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頭がついてかない。



「ーーすっかり、落ちぶれて」

「藪から棒になんだ」

「いえ、綺麗な生地の服だったのにねーって話ッス」


 アレンが、今までのどこか貴族の坊っちゃんのような小奇麗な格好を止め、冒険者らしい格好に姿を変えたのにルルは、ため息を吐いた。


「一応、鎖かたびらを着込んでいる。防御に問題はない」

「そういう話ではないッス」

「レイもこの程度だ。お互いに回避を重要視したからな」


 確かに動きやすい格好になったようだ。レイをジロジロ眺めるとテレビで見た軍服に似た服に胸当てをしている。リジェも似た感じだ。


「シロさんにはなんも買わなかったんすか?」


 会った当初から変わらずのボロい格好の少女に新しい趣味でも出来たのかと冷めた目で見つめる。


「ーー男だけでファッションショーとかひどい話ッス」

「違います。仕立て屋と服屋にこれから、僕と君達二人で一緒に行きます。レイちゃん、アレンさん。では、お仕事頑張って」

「え?ご、ご主人様??」

「行ってくる。ルルを見張ってろよ」

「ルル、無茶をしないように」

「ご期待に添えるように頑張るッスー」


 ひとり困惑しているシロが慌ててレイに着いていこうとするので、止める。


「どこへ行くんですか。シロさんを買ったのはレイちゃんですが、世話をしなければならないのはルルです」

「で、でも…」


 尻尾と耳をしょんぼりさせる猫少女にルルが飛び付こうとするのもリジェは止める。


「それにそんな格好だと一緒に歩きたくありません」


 ボロボロだが元がワンピースだとわかる服に身を包んでいるシロを目の毒判定するリジェ。

 一応、羽織を貸してはいるが、「そんなご主人様のなんて恐れ多い」と、何故か恐縮していたので、ならとリジェのを貸したが「ご主人様の友人の……」と言うので、早々服を買い込むことにした。



「ルルもッス。せめて、メイド服に」

「僕はメイドをつれ歩く趣味はない」


 きっぱり拒否されたルルはふて腐れた。


「可愛いじゃないッスか」

「見慣れると有り難みがなくなりますよ」


 ーーなるほど。確かに。とルルは思った。

 リジェは見慣れたのだろうと納得し、でも一着くらいは欲しいなーとおねだりの算段はつける。


「異世界って体操着とか制服ってないんすかね」

「………買いませんからね」


 ねこみみせいふくーっと謎の声を声高にあげるルルの口を塞ごうと屋台を見つけるたびに買い与えてみる。おいしいおいしいと食べる様子に安堵していると、時々首を傾げる様にリジェも一緒に首を傾げる。


