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とりあえず出来たみたい



 本の内容を説明するとレイがふむ、と頷く。


「ルルの望む能力は質が悪くないか?」


 レイの指摘にルルは、にやりと笑う。


「当たり前じゃないッスか。……どうして、気を使ってやる必要があるんすか」

「まあ、それもそうだが」


 同意を得てしまった。

 悪辣な笑みを浮かべ、互いに頷きあう。気分は、越後屋、そちも悪じゃのう。だ。……ハッ、それじゃあレイがルルの顔色を伺う立場ってことか。

 ーーないない。とルルは必死に否定したい気分になる。


「一応、どんな形になるのか。試してみましょう」

「へーいッス」

「では、血を少しください」


 そういって小刀を渡してきた。思わず、ルルとレイはリジェをあーぁって顔で見てしまった。ついにこんな物を持ち歩く人間になってしまったのかと。


「なんですか。その目は、……ご、護身用なんですからね!」


 ほかの幼なじみの冷たい目は心に小さくないダメージを与えたらしい。

 しかし、血か…。

 ルルは柄を外し、刃を人差し指に刺してみる。ぐいぐい…。


「出ないッス」


 切ろうと思うとなかなか出来ない。

 手加減してるつもりはないが、バサッと切るべきか。しかし、あんまり切りすぎると怒られそうだし。

 うんうんと、小刀で指を突っついてみていたら、いきなり、小刀を取り上げられた。驚いて、取り上げた人物を見ると、アレンだ。

 いつの間にベッドの方まで来たのだろう?


「貸してみろ」


 右手を掴まれた。保護者(リジェ)がムッとしたのがわかったが、レイが何にも言わないので問題なかろうとルルは判断した。

 アレンは器用にスパッと痛みも感じさせずにルルの指からちょっと血が出る程度に切った。感嘆しちゃった。


「おお、本職ッス」

「すぐに治療しますからね」


 リジェが不機嫌にルルの手を取った。


「血の採取はどうした」

「すぐにします」


 自分で血が欲しいって言ったのに。リジェは、少し拗ねたようだ。

 ……やりたくない事を代わりにアレンがしてくれたってだけなのに、たまに面倒くさいなーとルルは呆れた。


「採血はこれくらいでいいでしょう。さあ、治療しましょう」


 ポタポタと出血はひどかったが、痛くはない。

 まあ、後々痛くなるかもだが、別に手洗いだけで済みそうな傷だ。ちらり、とルルがレイを見れば、レイは、リジェに視線を向けた。ーー治して貰わないと、アレンの身が危険ですか。そうですか。

 過保護を通りすぎそうなリジェにどのタイミングでブレーキをかけるべきか。それも悩ましいが、……正直、嫌なんだよね。とルルは考えている。


 ーー何がというと回復魔法とかいうやつがだ。

 出来るんだと、ルルは内心嫌な気分になった。

 HPが減ったからその分を回復させる。数字だけで視るなら、この不快感はないだろう。でも、実際にそれを見せられるのかと思うと……嫌だ。この程度の傷でこんなに生理的に無理な気分になるのだから、もっと大きな怪我は、吐くかもしれない。

 リジェに手を差し出し、治療過程を見ないように目を瞑った。

 リジェが、何事か唱えたら傷のある手が暖かな空気に包まれた。思わず、目を開けそうになった。が、耐えた。……何が有っても終わるまでは目を瞑ると決意しておいてよかった。リ

 ジェが、安心したような息を吐いたので恐る恐る目を開ける。

 ルルは切った傷口が塞がったのを確認した瞬間、吐き気がした。が、無理矢理笑顔を造る。

 ルルの笑みの意味をどう解釈したのか、レイがなんとも言えない顔をした。ーー慣れてないだけだから気にしないでほしい。きっと、レイにもなんとなくわかっている事だろう。便利でたぶん優しい能力だが、慣れるには時間がかかりそうだとルルとレイは互いに目だけで確認しあう。

 魔法で塞がれた傷口。……これって、慣れなのか。元からの常識だろうか。気にしすぎなのか。

 正直、微妙。なので、口にしてみる。リジェにはわかって貰っていてほしいので。


「回復魔法って気持ち悪いッス」

「そうだな。傷口が一瞬で無くなるとか、異常だ。小さい傷ぐらいなら治療するな。リジェ」


 レイに全面的に大賛成なルル。が、リジェは、何かの準備をし始めながら、にっこり。


「嫌です」


 お断りしやがった。そしてその笑顔は何を言っても無駄な時の顔だとレイとルルはあーぁって気持ちになる。


「バイ菌やら感染病が心配なので」

「浄化できるなら問題ないだろ」

「魔法は万能じゃないので」


 どうやら、リジェは過保護が暴走ぎみらしいと呆れる。

 間を置いて、頼むことにしてベッドから降りてルルはリジェの近くに寄ってみる。


「すぐ、そちらに戻りましたよ」


 いやいや、たいした距離を歩いた訳じゃないし。っていうか、10歩も歩いてないとルルは思った。ーーもしかして、テンパッてんのか。リジェ。


「何をやってるのかの見学ッス」


 面白味はなさそうだが、興味はある。


「一応、呪物の部類になりそうですからね。……呪われないようにしようかと」

「わお」


 呪物か。名前だけで呪われそうだ。リジェが、簡易テーブルの上に何か翠の石を出して、ミミズのような……字?が書かれた紙を用意し、その上にルルの血を落とした。

 なんだか、毒々しい雰囲気にヒィーヒッヒッヒッ。とか高笑った方がよかろうか。と本気で悩む。


「さて、では、この石に触れながら欲しい能力をイメージしてください」


 興味津々に見学するアレンとレイ。正直、この禍々しいモノに触れるのか。精神的ダメージが大だ。

 ーー言い出したのは、私だ。仕方ない。


「………ふっ」


 石に触れると言い知れない不快感と同時に高揚感。頭の中をグチャグチャともみこまれたような、知識欲を刺激する栄養素を埋め込まれたような。どんどん目の前が落ちていく感覚にーーあ、誰か、居る?


「ルル、大丈夫ですか?」


 リジェの声が聞こえた。それと同時に力尽きたように座り込もうとしたが、レイに腕を引っ張られたのでルルは身を預ける。

 触れていた石は消えていた。いつの間に。


「……ボンッとか音がなって、具現化しないんすか?」

「それは、ルルがスキルを扱わないと…」


 確かに勝手に出てこられたら困る。しかし、あの感覚の先にいた誰かは、あれか。ルルに憑いている『亜種』か。

 挨拶するの忘れてたとちょっと、ルルはへこんだ。





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