能力制御出来た…けど?
レイに買うならルルだった筈なのに!とわけのわからない文句を延々と連ねるルルをいい加減迎えに来たアレンは一階の食堂に抱き上げて連行した。
その時、視界の隅に入った猫耳の少女が体育座りをして汚された……と悲痛な雰囲気を醸し出していたが、気のせいだと云うことに留めておいた。犯人はこの清々しい顔をした少女だろうから。
その姿にギョッとしたのは、美里だ。
「おう、なかなかの美女ッス」
赤毛のセミロング、スラッとした肢体だがつくところはきちんとついている。キツメの美人だとルルは判断した。
「シロさんは健康美少女ッスが、お仕事がきちんと出来そうな美人も大好物ッス。ぜひ、風呂をご一緒したいッス。ああ、胸を揉ませていただけるとさらによいッス」
「え…。あ、あー…ねえ、レイ。何この掛け値なしの美少女が口を開いたらいきなり、おっさんみたいなセクハラしてくるんだけど。これは何?魔族?」
「なんだ。魔族もいるのか。いちいち面倒な」
「人間だ」
生真面目に返したアレンにそれでも信じられないモノを見る目でルルを眺める美里。
「真っ白よ」
「アルビノなんだ。……そういえば、ここに来てからさらに白くなったな」
「鏡見てないんでわかんないッス」
ご飯ッスかー。と呑気に訊くルルにまだ時間外でーすと、宿屋の看板娘が返してきた。
「あ、妹さん、ようやく目が覚めたんだ!」
ポニーテールの小柄な少女にルルは観察眼を向ける。……頭をアレンに小突かれた。
「何するんすか」
「婦女子に不躾な目を送るな」
「あははっ。大丈夫。お客さんで馴れてるから。私はヘレナ。確か、ルルちゃんよね。同い年みたいだから仲良くしましょう」
「金の切れ目が縁の切れ目ッス」
また、アレンに小突かれたので文句を言おうとしたら、レイもチョップしてきたのでさすがに黙るルル。
アレンに椅子を下ろされたが、お腹空いたーと騒ぐルルに仕方ないなーとヘレナはどこかへ行ってしまった。
「まだ夕飯時じゃないのか。外で食べてくるか?」
「いや、レイ。どう考えても、ヘレナ嬢は、ルルの為に何か買いに行ったのでは?」
「そうなんすか?てっきり、呆れてどっか行ったのかと思ったッス」
「お前ら、自分達以外が雑すぎだろ」
そうだろうかとレイとルルは互いの顔を見合わせた。
「ちょっとー、いい加減自己紹介しなさい!特にその白いの」
「にゃっほほほっ。失礼な。白いのではなく、ルルッス!十代ッス。ついでにそっちも紹介しなッス。年もな」
「くっ…一番、訊かれたくないことをッ。そうね。美しい里と書いて美里よ。21よ」
「よし、ルル。やれ」
「はーい」
「いや、待て。魔力の枯渇で倒れた奴に何をさせる気だ。範囲を絞る訓練をリジェとしてからの方がいいだろう」
アレンの冷静な指摘にルルは嫌な顔をした。
「くくくっ、止められて止まる性格なんて」
「はいはい。焼き鳥買ってきたのでストップ」
ちょうどよく、片手に焼きたての焼き鳥十本ほどを持って帰ってきたリジェにルルがあーんと口を開く。その口にひと刺し入れておく。もぐもぐと信じられないペースで一本目を消費するルルを信じられない生き物でも見る眼で見つめる美里。
「塩味うまー」
「そう、良かった。それで、ルルに関しては秘匿性があると思うんですが。レイちゃんとアレン、何うっかり披露しようとしてやがってるんですか。怒りますよ」
にっこりと、アレンとレイに詰め寄るリジェに美里が噛みつく。
「ちょっと、アンタ。琉人はどうしたのよ!!」
リジェが心底不愉快そうな顔をしたので、アレンは止めに入るべきか悩んだ。
「?琉人って誰っすか?」
「色ボケ」
「脳内ピンク」
「……かわいそうな方なんすね」
ルルの疑問になんの抵抗もなく暴言を吐いた幼なじみ達にもぐもぐともう五本目に手を出すルル。
「あれについては、自分の実力をしっかり教えて、自分にあった装備を買い直させただけですよ。彼、回復要員なのに全身鎧とか、やる気あるんですか。むしろ、死ぬ気ですか。ええ、剣の腕も試しましたがまったく出来なかったんですが。ギルドカードの不正ですか。どうなんですか。答えてくれませんか…美里さんでしたっけ?」
ーーにっこり、微笑んで魅せるリジェに通常なら誰もが見惚れるだろうが、残念ながらかなり琉人のせいでキレているらしいので背筋が凍る空気を放っている。
ルルは、もぐもぐと考えた。消化に悪いなって。
「あにさーん、その琉人って方はここに来るんですか?」
「いえ、来ません。むしろ、これたら誉めてやります」
