不確定なところもありつつ
グレンタギルドは入り口から見て、左側はギルド受付、中央、依頼などの紙が張られる掲示板であり左側は依頼を終えた冒険者達などが軽く一杯と、ほとんどは軽くない一杯を嗜む場所である。
クレイマンは、約束通り場所の提供をしてくれた。もちろん、面倒を起こしたら追い出されるとも釘を刺されたが。何故か、近くに犬が二匹自分たちを見張るようにいるのだけは不満だと思いつつ、
ルルとアレンは、酒場のカウンターに一番奥の席に座り、昨日知り合った酔っ払いの一人に能力を発動させる。
「ーー死亡フラグッス」
「は?」
「仲間にルーカンテスという方がいらっしゃるならこの依頼は受けない方が良いッス。特に『国に残してきた息子と妻にこの仕事が終わったら会いに行く』とか言っちゃダメッスね。死にますよ」
緑色の本を開きながら不吉なことを淡々と語っていく少女に占いに来た客は一瞬、ふざけるなと立ち上がり怒鳴り散らそうとしたが、ルルのを守るように腰の武器に手を置くアレンに怒りを抑える。アレンの殺気の放ち方がまず間違いなく、自分の実力より上だと示しているからだ。
能力に夢中でそんな攻防など知る由もないルルは、そうですねーっと、続ける。
「今日は、総合運はないッスが、お気に入りの場所に行くとよさげッス。思わぬ再会が有るかもらしいので。武器など置いて。今日はクレイマンさんに預けて一般人の格好で行きなさいッス」
「………わかった」
「じゃあ、銀貨一枚ッスよ。踏み倒したりしないようにッス」
黙って銀貨一枚を取り出し、それをルルに手渡す。それから、その男が本当に自前の武器をクレイマンに預けていく様子を確認しアレンは薄気味の悪さを感じる。
「なんだ。あれは」
「ルルの世界じゃ銃刀法違反っていうのが有るッス。持ち歩きたくない気持ちになったんじゃないっすか?それに今日、再会ルートと死亡ルートがたっているらしいので誘導したッス。嫁と息子があの方に会いに来るということで、ルル的に久々の再会にはお洒落するとか常識だと思うので、多分、従うんじゃないっすか」
何でもないことのように語りひーふーみー、と稼ぎを数えるルル。
「面白がって来てくれるんすけど。最初に踏み倒そうとか舐めた奴が来てくれて助かったッス。お陰さまで対策は上々ッス」
「レイの言う通り、俺が警護したのも正解だったな」
「シロさんだとセクハラの餌食ッス」
シロには、リジェが買い物を頼んでいた。ダリアのところに自分の分の法衣も取りに行かせたようでもあるし、そのうちこっちへ来るだろう。とルルはそう思っている。
「しかし、お前の常識の枠に相手を入れるとかいうものは一定の時間だけなんだろ。冷静になれば戻ってくるのではないか?」
アレンの指摘にルルは、一瞬金を数える手を止めたが、すぐに手を動かし始める。
「意外と出だしが上手くいかないとこういう荒行を生業にしている方は、自信過剰かよっぽど切羽詰ってもいない限り、今日くらいは大人しくするもんッス。ゲン担ぎの意味合いもかねてと、ルルに占いを頼んできてるんすから。今日を乗り越えれば、明日から結果が付いてくるはずッス」
呑気なのか考えているのかルル達の世界の基準が分からずにアレンは、もどかしくも思いながらも質問を続ける。
「洗脳なのか?」
「そうっすね。人物紹介欄に一定時間、自分の常識を押し付ける一言を足すことができる常識本とも言えるっすね。ただ、ルルの常識から逸脱した内容は無理そうッス。これは、想像力が貧困なせいっすかね。あにさんが言うには、ルルには想像力が欠如しているせいで魔法が使えないともおっしゃていたッス」
「………確かに」
思わず納得してしまう。
「ルールとは、規則ッスね。う~ん、本当に弱みを握る程度で良かったのにどうして、こんな能力が。……死亡フラグとか誰と誰が繋がっていて、どうくっつくとか。どうしても秘密にしたい黒歴史とか」
恐ろしいことを呟く少女に必死に喉元まで出かかった何かを抑えるアレン。
能力の実験体にされたくない。それが本音だ。
「あと、主要キャラを特定した場合、面白いことがあるんす。グループ判断、パーティ括りとルルは思っているんすけど」
