プロローグ
初投稿です。誤字などありましたら、教えてください。
――何かの悪夢に違いない。
満場一致である筈の思いに、しかし、頭を振らねばならず、その場でその凍りつくような空気の発生源『達』に責任者もどきになってしまった俺は、泣きそうになりながら一応。そう、いちおう説得を試みる。
さっきまで確かに意思疎通というか言葉は通じていた。
「……ルル様」
声が上ずったのは仕方ない。何せ、この国の王を足蹴にし、にゃっほほっとたか笑う異世界人がどんな気分なのかさっぱりわからない。しかも、笑い声は上げているが無表情だ。
目が座っている。不快感を隠そうともしていない。ぐりぐりと王の頭を踏む足に力をいれているようだ。
まずいな。
この小娘ですらこれでは、他二名はどんな感情を持ってこの場にいるのか想像すらしたくもない。
回りをぐるり、と見渡しーー自分より立場がある方々に助けを求めてみるが、一様に俺を助ける気配もなく、ただどうにかしろ!と避難がましい視線を送ってくる。
約二十くらいしか生きていないが虚しくなった。
「ルル様!」
自棄になってもう一度、この1ヶ月程度世話をしていた異世界人の名を呼べば、不快だとばかりに鼻を鳴らす。
「様付けするなら敬えッス」
これに答えたのは俺ではない。
「敬われる事してないだろ。無理だ」
不機嫌そうに一刀両断する問題児側の威圧感たっぷりの青年レイとそれに続いて苦笑した程のやはり問題児側の妙な色気のある青年リジェ。
「僕はある意味尊敬します。よく人の頭ぐりぐり踏みながら敬われようって気になりますよね。ルルは」
……言いたい事は、言われた。言ってくれはするが味方ではない二人を身を持って知っているせいでぐったりした気持ちになる。
「あにさん。あに様!ルルは悲しいッス。いつから形ばかりの敬語をお認めになったッスか。あれッスか。日本のなあなあ的なやつっスか」
抗議の声をあげるルルをにこやかにばっさりと切り捨てる。
「ここ日本じゃないですよ」
「あにさん、揚げ足取るの早いッス!」
ルルのいう『あにさん』とはリジェの事だ。ついでに『あに様』はレイである。補足。
「足は頭から取ってやれ。お前がそのアホ踏んでるとオレが蹴れない」
「あー…本当に踏んだり蹴ったりを体現する気なんだ」
呆れた声を出しながら止める気はない三人の中で比較的にまともな部類のリジェは、ちらりと俺を見た。何か言いたければこのタイミングだとの合図だと短い付き合いながら学習している。
「あの、本当に申し訳ありませんが我が国の王を何か遊び道具と勘違いしておられませんか?」
果敢にも責めた内容をあげてみたが、間違いだった。――レイに射殺されそうな眼光で睨まれた。
「……その台詞、そっくりそのまま返されたいか?」
――命の危険を感じた。最悪な地雷を踏んだ。
「あに様。落ち着いて」
「俺は冷静すぎるほど冷静だ」
「レイちゃん。だいぶアウトだよ?」
レイを止めた二人だが、目が笑ってない。ゾッとする。
止めの言葉を口にしたルルだが、相変わらず我が王から足を退けず体重いっぱいで踏みつけている。いや、嫌なら我が王も抵抗すればいいのだろうか。恍惚の表情なのがすごく気になる。
残虐な王だと思っていた我らの王が、…へんた………いや、なんでもない。
俺は、こほん、と咳払いした。話の流れをなんとか握りたいからだ。
「ともかく、我が国の王の頭を足蹴にするのだけは止めてください!」
「蹴飛ばした後ならな」
話の流れ、全然つかめない!
一秒も考えずに返された内容に回りにいる彼らの耐性がない目を丸くしたり顔を青くしたり真っ赤にしたり今にも喧嘩売りそうで、重役たちは役に立たない。返り討ちにされるだけなのだ。ーーだから、負けるな。俺。
コイツ等に耐性があるのは俺だけだと自身を叱咤する。
「どうして一国の王の頭を蹴り飛ばそうなどという発想になるのですか!?」
非難の声をあげながらある程度の打算は働く。負けてはいられない。返された内容はおかしい。だから、否を唱えていいはずだ。
「文化の違いだ」
ふんぞり返り、さんざん説明したろ?と、レイが可哀想なものを見る目で俺を見たが、確かに―…とも、いや知らないから――、とも反論できない。
そもそも、俺はコイツラの生まれ育った場所での『普通』を知らない。
彼らは我々の都合によって召還した異世界人だ。だから、彼らが『これ、フツー』と語れば、それが騙りだろうと判断できない。だが、しかし―…。
比較的、善人だと信じたいリジェに視線を向ける。
それに気づいた彼は、オッドアイの目を細めてニッコリ。
「人の頭を蹴ったり踏んだりするのは僕たちの世界でも特殊な趣味の方々の日課か、避難されるべき出来事であり、レイちゃんとルルは前者です」
「いや、オレには人の頭を踏みつける日課はない」
「ルルもないよ?」
なら何故、王の頭を踏みつける!?
「ああ、ごめん。たまにする趣味だったよね」
さらっと恐ろしい発言をするリジェ。
「まあ、ルルはそうだろうが」
「待って、あに様。人格を疑われたらドースンっすか!?」
「凄いよルル。まだ、疑われてないって思ってたんですね」
本当に良い笑顔だ。リジェ。毒舌が輝いている。しかし、ルルは負けてない。
「世の中、これ以上という言葉があるッス!」
えっへんと胸を張るルルにスマイルで返すリジェ。……なんとも言えない空気とはこれだろうか。
「まあ、底辺においても底無し沼・どん底もあるくらいだからな」
……なんだろうか。レイは、何故、ルルに対して納得した様子で頷けるのか。理解しがたい。ではなく、したくない。
俺以外にも混乱の極みみたいな周りの反応に異世界人は嘲笑う。
「どうした。貴様らは『異界の知識を必要としている』のだろ?貴様らにとって異界人の文化とは、知識の宝庫だ。必要なら、いつでも知識や常識を提供してやると確約してやった。ほら。有り難く受けとれ」
レイの壮絶な嫌みの意味をその場にいる王族・貴族・重鎮ーーなどの立場ある誰が理解できただろうか。
俺は知らない。
後々マゾだと、ありがたくない称号を得るが、今の所は、この目の前にいる異界人たちのたち悪いジョークだと立場の弱さを理由にし、振り回される側を甘受したい。つまりは、無責任でいたい。
そう、王位継承権の順番が本気でみそっかすな人間がなにができるか。
……などと、脱線した思考を正規路線に復活させたのは小娘だった。
「しかしッスね。我々の世界でも国の代表が頭を踏みつけられるって異常ッスよ?」
なんて、いまだに王の頭をぐりぐり踏みつけながら、蹴るから退けって…、
「蹴る準備しないでください!」
あ、駄目だ。
レイもルルも人の制止聞く気ない。
気が遠くなるなんて易しい表現が妙に似合わないそんなある日に。
我が国ファーレンは、異世界人どもに支配されることとなった。
……終わったな。