「どうしました?」

「これ、なんすか?」

「?昨日と同じ焼き鳥じゃないですか」

「大型鳥の焼き鳥ですよ。魔物です」


 シロのなんでもない事のような説明にルルがそっと口を離す。


「お、おいしいですよ?」

「わかってるッス」


 ふむーっと考え込んだルルの手を引き、障害物にぶつからないように誘導するリジェ。シロがその後をついてくる。


「あにさん」

「はい」

「蕎麦も食ってみたいッス」

「……あとでね」


 真剣みを帯びた目で、頼んでくるルルに苦笑しながら、リジェは目的地に案内する。



「法衣を作る予定ですが、それにはルルとシロさんの魔力を馴染ませた生地を扱いたいそうです。きちんという事を訊いてくださいね」

「あにさんが持ち込んだ素材ですよね」

「ええ、だから、困った事態になっているらしいです」



 意味も分からず、仕立て屋ですと入った場所は生地がたくさん並んでいてルル的に呉服屋?と首を傾げたが、何故かシロが尻尾を逆立てている。つまりは警戒しているのかな。



「シロさん、何か嫌な感じでもするんすか?」

「ひゃ、ひゃい!!なんだか嫌な気分です!」

「それは、差別かもしれませんが獣的な部分っすか」

「いいえ、多分、一定量魔力を持っている者の本能です」



 生真面目な答えにルルは、感じ取れない自分が鈍いのかと納得する。



「すみません。シロさんに失礼な質問をしたようッス」

「ーーいいえ!!そんな。わたしは、」



 頭を深々と下げるルルに血の気が引くシロ。正直、こんな丁寧な態度をとられるほうがシロには恐怖だ。奴隷として買われた自分がこんな風に丁寧に扱われることなどないと思っていたのにどうも、あのレイと呼ばれている自分の主人に出会ってからおかしなことばかりで、シロは困惑していた。