「なんだ」
まだ、何かあるのかと呆れるアレンにう~んと、と。
「例えば、アレンさんとダーストさんはファーレンの人間ッスよね」
「…いまさら、なんだ」
「ファーレンの人間で、国家のイヌッス。」
「言い方に悪意を感じるが、なんだ」
先ほどから、なんだしか言ってない自分に苛立ちは感じたが、ルルは、気にした風もなく、
「 『攻略本』」
ぼふうんと、気の抜けた音が響く。
黄色の本にアレンは、嫌な顔をする。
「まさか、俺のことか」
「いいえ、ルルのことを指定した本ッス。たぶんココッス。読んでみるといいッス」
「読めるのか?」
「この世界の言葉を指定したッス」
読むように促された先にアレンは、絶句する。
『 軍勢 ファーレンのイヌ 』
「なんの悪意だ」
あの日、異世界人を迎えに行ったメンバーが全員一括りに同じページで狭いスペースに枠を取りながらも適当に描かれている。
しかも、その中にダーストと自分までいるのは納得いかないとアレンはルルを睨んだ。
「もうやっちまったイベッス。多分、ルルにとって敵認識だったんすよ。あの時は。まあ、気にして欲しいのはそこじゃなくて括られていることを気にして欲しいッス」
「……だから」
なんだと、続けようとしたが、察しの悪いアレンに焦れるルル。
「ルルの常識を植え付けれる相手は一度に複数。もしかしたら、一つの国の民まで括れるんじゃないかという懸念があるんすよ」
「………意味が」
「だから、もしもの話ッスが、戦争中の国同士の片方に対して、ルルの世界のルルの国民性としての常識、武器を持ったりあるいは、人を傷つけてはいけませんという概念を一時的にでも植え付けられた側はどうなりますか?って、話ッス」
怖いんっすが、と続けるルルにむしろ、アレンの方がその可能性に恐怖を感じる。敵の前で武器を取るな。傷つけるなとはどんな自殺行為だ。
「いやー、思ったより質の悪い能力ッスね。攻略本ではなく法律・規律の強制本ッス」
にゃほほっと、笑うルルにそれは、笑って済む話ではないと生唾を呑み込む。
「………外でする話ではないな」
「まあ、そうなんスが、どうもルルは、ファーレンではない国か個人に召喚されたみたいなので気をつけてという話ッス。攫われて利用されたら困るッス」
初耳の情報に思わずルルをガン見してしまうが、ルルは顔色一つ変えずに次のお客さんッスと続ける。
そういえば、結局昨夜は怪我のことを隠し通すほどの心臓の強さを発揮していた。たまたま、自分は抱き寄せたおかげで気づいたが、アーシアと名乗った女性が連れてきた医者は、熱を出す顔しれないとも言っていたのに随分と午前中は頑張っているものだと感心する。
いや、自分とここで有った時点で怪我をシロに隠しながら、能力の把握をしていたということは、よほどの負けず嫌いなのか。と首を傾げる。
負けず嫌い?
なんとなく、目の前の少女には似合わない言葉のような気がすると、アレンがさらに似つかわしい言葉を求めようとすると、くいくいと袖を引かれた。耳を貸せとジェスチャーするルル。
客用に用意された席にはブロンドの美しい僧侶風の女性が顔を真っ赤にしながらうつむいている。なぜ、風なのかは、後ろの大剣が法衣に合っていないからだが、それは今どうでもいい話だろう。
耳を傾けるとルルは、ヒソヒソと、話すがあまりに小さな声すぎて聞こえない。
「?どうした」
普通の声で訊くアレンに眉間に皺を寄せるルル。
「ちょっと、男性はあっちに行くといいッス」
「はあ?お前、自分が護衛されているって自覚を」
「いいから行けッス。ルルのお待ちかねの恋占いッス」
「……趣味が悪いな」
「何とでもッス」
もじもじしている女性に対しては、確かに席を外すべきと判断はできるが、ルルからは離れるべきではないと判断している。これに何かあれば、恐ろしいのが控えているのだから。
「ちっ、頭が固い。ーー置物つきでも問題はないっすか?」
「は、はい!!わ、わたくしのガーラント様への気持ちが届くか否かをお教えいただければ」
顔を真っ赤にし、そう懇願する女性。
そして、その時、獲物を見つけたようにルルの瞳が輝いたのをアレンは決して見逃さなかった。




