売られた喧嘩?
「自分より魔力が下ってなんすか?ルルの魔力はあにさんより上ッスか?」
「おや、リジェ様にお聞きになっておられない?ーーお嬢様の召喚時において召喚主との特別な契約がなされております。そのせいか、お嬢様は召喚主の魔力までお持ちになってしまっているようです。事故かそれともそのようにしたのかは、分かりかねますが」
やれやれ、と肩を竦めるエイラにルルは、ふむーっと頷く。と、云うことは自分はファーレンに召喚された訳ではないという結論になる。なら、何故、言語補整がなされなかったのか。疑問だ。そして、なんとなくエイラの態度が鼻につく。喧嘩を売られているような?
「ところで表現が大袈裟な気がするッス。『自分より魔力が低い者が作った物が纏えない』ならルルは、何にも着れなくなると思うんすが、どーッスか?ルルのために特別に誂えた物って訂正なさったほうがいいのでは?」
ルルの言葉に何故か大笑いを始めるエイラにシロが唸り始める。どうも、馬鹿にされたと判断したらしいが、ルルはそれを大丈夫だからと諭す。
しかし、確信はした。喧嘩、売られている。と、
「すみません、頭が軽く見えたのですが、意外に鋭い。……現時点では調査中と言うことで」
ここまで露骨なことに関心はしたが、売られた喧嘩を買わない主義ではない。
「なるほど、頭が軽い奴なら説明の手間を省くと。ここの従業員の教育に関して、ダリアは三流ッスね」
わかりやすい挑発をしてみる。さすがにこの程度で怒るくらいなら最初から喧嘩を売るなと思ったのだが、
「ーーッ、ダリアさんは関係ない!」
……激昂してきた。単純だったのかーと、ルルはこのまま挑発して様子を見ることにした。
「アホッスか?あなた様の行動ひとつが店の評価ッス。ルルが頭が軽かろうが軽んじていい理由にはなりません。ダリアは教育に関して三流。エイラは接客業で無能。……さて、水の色が変わり始めましたが、上がっても宜しいでしょうか?」
冷淡に問うルルをエイラが憎々しげに睨み付ける。
「……まだです」
「そうッスか。で、ルルが一糸も纏わぬ姿でこの球体の水に入った理由はなんすか?シロさんの方は綺麗なスカイブルーになりましたが、彼女は上がらなくていいんすか」
「……どうぞ。猫さんは上がってください」
エイラがようやく絞り出した声にルルは呆れた。
「言い負かされたくらいでその態度はないと思うッス。ーーシロさん、着替えたらダリアさんを呼んできてほしいッス。ルルの水の変化を伝えてあがるタイミングを知りたいので」
「はい!」
ピコーンッと尻尾をあげて、返事をするシロにルルは、礼をいい、黙ったままのエイラに視線を向ける。
「何しに出てきたんすか。ルルを不快にする為なら成功ッスが」
ただ、自分を眼鏡越しに睨み付けてくるエイラにルルはこれ以上話しかけても無駄だと判断する。
シロがパタパタと連れてきたダリアが、そんな凍りついた部屋の雰囲気を察し、眉間に皺を寄せるとエイラに部屋から出ていくように指示する。
「エイラ、彼女はリッちゃんの大切な子よ。だからって、喧嘩を売っていい理由にはならないわ」
「でもー…っ」
「猫ちゃんから聞いたわ。まさか、口止めされたことまで言っていたなんて。エイラ、しばらく、店に来なくていいわ。少なくてもルルちゃんの法衣が完成するまで」
エイラがまだ、何か言いたそうにしているが、シロが威嚇体勢に入ると息をのみ一歩引く。
「獣人の子を怒らせないほうがいいわ。帰りなさい」
何か言いたげにしながらも去っていくエイラに何しに来たんだろうと首を傾げるルル。
リジェに恋慕したなら、リジェに真っ直ぐ好意を向ければいいのに。この手の嫉妬にはなれてはいるが、ルルを利用しようとしたり敵意を向けたりするとリジェやレイの恋愛対象から外れる。
つまり、あの二人狙いはルルを巻き込むな。と恋に破れた女たちの共通の認識なのだが、……異世界だし知らないか。と、ルルはこの手の厄介ごとがこれからまた付き合うことになるのかと覚悟することにした。
