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② レイ編



 ルルが倒れて、隣国に避難してきてすぐにレイはギルドで仕事を斡旋して貰っていた。



「おー、坊主。どうした。今日はあのオッドアイの兄ちゃんは」

「妹の看病中」

「ああ、異世界の…大変だな。まあ、ファーレンで召喚されない限り無理やり城に連れてかれたりしねえから安心しな」



 わっはっはっは。とスキンヘッドのおっさんに頭を軽くない力で叩かれ不機嫌になるが、確かにと頷いておく。



「言葉がわからないようにして、召喚した後に一年間優しく飼い殺して殺すって、どうしてそんな屑が一国の王なんだ」

「それ以外の非道がないからさ。これが自国の国民ならともかく、自分たちに関わりのない。特にファーレン国民は異世界人に馴染みがないからな。見つけたらすぐに通報。もしかしたら国の中じゃ異世界人の見た目が自分たちと同じだと知らない奴もいるんじゃねえか?」

「他の国に召喚された奴は?」

「言葉が通じるようにされてるし、よしんばそうじゃなくとも、ファーレンだけには近寄んなって教育されてるはずだ」



 レイの八つ当たり気味の質問に嫌な顔一つせずに答えるクレイマンと名乗ったおっさんに会ったのは異世界召喚二日後だった。リジェに「ギルドカード作ってくる」と言われたので、ねむったままのルルを背負って着いてきたところ、眠った子供を連れて歩く年若い男たちと一瞬だったが犯罪者と勘違いしかけたと後から笑われた。

 確かに怪しかったが、ルルの魔力量を感じ取ってくれたようですぐに『魔力酔い』と判断してくれたらしい。

 随分な実力者だとリジェが感嘆していたが、レイにとって、自分が話しやすく、知識も豊富だということ以外どうでも良かった。

 異世界人だとすぐに見抜いてくれたのも有難かったのと、召喚した国に保護されているはずの異世界人がぞろぞろと纏まっている理由も豊富な知識から勝手に推測してくれたのも有難かった。



「しかし、もの珍しい能力がなかったからって投げ出す国が本当にあるとはな」



 これをリジェとレイで採用した。

 どうももの珍しい能力を求めて異世界人を召喚する国もあるようだ。リジェは能力を上手く隠しているし、レイはちょっと魔力量が多いだけだとギルドカードが示してくれた。そういう事もわかってしまうらしいが、だから、便利なんだよとリジェが率先して作ろうとしていた理由だ。

 ルルに関しては『魔力酔い』を起こして手に負えなくなると例の機関に送る国が多いらしいので割愛。

 どこの国も何の恩恵をもたらさなかった異世界人を元の世界に帰すという選択肢はあまりしないらしい。



「心底、屑ばっかだな」

「呼ばれた方は笑えん理由だがな。国に大事にされてる奴は、自分たちが選ばれた人間と思い上がっちまったりするんだよ。レイは、精神的にタフそうだからな。逆に追い出されて良かったんじゃねえか」



 確かにあの時あのまま、隣国グレンダに居ついても良かったのに一度、ファーレンに戻るべきだと主張したのはレイだった。そのせいで余計なオマケが着いてきたが、それはそれで使えるかもしれないと前向きだ。



