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リジェ編 3



 スリス・クーヘンの父、ファーレン国伯爵ドランは困惑していた。

 目の前で当主のみが座る筈の席に足を組み退屈そうに頬杖したオッドアイの青年に何故、長年の仕えてくれていた侍女や執事、従者は頭を垂れているのだろうかと。

 そして、妾とはいえ、正妻が亡くなってから数年間、自分を支え続けてくれた女性と病弱な筈の娘、そして、今日泣く泣く借金のカタにとある商人に嫁にやった娘が、その男の近くで泣いているのだろうか。



「ドランの旦那」

「ガーゼラク」



 長年の親友である彼に道中安全にと預けた筈の娘が何故ここにいるのか、いや、それより彼がここに居るということはまだ、出発していなかったのか。

 違う。朝きちんと彼女と出立の挨拶をしたはずだ。



「ようやく来ましたか」



 悠然と微笑む青年は息を飲むほど、美しく禍々しい。

 魅了されたように動けないドランとは違い、ガーゼラクはすぐに怒声を響かせる。



「冗談じゃねえ!お前さん、魔族か!?」

「いいえ、ただの一般人ですよ。まだ何の伝説も打ち立ててませんから」



 クスクス笑う青年は、どこまでも余裕に満ちていた。ガーゼラクがわなわなと身体を震わせている。ただ一つ残念なのはこの場に「え、なにその台詞。厨二?」とツッコめる幼なじみが不在なことだ。



「俺の部下に放ったあの黒いドラゴンとちいせえ癖にやたらつええ幼児をどうにかしろ」

「仕方ないじゃないですか。僕がやるって言ったのに一番強い人は控えててって」

「い……ちばん、つよい?」



 信じられんとばかりに呟くガーゼラク。親友のそんな姿を初めて見たドランはそんな人間の近くに自分の愛する家族たちが居ることが不安になった。



「私の家族を解放しろ」

「おい。ドラン!」



 友人の無謀な剣幕にガーゼラクは止めに入る。

 リジェは、こてんと首を傾げる。



「金のために売った子供も家族ですか?」

「…っそれは」



 スリスが何かを期待するように父親を見つめている。しかし、それを手で制し、リジェは畳みかける。



「それとも、強欲で嘘つきで色欲の強い誰の子を産んだかわからない女と、病弱なふりをして、伯爵家の金をむしり取り、挙句には、正当な継承者を裏で身体で繋がった男に買わせた頭も尻も軽い女が家族ですか。ああ、スリスさんのことをよく言うつもりはありませんよ。身勝手、傲慢、考えなし、我儘。伯爵様、よほど、女運が悪いと見える」



 愕然と三人の顔を見比べるが、妾とその子供は果敢にも口を開く。



「ちがうわ!わたくしがそんな貴方を裏切るだなんて」

「父上。私だって。今こうして、起きてるのだってつら」

「ーー僕の話しをお忘れでしょうか。」



 底冷えする声音にひいっと母子は、リジェを振り返る。リジェは、にっこりと微笑み。



「ここにすべてを見透かす能力を持った魔女(・・)を連れてきても良いんですよ。ええ、この件以外に後ろぐらいことがなければ良いですよね。それとも、またクーとキキたちと人間お手玉をして遊びたいんですか?脅されて吐いたと言い訳を?この家にきちんと支えてきた方々が証人ですよ。だから、居てもらっているんですから……イザークさん。ステラお嬢様と今日何人が楽しく遊んでいたか教えてあげなさい」



