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××系魔法少女はお好き?  作者: しきみ彰/四十二 十五/九十九照助
7/8

××系魔法少女と誕生日

「……もう、六年も経ったの」


 颯樹莉音はカレンダーをめくってから、そう感慨深そうにぼやいた。

 既に月は五月。

 ──五月五日は、颯樹莉音の誕生日だ。

 そしてこの日は莉音の母親の命日であり、莉音の父親が行方不明になった日でもある。

 莉音は赤い丸の付けられたカレンダーに触れ、準備を始めるために自室へと向かう。

 颯樹家の誕生日は、それはそれは盛大に行われるからだ。



 □■□



 颯樹家。

 それは、魔界においての名門家系のひとつだ。

 颯樹家はその魔力値が、他所よりとても優れている。

 そして莉音はその颯樹の父と、当時最強とまで謳われていた人間界出身の元魔法少女の母との間に生まれた子どもなのだ。

 それゆえに保有魔力量は、人間界出身の魔法少女にしては異常とまで言えるほど高い。

 ──そして莉音の両親のこの事件こそが、莉音が魔界征服、ひいては世界征服をしようと言い出した元凶でもある。


 軽い手荷物を持ち直し、莉音は久々に魔界の土を踏んだ。魔界、と言っても、人間界で言うところの西洋の中世辺りの風景だ。煉瓦造りの家々が建ち並び、煉瓦で舗装された道が幾つも通っている。

 ただここでのものは全て、魔法を動力に動いている、というだけで。

 莉音は平日ゆえにひと気の少ない道を歩き出す。

 颯樹家のお祭り好きは、魔界関係者の間では周知の話だ。そのため莉音は、この時期になると毎回学校側に休みを取って帰郷する。

 学校側としても分かっていることらしく、莉音は今まで特に、何かいちゃもんを付けられたことはなかった。


 幾つかの転送ゲートをくぐり、莉音は漸く颯樹家領に入る。

 そこは先までの煉瓦造りの家々ではなく、所謂日本家屋が立ち並ぶ場所であった。

 砂利道を真っ直ぐ進めば、颯樹家本邸が見えてくる。

 明らかに立派な作りをしたその家屋の呼び鈴を鳴らせば、中から着物を着た女中がしずしずと現れた。


「おかえりなさいませ、莉音様」

「ただいま戻りましたぁ」


 荷物を預け、莉音は女中の後ろに続いて家へと足を踏み入れた。

 向かう先は大広間。

 開かれた襖の先にいたのは。


「やぁやぁおかえり! 莉音ちゃん! 相変わらずいい発育だねぇ!」

「……右京、女性に対して吐く言葉ではないですが」


 着物を身にまとった、男女だった。

 少し長めの藍色の髪に、切れ長の水色の目をした男。

 この男こそ、颯樹家今代当主、颯樹右京(さつきうきょう)である。

 そしてその傍らに座る長い濡れ羽色の髪に若葉色の垂れ目をした女は、その妻である颯樹由紀(さつきゆき)

