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××系魔法少女はお好き?  作者: しきみ彰/四十二 十五/九十九照助
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××系魔法少女の暗躍

『ーーそれで例の件はどうなっているのかね、薩摩くん?』


 暗い部屋の中、男の声が響く。

 その声を聞き暗い部屋の中に佇む少女、薩摩鏡花(さつまきょうか)は静かに口を開いた。


「はい、その件についてはあれ以降大きな動きはありません」

『そうか、それは良かったよ』


 そう言うと男はため息をつき、安心した様な表情を浮かべた。

 しかし、それも束の間すぐさま先程と変わらない厳しい顔つきに戻ると、


『しかし、颯樹くんの中では何か変化が起きているかもしれないね……』

「……探りをいれろと?」

『そうだね……彼女とは深く関わると危険かもしれないが、やってくれるかい?』


 そう言い、少女を心配している様な表情を浮かべた。

 だが、男にはわかっていた。

 薩摩鏡花という少女が自分の命令に逆らわない事を。


「……わかりました。ただし、例の情報はーー」

『それについては安心してくれ』


 少女の質問を切ると男は薄っすらと笑みを浮かべ、


『少しづつだが確実に集まり始めている。だから、君は君の仕事を確実にこなしてくれ』

「……了解しました」


 その返事を聞くと男は少女の前から姿を消した。

 残された少女の顔は辛そうで嬉しそうな顔をしていた……










「で、どうしたの鏡花?」


 そう鏡花に声を掛けたのは幾分少女とは言い難い体型をした少女、颯樹莉音(さつきりお)だった。


「……何が?」


「何がって、いつもは私達とは登校しないのにいきなり一緒に登校しようだなんてねぇ……」


 莉音が感じた疑問、いつもは別行動を好む鏡花が一緒に登校したいと言ってきたことが始まりだった。

 昼食に誘っても断られる事が度々ある彼女からの誘い……それを気まぐれと思えるほど自分は鈍感ではないと、莉音は思っている。

 それは鏡花からしても同じで、


 ーー……気づかれた……?


