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××系魔法少女はお好き?  作者: しきみ彰/四十二 十五/九十九照助
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××系魔法少女の企み

 頬に、紅が咲いた。




 少女は顔をしかめた。しかしその両手に掲げられた銀色の拳銃は、迷うことなく熊の形をした魔物の方へと向けられている。

 少女は金色の長髪をなびかせ、どす黒く染まったショッピングモールを駆け出した。

 幾度となく引かれるトリガーはとどまることなく、銃口から銀色の弾を吐き出し続ける。

 その弾は寸分違わず魔物の核を穿ち、多くの魔物を無力化へと追いやった。

 少女は一階のエントランスホールへと続く吹き抜けへと三階から飛び降り、軽々と宙で回転を決めながらトリガーを引く。


 彼女はまるで、戦場に舞い降りた女神のようだった。


「……小賢しい」


 周りの魔物を一掃した少女は、新たに迫りくる魔物の群れを見て、ため息交じりにそう告げた。面倒臭い、と肩を竦めつつも銃口を持ち上げたが、ふと上を見上げて動きを止める。


 刹那、空から流れ星が落ちてきた。


 光り輝く星たちは、群れをなす魔物たちを一瞬で消し飛ばした。

 無残にも消し飛んだ魔物たちを尻目に、少女は銃を下ろして上を見上げる。

 そこには、空で魔法陣を展開している箒に乗ったおとなしそうな少女が。


莉音(りお)センパイ! 後は私が片付けます!」

「……(あや)ったら、逞しくなったわねぇ」


 そう言うや否や、魔法陣から降り注ぐ広域系魔法。

 本当に逞しくなったわぁ、と少女がくつりくつりと笑っていると、上空の後輩が困ったように肩をすくめていた。


「……莉音センパイったら」

「事実、彩の成長は早いものぉ。ところで、鏡花(きょうか)は?」


 言い終える前に、少女の背後で高々と吹き飛ぶ数十もの魔物。


 少女、莉音(りお)は笑った。


「そろそろ終わらせよっかな」


 彼女たちは『魔法少女』。

 魔物を狩るために生まれた、特殊な戦士たちだ。









 颯樹莉音(さつきりお)はひょんなことから魔界に選出され、魔法少女として働くことになった中学三年生だ。

 その豊満な胸と大人びた言動や風貌のためか、あまり中学生扱いされたことはなかったりする。

 魔法少女、といっても、内容はそんなにきゃっきゃしたものではない。命懸けだ。

 創作物として載っている魔法少女とは程遠く、その本質は血生臭い戦闘。

 そんな戦闘続きの毎日に、少女たちの心と体は確かに疲弊して──









「ねぇ、そろそろ、世界征服とかやってみない?」


 疲弊して──はいなかった。

 高級マンションで一人暮らしをしている莉音の部屋では、夕食が行われていた。

 料理上手な莉音が作った料理が美味しそうに湯気を立てている中でのその発言に、後輩魔法少女の瀬野彩(せのあや)は口をあんぐりと開けている。しかしその横では、薩摩鏡花(さつまきょうか)が我慢せず、といった様子で肉じゃがを頬張っていた。一見すればリスのように可愛らしい姿である。

 数秒後、我に返った彩は律儀に「いただきます」と手を合わせてから口を開く。


「えっと、どうしたんですか莉音センパイ。とうとう学校内だけじゃ飽き足らず、世界にまで手を出したくなりましたか」

「あらぁ、その言い方、酷くない? 私は別に、学校内じゃおとなしいいい子でしょう」

「学校内で国を構築している人の台詞じゃありませんね……」


 莉音はむくれた。別にあれくらい、どうってことない、と。

 莉音は、その年齢に見合わない豊満な胸や体、大人びた言動以外はごくごく普通の少女だ。

 確かに、学校内の生徒数百人を既に懐柔して侍らせたり、男女問わず「女王」と敬われていたりするが。

 それも、普通の範囲である。

 普通ってなんでしたっけ、と彩は遠い目をしていた。

 口元を汚していた鏡花に莉音はおしぼりで汚れを拭いつつ、味噌汁をすする。


 『魔法少女』という役割の本質は、魔界とのギブアンドテイクの材料だ。魔界は魔法少女の育成を進めるために魔物を送ってくる。それに対し人間界の技術が欲しい魔界側には、その見返りとして技術が送られる。

 そして基本的に魔法少女の選出は魔界側が行う。理由は言わずもがな、人間界に魔法少女を判別するための能力がないためだ。──まぁ魔界側としてみたら、他の意図もあるらしいが。


