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リジェ編 2

 毒竜と化したサラマーのドロドロしたビジュアルが若干苦手なリジェは、サラマーに自分の影に入るよう促した。


「ごががっ」


 鳴き声も変わってしまったが素直なサラマーは、主の意に反さずリジェの影に入る。

 その姿を確認し、はーぁっと、サラマーを毒竜以外にするべく、森から材料を探すことにする。


「薬剤のストックはあるけど…毒竜から白竜の変化はサラマーに負担があるからな…」


 ぶつぶつと今までの実験ノートを開き、アイテムボックスを一覧の画面を開く。

 ボックスとは正しくない言い方だが、それ以外の表現だと部屋か空間になる。いちいちの説明が面倒なので儀礼的に誰かに指摘されればボックスだと説明している。

 これは、確か魔王として召喚された場所で無尽蔵に物を奉納してくる配下達に最初はいらないと断っていたが、

『魔王がそんな低姿勢でどうする!?』

 と腹心に叱られ、仕方なく全て受け取っていた所、今度は置く場所に困り、もう一人の腹心に

『考えなしに貰うな!』

 と叱られたが貰い始めた結果、いきなり断ると今度は配下全体が嘶いた。

『魔王様は、お怒りか!』と……。

 思い出すと胃が痛くなってくる。

 結局、あの頃、親しくなった空間の神に泣きつき、間借りできる空間を創って貰い、どんどん貢ぎ物をその空間に放り投げ、今ではほとんど樹海だ。……空間神は、冷たい目だった。

『お主が死ぬ前にどうにかなされよ』

 ……腐らないよう紋も刻んでおいた。まだ、物を置くスペースもある。ーー大丈夫だ。

 一応、物を管理してくれる子もいる。まだ大丈夫と楽観することに決めた。


「順番的に土竜かな…。なんでも食べるし土でも食べさせようかな?」


 わりと本気で酷いことを口にする時点で、ルルの神経の太さとレイの口の悪さに匹敵するものがあるのだが、今のところ、リジェは自分が一番、常識人だと認識している。

 なにかないかと辺りを見回すが、自分の世界観からズレた物は目に付く限りはない。ただ、問題は暴食竜であるサラマーに普通のアケビだと思い、食べさせた物が毒物だった事だ。ーー似て非なる物が確実にあるというのは理解した。

 ルルが、屋店の売り物を食べながら時折渋い顔をしていたのも自分の常識と目の前の食材の味の差だろう。

 これだと、ファーレンが異世界人に対する恨みが逆恨みになのかも疑問になってきた。ーーが、今のところ、リジェは、レイもルルも興味のない事案に頭を突っ込む気はあまりなかった。

 復讐は出来たらしたいね。というのがルルとレイの言い分だった。つまり、何とかできそうなリジェが何にもしなければしないという言質でいいかとも思っている。面倒ごとに巻き込むつもりはない。

 安全を確保しつつ、元の世界に還さなければ、とリジェは使命に燃えていた。多分、他二人がいれば、いや、そこまでは暑苦しいから。と返されそうなくらいに。



 安めの宝石でも買って食べさせようかなと、それなら、ボックスの中にあるがサラマーに食べさせるというと大概管理人に拒否されてしまう。ボックス内の整理と常に腹ペコな竜の為にと一石二鳥な筈だというのに。解せん。

 などと考えているといつの間にか街道まで来てしまったリジェ。



「む、歩きすぎました」



 もうそろそろ、ルルの様子が気になるがダグラスと一緒に過ごす時間は少なめにしたい。軽い葛藤を行っていると、街道をどう考えてもオーバースピードで走る馬車が自分に向って突っ込んでくる。



「ど、どきなさーいぃっ!!」



 何故、馬を牽いているのがフリルたっぷりのドレスを着た金髪縦ロール少女なのか。リジェは、従士はどこだろうか思わず、ガン見してしまい、避ける気はなかった。



「きゃああああああああああああっ!!」

「はい、ストップ」



 悲鳴を上げるべきはどう考えても僕なんだけど。との不満は置いておいて。

 興奮気味の馬二頭の前に手をかざす。キキイィーっと、急停止した馬たちににっこりほほ笑む。



「ダメですよ。馬車が壊れちゃうようなスピード出しちゃ」



 甘えるような仕草で鼻を押し当ててきた馬たちにクスクス笑いながら撫で返す。



「あ、貴方、どこに目をつけてるの!?わたくしが退けと言ったら退きなさい!!」



 肩を怒らせ馬車から降りてきた少女にリジェは、肩を竦める。



「この子たちが怪我しないようにここで止めただけです。貴女一人が怪我をしたかったのならどうぞ。ここから一人歩いて後ろの暴漢?あ、盗賊にでも襲われればいいです」

「なっ!」

「おう、兄ちゃん。話が分かってんじゃねえか」



 馬車が止まった辺りを囲むように次々と馬に乗ったいかにも荒事を生業にしている男たちがこちらにやってきた。その中でも先行を有し、貫禄のある男がリジェに愛想よく豪快に笑いかけてきた。