 その変化の乏しい表情とは裏腹に、心中はあまり穏やかではなかった。


「そもそも鏡花が学校に登校する自体めーー」

「まぁまぁ、莉音センパイ……珍しく一緒に登校出来るんですから楽しく行きましょうよ」


 そう言って空気を和ませようと間に入った少女、瀬野彩(せのあや)に二人は先程まで出していた険悪とも言える空気を和らげた。


「……今日はそんな気分だったから、ただそれだけ」

「ふぅん……」


 鏡花にとっても莉音にとってもこれ以上互いの信頼関係を崩せば魔法少女としての仕事に関わる。

 そうなれば自分の命さえ危うくなる。

 それは二人にとって一番避けたい。


「まっ、そういう事なら楽しく行きましょうかぁ」


 そう思った莉音の対応は早かった。

 鏡花に対しての警戒を一定以上持ちながら、先程の空気を一切なくした。


「そうですよ‼ 鏡花センパイも早く行きましょう‼」

「うん……」


 彩に急かされ前を行く莉音を早歩きで追いかけながら、


「……そうだ、今日のお昼なんだけどーー」


 少女はさらに動きを見せる……








「まさかお昼まで誘われるなんて……明日は雨かしら?」


 そう言いながら空を見る莉音に彩は苦笑いを浮かべる。


「り、莉音センパイ流石に言い過ぎですよ」


 確かに珍しいことですけど、と小さく付け足したのを鏡花は聞き逃さなかった。


「……ただの気まぐれ」


 そう言った鏡花の表情がいつもより冷たく感じた彩はすぐにフォローを入れようとしたが、


「鏡花……何か話があるんじゃないのかしら?」

「……うん」


 二人の出す空気に押し黙ってしまった。


「……前に言ってた魔界征服の件。莉音の中ではどれぐらい計画は練れるの?」


 そう切り出した鏡花は莉音の表情の変化を見逃さなかった。

 驚きともとれるその表情はいつも不敵な笑みを浮かべる莉音には珍しいものだった。


「その件について……ね」


 先程までの表情はなかったかの様にいつもの不敵な笑みを浮かべた莉音は、


「そうねぇ……計画自体は完成一歩手前ぐらいかしら」


 そう呟くように言った。


「え⁉︎ そうだったんですか⁉︎」

「えぇ、そうよ」


 あまりの早さに彩は驚き声を上げた。

 それもそのはず、この話が出たのは四日前。

 僅か四日で計画を明確なものにした莉音の手腕の良さがうかがえる。


「あとはそうねぇ……強いパイプがあればいつでも実行出来るわ」

「……もうそんな段階まできてたんだ……」


 ーー……流石莉音、早い。


 そう思いながら、鏡花は上への報告をどうするか少し考える。


 ーー……そのままは何を言われるか……でも、隠す訳には……


 ほんの少し苦い表情をしたのを莉音は見逃さなかった。


「えぇ……でも鏡花、今まで気にもしなかったのにどうしたの?」


 あまりに痛いところを突かれ鏡花はさらに苦い表情を強くする。


「……少し気になっただけ」

「気になっただけ……ねぇ……」


 鏡花の苦し紛れの返答に莉音は追撃の手を緩め様とはしなかった。

 この状況を打破する為に別の話題を探す鏡花と不穏な空気を察知した彩が声を出すより先に口を開いた莉音だが、


「鏡花、貴方私達に隠しーー」


 それをさらに遮る様に莉音の携帯が鳴った。


「ちっ……間が悪いはねぇ……」


 あまりにタイミングが悪い着信に莉音は嫌な表情をするが、画面に映る相手の名前を見た途端さらに嫌な表情を強めた。


「えぇ……えぇ……さっさと転送しなさい」


 莉音の態度で誰からの連絡かわかった鏡花は素直に助かったと思った。

 あのまま莉音に続きを聞かれていたらおそらく自分の目的も話していたかもしれない。


 ーー……でも、それも……


 そんな頭に浮かんだ考えをまとめる前に鏡花ら三人は光に包まれ、魔法少女達の戦場へと飛ばされた……






 ーー……さて、どうしたらいいのか……


 自身に襲いかかってきた魔物を両手で握られた巨大な剣で薙ぎ払いながら鏡花は先程の失態について考える。


 ーー……あれじゃ、気づいて下さいと言ってるみたいなもの……


 次々に襲いかかる魔物を反射的に両断していきながらも鏡花はさらに深い思考の海に沈んでいく。


 ーー……私は気づいて欲しいの……?


 その考えを振り払う様に頭を振る。

 それを隙と見た魔物が数十と襲いかかるが、それも虚しく鏡花の猛攻の前に切り刻まれ命を散らしていく。


 ーー……今のままでいいはずがない……


 それでも、と考え鏡花は遠くで戦う莉音や彩を見る。

 彩の使う派手な広域魔法が辺りを埋め尽くす魔物の群れを吹き飛ばし莉音は魔物の群れをまるで舞うように蹴散らしていく。

 そんな様子を見ながら鏡花は自身の周りを改めて見る。


 ーー……いや、私はこれでいいのかもしれない……


 それは足であったり、それは腕であったり、それは胴体であったり、それは……鏡花を憎しみの目で見る頭であったり……


 ーー……私はあんなに綺麗に戦えない……


 彩にしろ莉音にしろ、二人の衣装には返り血や跳ね返った土など全くついていないであろう。

 しかし、鏡花の衣装は返り血を浴び泥に塗れ……あまりに魔法少女としてはらしくない格好をしていた。


 ーー……きっと私と二人は違う……ならーー


「なに難しい顔してるのぉ?」


 突如後ろに現れた莉音によって鏡花は無理やり思考の海から引き上げられる。


「……どうしたの?」

「どうしたのって、もう終わったわよぉ?」


 そう言いながら指を指した方では彩が最後の魔物にトドメを刺したところだった。

「それにしても……いつにも増して汚れてるわねぇ」


 莉音は鏡花の衣装、体育の授業でも使えそうなジャージ上下と金縁の黒いマントを見ながら言う。


「うん、やっぱり綺麗なままの方が似合ってるわよ」

「……ジャージに似合うも何もないと思うけど……」


 そうかしら? と言いながら首を傾げる莉音を見ているところ鏡花は先程まで考えていた事も忘れ微笑を浮かべた。


「……今日は本当に珍しい日ねぇ……」


 今日で何度目かわからない莉音の驚いた表情を見ながら鏡花はまた考える。


 ーー……私にはあんなに綺麗に戦えない……でも、


 一度そこで止め、


「……ねぇ、莉音」

「うん? なぁに?」


 ーー……綺麗な貴方達は絶対に守ってみせる。


「……ううん、なんでもない」


 変な鏡花ねぇ、と笑う莉音を見ながら鏡花は決意を固める……







『報告ご苦労。……しかし、彼女にしては行動が遅いな……』

「……彼女が言っていた事が本当ならですが」


 男がため息を吐くと同時に二人の間に沈黙が流れる。


『ふむ……何が起きるかわからない、か……』


 そう呟いた男は、


『薩摩くん、君には颯樹くんの監視をさらに強めてもらいたい。……勿論、今まで通り気づかれない様にね……』

「……はい、勿論」


 鏡花の返事に納得したように頷く男は満足そうな笑みを浮かべる。


「……ところで、例の情報は……?」

『あぁ、先ほど君のパソコンへ送っておいたよ。後で確認しといてくれ』


 心得ているとばかりに返答した男は、


『それでは、また動きがあり次第』


 と言うと早々に部屋を後にする。

 それと同時に全身から力が抜けた様に脱力した鏡花は小さく息を吐く。


 ーー……これで良い。


 これなら……彼女達を守りながら自分の目的も果たせる……、そう考える鏡花の表情はほんの少しばかり余裕のある表情へと変化していた。

執筆者:九十九照助

一言「薩摩鏡花担当の九十九照助です。

仕事を言い訳にたた遅れますが、お許し下さい」

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