④ レイ編
ギルドに犬たちを押し付けることは成功した。
「まあ、魔物使いがギルド職員にいるからな」
使い魔に出来るだろうと云うのは、まあ仕方ないが何故か自分の血を使うと言われた瞬間、レイは少し考えた。
「それはオレが契約者ということになるだろ。元の世界に帰ったらコイツらが暴れて処分されたとか気分が悪い」
「まあ、ないとは言い難いが。人に慣れさせるには服従させた相手の血が一番だ。いいから、手を出せ。お前が飼ってくれと頼んだんだろ」
服従させたのはミューだが、ミューは血が出るのかとか精霊でもいいのかと聞くのが億劫なせいでレイは頷いた。
「…わかった」
釈然としない気持ちのまま、犬たちと契約する。いや、これは可愛いから良いのだが問題はもう一つの方だ。
「ランクDの冒険者のクエストにお前が付き合うのか?お互いの為にあまり良くない気がするが」
渋い顔をするクレイマンにレイは、ため息。猫耳少女がことの成り行きにびくびくしていたり、琉人はこのお話がなくなればいいと思っているらしいなと、しまりのない顔でバレバレだ。
「どうしてよ。レイはどう考えても今のランクが似合わない男よ」
「そうかもしれんが、一生ここに骨を埋める気はない。そうだったな」
「もちろんだ」
「なら、なんで、奴隷を買おうとする」
クレイマンの言葉にレイは首を傾げた。
「別に買おうとしているわけじゃないが」
「いや、契約を結ぶのなら」
「雇用主になるだけだ。問題ない」
「は?」
意外そうな顔をされたので、レイも意外そうな顔で返した。どうした。おっさん。
「オレが彼女の雇い主になり、働いた分の給料を払う。そういう雇用形態を彼女の身の安全を確保しつつ結ぼうとしているだけだ」
「……奴隷相手にか」
「さあ、オレの常識の範囲の話として、奴隷がどれだけ非人道な扱いを許されているのか知りたくないという話だ。出来れば買うではなく、雇うという形にしたい。働き次第で給料も支払いたいからな。その為にオレ自体もしっかり稼ぎたいし、美里達から借りる形にするかリジェに借りる形にするかは、おっさんの態度次第にするつもりだが、彼女を雇うとしたら今より稼ぎの良い仕事をしたと思う」
「……」
どんどん渋面になっていくクレイマンにあー、甘いこと言ってるなコイツとか思われてれてんだろうなと考えてみるが、少し、おかしいなと思う。
異世界出身者がかなりの数がいるようだということが。国々の正式発表とした内容を調べたときは異世界召喚は金が掛かるから制限した方向になっているという感じだったというのにクレイマンの話や美里達を見る限り、制限をしている感じではない。
むしろ、積極的に行っている感じがする。
そうなると、自分のように自世界の法に拘るか奴隷解放!と正義感にあふれた人間が出てきて居るはずなのに長く勤めていそうなクレイマンがこの反応とは。
美里達も何故か唖然としている。まだ、馬鹿にされた方が主流がそうなのだと納得出来るというのに。
「オレの言っていることが新鮮か?」
馬鹿だと思うかではなく、あえて、聞いたことがないのかと確認してみるとクレイマンは、ふうむ…と唸る。
「いや、何度か聞いたことがあるつもりの話だが、……誰が言ったのか全く思い出せねえ。それは、異世界人の共通認識か?」
「違うとわかっていて訊いてるだろ。オレの常識の範囲だ。ただ、普通は先立つものがないくせに雇おうとはしないがな」
「そうか…」
座りのおかしな話になってきた。まあ、それでも、これだとやはり、試しもかねて奴隷である彼女を買うしかないなと結論付ける。
「頼む。美里達と仮パーティを組ませてくれ。色々と知りたいことが出来たんだ」
ボリボリとスキンヘッドを掻くクレイマンが最終的に頷いてくれたところまでは良かった。
ミューが犬たちを「今日は見張るね」とギルドに姿を隠しながら残ったのは良いとするが、何故か買った奴隷少女以外がついてきているのが気になる。
「なぜ、着いてくる。仕事は明日からだろう」
「どこに住んでるのか確認しないと逃げるだろ」
「興味があって」
どちらの言い分にも呆れたが。何故かなにもしていないのに謝ってくる猫耳にああ、と思い出したことがあった。
「名前、訊いてなかったな」
「ひゃ、ひゃい!シロともうしまふっ」
「……シロ?」
「ひゃい!!」
怪訝に思って、呼んでみれば返事がかえってきた。どうやら猫耳だというのに髪がオレンジだというのに肌は健康的なくらいに焼けているというのに。……シロ?