アレンが賢明にも黙ったのを確認する。笑顔のリジェは怖い。どうも、琴線に触れる行いをされたか言われたかか。
ふむ。とルルは頷いた。
「あにさ、」
「何ですか」
「美里さんは無関係なんじゃないでしょうか。仲間だからと一蓮托生にすべき問題っすか?」
ルルの言葉にたっぷり考えはしたが、ふう…と溜息を吐き怒気を弱めるリジェ。
「いいえ。そうではありませんね。申し訳ありませんでした。美里さん」
頭を下げるリジェに慌てて美里も琉人が悪かったわと謝り返した。
ルルは最後の一本を名残惜しそうに平らげながらその様子を眺める一本も誰にも渡さなかったことに誰も何も言わなかった。
「ただ、彼には戦士系の装備は合わないと思いますので。これからは何と言われようとも自分に合った装備をさせてあげてくださいね」
ーーどうやら、その辺に何かトラウマがあるのかとレイとアイコンタクトし合うルル。
「そうね…、久しぶりの外の世界だから琉人もちょっとはしゃいじゃって」
悲壮感たっぷりの美里にルル達はルル達で作戦会議を始める。
「なんか、面倒ごとっすか?」
「いや、追い出され系じゃないか」
「確か回復系は珍しいって。なら、新しい新人君の方が使いやすくてか能力が上とか?」
「何年か一回は交換してんじゃないか?ほら、変な知恵とかつくと使いにくい」
「ああ、異世界に堪能させろとかッスか?」
「ギルドのおっさんに聞いた話だが、どうも特殊能力持ちはどっかの国に大事にされてるぽいぞ」
「うにゃー、これまためんどくさいッスね」
アレンが無言でメモを差し出してきた。ん?なんだと見上げるとシィッとリジェを指し、
「リジェがお前の能力をお前に憑いている『亜種』を調べた結果だ。どうも、不具合が生じているらしいが、一度使ってみたほうがいい」
「どうした。さっき止めたよな」
「あれッス。美里の姿にようやく外の世界を知る気になったッスね」
好き放題に暴言を吐く異世界人に血管が切れそうになるがアレンはホラっとメモをルルに手渡す。
「これがその時の話し合いをリジェがメモした内容だが、役にたちそうか?」
「普通に紙だ」
「ああ、動物の皮とかだったらどうするかなと思ったッス。羊皮紙でしたッスか?」
「これが異世界の知識を貪り尽くす国の結果か。非道もいいところだな。いや、リジェのメモならもとからアイツが持ってた紙じゃないか?」
「貴様等…」
そろそろ、青筋を立て始めたアレンに冗談だと言っておく。……ルルには難しい。
「あに様」
「そうだな。美里のフルネーム・年齢・出身国あるいは世界の名前・所属していた或いはしている国か組織・得意な能力・琉人との関係・最近の企みでいいんじゃないか?」
「多くないか?」
「いや絞らず出した時、先祖の話から出たんだ。これくらいリハビリに良いんじゃないか。」
「では、イメージするッス」
むむっと眉間に皺を寄せながら、み~さ~と~と声に出して念じているルルの不気味さに名前を呼ばれた美里はひぃっと悲鳴をあげる。リジェが呆れたようにルルに近づき、後ろから抱き込むようにうまく魔力を纏められないルルのサポートをする。
「?何してんだ」
「レイちゃんにもしたでしょ。うまく纏まらない魔力を逃げにように枠を造って形を造るイメージの手伝いです」
ああ、と思い出したように頷くレイにただあの時は横から手助けしてた。決して後ろから抱き込むようにはしてない。と心でツッコんでおく。
なんだか、手に緑色の球体が出来ていくのを感じ、これが魔力?と首を傾げる。
「そうですね。このまま魔法として使えれば良かったんですけど」
あ、やっぱりそれは無理なのかとルルはがっかりしたが、リジェは苦笑しただけだ。
「では、スキルを発動させてください」
「はーい。『攻略本』」
ボフンッとやはり緊張感のない音と共に現れたB4サイズの緑色の本に一瞬、一度能力を見た四人が一瞬黙った。美里がなんなのよーと騒いでいるが、無視した。
「……前は赤かったッス」
「別能力か?」
「いえ、ルルの能力は一択しかないはずです」
「そうなると『亜種』の嫌味か。ルルが植え付けられている倫理を能力が表した可能性があるな」
レイの言葉に会ったこともない輩に嫌がらせを受けるとしたら、あにさんとあに様のせいじゃといいそうになったがぐっと耐えた。
「赤は危険。青あるいは緑は安全?…次は黄色ッスね!!」
「いえ、まだ確定してないので開いてみてください」
秘匿しようって言ってた人間がこの場で能力を使用しろとな!?ルルは驚愕したが、ように見せかけて躊躇いもせずにページを開く。