「で、無駄話は止めて。レイが出来そうな仕事はだな」

「ランクFからなんだよな」

「当り前だ。どんな奴でもそこから始めるんだ」



 傷薬の材料になる魔法草を取ってくるとか、どっかの川から水を汲んでくるとか、山羊の乳を搾るとかetc。



「平和だな」

「そういってられるうちに冒険者なんかやめちまえたらいいんだがな」

「それには同意する」



 この世界に骨を埋める気はいまのところない。が、いつまでもリジェに頼り切るのも面白くない。そういった経緯で出来る仕事を調べているのだが。



「この草を毟る仕事って外か」

「ああ、城外ならそこかしこに生えてるからな。ただ、魔物が現れないとは限らん。あと、毟るんじゃなく、持ってくるんだぞ」

「わかっている。冗談だ」



 レイは、冗談がわかりづらいと愚痴られた。そうかと、適当に返しながら『魔法草×5を納期する』という仕事をすることにした。







 数に制限がなかったせいでかなり集めてしまった気がする。



「明日になれば、生えるとか意味がわからん」

「えー、常識ですよ。ご主人さま」



 やだ。物知らずとレイに茶々を入れる褐色の肌と燃えるような赤毛の少女に無言で草を投げつける。もちろん納期するものではない。

 大口を開けていたせいで口の中に入ったらしくウゲェっととても子供らしかぬ声で吐きだしている。



「に、にがっ!?」

「クレイマンに似てるから間違うなよといわれた草だ。物凄い不味いらしい。どうだ、生まれてきたことは後悔できそうか」

「非道!」



 無言で、口に二弾目を押し込んでおいた。むせたようだ。まったく。



「お前、もう一回、森で隠居生活したいらしいな」

「~~こんなに若くてぴちぴちした子になんて事言うのさ!!」

「煩い。人外は百を超えた時点でババアだ」

「人間は!?」

「尊敬すべき先達者だ。その前におっさんとおばさんになるがな」



 完璧な屁理屈を無表情で言い切られたせいで唖然とするしかなくなった。くやしぃ~と地団太を踏む自分憑きの精霊を表に出したこと後悔する。一人で量を集めるのが難しかったせいだが、煩い。



「この火の精霊の中でも期待のホープであるミューちゃんにそんな態度なんて、許されないんだから!」

「態度が気に食わないなら黙れ。口を開くから言い返されるんだ」

「な、なるほど!」



 素直に黙った。馬鹿なんじゃないかと真剣に考えてみたが、答えが出ても出なくてもいいことだと気づいたので止める。

 黙々と草を集め、五十過ぎた辺りで腰が痛くなった。



「これで、宿泊費二日分か」



 一人分換算だが、ルルの分までとなるともう少し頑張るべきか悩む。



「質とか良い奴を仕分けて持っていくともっと言い値にしてくれるよ」

「見分け方がわからん。このまま持っていくしかないだろ」



 しかし、しばらく森から出れなかったという説明を受けた精霊がやたらと外に詳しことを訝しげに思う。

 確か、外に出たくて無理やり火の精霊の里から出ようとしていたから里長に石の中に閉じ込められていたらしいが。



「魔法の練習もしたいが、周りに迷惑になりそうか?」

「そうだねー。もうちょっと、奥に行けばいい獲物がいるよ」

「?魔物か」

「うん」


 好戦的な性格だと予め聞いては居たが、殺意を抑えきれないらしく全体の熱量がどんどん上がっていくミューに呆れたが、それでも、身を守る手段を磨こうと着いていくことにしたレイは、そのことを軽く後悔する羽目になった。



「あれは、魔物じゃなく外道っていうんだ」

「でも、あっちにいるのは?」

「……馬鹿?」

「え、ちがくてあっち」


 わざとはぐらかしたが、何故だろうか。猫の耳と尻尾をというパーティグッズを付けている少女とその子を囮にして逃げようとしているフルアーマーな男と随分光沢のあるローブを羽織った女にレイは視線が離れてくれそうになかった。


「なんていうか、装備がかわいそうだな」

「そっち!?」

「あれ、もっといい人に買われたかったんじゃないか。売った側もさぞかし無念だろう」


 あーぁ、残念と口にすると視線が一気にレイに集中した。どうやら声が大きすぎたらしい。


「グガア!!」


 ついでに三頭の犬もどきの視線までこちらに向いてしまった。


「どうする。ご主人さま、ヤる?」


 舌なめずりを始めた契約精霊に呆れはしたが、レイは猫耳少女を指し、


「あれだけ、守ってろ。それと、俺が死にそうになるまで何があっても動くなよ」

「えー」

「弓を出せ」


 不満そうに頬を膨らませるミューから、弓矢を受け取る。

 どこから出したのかいまいち理解できなかったので、スルーしていたが魔法草もミューが収納しているので、ここに来れたのでそろそろルルと一緒に説明でも受けるかと自分を納得させる。

 魔物の一番近くに居た少女に突進する。少女が逃げようとした瞬間、地面から何かの枝が伸び足に絡みつく。


「何を逃げようとしているの!!私たちが逃げるまで時間を稼ぎなさい」

「ちっ、もったいないけど仕方ないか」


 レイ達の冷めた瞳に気づかないわけでもなく、犬型の魔物どもから背を向けて逃げる男女。


「いやああああああああっ!!!」

「いっきっまーす」

 