 この二人は、莉音にとっての叔父叔母にあたる人物たちだ。

 由紀は眠たげな眼を持ち上げ、莉音に言う。


「よく戻りました、莉音。ここでくらいはゆっくりして頂戴ね」

「はい、由紀さん」

「由紀は僕に冷たいよねー。あ、演芸会の準備はできてるよ! 楽しんで行ってね!」

「……ありがとうございます、叔父サマ」

「……なんだろう、この言葉の差」

「自身の胸に聞いたら如何です?」

「ですよねぇ」


 僕もまだ若いのに……と本気でぐれ始める右京に、莉音は笑う。

 由紀は莉音の父親の姉であり、颯樹家の直系家系から生まれた人。

 右京はその由紀の夫であり、颯樹家の直系家系に近しい家系から来た婿養子だ。

 つまり、近親相姦。

 ただし颯樹家は基本的に、恋愛結婚だ。血に固執はしない。

 まぁ、つまるところ、そういうことなのである。

 そんな右京にそっぽを向き、由紀は莉音の背中を押す。


「さぁさぁ、莉音。折角の誕生日。おめかししましょうね」

「え、えぇー……」


 由紀の瞳がキラリと光る。

 その輝きに、莉音は思わずたじろいだ。

 その後一時間ほど、莉音は由紀の着せ替え人形として遊ばれたのだった。



 □■□



 一時間かけて演芸会で着る着物に着替えた後。

 莉音はドンチャン騒ぎ始める親戚一同に苦笑を漏らした。

 舞う紙吹雪、踊る人、食器が跳ね、そしてじゃれ合うように刃物が火花を散らす。

 颯樹家からしてみたら軽いお遊び程度だが、一般的な人間からすれば殺し合いである。

 そんな死闘の中、莉音は一人安全な場所で料理に舌鼓を打つ。

 そんなときだ。


『莉音ちゃん。そろそろ本題に移ろうか』


 右京から、念話が届いた。

 見れば、右京は既にお酒が入っているらしく派手に騒いでいる。

 しかし念話での声はいつも通りで、その違いに思わず、変人ねぇ、と莉音は考えてしまった。

 姪と叔父の温度差が激しい。

 今更だろうが。


『ええ、お願いしますわぁ、叔父サマ』

『……その呼び方はどうにか……』

『構いません。莉音、始めましょうか』

『……由紀ぃ〜……』


 本当に本人が話しているのだろうか。

 莉音は良くも悪くも裏表の多い人ねぇ、と口端を持ち上げた。


『ええ。始めましょうかぁ』


 今回の目的。

 それは、莉音の誕生日を祝うことが主軸にはない。

 そう。魔界征服のための、協力者との話し合いである。

 誰もが演芸会の場でこんな話をしているとは思わないだろう。

 しかも念話の相手の片方は既に酔っている。

 怪しい、と目論んで様子見をしている数名をわざわざ放っておいているのもそれが理由だ。親戚たちは事情こそ知っているが、今回の件で直接的な関わりは持っていない。

 だからこの演芸会が一番怪しい、と踏んでいるであろう上層部も、決定的な証拠がない限り手出しはしてこない筈。


『取り敢えず、先の着替え中に由紀が袖に忍ばせたものが魔界本部の見取り図ね』


 莉音は右の袖にこつりと当たるその魔道具を確かめる。


『ありがとうございますぅ。ところでこれ、どうやって調べたんですかぁ?』

『え? ああ、うん』

『魔界で以前、茉莉(まつり)さんの暗殺事件がありましたでしょう? その関係者を吊るし上げて吐かせました』

『……そうでしたかぁ』


 表では、颯樹莉音の母、樋埜茉莉(ひのまつり)は任務の際に殉職し、父、颯樹志麻(さつきしま)は司令官としてともに赴いた後行方不明となっているが、それは違う。

 莉音は両親が共々いなくなったあの日から、それだけはないと確信していた。

 あの母がそのようなことで死ぬはずがないのだ。

 考えられるのは、任務と装った関係者による殺害。

 その予想は見事に的中する。

 両親は、人間界本部の手によって殺されたのだ。


『こちらの準備は万全だよ。あとはタイミングだね』

『そうですね』

『そうですよねぇ。本当は侵入するんじゃなく、もっと楽に入れたらいいんですけど』


 今のプランでいくと、一番の難所は魔界本部への侵入だ。

 魔界には入り口となるような手頃な侵入場所が少ない。

 正面に位置する正門には、防御においては右に出る者はいないとされる魔女二人が門番としてついているため侵入は不可能。

 なので数少ない侵入経路から入ることが決まっているのだが。


『渡した見取り図にも書いてあるように、侵入経路はほぼない。流石魔王城、というだけあって、防御は素晴らしいね』

『褒めてどうするのです、褒めて』

『できれば魔王城門番の魔女とは争いたくないですからねぇ……』


 抜けないことはない。ただ、入り口で争えば勿論、中にも伝わる。

 さらに言えば入り口で争ってから魔王の首を取りにいくなど、自殺行為に等しいのだ。

 魔王は片手間で戦えるほど弱くない。

 ここらへんは、彩と鏡花と相談して……。


 ……問題は、鏡花なのよねぇ。


 莉音は匙で茶碗蒸しを頬張る。

 そう、問題は鏡花だ。

 皆勘違いしているが、薩摩鏡花は無表情でいることこそ多いものの、根はかなり素直だ。故に顔に表情が出やすい。

