××系魔法少女と真紅の姫
「……はぁ」
ーー……面倒くさい。
そうため息を吐きながら昨夜、自分達を担当する上司の話を思い出す。
曰く、近々魔法少女個々のランキングによる各担当地域のメンバーを再編成するとのことだが……このランキングというものが厄介だと、鏡花は思う。
そもそもこのランキングだが項目が撃破数のみであり、魔物の強弱には関係ないため広範囲魔法を習得している魔法少女が圧倒的に有利なものとなっている。
武器召喚魔法と身体強化の魔法しか習得していない鏡花にとってランキングは意味のない、もっと言えば興味も湧かないことであったが……莉音たちと別れるのも望ましくない。
ーー本当に面倒くさい。
「……はぁ」
「おっはよーんっ‼」
憂鬱な気分になり始めた鏡花だったが、明るく元気の良い声に反応して後ろを振り返る。
「……おはよ、茜」
鏡花に声を掛けた少女、佐藤茜は前を歩いていた鏡花に追いつくと笑顔を浮かべながら、
「おはよう、鏡花っ‼」
と再度挨拶をしてきた。
「いやはや、今日も今日とてお美しいでありますなぁ鏡花さんはっ‼」
「……そういう茜もいつもどうり元気だね」
「そりゃ勿論‼ 私は元気だけが取り柄だからねっ‼」
元気よく笑う茜を見ながら鏡花は本当に元気だと思う。
ーー私とは全然違う……
こんな自分がこの明るい少女と友達で本当に良いのか……そんな暗い思考もきっと何もかもランキングのせいだと信じたいと、鏡花は密かに思った。
「そいや鏡花?さっきため息ついてたけどどったの?」
なんと言えば良いか少し悩んだが、鏡花と茜の付き合いは長い。
ーー誤魔化したところで追及されるだけだよね……
「……ちょっとあってね……」
「ありゃりゃりゃ〜……鏡花もだいぶ参っちゃってるねぇ」
暗い顔で言うとオーバーな反応をする彼女だが、今はそれさえどうでもよく感じる。
「……本当に嫌になる……」
ーーいっその事、上を脅して再編自体をなかった事にしてやろうか……
そんな考えが浮かぶほどの鏡花は嫌気がさしていた。
「まっ、話せる内容なら聞いちゃるよ?」
そう言いながら笑う彼女だが、その声からはこちらを心配する心遣いが伺えた。
「……実は……」
そんな彼女の心遣いを無下には出来ず、昨夜の話をゆっくりと語りだしたーー
ーー……どうしてこんな事に……
そう思いながら辺りを見渡すと鏡花らが通う高校にある、魔法少女のみが使用と入室を許された専用の体育館を埋め尽くすほどの人、人、人。
『さぁさぁ、始まりました‼ 今回の校内限定非公式魔法少女ランキング戦は、なななんとあの魔法少女が登場です‼』
そんな放送部部長にして報道系魔法少女こと一時法子のテンションの高い実況に体育館のボルテージは最高潮に達しつつあった。
「……茜……?」
「んあ?」
そんな周囲のテンションとは裏腹に、今だに自分が何故ここにいるか理解していなかった鏡花はそばにいた茜へと疑問の声を投げかけた。
「……私には非公式戦をする理由がわからないんだけど……」
非公式戦……その名の通り、ランキングには関わりのないーーどころではなく、魔法少女同士の野良試合を指して使われる。
「にゃっはっはっは‼ 鏡花は頭が悪いなぁ〜……非公式戦暗黙の了解に『負けた側は自分のランクを相手に譲渡する』ってのがあるんだよ‼」
ーーそれは知ってるけど……
「……だからって……」
「だからもカラダもないよっ‼ なんたって鏡花はーー」
『それでは登場して頂きましょう‼ 現在非公式ランキング高等部第一位っ‼ その通り名は伊達じゃないっ‼ 殺戮系魔法少女っ‼ 薩摩ぁーっ‼ 鏡花ぁーっ‼』
「ほら、呼ばれてるよ第一位っ‼」
そう言いながら鏡花の背中を押し、無理やり一歩前に押し出すと、
「出てきた……」
「あれが噂の……」
「前一位を撃破以来初なんでしょ?」
鏡花へと集まる周囲の視線。
ーー……もうどうにでもなれ……
そんな投げやりな考えの下、中央に作られたリングへと上がってゆき、相手を待つ。
ーーさっさと終わらせよう……そう、
『さぁっ‼ 続きましては彼女の宿敵とも呼ばれている相手のご登場だぁー‼ 非公式ランキング高等部第二位っ‼ 赤よりも紅い真紅の姫っ‼ 蹂躙系魔法少女っ‼ 竜宮ぅーっ‼ 実ぃーっ‼』
その名前を聞いた瞬間、鏡花は軽い目眩を起こしそうになった。