 こっちのほうが血生臭い話だ、と莉音は思う。大人というものは実に世知辛い生き物だ。こんな可愛らしい少女たちを、まさかそんなために使おうとは。


「莉音センパイが世界征服っていうと、嘘に聞こえないから不思議です」

「だって本気だもん」

「ですよね……」


 彩は苦い顔をして焼き鮭をご飯とともに頬張った。

 すると今までご飯に集中していた鏡花が、口元にご飯粒をつけながら漸く会話に参加する。


「私は……莉音がそう言うなら、やる、よ?」

「やっぱり鏡花はステキ! お礼に今日のデザート二つ付けちゃう!」


 そんな鏡花に抱き着く莉音の胸が、鏡花の顔に埋まった。

 瞬間、鏡花の周りに花が咲いた。

「はいはい落ち着いてくださいね、鏡花センパイ」と鏡花の口元を拭う彩は、肩を竦めながらも笑う。


「別に莉音センパイが本気なら、私も構いませんが」

「やったぁっ。楽しみね、ふふふっ」

「……具体的に言えば、何をするんですか?」


 きんぴらごぼうへと箸を伸ばした彩に、莉音は言った。


「たかが学生の私たちにやれることなんて、知れてるじゃない?」

「莉音センパイなら、大統領でも懐柔できそうですが」


 そのお得意の話術と洗脳魔法で、と、彩は心中だけでぼやいた。莉音が規格外なのは今更のことだ。

 きっと大統領にとどまることなく、全世界の人間全てを、その気になれば懐柔できるんだろうな、と思いながらも、彩は賢明な判断でその言葉を濁した。

 莉音はキッチンの冷蔵庫から、よく冷えたティラミスとシフォンケーキの乗った皿を運んでくる。


「取り敢えず、あのクズで使えない上司にはばれないように……いや、ばれても構わないか」

「出ましたね言葉の暴力」

「だって何もできないじゃなーい。使えないわぁ〜」


 いつも私たちの尻拭いをしてるのにな、と彩は思う。

 まぁ確かに、彩もあの上司は好きじゃないが。


「取り敢えず、まずは魔界を制圧してみようと思うのよぉ。だって、魔界と人間界とのこの低脳な取引がなければ、私たちが生まれる意味はなかったんだしぃ」

「否定はできませんね……」

「……これ以上、犠牲者を、出したくないんだよ、ね?」

「さっすが鏡花。私のこと分かってくれてるぅ!」

「莉音……優しい、もん」


 魔界がある限り、魔法少女は生まれる。

 なら、魔法少女が生まれる根源である魔界がなくならなければどうにもならない。

 そう。だから個人的な憂さ晴らしだとか。純粋に一国一城の主になってみたいだとか。

 そういった下心はない。

 ないと、信じたい。


「そうよぅ。だから、純粋に魔物をもっと狩り取りたいとか、魔王を平伏させたいとか、そんな下心はないわっ!」

「本音がだだ漏れですが」


 もっと酷かった。この三人、魔法少女といった役職と相性がよすぎる気がする。

 そんなときだ。三人の携帯が一斉に鳴り出した。


「こんな時間に指令? 堕ちればいいのに」

「莉音センパイ落ち着きましょう? そしてその怒りをどうぞ魔物に」

「……ケーキ、食べ終わってからじゃダメ?」

「そうね。さっさと食べちゃいましょっ」


 どこまでもマイペースな鏡花につられて、三人はデザートを食べ始める。その間にも携帯は、途切れることなく鳴り続けている。

 すると一番始めに食べ終えた莉音が勢い良く携帯の通話ボタンを押した。


「んな夜中にかけないでもらえるかしらねうふふ」

『す、すまん……』

「莉音センパイ落ち着きましょう……」

「そうよねぇ。怒るとお肌に悪いし」


 美容に関しては特に力を入れている莉音は、お肌も髪もつるつるピカピカだ。それに加えてたゆんたゆんの胸が歩くたびに揺れている。

 もう一度言おう。たゆんたゆんの胸が揺れている。


「さて、食べ終わったぁ? 転移してもらうから、酔って吐かないようにね」

「妙にリアルなことを……」

「だい、じょうぶ。……もう、消化した」

「鏡花センパイの体は一体、どんな構造をしてるんですか!?」

「彩、やったわね。最近ツッコミにキレが出てきたわ!」

「なんにも嬉しくないですよ!?」


 すると電話口で控えめな声が聞こえた。


『あのぅ……そろそろ、転移いいか?』

「ああ、忘れてたわ。どうぞ。というか早くして。夜遅くまで魔物狩りとか、お肌に悪いわ」


