決めていたこと
脳裏には、『ルルを頼む』と言って、お仕事に行ったご主人様の笑顔(※無表情)。
何故、主の妹とギルドに来てしまったのか。
「ほら、シロさん。筋肉ッス」
「あわわわっ!ッルル様、知らない人の腕にぶら下がらないで!!」
「いやいや、猫の姉ちゃん、合意の上だからよ」
プラーンっと、ぶら下がるにはルルに腕力がないので、必死につま先立ちをするギルドなどというむさ苦しい場に現れた珍客は思ったより好評であり、たくさんの貢物を貰うという偉業を果たすルルに生きた心地がしない。
それもこれも元凶がいまだに戻って来ないせいだと尻尾をぺしぺしと地面に叩きつけ憤慨するシロ。
ーー早く戻ってこいジェイド~~っ!!
話は少し遡り、仕立て屋、ダリアにシロの分は明日出来上がるが、ルルは三日後になるというリジェへの言付けを預かり、陽も傾き始めていた。
ルルが病弱だと念を押されていたシロは、彼女を背負い、宿へ帰る予定だったが、ルルの視線が一点に集中していることに気づいた。
「どうなさいました?」
「あれは、冒険者ッスか」
心底、不快だとばかりに吐き捨てるルルが見ていたのは、男三人が少女一人に絡んでいる様子だ。
どうも、少女が樽で運んでいた水を男の一人にかけてしまったらしい。本当にその程度だというのに、よしんば少女の容姿が可愛らしかったせいか執拗に絡まれている。
「止めますか?」
「できるんすか?」
胡乱気な目をされ、まったく信用がないことにシロは、とんがった耳をへたりとたたむ。
「い、一応、ギルド所属ですよ」
「いえ、そういう意味じゃなく、ルルのせいでシロさんに怪我されたくないんすよ。買ったのは、あくまであに様ッス。無理に前に出ることはないっす」
なんだか、難しいことばかり言われている気がする。
主人であるレイには、自分の今後は目の前の少女次第であり、目の前の少女は無理に守らなくていいと。
無理を通されるのが奴隷だというのに。
「いえ、争いにはなりませんので」
「そうッスか。なら、どうぞッス」
あっさりと、自分を信じるルルに拍子抜けしたが、シロは男たちに向かった。
「貴方たち、いい加減にしなければ衛兵を呼びますよ」
「げ……。なんだ。獣人か」
少女を囲んでいた男たちの明らかな差別と安堵の視線にシロは、ふんと。胸を張る。
「私は、主人持ちでありギルド登録者という身分持ちです。衛兵が来て、どちらの言い分を信じるか。お分かりの筈です」
シロの毅然とした言葉に男たちが、動揺する。
ルルは、これ幸いとその後ろをトコトコと歩き、絡まれていた少女にさっさと逃げるように促す。
ペコッと頭を下げ、逃げ出す少女に気づいた男が居たが、ルルは走りだそうとした男の一人の前に亀のように丸くなり、ルートを潰す。
「うおっつ!?」
「ルル様!!」
足を引っかけるバランスを崩させることには成功したが、ルル自体が男に蹴とばされ、地面に転がってしまう。慌てて駆け寄るシロにむくりっとルルは、起き上がる。
「痛かったッス」
「当り前です!!」
擦り剥いたところががないか確認するように身体をさすったが、ルルが顔を顰めることをしないので、ホッと一安心する。が、すぐさま、キッと男達を睨み付ける。
「ーー貴方たちっ」
「な、なんだよ。勝手にそのチビが俺の前に」
毛を逆立て、怒りを露にする獣人に男達が後ずさる。
あとずさった先にドンッと、誰かにぶつかる。
「あ、わりぃ」
謝罪を口にしようとした男の一人が吹っ飛んだ姿にルルは目を輝かせ、シロはひぃっと悲鳴をあげた。
「ーーすまない。あまりに不愉快だったもので」
にこりともせず言い放つ青年に男達が悲鳴を上げた。
「じ、ジェイド」
「お、おい、やばいって。逃げようぜ」
殴られた側が文句も言わず、仲間を背負っていくというなかなかシュールな光景にルルは、ジェイドと呼ばれた青年を指定する。
「『攻略本』」
「ルル様ああああああっ!!」
いきなりの奇行にシロが悲鳴を上げる。ルルの知ったことではない。
ぼふんっと、また間抜けな音がした。ーー黄色の本が出てきたので本格的に信号機の可能性にルルは恐怖した。
ーールル、発想力貧困。
『 名前 ジェイド
世界 情報表示を拒否します。
年齢 19
所属 グレンタギルド
今日の運勢
金運 ○
恋愛 ◎
全体 ○
ラッキーアイテム
串カツ
一言
幸運の女神は近くにいるかもね☆ 』
開いた能力をそっと閉じるルルの視界が影が出来る。