 悲痛な悲鳴に呑気な声が重なり、レイのやる気が若干下がったが、少女に突進していかなかったほうに向き直る。

 ゴアッと見なかった方向からとんでもない熱量と音が届いたが、精神衛生上無視を決め込んだレイ。


「さて」


 二匹かと呟く。そこで失敗したもう一匹ミューに任せれば良かったと考えたが、それよりも魔物の様子がおかしい。弓を構えるレイに飛びかかりもせず伏せのポーズを取り始める。視線の先はミューだ。

 どうやら、すっかりとミューの力に怯えたらしい魔物に弓を引くのもなと構えを解くと嬉しそうに尻尾を振り始めた。


「ごっしゅじんさま~まるこげ」


 後ろの呑気な声に頭痛がしてきたが、仕方ない。魔物達はミューに仰向けになってすっかりと服従のポーズだ。

 思わず腹を撫でてしまったが、嫌がらない。


「ご主人様。『仲間になりたい』って」

「いらん。ーーいや、うん。可愛いけどな」


 キラキラした瞳を向けられたが、飼える場所がない。そして、無責任に飼うと情が移って元の世界に帰り難くなりそうだ。


「『飼える場所が出来たら迎えに来て』って」

「それは、本当にコイツらが言ってるのか」


 頭を撫でながら確認すれば、くぅ~ん、と鳴かれた。


「できない約束は出来ないが、クレイマンに頼んで見るか。来い」

「『やったー』だって」


 ミューの本当かどうかいまいち信用ならない通訳の通り、二匹はおとなしくレイの後ろを着いてきた。

 続いて問題なのは、この猫耳の少女だが、レイはじっと彼女を見つめてみた。


「あ、あの……」

「これ、本物か?」


 ピッコーンととんがった獣耳に現実感がなく思わず、ミューに確認してしまったがこっくんこっくんと大仰に頷かれてしまったので、レイの顔は微妙に嫌そうな表情に変化していく。


「夢と希望に満ちた世界だな」

「ほんとー。じゃ、ご主人さま、ずっとここにいる?」


 目が死んでいるレイにミューが軽口を叩いてくるが、それに頭を振る。



「断る。ーーこの足の魔法か?どうすれば、解ける」

「死んだら」


 ミューの言い分にイラっとしたレイは、無言で頭に拳骨を落とした。


「~~嘘じゃないもん!!そういう、奴隷に対する魔法だもん!!」

「ああ、呪縛系とかいうやつか」


 確か、リジェが魂まで作用する物があるといっていたこと思い出し、ミューに悪かったと頭を撫でてやると、幸せそうにほわほわした表情をする。

 しかし、それは困ったと思案する。


「オレじゃあ、どうにもできないうえにあの外道どもがすぐに戻ってくる可能性は」

「あるよー。火柱あげたもん」


 誇らしげな契約精霊になるほどと頷く。


「助けるの?」

「いや、このまま放置でいいだろう」

「「え"?」」


 何故か猫耳少女と契約精霊に目を丸くされ、レイは怪訝に思う。


「どうした。奴隷なんだろ。主人が戻ってくることは喜ばしいことだろう。違うのか。ミュー」

「え、あー……、奴隷登録されてたら、この場で助けてもすぐに法律で連れ戻されちゃうね。逃げても追跡されちゃうし」

「随分、人間の法に明るい精霊だな。まあいい。なら、やることは簡単だ。アイツ等が戻ってきたら契約を切るように仕向ければいい」​

「「え"?」」


 また、目を丸くした精霊と少女にレイは苦笑した。


「奴隷のままで居たいならともかく、オレの目から見ると逃げたそうだ。実を言うと妹の世話頼める相手を探している。恩を売って安く雇おうと思うのだが、どうだろうか」


 おねがいします!!と涙をこらえながらレイの提案を猫耳少女は飛びついた。


「ご主人様、あまっ~い!!」


 契約精霊が何か言っているがとりあえず無視だな。とレイは流した。




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