 不憫だ。

 まぁ同情の余地はこれっぽっちもありはしないが。

 すると三人の足元から、円状の光が描かれた。











 魔法少女たちが降り立った先は、寂れた廃墟。

 魔物は基本、人払いの結界を張った中に現れる。妙なところで律儀なことだ。

 三人はそれぞれの変身道具を掲げる。莉音が掲げたのは、黄色い宝石がはめ込まれたブレスレットだ。


 三人の衣装はみるみるうちに変わっていった。


 着ていた服が全て脱がされ、その上から魔法少女としての戦闘服が構築される。

 莉音の戦闘服は、ゴスロリを彷彿させる深いスリットの入ったドレスだ。

 最後に武器である銀の二丁拳銃を携えた莉音は、目の前に迫り来る獣の形をした魔物に向けて神経系の魔法を放つ。

 細く糸のような金色の光がすらりと伸びて魔物の内側に入り込む。

 するとその光を浴びた全ての魔物が、一斉に倒れ込み体を痙攣させ始めた。


 これが莉音を『惨殺系魔法少女』とまで言わしめた戦い方である。


 莉音は痙攣を繰り返す魔物に向けて銃口を向けると、わざと魔物の心臓である核を狙わずに腕や足を撃ち始めた。

 断末魔が響き渡る。


「こういうときってやっぱり、魔法は便利だって思うわよねぇ」


 莉音の魔法により構築される銃弾は莉音の魔力が朽ちない限り、構築され続ける。

 そして莉音の魔力量は、通常の魔法少女が所持する魔力より数倍は高い。

 跳ね上がる血飛沫など物ともせずに。

 莉音はトリガーを引き続ける。

 そんな中、彩による広域系魔法が銀の矢のように降り注いだ。

 莉音は不満の声を漏らした。


「彩ぁ? 今とってもいいとこだったのに」

「莉音センパイ……早く終わらせないと、お肌に悪いんじゃないんですか?」


 そうだった、と莉音は我に返った。まずい。現在の時刻は九時過ぎだ。十時までに寝れなければ、そのときはそのとばっちりが上司へと向くことだろう。

 莉音は直様、攻撃方法を変えた。遠距離から根刮ぎ魔物の核を狙い撃つ。

 それこそ銃の真骨頂なのだろうが、莉音の本来の戦い方はガン=カタだ。ガン=カタとは、日本武道と二丁拳銃を掛け合わせた、多数の敵を短時間で倒すための戦闘技法である。

 白い太ももが晒されるのも構わず、莉音は大地を駆ける。

 莉音の本領発揮だ。

 走りながら前方から迫り来る魔物を五体殲滅。右から飛び込んできた魔物の核部分に蹴りを入れ銃弾を叩きつけ、宙で回転をしながら上空の魔物二体を屠る。

 着地と同時に一体の魔物を地に沈めトドメを刺し、横にいた魔物を銃のグリップ部分で殴りつけもう片方の銃で撃ちつける。

 素晴らしい戦闘技法だと、彩は舌を巻いた。これを普段からしてくれたならいいものの、普段はいたぶるのを楽しむ『惨殺系魔法少女』である。

 早口で魔法を詠唱し続ける彩を尻目に、莉音は回し蹴りをきめて魔物を沈めた。彼女の周りには既に核を潰されて沈んだ魔物たちが累々と積み上げられているだけだ。

 核を失い、気体のようにさらさらと霧と化す様を見つつ、莉音は辺りを見回した。

 するとさらさらと霧と化す魔物の中に、くったりと眠っている鏡花が。

 すーすーと寝息を立てて眠る様は、今まで魔物を殺していた魔法少女とは思えないほど穏やかなものだった。


「鏡花センパイのほうも、終わったみたいですね」

「そうね。……よし、九時半。家に帰って寝なくちゃ」

「いや、それより、鏡花センパイが疲れて寝てるんですが……」

「そうねぇ、仕方ないわね、彩。運んでおきなさい」

「……はい」


 ──魔法少女、颯樹莉音。

 彼女には『惨殺系魔法少女』の他に、数多くの異名がある。

 『絶望君主の絶対女王(マイ・ロード・マイ・エンド)』『幻事者騙り(ダウン・ダウン・ダウン)』『快楽傀儡(マスコット・ラブ)』……。

 他にも、片手では足りないほどの異名を持つ莉音。

 悪名高き魔法少女はただ、いたぶるように魔物を殲滅し続ける。



 魔法少女たちによる魔界制圧は、まだ始まったばかりである。

執筆者:花来れん

一言「莉音ちゃんの本領発揮はこれからですよー!」

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