心底不愉快そうな表情の燃えるような赤い髪と底冷えするスカイブルーの冷淡な瞳の美丈夫に見下されていた。ーーいつの間にかの距離にルルは、ぽりぽりと頬掻いた。
「な、なにか」
「シロさん、最初に失礼を働いたのはルルッス。その文句ッスよね」
威嚇をしようとするシロをどうどうと、押さえて押さえてと留める。
「……なにをした」
「占いッス。今日は串カツと幸運の女神を探すことをお勧めするッス。近くにいるそうっすよ」
はんっと、吐き捨てられた。
「なんだ。ナンパか」
「すまないッス。ルル、ジミメンで寡黙で執事系が好きなので派手系なお兄さんは心底好みの範囲外ッス。」
「……」
きっぱり、お断りを入れるルル。シロがあわあわとルルとジェイドの顔を交互に見比べる。
「……呪いの類じゃないんだな」
「呪いと書いてまじないと読むッス」
目を丸くし、言葉の意味を考える仕草をしたので自分とは別な世界の住人かと納得する。
「金運もそこそこ良いみたいッス。物入りなら今日、お仕事の依頼を受けることをお勧めするッス」
ギャンブルは今日勝とうとも、自分が奨めた結果依存されるのは困るので、ギルドに行くことを奨めると何故か、半眼で睨まれ、ひょいっと腰に腕を回される。樽抱きだ。
「おおっ。痛いっす」
「ル、--ら、乱暴はやめてください!!」
「煩い。コイツの言うことの真偽を確かめるだけだ」
そして、現在。
ルルは、ギルドのクレイマンと名乗るおっさんが奢ってくれたミルクを大量に消費しながら、カウンターの席で、おっさんどもに酔い潰されて泥酔しているシロを見ていてあげた。本当に見ているだけだが。
「ルル?」
「おお、アレンさん」
入り口から入ってくるなり自分に声をかけてくる存在にルルは手を上げる。
ギルドの副業でもある酒場のほうに何故かいる知り合いにアレンは首を傾げる。
美里たちと今日の依頼クエストを果たし、レイが門が閉まるまで自分のランクの依頼を消費するというので置いてきたが、この様子だと一緒に帰ってくれば良かったと後悔する。
「美里達はッス」
「レイのランクをあげる為に地道な手伝いをしている」
「ああ、草むしり」
「採取だ。どうした。お前も、ギルドカードを作ることになったのか…シロ殿しかいないが、リジェは?」
「あに様のところに行くって言ってたっす。いないなら、なんか面倒ごとにでも巻き込まれたんすね。合掌」
リジェがいないことに驚き、そうなると早々、酔い潰されたシロに視線が行くアレン。……十五歳から成人らしいのでルルとしては、シロの飲酒に文句はない。アレンとしては有ったようだが。
「お前じゃ運べないだろう」
「実のところ、あに様たちに期待してたッス。そうッス。ルル、自力で稼ぐ方法思いついたんすけど。やっぱり、ギルドに入った方が融通が利くッスか?」
「は?」
「お~~い。ルルちゃん」
目を丸くするアレンを無視し、ずかずかと強面のおっさんたちとむすっとした表情の若い男がルルの側に近寄ってくるので思わず前に出るアレン。
「おい、お前ら、保護者に挨拶してから近づけ」
クレイマンの指摘に一瞬、一触即発の気配を持った両者のうち、おっさんたちの方が破顔した。
「おお、あにさんか、あに様か?」
「いえ、アレンさんッス。こちらの世界にきた早々、お世話(襲撃)になった方ッス」
ルルの言葉の裏の意味を読み取ったアレンは、冷や汗が流れるのを自覚したが、表の意味のみをくみ取ったおっさんたちは、にこやかにこれからもよろしくと……。アレンは意味がわからずにルルを凝視する。
「ジェイドさん。おいしい話でしたか?」
「ああ、思った以上だ」
愛想のない青年の肯定にルルも頷き返し、ついでに他の野郎どもに視線を向ける。
「おっさんたちもどうでしたッス?」
「いやーっ最高!」
「よく、あのモンスターが群れで現れる場所がわかったな」
仕留めた魔物をそのまま見せようとするおっさんたちに慌ててアレンは、ルルの目を覆う。
「お前は大丈夫な方か?」
「マグロの解体ショーを何度か見てるッス」
そっと、手を外され、見た先には豚に似た魔物が数頭。つまみにこれが食べたいと騒いだおっさんたちに運が有るかどうかを能力で調べた結果だが、なかなかの結果を出せたとルルは満足した。
「決まりましたッス。アレンさん」
この能力を創造した段階から決めていたことだ。上手くすれば、国の中枢に入り込むことも可能な職種。
「ルル。占いで稼ぎます」