「実様ぁー‼」
「ついにあのお方が一位にっ‼」
「今日こそ最強の名をっ‼」
周りのボルテージはついに最高潮に達したが、当の本人達は実に静かに対峙していた。
紅いドレスを自然に着こなす少女、竜宮実は静かに話しかける。
「……こうしてお話をするのはいつぶりか覚えてますか、鏡花さん?」
「……さぁ? でも随分久しぶりな気がする」
「ふふっ、それはそうでしょ? 単純計算でも3年ぶりぐらいでしてよ?」
そう言いながら笑う彼女を見ながら、
ーー変わらないな……
そんな風に思う鏡花だった。
ーーいや……変わったのは私か……
それはそれで少し寂しい気もするが、今はそんな事を考えてる時ではない。
「……そっか……そんなに経つんだね」
「えぇ、そんなに経っ『募る話はあるでしょうがっ‼ こっちはそんな事は知ったこっちゃないっ‼ お前らァ‼ ゴングの時間だァ‼』
そんな法子の声に打ち消され、彼女が何を言おうとしたのかはわからなかったが……ゴングは鳴った。
「全く……私達の都合も考えないなんて酷いですわね……?」
そう呟く実を尻目に、鏡花は動き出していた。
ーー誰だろうと関係ない……勝つのは……
「……私だ……っ‼」
瞬時に創り出した身の丈を超える巨剣を横薙ぎに振るが、
「あら、私の魔法をお忘れでして?」
「……⁉︎」
振り切る寸前、巨剣を手放しすぐさま出来る限り大きな盾を創り出すのとほぼ同じタイミングでーー空気が炸裂する音と強い衝撃を受け、鏡花は吹き飛ばされる。
「……相変わらず、嫌な使い方をする……」
そう呟きながら一度距離を取る。
受けたダメージはそれほどでもないが、実の使う魔法は厄介な物である。
威力こそ低いが視認出来ず、さらには彼女が思い描く範囲と場所を爆破する事が出来る。
ーー……本当に厄介……
「ふふっ……流石は鏡花さん。あれだけ至近距離での爆発をほぼ無傷で居られる魔法少女はそうはいませんわよ?」
でも、と続けた彼女は手を鏡花に翳すと、
「これなら如何かしらっ‼」
そう叫ぶと同時に鏡花は横へ。
その直後、直前まで鏡花がいた場所が先程より強い爆発を見せる。
『おおっ⁉︎ 以外や以外っ‼ これは竜宮さんが有利か⁉︎ 得意の爆破魔法を使い、薩摩さんを追い込んでいくっ‼』
会場を盛り上げる様に実況を続ける法子の言うとおり、鏡花には避けるしか出来ずにいた。
鏡花と実の戦い方は水と油の様に最悪の相性なのと、実の魔法が連続使用に特化してる事によって鏡花は近づけずにいた。
ーー本当に厄介……
苦い表情を浮かべる。
状況だけ見れば、鏡花に勝てる要素など見当たらない上に攻撃はさらに苛烈になっていくしまつ。
ーー厄介……だけど……
しかし、鏡花はこの最悪の状況でその表情は少しづつ笑顔に変わっていった。
ーー……でも、楽しい……っ‼
笑顔に変わっていったのは鏡花だけではなく、実も同じくその表情は笑顔だった。
「さぁ、貴女の本気を見せてみなさいっ‼ 最強っ‼」
「……勿論っ‼」
二人は叫び、戦いはさらに激化していったーー
「いやぁ‼ 盛り上がったねぇっ‼」
「……流石に疲れた……」
笑いながら言う茜だが、隣を歩く鏡花は疲労を露わにしていた。
結果だけ言えば、鏡花の勝利で決着はついた。
「まぁ、あんな方法を使ったんだから仕方ないよね〜」
あれ以外に方法がなかった、と反論しようとも思ったがそのやる気すらおきない鏡花だった。
「まさか盾片手に爆発の中を突っ込んでくるなんて誰も考えないよね〜」
そう鏡花がとったのは特攻による一撃必殺だった。
爆発の影響で視界の悪い相手に突撃するというシンプルな作戦だったが……
「……実が接近戦に強いなんて聞いてない……」
言ってなかったからねぇ〜、と笑う茜を恨めしく見るが、
「みのりんだって進化してるんだよっ‼」
と笑って流されてしまう。
「さて、今日はお疲れ様っ‼ また明日も頑張ろうねっ‼」
「……うん、またあ……え、明日?」
実に勝ったから明日はないんじゃ? と聞く前に茜はすでに分かれ道の向こうから手を振っていた。
ーー……まぁ、明日聞けばいっか。
そう結論付、疲れた体を引きづりながら帰路に着くのであったーー
執筆者:九十九照助
一言「お待たせしてすみません……年末年始の忙しさにやられました……」