あ、絵付きになっている。と感嘆した。
『 名前 田中美里
年齢 23
出身 異世界
得意な能力 呪い・呪縛
所属 グレンタギルド
元所属国 カイエン大国
琉人との関係 幼なじみ
思考・備考
自分たちを放り出したカイエン大国の鼻を明かす。
琉人に告白する。 』
「あ、二つサバを読んでるッス」
「最後に関しては好きにしてくれ」
にやにやしたルルとうわーと嫌な顔をしたレイと難しい顔をしたリジェは、そのまま困惑しているアレンに話しかける。
「読めますか?」
「いや…」
頭を横に振って読めないことを認めるアレン。ついでに騒いでいる美里にルルの能力の確認をする。
「すみません。美里さん。これ読めますか?」
「?なによ。その……字なの?」
だんだん不安になってきたのかリジェを見つめる。それに頷き返し、リジェはふむと、
「美里という名前で油断していましたが、美里さんは僕たちとは違う世界からの召喚者ですね」
「そう、なの?」
腑に落ちないと言った感じの美里にルルも首を傾げた。
「美しい里って、どう書くんすか」
紙とペンをを用意し、美里に字を書かせるとやはり知らない文字だった。アレンに確認したがこの世界の文字でもないらしい。
「異世界人って、だけで仲間だと思いこんじゃったみたいね」
「そんなショックなことか?」
呆然とした美里に思わず問うレイ。リジェは複雑そうな顔で、
「何年も元の世界に帰れないと同郷の人間を見つけただけで歓迎しちゃったりする方もいます。後、自分が帰れない世界に後から来た方が帰れると知った瞬間に激怒する人も」
「経験談スか?」
「そうですねー。一度殺されかけました」
暗くなった空気に誰も何も言えなくなった。しかし、その場で空気を読まずに突っ込もうとするルル。
「それより」
「それより!?」
「そうだな。なんだ」
ルルのあんまりな言葉にアレンが思わず咎めようと口を開きかけたが、レイがルルに賛同してしまい黙るしかなくなった。
「そうですね。なんでしょうか」
「ルル、能力を使っても倒れませんでした。誉めてくださいッス」
一瞬、それ、フツーと言いかけたが、リジェはニッコリと微笑んだ。
「そうですね。制御できましたね」
「あと、美里が二つサバ読んでましたッス」
「なんで、アンタがそれを!!」
先ほどまでの悲壮感も忘れ、ぎゃんぎゃんとルルに噛みつき始めた美里を眺め、アレンはそこでようやく、
「ああ、ルルなりのはげまし」
「じゃないぞ。ただ単に誉められたくてうずうずしてただけだ」
レイがあっさりと否定したせいで、残念な気持ちになるアレン。
「あれー、リジェさんもお帰りなさい」
そこにすぐに食べれそうな食材を買ってきたらしいヘレナにただいまと笑むリジェ。ヘレナが顔を真っ赤にしたのでルルが思わずロマンス!?と叫んだが、すぐにアレンに口を塞がれた。
ヘレナが買ってきたもので夕食まで食いつなぐルルを尻目に明日の予定を取り決め、美里が帰っていった。
夕食を食べ、部屋に軽食を持って上がるとシロがまだぶつぶつ言っているので、レイが食事をしろと声をかけると「もちろんでございます。ご主人様」とすぐに軽食に飛びついた。
「部屋は二つになりましたので、シロさんとルルはそっちに移動してくださいね」
「え、ご、ご主人様の夜伽は!?」
「いらん。ルルにセクハラされてろ」
「は、はい」
何故かしょんぼりするシロに怪訝な目を送るレイ。
「異世界人そろって朴念仁か」
「節度があるだけだ。後腐れがないか。惚れた相手が良い」
「僕も、師匠に『惚れさせるか金を払って相手して貰え』って」
「ルルは、女を使いたい放題にするッス!!」
「そうか…」
なんとなく、ルルが一番肉食のような気がしないでもないがセクハラしているのが女なのが微妙なところだ。
「で、明日の午前は防具とか武器を買いに行きますからね」
「……なんか、金稼ごうとして、さらに借金とか悪循環だな」
「元の世界じゃ使えないんですから。気にしなくても」
「いや、ここの世界の金は持ってなかったろ。どこでどうやって」
「持っていた素材を売っただけですから。説明は後々しますから」
なんとなく胡散臭いなーとは感じていたが、やはり胡散臭かったリジェにルルはがっかりした。
「なぜ、そこであーぁって顔するんですか」
「いえ、あにさんが頼りがいがありすぎて困るッス」
「そこ責められたくないです。ルルに関しては仕立て屋に行きますからね」
仕立て屋?と首を傾げるリジェは悪戯を行おうとする子供のようににぃっと口元に弧を描いた。