「話の分かる奴は嫌いじゃねえぜ。」

「そうですか。僕も理由次第ではありますが、争い事は嫌いですので。乱暴・暴力・脅迫……結論からいえば親元に帰す以外の選択肢は全力で潰しますが。どうですか?」



 にこっと、男の愛想に泥を吐く言葉を投げかけるリジェに男の取り巻き達がいきり立つ。



「てめぇ、優男!!ガーゼラク様に向かって!!」

「黙れ」

「はっ」



 今のやり取りにリジェは一応は統率された組織なのかと納得した。納得できないのは、何故か話の軸である少女が自分を盾にしているところだ。



「もしかして、冒険者の方でしょうか」

「いいや。違うな」



 まさか、質問に答えるとは思わなかったせいで、その点で意表を突かれたが、しかし、好感が持てるなとリジェは質問を続けることにした。



「家出少女の家で雇われている護衛ですか?」

「それに似てはいるな」

「嘘つきよ!!」



 耳元でキンキンと大きな声が叫び、リジェは耳がキィーンっとなった。



「わたくしをあんな豚の元へ運ぶつもりのくせに!!」

「しかし、スリス嬢。ゴールドレイ殿と貴女様の婚約はお家の為にも」

「借金のカタに伯爵令嬢たるわたくしにあんな商人ごときに嫁へ行けと!!大体、借金のすべての原因は、あの妾腹の娘のせいじゃない!何故、わたくしがあんな性悪の為に自分の人生を棒に振らねばならぬの!?」



 興奮しながら叫んだせいか肩で息をする。リジェは、ガーゼラクに視線を向けると、肩を竦めた。どうやら、少女ーースリスの主張は間違ってはいないらしい。



「親は無能なんですか?」

「お父様は騙されてるだけだわ!!」


 目に見えて騙されてるなら無能では?とどこかからレイの声がリジェには聞こえた気がしたが、言葉にすることなく飲み込んだ。


「貴方、わたくしの為にあの方々と戦いなさい!」


 少女の高飛車な物言いガーゼラクを見たが、彼はやれやれと頭を振り、殺気立ったのは周りだけだ。

 

「戦うのは、別に構わないのですが」

「おいおい、兄ちゃん」


 ガーゼラクが咎めるように口を出そうとするが、それを手で制す。甘やかす気はないと目で示し、意図に気づき頷くガーゼラクに感謝する。


「その場合、君が僕に支払う対価って何ですか?」

「え?」


 エメラルドグリーンの瞳を丸くし、予想外のことを言われた顔をする少女。経験則としてこういう経験もあるのだ。


「例えばですが、僕が彼らと戦い。勝ったとして、君は自分が持っている物から対価を払います」

「え、ええ…」

「その場合、君の持っている路銀はすぐそこを尽きませんか?見たところ、着の身着のまま逃げて来たように見えますが。売れるとしたら、イヤリングとネックレスくらいですね。ドレスもばらせばいい値がが付きそうですが君、できないでしょ?……ネックレスを寄越せって言われて。素直に渡した場合、君の所持金は?イヤリングだって、君みたいなお嬢様が売ったところで足元を見られるか、すぐガーゼラクさんみたいな方が迎えに来ます。まあ、もしかしたら、人買いに攫われて君の言う豚との結婚よりひどい目にあうんじゃないですか?」