 最近、入ったばかりの新人の従者がカタカタと身体を震わせる。しかし、そんなことは知ったことではないリジェは爆弾を落とす。



「あ、すみません。今日は貴方とだけでしたね」



 サーっと血の気を引く従者に真面目に仕えてきた者たちは白い眼を向け、心当たりのある者たちは冷や汗を流し続ける。



「ステラ……」

「ち、……あ、う」



 もはや、ステラは言葉にも出来ないようだと判断し、次は母親の方かと顔を向けると何もしない段階で号泣している。



「さ、さみしかったの!!だって、貴方はいつも仕事とスリス様のことばかりで、妾という立場で、スリス様に話しかけることすら憚れ、だから、つい…」



 人目も憚らず泣く妾にドランが肩を抱こうと近づこうとするが、リジェはガーゼラクに視線を向け、



「貴方の部下でこの(ひと)の燕が何人かいますよ」



 けろっと暴露し、ガーゼラクが顎が外れるほど驚き、室内の気温が下がった瞬間、クー、キキが何人かの男を引きずって扉を蹴破って入ってくる。



「リっちゃん様、燕って白状したよ」

「リジェ様を馬鹿にした奴は念入りに潰したよ」

「お疲れ様です。さて、ではいままでの話の流れを吟味し伯爵にお話があります」

「う、な、なんだね」

「貴方の借金の肩代わりは僕がしますので、そのゴミのような人間関係清算してください」

「は?」



 ぱちくりと目を瞬かせる伯爵にリジェは、にっこり、



「実の娘を売れたんですから。わかりやすい不貞行為をしていた阿呆どもは捨てましょう。ええ。僕が念入りに潰すので、売ってくれません?これで」



 突然、リジェの手に現れた袋に伯爵は驚いた。クー、キキとふたりの幼子に持たせ、運ばれた袋の中には大量の質の良い宝石が入っていた。



「こ、これは」

「いくらでもあるのでどうぞ」



 本当にいくらでもあるのだが、出来れば、身内の為に使いたかった。サラマーなら喜んで食べたろうなとか。しかし、毒竜のまま背を跨いだせいで、毒耐性の低いスリスが毒に当てられたので慰謝料って名目でもいいかなとも思う。



「わ、私の人間関係の清算でいいのか」



 ごくりと、目の前の宝石に唾を飲む伯爵にうわ、こいつ、最低ともリジェは思ったが、自分も最低の交渉をしているので仕方ないと割り切る。

 実は、伯爵家はかなり財政的に追い詰められているのだが、そこまではリジェの知ったことではない。スリスと妾達の件でお腹いっぱいだ。



「ええ、条件は先ほど口にした通り。後は、スリスさんの再教育ですね。自分は偉いとかの勘違いはある程度矯正しましたが……次、同じような態度取ったらわかってますね(・・・・・・・)

「あ、あああああたりまえですわ!!」



 何故か、顔を真っ赤にしながら頷くスリスに不信感を持ち、クーとキキもぶーっと頬を膨らませている。



「シャフトさん。後は貴方にお任せしますので。そのゴミはちゃんと処分してくださいね」



 老齢の執事に頭をさげ、頼む。とほっほっほっと笑われた。その様子に伯爵と妾とその娘が顔色を悪くしたが、それくらいの人物でもなければ、言質を取った気にはなれない。

 あとで、ルルにも能力を使って見てもらおうとも思いながら、さて、と肩を鳴らす。



「ガーゼラクさん。親友が随分な女にハマっていたというのに全然わからなかったんですか?」

「う、………それを言われるとつらいな」


 ぼりぼりと、気まずげに頭を掻くガーゼラク。


「まあ、兄ちゃんがすごい奴だ」

「そいつの実力じゃないじゃないですか!!」


 クーとキキに引きずられ、地面に這いつくばらされたガーゼラクの部下は、リジェを睨み付け罵倒し始める。


「ーー大した実力もないくせに」

「どうせ、誰かから譲り受けたー…」


 正直、クーとキキがいる前で自分を罵倒しないでほしい。二人の膨れ上がる殺意を抑えるのに骨が折れる。


「おい、お前ら」


 慌てて、口を閉じさせようとするガーゼラクに近づき肩を叩いてリジェは、にっこり黙って。とお願いする。そう、お願いだ(・・・・)。ボックスから大量の回復薬(ポーション)・傷薬・その他、色々な世界から大量に貢がれたり、貰ったり、ドロップした品だ。とりあえず、品質は中級以下のものだが、身体に悪い毒素はきちんと取り除いたものだ。


「さて、みなさん。僕の実力が知りたいようですね」


 ニコニコ、悲しくても笑顔を貼り付ける方法を押し付けられた勇者としての日々と腹芸を覚えさせられた魔王としての日々、効率が悪かろうと他人のプライドをズタズタに追い詰める方法を調べさせられた賢者としての日々………。


 ーー人として終わってる年季が違うんだよ。こっちとら。


 リジェは静かに切れていた。


「その薬をお使いになり、僕と戦ってみましょうか。ああ、回復薬のストックは大量にありますよ。どうぞ、幾らでも消費してください。そちらが満足するまでお相手しますよ」


 どす黒い感情をまき散らし、ガーゼラクの声すら無視し、リジェが用意した回復薬を乱暴に飲み干す男たちに毒だったらどうする気だったんだろうと呆れながら、リジェは適当な武器をどんどん男たちの前に投げ渡していく。