「シロさんには、やはり僕の魔力では強すぎるようですね」

「そ、そうなんですか?」

「逆にルルには、僕でも太刀打ちできないと」

「ふにょ?」

「だから、困っているんですけど」



 はーぁ、とため息を吐いた後、リジェが気を取り直しこんにちはーっと声をかける。


「はいはーい。お待ちしてたわ。リッちゃん!!」


 ジュッテーム!とばかりに現れた真っ赤なルージュを注した金髪おかっぱムキマチョの男の突進をリジェはさらっとかわす。あ、生地に突っ込んだ。ルルは興奮した。


「すごい、異世界クオリティーッス!!」

「いえ、最近はどこにでもいます」


 シロが一生懸命助け出している。フリルがふんだんに使われたシャツが半分くらいボタンをきちんとつけていない。


「大丈夫ですよ。意外と丈夫なのは知ってますから」

「いやん。リッちゃん、冷たいわ」


 うっふん!と身体をくねらせる男にリジェがげんなりする。


「怖いんですが」

「正直ね。リッちゃんは」

「いえ、本当に仕事の話だけして後ろに下がってください。何度も言いますが、僕はノーマルです」

「ふふ、自分じゃ本当の自分に気づけないものよ。さ、怖がらないで」


 ぶちっと何かが切れる音がルルには聞こえた。


「あ、あにさん?」

「『 水よ (ウォーター)』」


 バッシャンと男の頭上に水の塊が落ちた。


「ぎゃあああああああああああああっ!!!」


 男らしい断末魔にルルは、おおうっとなった。


「全く」


 チッと舌打ちするリジェにルルは、ぴくぴくと虫の息っぽい男を近くにあった棒でつんつんと刺してみる。


「え、じゅ、呪文を唱えてなかった??」


 シロが目を白黒させている。リジェがああ、と説明を始める。


「ああ、僕も一応この世界の精霊と契約したので。簡単な魔法なら呪文なしで……って、ルルは興味ないんですか」

「いえ、あるにはあるんすけど。この方、かつ…」

「ウィッグですね。はい、そこで泣かないでください。僕が本当に悪かったから」


 ルルの持っていた棒に金色の何かが絡まっているのにリジェは慌てて、元の場所に戻す。しくしくと、泣いている男にルルが手を合わせる。


「合掌ッス」

「本当に申し訳ありませんでした!!」


 あーぁ、泣かしたーっと。ルルの冷たい目にリジェが罪悪感に襲われる。が、それはそれ。


「早く、ルルとシロさんに法衣を作るといいっす」

「ルル!!」


 ていっと、男の頭をぺちぺち叩き始めるルル。


「おじさんも一人前のプロの筈ッス。泣いてないで頑張れッス」

「いや、もう完璧にトドメ刺しに掛かってますよね。頑張れない方向にしているのはルルですよね」

「ーーいいえ、その子の言う通りよ。リッちゃん」


 むくっと立ち上がる男におおっと手を叩くルル。


「アタシったら、すっかり恋にうつつを抜かしてしまったわ」

「そ、そうですか」

「男…いえ、オカマなら仕事で男を捉まえなければ。そう、アタシが頑張っている姿を魅せればお堅いあの子もイ・チ・コ・ロよん」


 くねくねと自分を抱きしめながら語りだす彼をじーっと見つめるルル。


「あっ」


 頭がずれてると言おうとするルルの口を塞ぐリジェ。


「はい、頑張ってください。さ、ルルを連れてきたのでさっさと魔力を移してください。ダグラスさん」

「ああん!もう、何度言ったらわかってくれるのかしら。アタシはダリアよ。恋という花を咲かせるオ・カ・マ」

「確かに濃いッス」


 リジェの手で抑えられている口をどうにか開き余計なことを言うルル。


「ふふ、面白い子ね」

「あなた様ほどじゃないッス」

「いいわん。さ、リッちゃんに頼まれた事だし、いつもより頑張っちゃう。こっちに女子たちは来て。ああ、リッちゃんは女の花園を覗いちゃだ・め・よ・ん。」

「わかっています」

「でも、どうしてもっていうなら。アタシのー…」

「僕、ちょっと、レイちゃんたちの様子を見てきますので。ルルをよろしくお願いしますね。シロさん」


 そう言い放ち、あっさり姿を消したリジェにルルは感動した。


「あにさんに初めて見捨てられたッス」

「る、ルル様。感動するところじゃないのではないんでしょうか?」

「まあ、リッちゃんたら、照れちゃって」


 リジェが消えた方向に投げキスを送るダグラス……ダリア?


「どちらの名前でお呼びしましょうかッス」

「ダリアよ」


 目がマジだ。殺気を感じた気がし、ダリアと呼ぼうと決め、ダリアが誘導するままに奥の部屋に入ると、球体が並んでおり、その球体の中に水が入っている。


「じゃあ、服を脱いでその中に入ってね」

「ふえ?」

「はーい」

 

 なんの抵抗もなく服を脱ごうとするルルをシロが慌てて押さえつける。


「男性の前ですよ!!」

「ダリアさんッス。……ん?女性もイケる方ッスか?」

「いいえ。アタシ、ノンケな男がす・き・な・の」

 

 ポッと、頬を染めるダリアにおおムズゲーと感心するルル。


「でも、たまに猫ちゃんみたいな反応をする子もいるわ。外にいるから、ああ、猫ちゃんはこれを着て隣の球体に入ってね。じゃ、その水の色が変わったら呼んでちょうだい」


 悲しそうに去っていくダリアにシロが申し訳なさそうにぺたんととんがり耳を閉じてしまう。


「まあ、気にしないほうが良いッス。それよりシロさんの言い分が少数なほうが気になるッス」


 服を脱ぎ始めるルルはシロに私がお手伝いをと言われたが、丁寧に断る。そして、そのまま水の中にダイブ。


「しかし、なんでルルは全裸でシロさんは布を被るんでしょうか」

「それはですねー」

「ふええええええっ!!?」


 突然現れたグリグリ眼鏡のおさげ少女にシロが悲鳴を上げる。


「ああ、失礼。わたくし、ダリアさんの助手のエイラです。ダリアさんが追い出されたのでご説明なさってなかったところの補足を」

「ああ、痛みいるッス」

「いえ、お嬢様のようにすぐ、ダリアさんを受け入れる方の方が少ないですから。さ、猫さんもその布を着て入ってください」


 促され、布を着て水の中に入るシロ。


「はい。それでは説明させていただきます。まずは猫さんの場合ですが、その布はもともとリジェ様が自分の魔力を込めた品です。なんでもどこかの国で巨大蜘蛛の糸を頂いたとかで品質の良い糸に上質な魔力を込めた大変垂涎ものの品であります。それを当初はそちらのお嬢様の物にしたてあげる予定でしたが」

「何か不具合でも?」

「はい。お嬢様がもうすでに誰かに守護されてしまっているようで。自分より魔力の弱い方の魔力を纏う事が出来なくなっていらっしゃるようです」

「………にゃへ?」


 珍しくルルが、呆けた。





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