 淡々と可能性を羅列していく。実際に勇者として召喚された世界で親の理不尽から救ったと勘違いしていた少女に再会した時、その少女は娼館で働かされていたのだから。

 リジェには、とても目の前の高慢な少女が自力で身を守りながら生きていけるようには見えない。そして、最後まで面倒を見るつもりもない段階で面倒ごとはゴメンだ。

 すでにかなり抱えている。ルルとレイがこれからも持って来ないとは限らない。ーー自分だけは冷静でいよう。リジェはそう考えている。


「けっっっっっきょくは、腰抜けのいいわけでしょ!?」

「通りすがりの善人が救ってくれるほど、君は善行でも行ってきたのか?」


 ぐっと言葉を詰まらせる少女にリジェの目は冷たい。


「その根拠のない自信は止めて、家に戻り、盗めるだけ金や宝石を盗んできなさい」

「は?」

「………え?」


 何故かいきなり、何言ってんだろ。コイツ。という視線を受けたがリジェはなれた事だと流す。


「その後、名前がいかにも金持ちそうな商人のとこまでガーゼラクさんに運んでもらって、ガーゼラクさんが金を貰った瞬間、盗んだ金で彼を雇い直せ。ガーゼラクさんがフリーではないなら、行く道で信用の出来る相手を紹介してもらいなさい。逃げたかったら、そこまでしろ。親の顔にも相手の顔にも自分の顔にも泥をぬってこい。親が借金のカタに娘を売ったんだ。甘い幻想など抱く機会はとうに無くなってるんですよ」

「兄ちゃん、そこまで言うのか?」

「当り前です。数日も隠れていれば、考え直すとか考えてますよね。甘いですよ」


 ぎょっとしたようにリジェを見つめる少女にリジェは、ふんっと鼻を鳴らす。


「僕にも僕の都合があります。それを無視して、自分の都合ばかり口にし、当然のように元の生活に戻ろうとか考えているような愚者をどうして、助けなければならないのか。理解に苦しみますね。問題の根元が解決しない限り、どう足掻いても君はその商人の嫁に行くことになるか、それとも、それより底辺生活を送るか。この場で出会ったのが僕だという時点で、運が低そうですが、どうします?誰かが私を救ってくれるはずだと云う奇跡でも信じて、僕にこの場で彼らと戦えと?ついでに宣言しますが、そのあとの事は知りませんよ」


 唇を噛みしめ、悔しさで黙った少女にリジェの目はどこまでも冷たい。


「兄ちゃん、正論だがな」

「貴方方にも都合が良い話でしょ」

「俺たちを善人みたいに言ってるがよ」

「違うなら、痛い目にあわせるだけです。そこのお嬢様より単純でいい」


 しれっと返すリジェにガーゼラクは苦笑したが、その周りは殺気立つ。


「お前、我々に勝てるとでも!?」

「おい、やめねえか。ああ、そういえば、さっき冒険者か訊いてきたが、一応、ファーレン所属の冒険者カードはある。もし、この件で問い合わせたくなれば、そこに頼む」


 そう言って差し出してきたギルドカード確認し、ランクがBであることに軽く驚く。

 いかつい親父に見えたが、仲間に信用されるそれだけの根拠があったのか。


「わかりました。僕もギルド所属でランクはFです」


 カードを差し出した瞬間、ガーゼラクではない若い男がカードを思いっきり弾かれ、地面に落ちた。それをへらへら笑いながら踏みつける奴らの悪辣さに呆れはしたが。ガーゼラクを見ると、苦笑だけ返される。

 どうやら、舐められたのかと納得した。


「いや、すまない。ランクで実力を判断すべきではないと」

「それは仕方ないですね。そして、そういう輩の心を丁寧に折っていくのが最大の楽しみな人間もいるんですよーー『風よ(ウィンド)』」


「「「うおっ!!?」」


 突然の突風に驚き、ガーゼラク達は目を瞑る。


「な、なんだ?おい。兄ちゃん!?」


 目を開けた瞬間、忽然と消えたリジェと、


「大変です!さっきまで、あそこに居た筈のスリス嬢が!!」

「なに!?」



 大慌てで、女を探すガーゼラク達を空を飛ぶ毒竜の背から眺めるリジェと少女。少女は不機嫌そうに。


「わたくしを助けるつもりはなかったのでは?」

「理由もうまみも足りませんでしたが、僕たち幼なじみの共通事項なのですが」

「なんですの」

「『売られた喧嘩は相手が泣いて謝るまでやり返せ。ただ無理と判断したら素早く撤退』と師匠(センセイ)に教え込まれていたので。ガーゼラクさんには、恨みはありませんが下の躾がなっていません。仏の顔も三度までです。君には彼らが赤っ恥を掻かせるために君を利用しますね」


 なんとも言えない言い分に唖然とする少女にリジェは晴れやかに微笑んだ。


「夕飯までには解決させたいので、さっさと行きましょうか」



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