「どうぞ?」


「ーーふっざけるなあ!!」


 リジェの態度に咆哮をあげ、一気に距離を詰めリジェの頭上へ大剣を振り落とす。リジェはそれをどこからか取りだした真っ白な刀剣で受け流し、後方に飛ぶ。とそれを予想していたらしい仲間が追撃し、弓矢を放つ。

 その矢を下から斬りあげるリジェ。斬り上げられ、真っ二つになった矢がからんっと地面に落ちる音が響く。何故か静寂に満ちる室内。


「……で?」


 まさか、これで終わりかと咎めると、何故か唖然としている周りに気づいた。


「……Fランク?」

「お前、魔法使い(ウィザード)じゃ…」


 何をいまさら驚いているのかまったく、理解できないリジェは、首を傾げる。


「ようやく、冷静になったか…」


 ガーゼラクが、眉間を押さえる。


「どうしました?これから、僕が面白くなるんですよ」

「いや、兄ちゃん。人をいたぶる趣味がないなら許してほしいんだが」


 飛んでくる矢を下から真っ二つにする技量の持ち主で、どこから出したかわからない大量のアイテム。宝石の出どころ。使役している存在は化け物ばかり。ドラゴンは、よく教育されているようでガーゼラクの部下を誰ひとり殺さず、自分では殺してしまうと判断した相手は幼子達に任せ一歩引くさまを見せていた。正直、異常だ。

 あの巨体(・・)でそんな繊細な動きと判断をするように躾けたというのか。

 リジェの異常性に戦慄を覚えるが、その戦慄された側はうんうんと、


「『報復は泣くまで。でも、気に入った人間の頼みは無下にするな』というのも師匠(センセイ)の教えですので。ガーゼラクさんには、丁寧に対応していただ来ましたので、それに免じます」


 少し恥もかかせたこともあるし、それから、あんまり時間をかけてたっぷり痛めつけている時間はなかった。ルルを迎えに行かないと。そろそろお腹を空かせているだろう。などと呑気なリジェ。


「後顧の憂いを潰して、ぐちゃぐちゃにし新しい形に再構築したかったんですが、仕方ありませんね」

「恐ろしいことを綺麗な顔して呟かないでくれ」


 はーぁっと、ため息を吐き、もうやることがないなと判断したリジェは、ひきつった顔をしている伯爵に向き、様子を見に一応来ますからね。と伯爵に釘を刺す。こくこくと必死に何度も頷くが、ちゃんと返事しろ。これだから貴族は、と内心憤慨する。ただ、単に声が出ないくらい怯えられていることに気づかない。


「で、ガーゼラクさんには、見張りをお願いしますね。この時間で調べたスリスさんを嫁にしようとしていた男の悪事ですから。これでも出せば、契約不履行も許されますよ」


 はい。とリジェが手渡してきた書類の内容を一読し、目を引ん剝くガーゼラク。


「こ、これは……」


 ごくりっと喉を鳴らすガーゼラク。この内容が本当なら国を動かさねばならない。


「クーとキキが頑張りましたから。ああ、そこのお妾さんも多少かかわってますので。あとは、煮るなり焼くなりお好きに」

「は、はは……」


 もう、カラ笑うしかないガーゼラク。


「では、スリスさん」

「な、なんですの」


 リジェに話しかけられ、思わずどもってしまうスリスにリジェは嫌われたものだと苦笑した。まあ、体質のせいだから仕方ないかと判断し帰る旨を伝える。ルルが自分をよくフェロモン体質と言うが間違って居ないからおかしい。


「そ、そう」

「妹を迎えに行く時間なので」


 もうすっかり、外が暗くなっていて、ルルはシロと一緒に宿へ帰った頃だろうか。


「親子関係の修復は時間が掛かるかもしれませんが、シャフトさんの言うことをよく聞いて、少し自活出来るようになってくださいね」

「わかっているわ」


 素直に頷くスリスに頷き返し、サラマーとクーとキキを回収すると、何らかの紋を描き、光ったと思うとリジェの姿は消えていた。


「て、転移魔法??」

「化け物だ…」


 ようやく、自分たちが何に対して敵意を向けていたのか気づいたらしい部下達にやれやれとガーゼラクは肩をすくませ、さて、と…。


「ドランの旦那。ダースト様に連絡すぐ出来るか?」



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