 あの日も、鏡花は何かを隠したままお茶を濁した。

 隠した理由も、そしてその目的も。

 読心術を使える莉音には、分かるものだったけれど。


 ……ほんと、馬鹿ねぇ。


 それでも莉音たちを守ろうと決意を瞳に飾った鏡花を思い出して、莉音は目を伏せた。

 どうしたものか、と首を傾ける。

 鏡花だけに言わない、という選択肢もあるが、それはつまり彩に嘘をつかせる、ということにも繋がる。

 先輩を慕うあの可愛い後輩には、そんな汚いことをして欲しくなかった。


 ……わざわざ餌を吊るして待つのもありかしらねぇ。


『……詳しいことは、見取り図を見てからじゃないと分かりませんねぇ。ですが大まかな内容は変わらないと思いますぅ』

『そうかい。なら僕らは、莉音ちゃんのタイミングに合わせるだけだね』

『いざ何かあっても、万全の態勢で動けるようにしておきますわ』


 そう念話を伝えてくる二人はそれぞれ、演芸会を楽しんでいた。

 右京は他の親戚と混ざり合って本格的に魔法による対決を始め。

 その近くでは少し迷惑そうな顔をした由紀が、周りに防御魔法を展開している。


『……ごめんなさい』


 莉音は思わず謝った。この二人は元はと言えば、協力してもらおうとは思っていなかったのだ。

 莉音の両親が死んでから、まるで本当の両親同然に優しくしてくれた二人。

 迷惑はかけたくなかった。だけど、頼む相手が他にいない。


『……馬鹿だね、莉音ちゃんは』

『そうです、水臭い。それに莉音は勘違いしているようですから言いますが、わたくしたちは別に、莉音に言われたからやるわけではありませんのよ?』


 大量の魔法による火花が散る中。


『そうそう。だってさ?』




 颯樹の人間は、家族だけは見捨てないんだよ?




『茉莉さんは既に、わたくしたちの家族の一員です』

『颯樹に手を出したらどうなるか……思い知らせなくちゃねえ?』


 家族だけは見捨てない。

 それは、颯樹家の鉄の掟。

 それゆえに颯樹は魔界でも恐ろしい家系とされ、有名になっているのだ。


『茉莉さんを切ろうとした関係者はさーとうに消えたけど』

『その大元である魔王を倒さなくては、そんなルールも変えられないのでしょう?』

『……そうですねぇ』


 魔法少女制を生み出したのも魔王だ。

 そして魔王には更なる秘密があることも、莉音は知っている。

 知っているからこそ、右京と由紀にそれを教えるつもりはなかった。

 口端をいつものように不敵に吊り上げた莉音は、自身の愛銃である拳銃を取り出して叫ぶ。


「さぁて! そろそろはじめまーすぅ!!」


 銃声が鳴り響いた。

 その後演芸会という名の殺し合いは夜遅くまで続き。

 翌日の昼、莉音は温かい親戚たちに見送られて、颯樹家本邸を後にしたのだ。








「……それで? 私にずーっとつきまとっている貴女は一体、何処の誰なのかしらぁ?」


 魔界の細い路地で。

 莉音は随分と前から後ろについて歩いていた誰かに向けて、そう問いかけた。


「さっすが颯樹莉音ですん。気配を読むのが上手いですん」


 莉音は響いたその声のほうに顔を向けた。

 そこにいたのは、身長百四十センチほどの可愛らしい少女がいた。

 ただものすごく異様なのは、その頭部にある作り物のウサギ耳と、ゴスロリ系のファッション。そして、妙な口調。

 思わず眉をひそめた莉音に、バニーガールは言う。


「颯樹莉音。……勝負しませんですん?」



 □■□



 その一方で。

 人間界とある支部では、何者かによる侵入でほぼ壊滅に近い暴動が起きていた。


「ば、化け物……!」

「……あら。その化け物を生み出している支部が、一体何を言ってるのかしらね〜」


 燃え盛る炎の中から現れたのは一人の女。

 上半身のスタイルが浮き彫りになった赤と白のドレスを身にまとう金髪の美女は、背景で盛る炎と同じ色をした瞳で逃げ惑う男を追い詰める。

 歩調はゆったりと。

 まるでいたぶるように。

 こつりこつりと広がる足音は、確実に男を追い詰めた。


「ごめんなさいね、後は貴方一人なのよー」


 その女の背後から現れたのは、その場にはそぐわないウェディングドレスで着飾った女。

 主の命令で、ウェディングドレスを着た女はその男に向けて大剣を振り落とす。


「さようなら」


 首から上を失ったその男に向けて、女は別れを告げた。

 いつの間にか、ウェディングドレスを着た女はいなくなっている。

 女は赤いハイヒールで飾った足を進める。


「さぁて。ここの支部も壊滅ねー」

「……こんなところにいたのか」

「……あら、お疲れ様〜」


 赤と白のドレスが解け、私服となった女に向けて、一人の男が呆れ顔を浮かべた。

 その後ろには静かに佇む、黒装束に身を包んだ少女が。


「……そろそろ行くぞ、追っ手が来る」

「はーい」


 男女は仲睦まじく隣りに並んで、燃え盛るその場所を後にした。

執筆者:花来れん

一言「いよいよ颯樹家始動です!」

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