本当の名を」
国から出た時に捨てたのに…と呟くロインズ。アレンは、ちらっとルルを眺めると、能力を発動させている。黄色の本だ。
「ロインズさんが、男性なのも知ってますが。まあ、そこは別に構わないっすよね。今は、ガーラントさんとの恋の成就方法ッス。今から語ることをメモしてくださいッス。そうすれば、この恋は成就しますよ。薬漬けにしたガーラントさんと」
「ーーふざけるな!!」
男の低い声で怒鳴りつけてくるロインズに確かにとアレンは頷いた。それは恋の成就にはならないだろう。
「でも、ロインズさん。ルルがお断りしたら、薬を買って関係を強制しようとしてたじゃないっすか。それとどう違うんすか?」
ぎょっとした表情になるロインズにアレンもぎょっとする。
「確かか」
「この方法だとガーラントさんが気を滅入らせてしまって死亡フラグッス」
確認するアレンにここに来たのは必要なことだと伝える。
「だいたい、名前も売れてないルルのところに来たのは、どんな結果が出ようと言い訳にするつもりでしたんでしょう。良い結果なら『これは運命』、悪い結果なら『こうしなきゃ結ばれなかった』とか」
占いって、精神安定の為にも必要ですからねとなんでもないことのように言うルルは、愕然と自分を見つめているロインズに笑いかけた。
「貴方様の方法もルルの方法も結局手に入るのは、ガーラントの形をした玩具ッス。さてー…恋の成就しますか?」
「ひっ」
凶悪な微笑みをたずさえ、悪魔のようなことを言い放つ、ルルにロインズが短い悲鳴を上げる。
がたがた震え、止まらない汗。戦意を失ったように地面に手を置くロインズに警戒しながらも剣を納めるアレン。
「お前、どんな顔したんだ」
「さあ?ちょっと笑い掛けてあげただけっすよ?」
可愛くなかったんすかね?と、首を傾げるルル。
「常識を植え付けたとかでもないんだな?」
「ルル、他人の恋とかわりとどうでもいいッス」
「………」
待ちかねていたんじゃなかったのかと、言おうかと思ったが止めるアレン。
「で、この状況がどう必要なことなんだ?」
「んー、そろそろくるッス」
ひっくひっくと、諦めなければならないのはわかっているとか、だって、あんな理想の筋肉とか泣いている様子のロインズを二人でぼーっと眺めていると、ロインズの泣き声に釣られたのか倉庫側から誰かがどうしたんだい?と声をかけてきた。女の声だ。
「すみません。ちょっと、罰ゲームで知り合いに女装させたらないちゃったんす」
「お前!?」
ルルの奇行には慣れたつもりだったが、まだまだだったのかとアレンは脱力した。すると、誰かがこちらに近寄ってくる気配がする。ルルは急いで、ロインズに近寄り囁く。
「今日の恋愛運は二重丸ッス。運命のひととの出会いッス」
「は?」
泣いた顔のまま、呆然と見上げてくるロインズにルルは、筋肉最高!!と叫び、アレンに逃げるッスよー。声をかける。
意味がわからないが、反射的にルルを抱き上げ、逃走することを選ぶ。
「どうしたんだい?」
女性の声にちらっと後ろに視線を、向ければ、筋肉隆々のバンダナを巻いた女性が地面に手を付いたままのロインズに話しかけている。ルルが、それをアレンの肩に顎を乗せながら確認すると、にゃほほほっと、不気味に笑う。
「うまくイベが起きたッス。」
「ん?奴は同性が好きな」
「違うッス。好きなのは筋肉ッス」
趣味・嗜好を調べたのでと、ルルがまた能力を使おうとするのを慌てて止める。ーー魔力の枯渇が心配になってきたからだ。
「趣味は、筋肉を鍛えること。嗜好は筋肉ッス。素晴らしいッスね」
「………」
「ただ、本人、筋肉があんまり付かない体質みたいなのが悩みッスね。でも、きっと、筋肉がつく体質なら一日中鏡と見つめあってるはずッス」
その気持ちわかるッス!と主張するルルにいや、待てとアレンは疑問を投げかける。
「それなら、何故女装していた!?」
「マッチョな男を男がうっとり眺めてたらどう思うッスか。そっちに興味なかったら、可愛い子か綺麗な子に見つめられたいじゃないっすか」
ーー正論過ぎて何も言えなくなったアレン。だったら筋肉質な女を見つけろと、ツッコミたかったが、ルルに言っても詮無いことだ。もしかして、生まれた国でなにか合ったのかもしれない。
「ロインズさんのルート開拓もできたので、これから忙しくなる筈ッス」
ギルドに戻りましょうと、扇動するルルに呆れながら、元来た道を戻ると、冒険者ギルドがやたら賑わっているのが見える。
「なんだ?」
「さあ?さすがに今日から忙しいとかはないッス」
ここで商売をしている関係者だということを盾に人込みをかき分けてギルドに入ると、右側の冒険受付側にレイが居た。ただし、べったりと大きな熊に抱きあげられている。アレンが絶句し、硬直するなか、ルルはぴょんと、アレンから降り、熊とレイに近寄った。
「あに様」
「ああ、ルルか。どうだった」
「なかなか良好ッス」
「そうか。オレは困った事に討伐しにいった相手に好かれた」
「ルルは、さすがとしか言いようが有りません」
どうしようなーと、呑気に話し合う二人にどこかに姿を消していたクレイマンが戻ってきて依頼達成でいいぞと声をかけてきた。
「まったく、それも預からなきゃなんねえのか?」
「ああ、すまないな。懐いた相手はできるかぎり殺したくない」
「依頼次第だ。覚悟しろ」
了解していると頷くレイ。クレイマンになら、血を寄こせというやり取りを終了させた後。依頼金は美里達が来てからということになった。そのやり取りを眉間に皺を寄せながら眺めていたルルは口を開く。
「あに様、戻るんすか?」
「ああ、………ルルも外に行ってみるか?草取りがある」
「採取だ」
アレンがいい加減そう言えと嗜めてくるが、アレが薬に過程を見ていないので、レイとしては言い様を変えるつもりはない。
「アレンにも、オレの魔法の扱い方に助言を貰いたい。頼む」
では、シロさんが来てからと提案するルルにそうだなと返すレイ。
シロが戻るまで奇異の目で見られたが神経が図太い異世界組はのほほんと酒場でミルクを飲み(レイはルルが呑まないなら酒を拒否する)、レイが番犬をしていた犬達の頭をなでているとシロが戻ってきた。まだ戻ってくるはずのないレイの姿に尻尾を上げ慌てて走り寄ろうとしてすっころんだ。という事態以外問題もなく、
--ルルは初めて精霊と対面した。