「ところで、魔水の色はどうなったかしら?」
「麻酔?」
「魔力のお水よー。色は?」
一応、背中を向けてくれているダリアにルルは苦笑する。
「すみませんッス」
「どうしたの?いきなり」
「売り言葉に買い言葉で、ダリアさんを三流呼ばわりしましたッス」
「あら、耳に痛いわ。耳に入れなくても良いこともあるのよ。ふふ」
たのしげに笑うダリアは、三流なんて大変失礼いたしましたと土下座したいくらい大人でルルはウィッグの件と共に罪悪感にちくちく胸が痛んだ。
「魔水の色は……なんだか。入った時より水が白く濁った気がするッス」
「あらー、じゃあ、やっぱり、リッちゃんより魔力は高いけど、質は良くないのね」
上がってと言われ、上がるとシロがタオルと服を持って走り寄ってくる。
丁寧に髪をシロに拭かれ体は自分でと断る。服を着込み、やはり、普通に着れると確認し、ダリアに訊いてみることにする。
「……魔力がルルより下の人間の作った物は着れないって本当ッスか?」
「あら、そんな意地の悪い言い方されたの?正確には『ルルちゃんの為に創られた特殊な物は、ルルちゃんより魔力の弱い者が魔力を込めた物』だと着れないのよ。リッちゃんが一生懸命に魔力を込めたさっき、猫ちゃんが纏って魔水に入ってもらった布がそれにあたったのよ」
ひょえーっと、シロが毛を逆立てた。まさか、自分の主人の妹たる人間の為に誂えた物を自分が着ていた事に恐怖したが、ダリアがそれを感じとり、否定する。
「なぜッスか?」
「多分ねえ。捜索する時に下手な小細工を受けたくなかったか。召喚主がよっぽど嫉妬深いかよねー」
「……で」
なんでそんなのに召喚されたかなんて、今のところ心当たりがないので保留。自分とシロの差の方が気になる。
その意思をくみ取ってくれたらしくダリアがそうねっと。
「リッちゃんの魔力で無理なら、ルルちゃんの魔力で作りましょうって話よ。あの布自体はとても良いものよー。何枚か仕立て代として貰っちゃったわ。どんな魔力も込めれちゃう。それで、せっかく造ったほうは、猫ちゃんにあげようって話になったんだけどねー。今度は、猫ちゃんにリッちゃんの魔力が強すぎて毒になっちゃうのよ。ほら、自分が消化出来ない魔力に当てられ続けて魔力酔いが強制的に作れちゃうみたいな?ルルちゃんの魔力基準だったみたいだから逆に枯渇のほうで深刻になる機能も付けちゃったみたいよ」
なんだか、話が恐ろしい展開でシロは血の気が引いていくが、ルルは、逆に興味深そうに聞いていく。ただ、やっぱり、いまいち話が飲み込めないところがあり、シロに詳しく覚えていてほしいなーと頼んでおく。何故か涙目で必死に頷くシロにルルは、ガンバレの意味も込めてあに様にも説明するんだよーと言うと、姿勢を正して話をかじりつくように聞き入り始めた。
「で、ルルちゃんの方の魔水はルルちゃんの魔力を吸い取る魔水で。布をこれから付け込む為の用ものよ。だから、余計な遮断をされないように裸になってもらったの。猫ちゃんは言い方が悪いかもしれないけど、リッちゃんの作った物の品質を落として、猫ちゃんでも使用できるように調整する為の魔水よ。布と猫ちゃんが馴染むよう一緒に入ってもらったのよ」
ルルは、黙って隣で大量の汗を流しているシロの肩を支えた。
「も、もうしわけ!!」
「結局使い物にならなかったんす。気にしちゃダメッス。ほら、綺麗な法衣を作って貰いましょう。ね、ダリアさん。最新の乙女なあなた様なら、やれる。あにさんにお仕事出来るとこ魅せて、一発コロりっす!!」
「あら、アタシの恋の応援なんて、ルルちゃんったらかわいいんだから!」
「いえ、応援はしてないッス。玉砕したら骨は拾うッス」
「ひどいわ。もう、すねちゃう!!」
ぷりぷりと怒ったダリアにそういえば、髪が金髪の縦ロールにした理由を聞こうかと思ったが、シロに口を塞がれた。
法衣についていろいろ、ダリアにデザインなどの希望を訊かれながら、ルルは、そういえば、あにさんの帰りが遅いなと首を傾げた。