「そうか」
それしか言いようがなかった。ただ、ちょっと犬派として思うところがあっただけだ。
「ご、ご主人様」
「好きに呼ぶのは構わん、自由だ。ただ、オレが返事をしない自由も残しておけよ」
「ひゃうぅっ!?」
変な声が響く。さて、仮宿に戻る前にあの目の前で引きつった笑顔をしている幼なじみになんと話を切り出すべきか。
「レイちゃん」
「特にお前に怒られることはした気がするがので謝ろう。すまん」
沈痛な顔をするリジェだがすぐに気を取り直したらしい。
「いえ、意外とレイちゃんが浮ついていたのを気づかなかったせいです。ルルだと思っていたから。こういうことしてくるの」
「仕方ないだろう。あれは寝てるんだから。だから、代わりをやってみた」
「やらないでください。……はあ」
ちらっと、リジェがレイの後ろに視線を向けるとびくうぅっと、身体を震わせるシロ。
ああ、殺気が溢れてしまったのかとリジェは笑顔を貼り付ける。
「すみません。君の主の幼なじみでリジェと申します。出来れば、すぐにでもルルのお世話を頼んでよろしいでしょうか」
「ひゃい!!」
ピッコーンととんがり耳を立てるシロにそこまで緊張する相手ではないと言ってやろうかとも思うが、馴れの問題もあるだろうと保留する。
「すみません。そういうことですので、そちらの方々はお引き取りを」
どういうことだと、ツッコんでやりたい気持ちにもなるがそれはうまくないなとレイは、黙った。別に喧嘩を売られているのは自分じゃないと高みの見物をしてしまったのがいけなかった。
「待てよ!!やっぱり、彼女を囲う気で買ったんだろ!!男二人で、奴隷をー…ひぃ」
レイは後ろまで下がり、美里とシロの腕を掴み避難する。リジェの身の毛もよだつ様な怒気を感じ取ったからだ。
「え、あ…琉人は?」
「命の保証はあるはずだ」
美里が助けないのと訊いてくるが、それはレイに死ねと言っているのにも等しい。
いや、リジェが自分に害を成す真似はしないと知っているが、精神的に対等で居たいので、ああいう場合は撤退することをルルと昔にとり決めている。
宿に戻り、二階にある部屋に戻れば、顔色の悪いままアレンが窓際に立ち、見たことのない薄い存在の少女がレイの姿を認識した瞬間、ふんわりと微笑んで消えた。
美里とシロが息をのんだのがわかるが、それよりもだ。
「シロ。ルルに膝枕」
「ほえ?」
「今のうちに最大限媚びておけ。お前の進退を決めるのはオレじゃなくこの物体だ」
「いきなり帰ってきて自己紹介もさせずにそれなのか」
アレンが何か言ってる。
「仕方ないだろ。ルルに滅茶苦茶怒られる」
「そうだな。奴隷など」
「自分がやりたかったことをオレにされたからか。シロにご主人様呼ばわりされてることが、異世界にかぶれやがってと説教を始めそうだ。オレは呼ばれ方を規制するつもりはない。ただ、返事をしない自由と報復する自由は与えろ」
「……どこに喧嘩を売っているんだ。お前は」
「?どこにも売ってないが」
心底不思議そうなレイに疲れて、じゃあ、ルルは、彼女に任せて食事でもしないかとアレンが提案するので了承する。
「そうだな。食事をしていればリジェも飽きてくるだろう。シロは後から食事を持ってくる。ルルを頼んだ」
「ひゃい!!」
気のせいだろうか。彼女からまともな返事を一度も聞いてない様な気がするのは。
しかし、一階の食堂スペースに三人で囲み腰を落ち着け、アレンが美里に自己紹介しようとした瞬間、二階から奇妙な奇声が響く。
「な、なに?」
状況がのみ込めない美里と頭を抱えたアレン。そして、やっぱりかーと怒られたらなんて返そうかと考えながら、立ち上がり、
「じゃ、いってくる」
説教されにと、云うレイに美里は困惑し、もう多少慣れた気分のアレンは行ってこいと手を振った。




